作品タイトル不明
126.それぞれの考え
組合で解散となり、部屋に戻ったシリトラは一人考え込んでいる。
・・・・みんな気付いているか分からないけど、オーガキングの拘束から抜け出すなんて異常です。捕まれば普通は終わり。組合長もオーガキングには捕まれない事を第一に考えていた、捕まれば負けと言っていました。
・・・・それなのにベイルは・・・・・やっぱりベイルは『身体強化』を使えばかなり・・・いえ、信じられないぐらい強い?。普段から使わないのは魔力が少ないから・・・・近接はそういう使い方なので不思議はない。ただ、地竜の時は目立つ活躍はなかった。・・・・使わなかったのは何故?使えば何かしら目立ったはず。ベイルの性格なら喜んで使って自慢するのに・・・何か理由が?
・・・・ちょっと待って!
・・・・『信じられないぐらい強い』
・・・・その人物で私が思い浮かぶのは、たった一人で地竜を倒した人物。
『令嬢』
・・・・ま、まさかベイルは令嬢の仲間?
こ、これはボスに報告するべき?もう少し情報を集めるべきか・・・・
深く悩むシリトラだったが、普段なら悩むまでもなくボスに報告していただろう。悩む理由は頭にチラつく親友の顔。彼女の想い人を再び調査対象に加えていいものか・・・下手すれば強引な手段で確認するように命令されるかもしれない。そうなると力づくは無理かもしれないが、薬を盛る等色々方法はある。そうなるとモレリアはどんな顔をするか・・・。
うーん、やっぱり今はまだ私の想像に過ぎないから、もうちょっと情報集めてからにしましょう。馬鹿力だけで繋がっているって考えるのも浅はかですし、それにモレリア・・・は無いけどミルシーも見ていたので、ミルシーからボスに報告するかもしれませんしね。
報告しない理由を無理やり考えて、自分を納得させる。工作員として間違った判断をしている事はシリトラにも分かっている。それでも自分の不確かな報告でモレリアを悲しませたくはない。間違っていたら、それこそどうなる事か。
まずは証拠です。ベイルが『令嬢』や『ドルーフおじさん』と繋がっている証拠を見つけましょう。
■
「俺も異論はない」
ゲレロからの報告を聞いたクワロは分かっていたかのように頷く。
「だろ?ベイルのあの力はおかしいぞ。今までうまく隠していただけだ。しばらくはあいつを見張っていた方がいい。『令嬢』・・・いや、俺達の目的の『ドルーフおじさん』に繋がるかもしれねえ」
「あいつは一度調べて『ドルーフおじさん』と関係ないと判断したんだが、騙されたか・・・・ベイルに?」
「言うなって。俺もあの馬鹿に騙されていたなんて信じられねえよ。案外『ドルーフおじさん』と繋がってなくて、ただ『身体強化』を隠していただけかもな」
「そっちの可能性の方が高いだろう・・・が、万が一がある。しばらくベイルを中心に見張るぞ」
「国への報告はどうする?」
「もう少し調べてからだ。いま、上層部はかなり焦っているらしいから、下手な報告すれば、ここに工作員を大量に送り込んで、色々引っ掻き回される。それは避けたい」
「焦っているって戦争か?あれはまだかなり遠くの国でやっているって聞いたぞ」
「ディリングの隣ソルメートと始めたらしい」
「マジかよ!早すぎだろ!」
「更に最悪な事に例の国は和平交渉もしない、降伏も受け入れない。蹂躙して略奪し、貴族だろうが王族だろうが、負ければ全員奴隷扱いをされるそうだ」
「野盗みたいな国だな」
「戦争を始める前はずっと鎖国状態でその国の情報はほとんど無い。ただ、物資はかなり貯め込んでいたみたいで、装備もかなり良いそうだ。だからウチの上層部が焦るのも分かる」
「そうは言っても『ドルーフおじさん』や『令嬢』見つけても、いきなり強くなる訳ねえのにな」
「上は万が一の為に『秘薬』だけでも確保しておきたいんだろう」
「自分用にだろ?俺ら下っ端が怪我しても絶対使うつもりねえよな?やる気でねえなあ」
「仕事だから仕方ないだろう。それにソルメートが負けてディリングと始めるまでだ。恐らくそうなれば俺達に帰還命令が来る。それまでは予定通りベイル中心で見張るぞ」
■
「隠していたってのは不思議じゃねえ。『身体強化』を使った時の強さがバレないようにするのは組合員なら当然だからな」
「地竜の時一緒にいたけど、ベイルは使っているものだと思っていたよ」
「俺らでさえバレないように所々で使ってたんだ。リーダーがそう思っても仕方ねえ。それに相手が地竜だったから使った所で、地竜の強さからすればほとんどの奴が誤差みたいなもんだろ」
「あの時は我もそう思い気にもしなかった。だが、オーガキング戦で見せたという怪力を聞くと考え直さないと駄目だな」
「あれだけの力は『令嬢』以外見た事ないのう。やっぱりベイルは繋がっておるんじゃ・・・」
「そう考えると地竜の時に『令嬢』が直ぐに来たのも分かるな」
「でもよ。組合長のその考えだと、『ドルーフおじさん』が『黒竜の血』を売った理由が分からねえぞ。だってベイルはあの時街にいなくて怪我一つ無かったからな」
「そこは嘘だったんじゃない?『協力者を助ける為』なんて僕ら勝手に考えて調査してるけど、怪しい奴見つからないでしょ。それが狙いかも・・・いや、もしかしたら僕らが見つけてないだけかもしれないけどさあ」
「攪乱の為に『黒竜の血』を使うとは豪勢すぎるじゃろう」
「けど、連中の価値観はおかしいじゃないさー」
「『協力者を助ける為』が嘘なら『私達』ってのは本当の事になる。何故こっちは本当の事を言ったのだ?」
「そこは口が滑った・・・とか考えていいのか?・・・ああああ!わかんねええ!」
「落ち着け、トレオン。色々考えた所で今は答えは出ねえ。なら今まで通り、協力者探しは継続しながら、ベイルが『ドルーフおじさん』達と繋がってないか見張るでいいんじゃねえか」
「だね。あの馬鹿力だけで『ドルーフおじさん』と繋げるのは短絡的過ぎるかもしれないけど、これ以外、手掛かりは何もないからねー」
「もしこれで本当に繋がっていたら、儂等ベイルにずっと騙されていたって事になるんじゃが?」
「「「「・・・・・・」」」」
■
「ベイルさん。スライム溜まりで何しているんですか?」
依頼で目的地に向かう途中、スライム溜まりのヌタ場でしゃがんでいるベイルを見かけたショータン達は、何をしているのか気になり近づいて話しかける。
「あん?ショータン達か?お前ら凄いもん見せてやるよ。見とけよ~」
そう言って一匹のスライムにベイルは指を触れる。すると・・・・
パン!!と言う音と共にスライムが弾け飛んだ。ベイルは何か特別な事をした様子はない、ただ、指で触れただけ。
それを見たショータン達は驚いて目を丸くする。普通はスライムに触れてすぐは、ヒリヒリするだけで弾け飛んだりしないからだ。
「ベイルさん。今の何の手品ですか?大道芸でも覚えたんですか?」
「ばっか!違えよ。俺はスライムの秘孔を突けるようになったんだよ。これを覚えればもうスライムなんて怖くねえ」
「・・・・・スライム怖がる人なんていませ・・・・いますけど」
溶かされた経験のあるショータン達・・・というよりコーバスの組合員は全員アシッドスライムにトラウマを持っており、酷い組合員だとスライムすら怖がるから完全に否定は出来ない。だが、一般的に最弱の魔物であるスライムを怖がる組合員は少ない。
「そもそも秘孔なんてどうやって見分けるんですか?」
「そこは、ほら、修行の成果って奴よ!」
「・・・・スライム倒すのに何の修行してるんですか」
「そもそもスライムなんて核抜けばいいだけじゃないですか」
そう言いながらニッシーが近くのスライムから核となる魔石を引き抜くと、デローンと地面に広がり動かなくなる。
「甘いな、ニッシー。俺の倒したスライムを見て見ろ。こいつはまだ死んでねえ」
見れば、先ほど弾け飛んでバラバラになったスライムの体が再び核のある本体に集まり、元の大きさに戻っていく。
「何でええ??す、凄いと思いますけど、これには何の意味が?」
驚くショータンの疑問にベイルはドヤ顔で答える。
「あと4回は遊べるドン!!」
「えええええ???ど、どういう事ですか?」
「こいつら5回秘孔突かなきゃ死なねえんだよ。多分5回で魔石の魔力がゼロになるんだと思うんだけど、俺の攻撃を5回も耐えるなんて中々の強敵だぜ」
「普通のスライムに強敵って言う人初めて見た」
思わず引いているショータン達だったが、ニッシーだけは違った。目をキラキラさせてベイルの隣に座り教えを乞う。
「秘孔ってどうやって突くんですか?」
「修行だ。修行をして全ての煩悩を振り払うと心の目で見えるようになる。そうなれば後は大道芸として楽に金稼ぎが出来る」
「・・・・・煩悩残ってますよ?」
「取り合えずニッシーやってみるのだ。無心だ、ひたすら無心でスライムを指で突くのだ」
何故か師匠面で言葉使いも変えているベイルを気にせず、言われた通りニッシーはスライムを指で触れるが、指がスライムの中に沈み込むだけだった。
「え?ちょっと?ムズくない?これ本当にどうやるんですか?」
「まだまだ煩悩が残っておるぞ。この儂のように心を無にするのじゃ」
そう言ってベイルが再び触れると、スライムが弾け飛ぶ。
「・・・・後3回か。それで100ジェリー・・・・楽しいけど効率悪いな」
「煩悩めっちゃ残っているじゃないですかー。マジでこれどうやるんですか?」
「ハハハ、マジな話、俺の体質みたいなもん。スライムと俺の体質が相性最悪ってだけだ」
「臭いって事ですか?」
「臭くねえから!ちゃんと毎日体洗っているから!下手すりゃその辺の貴族よりキレイにしてるぞ!!」
「もしかして体をキレイにしていると、弾け飛ぶのかも!嫌だろうけどみんなもちょっと触ってみてくれ」
ニッシーの呼びかけにみんな嫌々ながらもスライムに近づいていく。さっきニッシーがやったみたいに強引に核を引っこ抜く方法もあるが、キレイに洗い流さないと皮膚が爛れてくるので、推奨されていない。それに地面を這って色々な物・・・それこそ死体や糞等も溶かし食っているような魔物だから、みんなスライムを直接触るのに抵抗があるのだ。
それでもベイルの言っている事が、みんな気にはなったんだろう。それぞれ軽くスライムに触れていくと・・・・パンと言う音が辺りに響いた。
「・・・・・・」
「う、嘘・・・・・」
「・・・ベプラ」
「えええええ???」
仲間の1人女組合員であるベプラがスライムに触れると、ベイルと同じように弾け飛んだので、本人以上に仲間たちが驚く。そんな中、ベイル一人だけなにやらブツブツ言っている。
「クロの奴、どこが『腐』属性が珍しいんだよ。簡単に見つかったじゃねえか」
「ベプラ!体洗う時何使ってる?」
「普通にいつもの雑貨屋で買っている石鹸。みんなと同じ」
「どれぐらい時間かけて体洗ってる?」
「数えた事ないから分かんないよ。でも普通だと思うけど・・・」
「お前ら言っておくが、体のキレイさは関係ねえぞ。体質だって言っただろ」
質問攻めにされているベプラを助けるかのようにベイルが会話に入ってきた。その顔は真剣そのものだったので、ショータン達も何かを察したのか押し黙ると、ベイルはいきなりベプラに質問を始める。
「取り合えずベプラに確認したい事がある。まずは『攻め』の反対言葉は?」
「??・・・・『守り』?」
「ショータンとニッシーが仲良くしているのを見てどう思う?」
「別になんとも・・・いつもの事」
「クタイッシュの事どう思う?」
「偉そう。組合員としてのレベルが低い。慣れ慣れしい」
「・・・・・・・・セーフか?『腐』だから腐っているって訳じゃねえんだな」
よく分からないが、1人納得したベイルに、ショータン達は首を傾げる。
「取り合えず、お前らにアドバイスだ。ベプラの『ゲボ』は危険だから触れるなよ」
「・・・・・話の流れが全く見えないんですけど」
「何でこの話になった?」
「ベプラのじゃなくても危険でしょう。触れませんよ」
「そもそも私、吐くほど飲まないし!」
更に訳の分からない事を言われて頭が混乱するショータン達だった。
そしてベイルは・・・・
やっべ!遊んでたら結構時間経っちまった。思っていた以上にスライム弾け飛ばすの楽しんじまった。今から狩場向かうのも面倒だ。今日はやめて、組合戻って酒飲もう。フリー依頼は明日からだ。
色々な陣営から怪しまれているなんて思うはずもなく、これから誰と酒を飲もうかと呑気に考えていたのであった。