作品タイトル不明
162.領主からの依頼③
「・・・・いない?地方貴族が?」
「いえ、いない訳ではないのです。ただ、かなりの数が殺されました。特に上の爵位の地方貴族はほとんどいません」
「な、何故だ?」
「コーバスから来た組合員達です。あいつらが逆らう奴らを皆殺しにしました。『ここには貴族なんていねえ!領主様に逆らう奴は皆殺しだ!』と言って暴れました。そして、その貴族に従う騎士団や兵士団もです!今は生き残った者の中から代表者を選び、生き残った下級貴族達と何とか街を運営しています。街の守りも騎士も兵士もほとんどいないので、今まで武器を持った事が無い連中にやらせていますが、もう無理です、限界です。私達を助けて下さい」
・・・・・
あいつら依頼内容間違えてない?依頼は道中の露払いだったはずだ。そして無事我らが街まで辿り着いたら追加報酬を与える事はティーから聞いている。それなのに何でこうなる?『逆らう奴は皆殺し』とか私が言ったんじゃないぞ!何かあの街と考え方に違いがあるなあ。
今度ジークから話を聞こうと思うが、まずはこの街の立て直しだな。今回の件があって色々過去の資料等調べてみたが、基本的に新しい領主は歓迎されない。前の領主で甘い汁吸ってた連中が残っているから、かなり反発される。けど、そういった連中を排除すると従来のやり方が分からず大きな混乱が起こるのは資料から学んだ。だから数十年単位でゆっくりと変えていくつもりだったのだが・・・そうも言ってられなくなった。
「約束通り、全員無事に運んだだろう?」
旧ボートレット邸へ入り、これからの事を考えていたら、赤髪の老人が何かを求めるように聞いてきた。
「あ、ああ、そうですね。全員無傷でここまで辿り着きました」
「なら、その証明に一筆書くのじゃ」
「俺らはそれを、腐様の所に届けるまでを頼まれてんだ!」
「お腹空いた」
自然と、この4人はまだいるんだよなあ。取り合えずこの4人が欲しいのは全員無事着きましたって書面みたいなので、それを書いて渡す。
「よしよし、これで腐様のお願い達成ですね」
「その紙は火が持ってくるように言われていただろう?後は任せたぜ」
「燃やしちゃダメ」
「それでは我らは先に帰っておく、火よ!あとは頼んだぞ」
・・・・当たり前のように飛ぶなあ。
3人と1人に分かれて飛んでいくのを見ながら、陛下へどう報告しようか考えるクライムズ伯であった。
■
ユーアリック・クライムズ伯爵・・・後に侯爵・・・は、爵位剥奪されたボートレット侯爵領を任されるとすぐに旧ボートレット領を掌握し、旧クライムズ伯領の境界から旧ボートレット領都までを数年で一大穀倉地帯に変えた領地経営の天才と言われる。
侯爵の失脚で旧ボートレット領地を任されたクライムズ伯は、旧ボートレット領都までの初めての移動の際に、道中多くの池がある事を確認したと伝わる。それを見たクライムズ伯は治安や経済が混乱していた旧ボートレット領から、かなりの人員を即座に動員してその周辺を開墾させ、数年で一帯を穀倉地帯に変えたと云われる。
近年の研究ではクライムズ伯よりも何故これだけの数の池にボートレット家が価値を見出さなかったのかについての研究が進められている。ボートレット家は近年までは典型的な小物貴族、悪徳貴族と言われていたので、その価値に気付かなくて当然という論調だった。だが、侯爵まで上り詰めた家が、穀倉地帯の価値を見出さないのはおかしいとの声があがり、研究が盛んになった結果、色々とおかしな点が発見された。
過去の地図だと街道の通る場所に何故か池が存在していること、そしてそういった場所がいくつか存在しているという事。その地図のいくつかはかなり正確で、池の部分だけこれだけ狂う事はおかしいと言われている。反論としては、その池だけ橋があった、船で渡っていたというものだが、湖底調査の結果それらしい残骸が見つかる事は無く、そういう記録もない。
そして更におかしな点は、クライムズ伯が治める前は池は無かったと思われる当時の記録が残っている事だ。周辺も昔から開墾されてきた歴史がある。ただ、近くにある池から水を引いたという記録は全く見つからない、まるで池なんて存在しなかったかのように、近くを流れる川から水を引いた記録だけが残っている。池については何も記述がないのである。
とある頭のおかしい連中は『クライムズ伯が池を作った、あの方が歩けば池が出来る』と信じて疑わない集団もいたとか。
■
コーバス組合の受付カナの前に一人の人物が立った。
「ようこそ、ご依頼ですか?」
目の前の赤髪の老人に営業スマイルで話かけるカナ。流石にこの年齢では組合員ではないから、何か依頼を出したいんだろうと判断し、そちらの紙を机の下から取り出す。
「依頼じゃないかな。これを渡すように頼まれてるんだ。一応言っておくけど、本物だから!」
何だろう?言っている意味が分からない。たまにくる頭のおかしい人かな?
顔には出さず営業スマイルのままカナは手紙を受け取り読むと、手が震えた。
「えっと、少々お待ち頂いて宜しいですか」
「え?嫌だ・・あいつらに追い付かないとお酒がなくなる」
うーん、コーバス関係者かな?それとも昔の組合員?いや、それよりもこの手紙だ。領主様のサインと押印があるけど、本当に本物?
「先輩!リリー先輩!これ見て!」
「何です?・・・・・は?」
いや、そうなりますよね!色々訓練受けているから領主様の偽物と本物のサインとか押印の区別がつく私達でも本物にしか見えない。けどこんなお爺さん一人で持ってくる、この状況は偽物としか言えない!
「これ、本物にしか見えないですけど、リリー先輩はどう思います?」
「・・・ほ、本物・・・ハッ!カナ!これを持ってきた人は?」
見ればもう組合の扉に手をかけ外に出ていこうとしている。ここに来る人は話聞かない人が多いなあ!
「ま、待って下さい!」
先輩が慌てて後を追うので、私も後を追う。ここまで取り乱す先輩も珍しい。
「何か用かな?」
「・・・もしかしてあなたは『ドルーフおじさん』の関係者ですか?」
「それさっきの手紙の人にも言われたねえ。けど僕たちはそんな人知らないよ」
「それならあの手紙は誰が?」
「腐様だよ。・・・おっと、こっちの事は詳しくは私も知らないから、答えられないよ。言えるのは物凄く強くていい人って事ぐらいかな」
『こっちの事』って何だろ?別の事があるって事?情報が少な過ぎて分からない。けど先輩は何か分かったのか、更に質問する。
「あ、あなた達は私たちの敵になりますか?」
・・・・・
「面白い事聞くねえ。君たちが私らの敵になれると?」
うっわ。めっちゃキツイ殺気。コーバスで鍛えられてないと多分、これ耐えられないわ。
「いえ、そういう意味ではありません。どうすれば敵対しませんか?」
リリー先輩流石。耐えるだけじゃなくて交渉始めるなんて、凄いなあ、やっぱりベイルさんの専属なだけあるよ。
「君たちじゃ敵にすらならないよ。それに君らじゃ僕らが暮らす所まで辿り着けないから、敵になる事はない。基本私達は巣からあんまりでないし。まあ、攻撃してきた時は、止められていなければ、反撃はさせてもらうよ。ただし、腐様やあの方の命令があれば、こちらから仕掛けるから」
さっきと違い殺気なんて全然ないけど、これは明らかにやる人の言葉だ。そしてそれを達成できる自信のある人の言葉・・・
まあ、コーバスのベテランならこれぐらい普通に言うよね!って私は判断したけど、リリー先輩の緊張はまだとれていない。
「それでは話は終わりという事で」
そう言った赤髪のお爺さんはふわりと空に浮かぶ。
ええええええ!飛んだああああああ!うそおおお!
「当たり前のように飛ばないで下さい」
「ふふふ、それでは後は頼むよ。くれぐれも嘘を吐いて腐様を怒らせないでくれ」
「そのフサマってのは誰ですか?」
「ちょっと!カナ!」
リリー先輩が咎めるが、疑問に思って聞いちゃったからもう遅い。
「腐様は腐様だ」
ああ、そういう感じ。やっぱり詳しくは教えてくれないみたいだ。
そうして空を見上げている私達を、もう振り返る事なく赤髪の老人は遠くに飛び去ってしまった。