作品タイトル不明
161.領主からの依頼②
「ま、待て!全員止まれ!」
抵抗しない若い男女と老人、娘が騎士団から攻撃されているが、信じられない事に全くダメージを受けていない。逆に騎士団の武器が折れるという信じられない光景が私の目の前で繰り広げられている。この者達はどう考えても只者ではない。これ以上攻撃を加えて怒らせる前に騎士団に命令して攻撃をやめさせる。もしかしたらもう既に怒らせたかもしれないが・・・。
けど、私が話をしないと、恐らくどうにもならない。・・・・死ぬかもなあ。
「お前がこいつらの親玉か?」
恐怖を隠しながら騎士団の前に出ると、緑髪の若い男が話しかけてきた。その無礼な物言いに騎士団が動こうとするが、手を挙げて止める。
頼むからこれ以上攻撃しようとしないでくれ。
「まあ。親玉と言えばそうだろう」
「弱そう。こいつ殺すの簡単。本当に親玉?」
「おい!土の!手を出すなよ!腐様に殺されるぞ!」
な、何だ?緑髪のこの慌てよう・・・それに『フサマ』?どこかで聞いた気がする。
「火は土を見ておくのだ。こいつとは我と風で話をしよう」
そう言うと、青髪の若い女が前に出てきた。赤髪の老人は茶髪の娘の方に向かう。
さっきから火とか土とか、暗号名か?それならこの青髪の女は水になるのか?
「さて、貴様が親玉と思って話をさせてもらう。我らは腐様から、貴様らをこの先の街まで無傷で運ぶように頼まれた。今から運んでやるから大人しくしておれ」
そう言われてもなあ。信用してもいいんだろうか。いや、嫌だと言っても多分聞いてくれないだろう。それなら少しでも情報を引き出せないか試してみるか。幸いこの女、話が通じそうだ。
「フサマ?私に心当たりはないが、騎士団の中にその名を聞いた者はいるか?」
多分、誰も知らないだろうと思って聞いてみたが、なんと騎士団長が知っていたみたいで、前に出た。
「ご当主様。その名前はカルガーからの報告にありました。いきなり現れてウイスキーを要求したという赤髪の老・・・・人」
おいいいいい!そこに赤髪の老人いるぞ!ちょっと待て!こいつら各地で出没するドルーフおじさんの関係者ではないか?・・・・い、いや、待て。そこは確定させなければ大丈夫。そして頼むから空を飛ばないでくれ。これ以上陛下への報告案件など増やしたくない。
「おい、火!今の話はおぬしの事ではないか?」
「でかいレッドウルフが話に出てくれば私の事だねえ」
・・・・あ、あう。早速同一人物と確定してしまった。これって陛下への報告案件になる。はあー。胃が痛い。
「と、取り合えず、フサマについてもう少し教えてもらえないだろうか?私にはその方に心当たりがないんだ。あなた達に守ってもらったお礼も言いたい」
「・・・・腐様は腐様だ。そうとしか言えん」
おおっと、いきなり会話が終わりそうだ。
「多分、人」
私、人外の知り合いはいませんよ。
「見た目は男だぜ」
よーし。これで人類の半分まで絞れた。けど、まだ数が多いなー。もうちょっと絞れないかな。
「あ、あのフサマというのは名前ですか?」
「名前・・・ではないな。何と言っていたか・・・バ?ヴィ?覚えておらんな」
「あの方は『頭が狂った奴』と言ってましたねえ」
「頭は悪いがムカつくぐらい強い奴とも言ってたぜ」
「出来るだけ関わっちゃ駄目な人って言われた」
・・・・よく分からないが、そのフサマと言うのは中々危ない人?なようだ。そして『あの方』というこの4人より上の立場の人?もいるようだ。他にも情報出てこないかな?
「ほ、他に何かありませんか?」
「あの方より話を聞いてくれるな」
「この道の先の街に腐様はいるよ」
「あの方を止められる唯一の方だ」
「何故かあの方の主様を良く知ってる」
・・・・この4人の上司が『あの方』かな。そしてまた新たな人物『あの方の主様』か。結構大きな組織かもしれない。そしてフサマはこの4人とは同じ部隊ではなさそうだ。『あの方』への不平不満を聞いて色々注意する人っぽい。そしてそんな『フサマ』を『あの方』は良く思っていないって所か?
・・・・・・うん?今誰か凄い事言わなかった?
『この道の先の街に腐様はいるよ』
・・・・
「えっと、フサマはこの道の先の街にいるって事かな?」
道の先、旧ボートレット領方向を指差しながら聞いてみたが、4人とも首を振った。そして、4人全員が今、私達が来た方向を指差す。
「そっちではない、こっちじゃ」
・・・・コーバスかー。出来ればそっちはやめて欲しかった。まーた陛下へ報告案件が・・・胃が・・・あの街は私に恨みでもあるのかな?
「そのフサマはその街に滞在しているって事でいいのかな?」
頼む、そうであってくれ。それならまだ何とか・・・・
「滞在じゃねえ、そこが腐様の巣だ」
そうかー、暮らしているかー。これも探すように言われるよ。『ドルーフおじさん』でさえ未だに見つけてないのに・・・ん?もしかして『ドルーフおじさん』と『フサマ』は同一人物か?それとも関係があるのか?
「違うな。フサマはそんなに背は小さくねえ。今の俺と同じぐらいだ。それにそのドルーフおじさんって奴は、俺達は知らねえ」
『今の』??よく分からんが、この緑髪の若い男の身長は普通ぐらいだ。という事は『ドルーフおじさん』と『フサマ』は同一人物ではないという事か。ドルーフおじさんはコーバスに住んでいるか確定ではないが、姿を見せたのはコーバスだけだから、住んでいる事は十分考えられる。 そうするとコーバスには『ドルーフおじさん』と『フサマ』の2人がいる可能性が高い。
うん、何でコーバスなのか意味が分からない。あそこは特別変わった所もない普通の街。敢えて変わった所を挙げろと言われれば、問題児が多く集まった組合・・・あとはこの国唯一の『4落ち』の組合員がいるぐらいか。商人が雑談ついでに教えてくれたが、100ジェリーでその員証を見せてくれるそうで、コーバスに寄ったついでに話のタネに100ジェリー払う商人も多いと聞いた。
でも、流石にそれが居付いたり姿を現す理由ではないだろう。そうなるとまずは探すより、その理由を見つける方が先か。領主の私や代官のダンオムでさえ知らない『何か』がコーバスにはあるはずだ。ドルーフおじさんやフサマを探すのと平行して、その『何か』を探そう。
「おい!もう良いのか?だったら大人しくしてろよ!」
考え込んでいたら、話は終わりと思われたのか、緑髪の男が仲間に合図を出し始めた。もう少し情報が欲しいが、流石にここでずっと足を止めておくわけにはいかないので、移動中にでも聞き出そう。
「土の!準備できた!始めてくれ!」
「分かった」
茶髪の娘が返事をすると、足元がガクンと揺れた。そして次の瞬間には景色がもの凄い速さで流れていく。
「こ、これは??」
「ご、ご当主様。下が、地面が動いています!」
「ど、どうなっているんだ?」
「わ、分かりません!土魔法だとは思います・・・・が・・・」
戸惑いながらも騎士団長が報告してくれたが、その途中で空を見上げて言葉に詰まった。私も見あげて固まった。
・・・・・浮いてるねえ。赤髪の老人と青髪の女が空に浮いてるねえ。これも報告案件かー。
遠い目をしながら、陛下にどう報告するべきか考えていたら、急に爆音が響いた。その後は連続して爆音が鳴り響く。
「敵襲!敵襲!」
「ご当主様!早く馬車に避難を!!」
そう言われても足に土が絡まって動けないんだ。いや、土が絡まるとか理解不能なんだが?
「おぬしら騒ぐな!これはそやつの火球じゃ」
そう言って赤髪の老人の指差す青髪の女。いや、意味が分からないんだけど?何で火球を使った?
「おぬしらを襲いそうな連中がいたんじゃ。排除しろとフサマから言われておる」
「それでも火球は色々燃える!」
山火事だろうが火事だろうが資源が消えるだけでなく、元に戻すのでさえ苦労するんだ。ただでさえ旧ボートレット領の統治はマイナススタートなんだ。これ以上マイナスにするのはやめて欲しい。
「心配するな。火は我が消しておる。ほれ、前を見ろ」
言われて前を見ると、かなり先に道を塞ぐように立ちはだかる何かが見える。そしてその上から落ちてくる火球も・・・・想像通り火球が落ちた辺りに火が広がるが、直後空から大量の水が降ってきて火が消えた。残ったのは火球で大きく抉れた地面に溜まった水溜まり・・・いや、これ村ぐらいの水溜まりだからもう湖って呼んでいいレベルだ!
・・・・何と言えばいいのか、取り合えず凄いしか感想が出てこない。これを数回だけなら5級組合員でも真似できると思うが、何度もやろうとすると魔力が足りなくて、ここまで出来ないだろう。けれど、この二人はさっきから数えきれない程、同じ事を繰り返し、全く疲れた様子も見せない。更に言えば、この謎の地面が動く高速移動で、本当に敵を把握し、狙っているとなると、すさまじい精度だ。ここまでくると、先程騎士団からの攻撃を無抵抗に受けて無傷だった事からも流石に人かどうか疑わしい。ただ、人外でこうまで私達と会話で意思疎通出来る生物は聞いた事が無い。
この者たちは本当に何者なんだ?更に言えばこの4人より上と思われる人物?が3人いる事も脅威だ。これも陛下への報告案件だな。はあー。
もう驚きすぎて諦めの境地になった頃、茶髪の娘から声が掛けられた。
「もう着く」
・・・・・は?
ちょっと待て、今あの娘何と言った?クライムズ領との境界から旧ボートレット領都まで7日はかかるぞ、それをもう着く?
「ご当主様、信じられませんが、旧領都ボートレットが見えてきました」
騎士団長の言葉に更に驚くが、恐らく本当なんだろう。流れる景色が速すぎてさっぱりわからなかったが、思っていた以上にこの動く地面は速かったみたいだ。ただ、一つ気になる事がある。
「これだけの速さで動いていたが、風を全く感じなかったのは何故だ?」
馬車にいれば分からなかったかもしれないが、この4人から情報引き出そうとして、馬車から降りてたのに風を感じなかったのは今更だが、おかしい。
「矢とかブレス飛んで来たらケガするだろ!だから俺が風の結界で囲ってたんだよ!」
誰に聞いた訳でもない私の疑問に緑髪の男が機嫌悪そうに教えてくれた。どうやら移動中も私達を風魔法でなんかすごい事して守ってくれていたらしい。
・・・・もう理解するのはやめた。言われたら『そうなんだろうな』と思う事にした。
良く解らない4人だけど、おかげで想像以上に早く旧ボートレット領都にたどり着いた。そして着いたら街の住人との対立もあると考えていた。だってこっちは領主一族を処刑まで追い込んだからな。当然ここの地方貴族とは揉めると思っていた。