作品タイトル不明
125.オーガ討伐依頼④
「悪い!ちょっとドジった」
巣穴から出てきたトレオンの最初の一言がこれだ。頭血塗れで、折れた腕がダランと垂れ下がっているのを見れば、言われなくても分かる。ただ、トレオンがここまでやられるとは珍しい。
「トレオンは下がって!『蜂蟻撤退』!トレオンを治療しなさい!『転がった剣』は荷物を置いてマーティン達に急ぎ報告を!」
「ほ、報告はなんて言えば?」
「・・・・・『オーガキングが出た』それで分かってくれます」
そのシリトラの言葉と同時に洞窟からゆっくりとデカいオーガが姿を現した。普通のオーガが身長2m超えぐらいに対して、このオーガは3m近くはある。こいつがここの本当のボスかよ!
「で、でけえ」
「キングはデカいからすぐ分かるって聞いたけど、本当だったんだな」
「何でこんな小規模の群れにキングがいるんだよ。普通100匹以上の群れだろ」
「この戦力で倒せるのか?こいつの強さ5級だろ?」
「ビビってんじゃねえよ。情けねえ」
オーガキングを見た反応は人それぞれだが、誰も逃げ出そうとしないのは偉い。たまに想定外の魔物を見たらビビッて逃げ出す奴もいるからな。それにシリトラから撤退の指示出てないのに逃げたら報酬無しになっちまう・・・・こっちの方が逃げない理由になってそうだ。
「キングの獲物はこん棒だけか?見た所防具も装備してねえな」
「ベイル。あのこん棒使うか?」
「デカすぎて使えねえよ!俺をこん棒マニアだとか勘違いしてねえか?」
ゲレロは俺の事を何だと思ってんだ。ただ、オーガの癖に獲物がこん棒とは見る目があるじゃねえか。こん棒はいいぞ。
シュッ!!!
下らねえ事を話ながらオーガに向き合い出方を伺っていると、背後から音がして、矢がオーガキングに突き刺さる。・・・・見えてねえけど多分ミーカか。
「か、固い。全然刺さってない」
オーガキングに突き刺さった矢は、鏃が半分までしか体に埋まっていない。さっきの普通のオーガは鏃が埋まるぐらいまで突き刺さっていたのを見たから、頑丈さは倍以上だな。
剣とかの斬撃武器だとこいつの相手は大変だろう。けど俺は打撃武器のこん棒だから、体の丈夫さは関係ねえぞ。
面倒くさそうに突き刺さった矢を抜いてからへし折るオーガ。これでこの矢は使い物にならねえ。弓矢使いが一番嫌がる事をこのオーガキング知ってやがる。結構賢いな。
今度は槍の形をした水の塊が、俺の背後からオーガに向かって飛んでいき、オーガキングに突き刺さる。
「よし、魔法耐性は普通のオーガと変わりませんね」
その声が聞こえたのかオーガキングがシリトラがいるであろう方向を睨みつけ、雄たけびをあげる。
「ガアアアアアアア!!!!!」
うるせええ!
雄たけびをあげながら、こちらにドスドス歩いてくるオーガキングの前に、クワロ達が割り込んできて、歩みを止めさせる。そのクワロ達にムカついたのか、手に持つデカいこん棒を振ってきたので、クワロが盾で受けるが、その勢いを止める事が出来ずに大きく吹き飛ばされた。
「クワロ!!!」
吹き飛ばされて地面に転がったクワロは、ゲレロの声に手だけ挙げて応える。取り合えず無事みたいだ。それにしてもクワロを吹き飛ばすとか、マジで馬鹿力だな。
「イーパ!まともに受けるな!受け流す事だけ意識しろ。カウンターも狙うな、守りに集中しろ」
「分かった」
ゲレロが守りだけに専念するのは地竜以来か。それぐらいこいつは強いって事だな。
「ぐおおおおお!!!らああああ!!」
ゲレロは、オーガキングの前に立ちはだかり、こん棒を盾で受けるが、言っていた通り、まともに受けずに攻撃を受け流す。受け流すだけだってのに、それでもかなり大変そうだ。そして受け返されたオーガキングに大きな隙が生まれた所を、俺達が襲いかかる。
「おらあああ!!!・・・か、固ええ、全然斬れねえ」
勢いよく斬りかかったアウグだが、オーガキングの体にうっすら傷を付けるだけだった。それでも血を流せたのは凄いと思うぜ。何人かは弾かれてるからな。
「全員『斬る』んじゃなくて『突け』!そっちの方が攻撃が通る」
ペコーが慌てて全員に指示を出すが、俺は『突き』出来ねえから、無視して足の甲をこん棒でぶっ叩く。思った通り、骨を砕く感覚が手に伝わる。
「ハハハ、ビンゴ!てめえらこいつも鍛えられねえ所はダメージが通るぜ!」
「ベイル!!!!」
全員に分かった事を教えると、モレリアの叫びが聞こえた。慌ててオーガキングに目をやれば俺の目の前にこん棒が迫っている。
か、躱せねえ!!
咄嗟にこん棒の端を両手で持ってオーガキングの攻撃を受けるが、勢いを止められずさっきのクワロと同じように大きく弾き飛ばされる。
・・・・がクワロと違って俺は後ろに飛んで勢いを逃がしたから、華麗に着地を決める。10点!!
「おい、ベイル。大丈夫か?」
「いや、あいつの攻撃で手が痺れちまった。アウグ、後は頼んだ」
「よし、じゃあ、お前また足狙え。俺は膝裏狙う。取り合えずあいつの頭を下げさせねえとな」
・・・・あれ?俺の言葉通じてる?後は頼んだって言ったんだけど?
今は復帰したクワロとゲレロ、イーパの3人がオーガキングの攻撃を引き付け、遠距離攻撃が顔を狙って気を散らして、近接武器で攻撃しているから危なげなく立ち回れてはいる。いるが、攻撃がかすり傷程度しか与えられていないから、倒すのにどれだけ時間がかかるか分かんねえ。交代要員はたくさんいるから、ジリ貧って事にはならないと思うが、攻撃一発食らえばアウトだからな。
「そんじゃあ、ベイルが攻撃した直後を狙うからな」
おい、アウグの奴、人の返事聞かずに勝手に言い残して行きやがった。なんて自分勝手な野郎だ。でもサボっているとゴチャゴチャうるせえからな。働くか。
「ええ?こいつめっちゃ俺狙ってくるじゃん」
「ベイル!そのまま!囮になれ」
「ベイルに注意が向いてる間に狙え狙え!」
アウグの指示に従ってオーガキングに近づいたら、足の甲を殴られたのがよっぽど気に入らなかったのか、俺ばっかり狙ってくるんだけど・・・・しかもペコーとか俺を囮にしやがる。血も涙もねえ奴だ。
「ふう、ようやく一息つけるな」
「疲れた」
「イーパ、疲れたなら他の奴に変わるか?」
「まだ大丈夫」
ゲレロ達も俺が必死でオーガキングの攻撃を躱しているってのに、水分補給して休憩してやがる。
「お前ら人が必死に引き付けているってのに信じられねえ」
「それだけベイルの実力をみんな信用しているんですよ」
シリトラがフォローにもなってない、心にも思ってない言葉を返してくれる。
「信用され過ぎて泣きたくなるぜ、それよりもてめえら!さっさとダメージ入れろよ!てめえらの武器はナマクラか?」
「やってるっての!もうちょっと黙って囮しとけ!」
「アウグ!てめえもさっさとやれ!」
「てめえが逃げ回るからキングが動いて狙いがつけにくいんだよ!」
オーガキングの攻撃に馴れてきて、こいつらにも文句言えるぐらいの余裕は出てきた。それがいけなかったんだろう、つい油断しちまった。
「ベイル!!!!」
モレリアの声が響くが、気付いたら俺はオーガキングに捕まっちまってた。
こん棒を躱したから完全に油断していた。オーガキングもいつの間にかこん棒を両手持ちから片手持ちに変えてたから、狙ってたんだろう。気付いたら空いた手に俺は捕まえられていた。
「てめえ!離せ!!」
右手ごと体を捕まえられた俺は、左手でオーガの手を殴りつけるが、全く効いてねえ。むしろ更に力が強くなって右手と体がギリギリと締め付けられる。更に悪い事にこのオーガ武器を捨てて両手で俺を捕まえたんだけど・・・・。足殴った事がよっぽど気に入らなかったらしい。
「・・・ぐ!!!」
馬鹿力に締め付けられて思わず声が漏れる。
「やべえ!ベイルが死ぬぞ」
「攻めろ!攻めろ!」
「くそ!ベイルさんを盾にしているから攻撃できない」
やべええ。マジでビクともしねえ。アウグ達は何やってんだよ。
この時は分かってなかったが、このオーガ俺を捕まえると、後ろの連中を見ずに適当に蹴りを放っていたらしい。いつ飛んでくるか分からない蹴りに近接組も思い切って攻撃できなかったらしい。遠距離攻撃もオーガキングとの射線に俺がいるから攻撃できなかったそうだ。ゲレロ達も槍を持って攻撃しようとしたが、こっちも蹴りが飛んできて思うように攻撃できなかったと聞いた。
だから、まあ、素の状態だと俺は絶体絶命のピンチだったって訳だ。素の状態だとな。
「て、てめえ!俺を食うつもりか?美味くねえぞ俺は」
どうにかして抜け出そうと力を込めているが、ビクともしねえ。そんな俺を嘲笑うかのようにオーガキングが口を大きく開ける。俺の頭ぐらいなら丸飲みできるぐらいにはデカく、尖った牙が上下に並んでいる。
その口がゆっくりと近づいてくる・・・いや、俺が口の方に運ばれているのか。このままだと食われて終わりだな。
・・・・・・仕方ねえ。
「仕方ありません!少しぐらいベイルに当たっても構いません!腕を狙って魔法と矢を打ち・・・・・う、嘘でしょ」
「ベイル!ベイル!ヴぇ???」
おいおい、シリトラさんよお!少しは構えよ!当てたら怒るぞ!そんでモレリア、心配して叫んでくれるのは嬉しいが、最後のは何だ?声が汚なかったぞ。
「うっそだろ。なんて馬鹿力だ」
「すげえな」
「信じられん」
ハハハハハ、みんな驚いてる。驚いてる。そんで目の前のオーガキングも目を丸くして驚いているのが分かる。まさかあの状態から両手を押し返されるとは思ってなかっただろう。まあ俺に『身体強化』使わせた事は褒めてやるよ・・・・・何か最近よく使っている気もするけど、気のせいだな。
そのまま両手の拘束を抜け出して、未だに驚いて目を丸くしているオーガキングの目に絶無名を突き刺し、肩を蹴って逃げるように距離をとる。
この逃げるようにってのは理由があって、最初にクロとやりあった時に、目玉をぶん殴って潰したんだ。そしたらあろう事かあのトカゲ、瞼で俺の腕を切断するとか訳分かんねえ事しやがった。それ以来目玉潰すと、情けねえ事にあの時の出来事が蘇って、焦るって訳だ。
「!!!!!」
目を潰されたオーガキングは目を押さえて声にならない叫びをあげ隙だらけになる。そこにアウグの剣が膝裏の奥まで突き刺さる。
「よっしゃあ・・・・ガハッ!!!」
剣を突き刺し喜ぶアウグだったが、そこにオーガキングの裏拳が飛んできて、吹き飛ばされ地面に転がる。・・・・着地失敗・・・0点。腕に装備した丸盾でガードしたのが見えたから、死んではいねえと思うが・・・・。
「おい、アウグ。生きてるか?」
「ああ、何とか・・・いててて、悪い、腕が折れたわ。後は任せた」
「よし、分かった。次はもう一つの膝裏な!」
「俺の話聞いてたか?」
見れば盾がひしゃげているから、折れているのは本当だろうな。まあ軽口叩けるぐらいだから放っておいても死ぬ怪我じゃねえな。
「おっしゃあ!囲め!囲め!」
「こいつもう立てねえぞ!」
「まずは武器狙え!武器!丸腰にさせるぞ」
アウグのそばを離れてオーガキングの所に向かうと、交代要員達がオーガキングを取り囲んでボコっていた・・・・チンピラかな?
「ベイル!怪我は大丈夫かい?」
混ざろうかどうしようか迷っていたら、モレリアが近づいて話しかけてきた。
「ちょっと強く握られて痛いが、痣になるぐらいだ。大した怪我はしてねえよ。他の連中は?」
「アウグとトレオンが骨折。クワロ達は打撲程度だね」
「そうか、思ったより被害がなくて良かったな。後はあいつらに任せれば大丈夫か」
見れば、こん棒を取り上げられ周りからの攻撃を必死に腕で防いでいる可哀想なオーガキングが見える。
大丈夫だと判断して地面に腰を下ろす。
「ああ!疲れた!流石にしんどいぜ。お前ら、俺を大八車で街まで運んでくれ」
「ああ、分かった、でもベイルって素材になるのか?」
「解体屋の親父も嫌がるんじゃねえ?」
何でこいつら俺を素材扱いしてんの?疲れたから街まで運べって言ってるだけなんだけど・・・。
「誰か手の空いている人は巣穴から装備や金品を運ぶのを手伝って下さい。ミルシーはマーティンの所に倒した事を報告に行って」
口や目から武器が生えて、可哀想な見た目になって動かなくなったオーガキングを確認すると、シリトラが指示を出し始める。
そこに名乗りを挙げたのがオーガキングにトドメを指した連中たちだ。最後は囲んでボコるだけだったからまだまだ元気なんだろう。俺達はもう疲れてみんな地面に座り込んでいるから後は任せたぜ。
■
「かんぱーい!!!」
あれから街に戻った俺達は、報告を終えたら全員で乾杯する。・・・・まあ、毎回やっているから特段珍しい事じゃねえ。
「ぷはあああ!やっぱり依頼達成した後のエールは最高だぜ」
「しかも今回は結構ヤバかったからな。美味さが格段だ!」
骨が折れているってのにアウグとトレオンは美味そうに酒を飲んでいる・・・馬鹿かな?
「ちょっと、失敗したなあ」
「まあ、仕方あるまい。あそこでオーガキングがいるとは思わんじゃろ」
依頼中に酒を飲んでいたロッシュとユルビルが2人で反省会をしているのが聞こえる。こいつら酒飲んでたのチクったら、今回の依頼報酬無しになった。ざまあ!
「本当に今回は反省しないとな」
「先輩たちマジで怖いよ。あそこでクタイッシュが謝らないと躊躇わずに殺されてたよ」
「今日思ったけど、やっぱりコーバスって組合員のレベルおかしくない?オーガキング倒したんだよ」
見学組は見学組で集まって楽しく?騒いでいる。やらかした3人は組合長から説教&ゲンコツを落とされて頭にでかいタンコブつくって、置物みたいに沈黙している。それぐらいで済んで良かったな。ただ、今日はこの3人の奢りだから、今回の報酬分は金がぶっ飛ぶだろう。
「タダ酒はやっぱり美味いなあ」
「ベイル、あなた怪我は無いんですか?」
タダ酒に酔いしれていると、珍しく同じテーブルに座るシリトラが心配そうに聞いてくる。別にどこも怪我してねえよ。
「普通。骨折れる」
シリトラに釣られて相席しているイーパまで口を挟んでくるが、マジで痣が出来たぐらいなんだ。
「俺は骨も強いんだよ」
「こいつが言うとその通りに聞こえるから不思議なんだよなあ」
「まあ、実際強かったですし・・・・でも、ベイルが捕まった時は焦りましたよ」
「そうそう、僕もすごい慌てたよ。けど魔法打ち込む前に自分で解決するとは思わなかったよ」
「まさか、あの状態から抜け出すとは思いませんでした。ベイル、あの時『身体強化』使ったんですか?」
「シリトラ??」
「おいおい、それは現役組合員に聞いちゃ駄目だろ」
驚くモレリアと呆れたように注意するゲレロ。『身体強化』は誰でも使えるけど、一応奥の手の一つだから、使ったかどうか現役の組合員には聞いちゃダメってのが、何となくのルールだ。使った時の強さを把握されれば、対策されちまうからな。まあ、5級とか4級で名前が知られてる奴とかはだいたいの強さがバレてるから、普通に教えてくれるらしいけどな。
そして、あん時の俺は、オーガキングの腕を吹き飛ばさないように優しく押し返した程度だから教えた所で問題ない。
「ああ、あの時だけは使ったぜ。じゃねえと死んでたからな」
「おいおい、教えるのかよ」
まあ、使った事がバレた所であん時は手加減してたから問題ない。逆に俺の本気があの程度だと勘違いしてくれれば恩の字だ。実際、俺の本気に対抗したけりゃクロ連れてくるしかねえけど、あいつはサクラちゃん以外の言う事聞かねえから大丈夫だ。
『身体強化』と言えばアウグが膝裏突き刺す時だな。いくら鍛えられねえ場所と言っても、オーガに一撃であそこまで突き刺せるのはおかしいから、多分アウグはあん時使ってただろうな。まあ、詮索はしねえけど。
「す、すみません。ベイル、考えが足りませんでした」
本当に申し訳なさそうにシリトラが頭を下げ、モレリアが珍しく怒りの顔でシリトラを睨みつけている。
「気にすんな。けど、俺を闇討ちとかは勘弁してくれよ」
「しませんよ!」
「ベイルを闇討ちかあ・・・・返り討ちにされそうだ」
「コーバスがめちゃくちゃになりそう」
イーパ、それはどういう意味だ?