作品タイトル不明
160.領主からの依頼①
いつものようにジェリーをしながらダラダラしていると、重大発表があるようで、組合長がいつもの場所に立った。大道芸の衣装代?組合長にボコられてから、ちょっと真面目に働く気分にならねえんだ。美味しい依頼もねえしな。
「今日は何だろうねえ」
ジェリーの相手しているモレリアが興味無さそうに呟く。今日はトレオンもゲレロも一緒だ。2人も隣でジェリー勝負している。
「トレオンは何か知らねえか?」
「知らねえな。森がおかしいとかって話も聞かねえしな。ゲレロは何か知っているか?」
「いや、俺も心当たりがねえ」
誰も心当たりがない中、準備が終わったのか組合長が口を開いた。
「お前ら!領主様からの依頼だ!内容は旧ボートレット領都までの街道の露払いだ。報酬は期待していいぞ」
「組合長、露払いってどういう事だ?」
「旧ボートレット領は今、治安が最悪なんだよ。だから街道に野盗がウヨウヨいやがる。それを討伐するのがお前らの仕事だ。お前らがある程度間引いたら、領主様達が旧ボートレット領都まで移動を開始する。簡単に言えば領主様が通るから前もって街道をきれいに掃除しろって事だ。お前ら向きの依頼だろ」
「組合長、それって何級への依頼だ?」
「この依頼は2級以上だ。2級は荷物運びとその守り。3級以上が野盗討伐だ」
更に聞けば、報酬は中々美味しい。こりゃあ、組合員なら受ける依頼だ。
「シリトラは受けるみたいだね。ベイルはどうするの?結構美味しい依頼だよ」
そう言われてもなあ。貴族依頼だもんなあ。報酬は魅力だが、ちょっと足踏みしちまう。
「ベイル!貴族依頼だが、貴族への報告は組合で行うし、そもそも俺達が掃除しねえと貴族は動かねえんだ。かち合う事は無いから安心しろ」
俺が渋っているのが見えたのか、組合長が教えてくれる。それでもなあ。貴族依頼はなあ。
「ベイル、出来れば今回はお前にも参加して欲しい」
珍しく組合長が俺にお願いしてきた。もしかして初めてかも。
「何でですか?」
「今回はジロウ達も参加させたいからだ。あいつらは鼻が利くから野盗を簡単に見つけるだろ。領主様からの依頼だから、コーバス組合としては可能な限り野盗を減らしたい、出来れば全滅が理想だ。その為にジロウ達は必要だ。ゴドリックに許可はもらったが、ゴドリックはお前が見つけたスイングツリーの研究で忙しいと参加を断られた。そうなるとジロウ達が言う事聞くのは、もうお前しかいねえ。だから頼む」
おお!組合長が俺に頭を下げた!そこまでの事なのか。
けどなあ、貴族に絡まれないって信じて行った王都で、実際絡まれそうになったからなあ。どうすっかなあ。
「こいつはお前が受けた後に言うつもりだったが、この依頼で領主様一行が野盗に襲われる事なく旧ボートレット領都まで辿り着いたら、追加報酬が出る事になっている」
「追加報酬?」
そう言う依頼はあるのは聞くけど、珍しいな。
「追加報酬は受けたパーティには、パーティ単位でだが、ウイスキーを樽で3つ報酬として追加するそうだ」
「「「「「「おおおおおおおおおお!!!!」」」」」」
組合長の言葉に連中のボルテージが一気に上がった。
「おい!ベイル!てめえこの依頼絶対受けろ!」
「俺達の為だと思って!」
「俺達親友だろ。一緒に受けようぜ!」
お前誰だよ?たまに組合で見るぐらいで親友じゃねえだろ。みんな受けろ、受けろ言うけど、そう言われると受けたくなくなるんだよなあ。
「組合長、パーティ単位でって事は、人数は関係ねえのか?」
「そうだ、パーティが何人であろうと、樽3つだ」
「おいおい、それってベイルとトラスはズルくねえか?」
「そうだ!あいつらソロだろ。飲める量が俺達と全然違うじゃねえか!ずりいだろ!」
「そうだ、組合長。あいつらソロだから、参加しても樽一つでいいだろ!残りは多い所に分ける」
「そうだ、組合長、そうしよう。報酬をパーティ単位でってのは、ベイルばっかり得するから、駄目だってのがコーバス組合の暗黙の了解だろ」
「おい、おい、てめえら何勝手に人の報酬横取りしようとしてんだ?この依頼はお貴族様がパーティ単位でって言ってんだぞ。それを勝手に変えて大丈夫か?」
全く!人の報酬横取りしようなんて、こいつらどんな教育受けてんだ。
「ベイルは貴族依頼受けねえんだろ。引っ込んでろ!」
「誰が受けねえなんて言った。あの組合長が頭下げて俺にお願いしたんだ。俺はその心意気に感動したね。だからこの依頼受けて、見事達成してみせるぜ!」
「ベイル、本音は?」
「こいつらがチビチビとウイスキー飲んでいる横で、ガバガバ飲んで煽ってやりたい」
「くそが!こいつやっぱり最悪じゃねえか!」
「性格悪すぎだろ!」
「そうなったらこの馬鹿から、また賭けして絶対ウイスキー奪ってやる!」
ハハハハハ、どうとでも言え!てめえらが羨ましそうに見ている中で飲む酒は、タダ酒以上の極上の味がするんだよ!
・・・・あれ?何故か流れで依頼受ける事になっちまった。まあ、貴族もいねえみたいだし、いいか。何かあればトレオン投げつけて逃げよう。
■
「あれ?『快適』と『全力』もいるじゃねえか。これってコーバス4級勢ぞろいって事か?」
出発当日、北村でジロウ達を連れてコーバスの外で待っていたら、見慣れた連中が組合長の後ろにゾロゾロと歩いて出てきた。その中には珍しく護衛依頼専門の『快適』と『全力』もいた。
「よお、ベイル久しぶりだな」
俺に気付いた『全力』のリーダーのオールズが話しかけてきた
「お前らもこの依頼受けたのか?護衛依頼以外受けるとか珍しいじゃねえか」
「護衛依頼ばっかりやっている俺達の方が野盗に詳しいだろ?だから組合長に頼まれたんだ。『快適』も同じだと思うぜ」
ああ、そう言う事か。こいつらなら野盗が襲ってきそうな場所とか詳しそうだもんな。けど、こっちにはジロウ達がいるからあんまり活躍できるとは思えねえけど?
「俺達は街道で野盗が襲ってきそうな場所を、地図に印付けるのが仕事だ。それがあれば領主様達が、ある程度警戒するポイントも絞れるだろ」
そういう理由でこいつらも参加してんのか。それなら納得だ。
「よし、ベイル。ジロウ達を前だ」
閉じられていた隣領への門をくぐったら組合長から指示が飛んでくる。そして組合長から各自に隊形の指示が出されていく。
あー、組合長そんな警戒しなくても大丈夫なんだけどなあ。
「お前ら悪い連中がいたら教えてくれ」
ジロウ達にそれだけ言って出発だ。そして出発早々ジロウ達が吠える。
「組合長。早速いたみたいだ。これからどうする?」
「早速かよ。思っていた以上にいるかもしれねえな。トレオン、ジロウと一緒に行け。それで規模を調べてこい」
組合長の指示でジロウとトレオンが森に消える。しばらく待つとトレオンが困った顔で戻って来た。
「ジロウが全員倒したんだけど・・・」
ああ、そう言えば野盗は倒していいって言ってんだ。殺すのは禁止にしているから、多分殺してはいねえはずだ。そうなると宝の回収と止め刺し役がいるな。
「よし、トレオン、2級から必要なだけ連れて、宝を回収してこい。俺達は先に行っているから終わったら追いかけて来い。『快適』もトレオンと一緒に向かえ」
組合長がテキパキと指示を出してトレオン達が森に消えたら、俺らも出発だ。そうして鐘半分ぐらいで、まーたサブロウ達が吠えだした。マジで野盗多いな。この辺の治安どうなってんだ?
そこからはトレオンの時と同じだ。今度はサブロウが向かった。そんで同じように指示して先に進むとまた同じだ。シロウもゴブ一も野盗を見つけて次々に森に消える。
「組合長、この辺どうなってんだ?流石に野盗が多過ぎねえ?全然進まねえし、俺達暇すぎるぞ」
流石に3級の連中たちからも苦情が出始めた。基本斥候と2級、4級が動いて3級のほとんどは、ただついてきているだけだからな。この状況は、組合長も良くないと思ったんだろう。3級だけは先にいかせて、露払いの露払いをやるというよく分かんねえ状況になった。
それでもこの辺は貧しかったんだろう。組合員だろうと関係なく野盗は襲い掛かったみたいで、道中結構な数の野盗の死体が転がっている。
「凄いですね。こいつら組合員でも関係なく襲うんですね」
転がっている死体を足でひっくり返しながら組合長に話しかける。死体の状態から先に行っている3級連中が殺したんだろうと思う。
「貴族でさえ襲うそうだから、相手なんてどうでもいいんだろ。装備見れば分かるが、恐らく相手を選んでいる余裕もないはずだ」
組合長の言う通り、野盗にしてはみすぼらしい恰好をしている。武器なんて木を削った槍ばっかりだ。こんな装備で組合員を襲うぐらいまで追いつめられているって事か。そうなると、宝は期待出来そうにねえな。
そんな感じで順調?に旧なんとかって領の領都まで辿り着いた。特に大した出来事も無かったし、思った通り野盗の宝も大した事は無かった。
・・・無かったんだけど領都の入り口でひと悶着が起こった。
「組合長、門番が街に入るのに金払えとか言ってるんだけど?」
俺達が領都に着くと、先に着いてた連中の中からアウグが組合長に報告に来た。どうも門番が中に入れてくれないらしい。しかも話を聞けばその命令をしているのは貴族らしい。
おいおい、貴族が出てくるなんて話が違うぞ。
「ああ、そいつは元貴族だ。ここの領主は爵位没収されたから、ここの地方貴族の連中は全員貴族でも何でもねえ。ただの平民だ。逆にここの現領主様であるクライムズ伯の命令を受けている俺達を邪魔しているから、力で排除してもいい。許可も出ている」
「ハハハハハ、よっしゃあ!てめえら行くぞ!ぶっ殺せ!」
「ヒャッハー!」
「おらおら!さっきからてめえら態度がでけえんだよ!」
・・・・・
組合長から許可が出た途端、アウグ達による虐殺が始まった。こういう場合はどこからか救世主が来るのが定番だけど、残念ながらここにはいねえみたいだ。
「何やっているんですか?」
「うわー。大量だー」
「組合長、大丈夫なんですかこれ?」
アウグ達の大暴れを軽く引きながら見ていると、シリトラ達が追いついてきた。一緒のジロウも何処か満足した様子で俺に鼻をこすりつけてくる。
「大丈夫だ。ここに貴族はいねえ、貴族の振りした平民ばかりだ」
「ベイルさんには聞いてませんよ。身分じゃなくて、あいつらをこんなに暴れさせていいんですかって聞いてるんです」
「ミーカ、依頼は『領主様達が無傷でこの街に辿り着く』だ。街の中にも脅威があれば排除する必要がある」
「組合長、僕達も行った方がいいかな?」
「モレリア達はあそこの馬鹿ども使って、ここの旧領主の館に向かい、残って抵抗する奴を排除しろ。俺達は他の4級を待って組合に向かう」
俺達って、俺も入ってんの?
「組合は大丈夫なんですか?」
「道中あれだけ野盗がでたし、依頼なんてほとんど無いって話だ。多分ほとんどの組合員はこの領から離れて少ないだろうから大丈夫だ。それにベイルがいればジロウ達もついてくるからな」
そう言って俺の肩をバンバン叩く。俺、組合長と一緒に行くの確定かー。まあ、貴族の館に行くよりはマシだな。
そこからはまあ、大した事は無かった。組合も組合長が話付けたし、屋敷に居座って抵抗していた連中も全員追い出すか殺すかして、無事依頼は達成だ。そんで今日はここに泊まって明日帰る事になったんだけど・・・。
「ああ?この依頼の追加報酬が出ねえ?」
追加報酬のウイスキー3樽が実は嘘だったんじゃねえかって話が組合員に流れた。
「俺達がどれだけ野盗倒しても、この後来る領主達が襲われねえ保証はねえだろ?悪く言えば襲われなくても襲われたって言えば俺達は何も言えねえ。だから追加報酬は始めから無いんじゃねえかって話だ」
「おいおい、俺達騙されたのか?」
「待て、まだそういう事も考えられるってだけだ」
「馬鹿野郎!貴族ってのはそう言う事をやってくるんだよ!」
俺の叫びに今まで陽気に酒飲んでいた連中も黙り込んでしまう。
しまったなあ。俺も油断してたぜ。貴族ってのはこうやって相手の隙をついてくる連中だってことをすっかり忘れてた。故郷だとこっから更に契約違反とか言って搾り取ろうとしてくるからなあ。
「組合長はどう思うんだ?」
皆で考える中、クワロが組合長に話を振った。組合長ならどう判断するのか俺も気になる所だ。
「俺個人の意見としては、ウチの領主様はそういう卑怯な事をしてこないと思う。ただ、道中俺達が見逃した野盗や魔物が、襲って来ねえとも言えねえ」
「うーん。お手上げじゃねえか」
「これって誰か一緒について行けばいいんじゃねえ?」
「それだと騎士団や貴族と一緒に行動するのか?俺は嫌だぜ」
ドヤ顔で提案したハイーシャには悪いが、俺もヒビットと一緒で貴族と行動なんてごめんだ。他の連中も嫌そうな顔している。
「じゃあ、貴族も騎士団も襲われないように俺らが護衛するってのはどうよ?」
貴族の護衛に騎士団がいるのに、更にその騎士団の護衛とか意味分かんねえ。そもそも騎士団連中はプライドだけは無駄に高いから護衛とか認めねえだろ。
「それ絶対騎士団認めねえぞ。それならまだジロウ達の方がマシだ」
「いや、ジロウ達も護衛みたいなもんだし、忘れがちだけどあいつら魔物だからな。騎士団連中がちょっかい出さねえとも限らねえ。そうなりゃ、ジロウ達は身分なんて関係ねえから反撃するぞ。その時点でウイスキーは無しになる」
「結局俺達は騙されたって事か」
「ちくしょおおおお!貴族の手のひらかよ!」
「まあ、報酬はいいんだし、ウイスキーぐらい・・・・いややっぱり許せねえわ。俺のウイスキーいいいいいい!!!」
「ちょっと待て!何でお前のなんだ?パーティで分けるって話だっただろ」
「こいつ、絶対一人で飲むつもりだ。リーダー、こいつパーティから追放しようぜ」
「ちょっとした冗談じゃねえか。怒るなよ」
ここから追放系物語が始まるかと思ったけど、そんな事なかった。まあ、今追放されそうだった奴は、顔面傷だらけでどう見ても主人公顔じゃねえしな。
「いや、そもそも何で騙されたって決めつけてるんですか?組合長も領主はそういう事しないって言ってましたよね?」
「はあー、ショータンは甘いなあ。貴族を信じちゃ駄目だぞ。貴族の依頼は欲に目が眩む事無く、しっかり報酬を確認しねえとすぐ騙されるんだぞ」
「皆さん、ウイスキーに目が眩んでこの依頼受けてますよね?」
・・・・・・
「取り合えず実際問題どうするよ?」
「僕の質問に答えてもらっていいですか?」
しつこく食い下がるショータンだったが、アウグに殴られて沈黙した。余計な事は言わない様にしようね!
そこから再び話し合いが行われたが、結局いい案が出る事は無かった。
「クソが!帰りもこんだけ出るって事は、ウイスキー絶望じゃねえか!」
コーバスへの帰り道、行きよりも減ってはいたが、相変わらず野盗が出てくるので、みんなで討伐していく。そして討伐する度にウイスキーが期待出来ない可能性が高くなるので、みんなの機嫌が悪くなっていく。騙されるよりは、まだ本当に騎士団が野盗に襲われた方がマシだと思うが、結局報酬のウイスキーを貰えない事には変わりない。
結局、何か騙された感じもする後味の悪い依頼だった。
で、終わると思った?
俺は故郷じゃ散々貴族に騙されたから、関わりたくねえ以上に、騙されるのは我慢出来ねえんだよ!
■
「ご当主様。間もなく旧ボートレット領に入ります。我らが守りますが、襲撃時に馬車が急に動く可能性もありますので、十分お気を付けください」
騎士団長からの言葉に分かったと伝えると、騎士団長が馬車から離れていく。報告を受けてはいるが、ここからは本当に危険らしい。コーバス組合総出で街道の掃除をしたそうだが、それでも襲撃してくる可能性が高いと聞いている。
ただ、ティーは一生懸命ウイスキーを集めていたんだよなあ。本当に無傷で我らが、旧ボートレット領都まで辿り着けると信じているのは何でだろう?
少しティーの行動を考えていると、周囲が途端に騒がしくなった。早速野盗が襲ってきたみたいだ。組合が嘘の報告をしてくるとは思わないので、本当に治安が最悪なようだ。コーバスでも全ての野盗を処理するのは無理だったか。こうなると、この先、不安だなあ。
取り合えず言われた通り、馬車に閉じこもり静かにしていると、どこからともなく声が聞えてきた。
「おぬしたちをこの先の大きい街まで無傷で運ぶように頼まれただけじゃ」
「そうそう、大人しくしておいて下さい」
「この木、おもしろい。声が響く」
「別に元の姿に戻れば、この木必要ねえだろ」
・・・・
何だろう。この声・・・・物凄く不安になってきた。
胃が・・・・痛い。