軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者113 技能実験

ナイフで槍を氷室ごと後退させ、一先ずの距離を取った。

四人組も今は居ない。体裁を取り繕う必要も彼女相手なら最早必要あるまい。

このあまりに自分勝手な人間相手に口調を正すのも馬鹿らしい。いい加減に素のままになっても誰も文句は言いはしないだろう。

「さっきからなんだ、その態度は。 上から目線で他人を見下して楽しいのか?」

「楽しい? いやいや、そういうのじゃないって。 単に普通のことをしてるだけじゃん」

俺の怒気を氷室は軽く受け流した。

その表情からは既に驚きは抜け、飄々とした態度を隠しもしない。彼女にとって、ああいう態度でいることは極めて自然なのだ。注意されたとて意味が解らないと判断する。

どういう生活環境に居たのか定かではないが、間違いなくまともな場所で育っていない。

人間の性格はおよそ環境で決まるとも言われているし、彼女の態度から察する限りでは親も良い奴ではなかったんだろうな。

「普通? ……俺から見ればお前はおかしい。 人間として明らかに常識が欠如している」

「それはそっちの認識でしょ。 ――――それに、ギルドは私を入れてくれたよ?」

氷室の言葉は俺にとって痛い話だ。

未来で確かな実力を有するからと推薦したが、こうまで簡単に問題を起こす程破綻しているとは想定していなかった。

彼女は和を乱す側の人間だ。今もこれからも協力が何より大事な組織で、一匹狼どころか毒としてギルドを混乱に陥れかねない。

指導が必要なのはあの四人ではない。彼等も確かに我が強い方だったが、本物の前では子犬も同然だ。

暴力で全てを解決するのは本当はしたくなかった。注意や話し合いで解決出来るなら、勿論そうした方が平和的に終わることが出来る。

だが暴力に出れば、そこから先は上か下かの話だ。明確な上下による関係は、今の日本では健全とは言い難い。

「今のギルドに必要なのは実力でしょ? 強い奴が上で弱い奴が下。 シンプルで良いじゃん。 私はそういう職場で働きたかったの。 夢が叶って今は最高って感じ」

「……そうか」

駄目だな、これは。

ナイフを構える。俺の様子に氷室も槍をゆっくりと構え始め、その口元は緩く弧を描いている。

全能力向上。強化割合を今出せる最大まで引き上げ、更に速度強化に防御強化を重ねて付与師としての職業をフルに稼働させる。

彼女を相手に舐められるのは論外だ。その後に問題が発生するとしても、今此処で彼女に一定の枷を嵌めなければならない。

音を立てず、先ずは接近。

強化した足はこれまで以上に軽い力だけで身体そのものを跳ねさせた。急加速による接近を彼女の目はしっかり捉え、碌な防御姿勢も取らずに再度の激突を迎える。

今度は力を入れていたのだろう。弾き飛ばされるようなことにはならず、そのまま力のぶつかり合いを続けることになる。

彼女は涼しい顔をしていた。この程度の力なんてなんてことはないと表情は語り、そして第二の刃が俺に向かって襲い来る。

耳に届く空気を裂く音。複数の凶刃は全て俺に向けられ、即座にぶつかり合いを解除して今度はこっちが後ろに下がる。

直後、突き刺さる四本の氷柱。空気中の水分を凍らせて放たれたであろうそれは、人を殺傷するには十分な威力を持っている。

「殺すのも視野に入っているか」

「実際に殺したことはないけどね。 でも、弱い奴はさっさと居なくなってくれた方が助かるかな。 足を引っ張られても困るし」

「屑らしい発言有難うよ。 お前が冒険者になったのは誰かの気の迷いだな、間違いなく」

「そう思うんならそれで良いよ。 じゃ、続きね?」

刃同士をぶつけて解ったが、これはただの挨拶。

本番はこれから。彼女のレベルが如何程かは解らずとも、少なくとも強化した俺の攻撃に涼しい顔が出来た時点であの四人よりはレベルは高い。

彼女は腰を落とし、槍の先端をこちらに向ける。明確な突撃姿勢を作り――――刹那、一気に加速した。

槍で空気を切り裂き、肉体は加速の為に力を入れる。

俺が強化した時よりも速く、一瞬で間合いに入った彼女は迷いなく心臓目掛けて突きを放つ。

その攻撃を俺は防御せず、身体を逸らして回避。強化した肉体は問題なく動作を行うが、相手側は直ぐに槍を横に薙ぎ払う。

回避されるのが前提の連撃。後ろに更に下がってみると、彼女は追いかける為に前に一歩を踏む込む。

逃げる為の道を塞ぐように足も狙って槍を振るい、その動作は酷く手慣れている。

モンスター相手か、それとも人間相手か。どちらにせよ、彼女の攻撃は逃走の意思を潰そうとしているのがありありと見えた。

ならば、俺も引かずに逆に密着する程の距離まで詰める。

槍を使う人間ならナイフの間合いは逆に不利だ。決して刃を向けずに刀身とは逆の部分で腹を狙い、されど直撃の瞬間に硬い感触が腕に伝ってくる。

見れば薄いものの氷の壁が腹とナイフの間にあった。このまま力を入れれば簡単に破壊出来るだろうが、それをすれば一瞬の隙が生まれる。

槍の適正距離に戻すには十分な時間だ。加えて彼女の氷の操作は随分上手いようで、足元の空気を凍らせて俺の靴を一気に氷結状態に変えた。

前へ行こうとする俺の動作が止まる。氷室は笑みを深めて後方に一歩引き、槍を引いて突く。

その攻撃が迫る中、更に俺の周りの空気を凍らせて一瞬だけその場から動かせないようにする壁を生成。

檻のようにこちらの動きを縛り、確実に攻撃を当てようとしていた。

殺意マシマシだ。俺の言葉に怒ったのか、それにしては加減というものを解っていない。

が、その動き自体は本当に良い。レベルだけでは語れない実力を確かに彼女は積み上げ、咲と一緒に仕事が出来る程の結果を出してきたのだろう。

努力は認める。実際凄い。――――だが、その程度で傲岸不遜を許す道理はない。

「……っ!」

氷室の顔が再度驚きに変わる。

生成された氷壁は彼女の許可を待たずして吹き飛び、靴も一緒に元の状態に戻っていく。

ギリギリで横に動いて槍は脇腹を掠め、伸び切った棒の部分をナイフを捨てて右腕で掴む。純粋な力勝負で彼女はまったく抵抗出来ず、そのまま引き摺る形で距離は縮んでいった。

「お前がその態度なら、こっちも相応にさせてもらう。 ……少しは甚振られる側の気持ちを理解したらどうだ?」

掴んでいる腕とは反対の左手に握っているナイフを振り被る。

このまま槍を握っていれば彼女は間違いなく攻撃を受けてしまう。本人もそれを理解し、早々に槍を手放して距離を取った。

だが、ただ距離を取って終わりではない。その場で次々に氷の刃を生み出し、多量の魔力に頼った範囲攻撃を仕掛けてきた。

分厚く、刃の大きさも成人男性くらいのサイズがある。どれも直撃すれば切られる前に潰れてしまいそうで――だから自身の技能も起動させた。

『お、使うのかい?』

『丁度いいからな。 頼む』

『はっはっは、複雑な処理は任せてくれ。じゃ、まぁやってしまおうか! 』

自分の目が熱くなるのが解る。

魔眼の起動。その瞬間にナラからの会話が挟まってきたが、丁度良いので彼女にも処理を任せる。

この技能の負担は半端ではない。魔力消費が極端に増し、しかも常時発動するタイプだから長引けばこっちが苦しくなる。

だが、それをするだけに恩恵もデカい。自分の視界に映る全ての氷を解析し、直後その全てが停止する。

「回れ」

俺の命令に魔法は全て反転した。

「行け」

再度の命令。魔法は持ち主である氷室を襲うべく殺到し始め、彼女は訳も解らず全力で回避する為に必死に足を動かし出す。

取り敢えずは問題無く処理は済んだか。自分の技能の説明が正しかったことに安堵して、そのまま氷室を追い詰める為に走り出した。