軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者112 強襲

自由気儘な奴と仕事なんて絶対にやってやるか。

それが今の俺の気持ちである。決して口には出さないものの、自分の都合をここまで露骨に最優先にする奴と協調路線なんて築ける筈もない。

今回も電車を使って俺は行きたかったのに、有名になっている氷室の所為でタクシーで移動することになってしまった。

出費そのものは痛くないとしても、予定を狂わされるのは本意ではない。しかも当の本人はタクシーの座席に座った瞬間に窓に顔を向けていた。

会話する気も零だ。本当に俺を気にしているのか甚だ疑問であり、咲に会ったら絶対に文句を言ってやろうと心に決めた。

道路はスムーズに進み、片道三時間も掛からずにダンジョンの近くに到着する。

支払いを何故か氷室の分まで俺が行い、そのまま二人揃ってダンジョンの入口で簡単な手続きを済ませて入っていった。

四人組が居るのは常と変わらぬ四階層。

他の業者が居ない時間を俺達自身の指導にあてている訳だが、今のところ他の冒険者に見られたとて特に困ることはない。寧ろ彼等自身の力量を広めてもらい、積極的に彼等をパーティーに誘ってほしいところだ。

残念なことに俺にはあてがない。功績を並べればなんとかなるかもしれないと思うも、それはかなりの反則だ。しかも二度と知られる前に戻れはしない。

冒険者としての自分は然程目立つ功績も無く、さらには変に悪く見られている状態だ。客観的に考えてみれば四人組と立場は然程変わらず、しかし絶望感は今のところない。

いや、違う意味で絶望はしているか。長いファスナー付きの道具袋から鉄色の槍を取り出している彼女は、敵が襲いかかってくると武器を使わず魔法で鼻から下の顔部分を固めるだけに留めている。

それは決して優しいからではない。呼吸を不可能にさせ、自分達に構っていられる暇を与えないようにしているのだ。

敵を倒すよりも少ない労力で無力化させるのは流石だが、同時に無駄なことをしているなと感じる。

魔力の回復手段をギルドはまだ手にしていない。込めている魔力量を最小にしているかもしれないと考えても、僅かであれ雑魚に消費するのは浪費以外のなにものでもない。

余程モンスターに触るのが嫌なのか、それとも自分が動くのが嫌なのか。

彼女の考え方は解らないので判断がつかないところであるが、出来れば後者であってほしい。そっちの方が純粋に気概の問題で片付けられるから。

「おはようございます!」

「あ、翔さん! おはようございます!!」

色々と考えつつ、爆音の聞こえる地帯まで近付く。

発生させているのは四人の内、宗像と片梨だけだ。あちらは何か思いつく度に模擬戦を始め、時々田代や望都が巻き込まれるような形で参加する。

あくまでも勝敗は考えず、やるのは常に創意工夫だ。彼等自身の地力は悪いものではないし、順当にレベルを上げていけば上澄みになれる。

どれだけ自分の技能の手札を増やせるか。そして、何処まで安定して技能を出力出来るか。

この二つが彼等の至上命題で、解っているから積極的に試せるだけ試そうとしている。ダンジョンなら自動で修復されるから壊したい放題だ。

俺の合流と望都の返事で他の三名もこっちを向いて――――そして隣を歩く彼女に目を見開いた。

彼等の反応に気持ちは解ると内で何度も頷き、近くまで歩いてから俺はゆっくりと口を開けた。

「今日も皆さんと一緒に鍛錬をしようと思います。 それと、隣に居る氷室さんは今回何故かついてきただけなので、あまり気にしないでください」

「いやぁ、それはちょっと」

「無理があると思いますよ、流石に」

田代と宗像のツッコミにそうだよねぇと溜息を吐く。

当の本人は目をあちらこちらに動かし、次いで四人組を視界に捉えた。

見られている感覚を肌で感じたのだろう。途端に四人は警戒を顕にし、それを見て氷室の方も口角を吊り上げた。

「へぇ、最近榊原隊長が拾った問題児達が何処でどんなことしてたのか話題になってたけど、こんなことしてたんだ」

「……」

「どう? 少しは使えるようになった? まだ駄目なら、そろそろ退職を考えたら?」

「――――テメェ」

歯に衣を着せぬ物言いに、一番沸点の低い片梨が低い声を漏らす。

杖を掴む力が増し、今にも水の魔法を発動しそうだ。それに片梨が一番に怒っているとはいえ、他の面々とて怒っていない訳ではない。

不愉快な表情を隠さず、望都も鋭く彼女を睨んだ。急速に関係が悪化していく光景に悲鳴を上げたくなったが、仲裁役として入らなければそのまま戦闘に発展しかねない。

そして、恐らくは氷室の方が強いだろう。彼女も厳しいダンジョンに潜り、多数の敵を屠ってきた。

磨いた技術は槍として出力され、手にした魔法も戦いながら使い方を考えた筈だ。

技能の熟練度では彼女に軍配が上がり、未来に近いなら発揮される氷の規模も並では済まされない。およそ戦うべきではない相手が此処に立ち、そして自覚があるのかないのか煽ってしまっている。

「氷室さんッ」

つい、低い声が出た。

予定を潰されるのは本意ではない。自分自身に自覚は無いが、俺も俺で苛立っているみたいだ。

だが、そんな程度で自身の我を引っ込めるような女ではない。氷室は寧ろ楽しそうに槍を撫で、俺に意味深な視線を向けてきた。

「私は興味があるから此処に来たの。 面白くないなら此処に居る意味は無いし、面白いなら色々試してみたい」

「なら早急に去ることをおすすめします。 見せられる程のものはここには無いので」

「それを決めるのは私だよ。 だから、さぁ……」

――――さっさと本性、見せてよ。

氷室の台詞を耳が捉えた刹那、俺を除いた四人が一斉に彼女から距離を取った。

俺の背中にも冷たいものが流れる感覚がある。彼女の白の髪と同一の白い雪のような魔力が身体から現れ始め、彼女の手が徐々に凍り始めた。

その氷は手から槍に広がっていき、最終的には武器のラインに沿う形で完全に覆い尽くす。

瞳はアクアマリンに輝き、そこに好戦的な笑みが浮かんでいる。

マズいと普段使いのリュックを下ろす。中から二本の鞘に入ったままのナイフを引き抜き、俺も完全に警戒態勢を取る。

「咲から散々言われたからねぇ。 出来れば直ぐにぶっ倒れるなんてことにならないでよ?」

「その前にこっちの話を――」

「ごちゃごちゃ言わない!」

俺の静止の声はまったく聞き入れてもらえなかった。

地面を蹴って突っ込んでくる氷室の狙いは俺に定められ、他の四人にはまったく目もくれない。

それで漸く覚った。彼女が俺に接触してきたのは、この瞬間を狙ってのことだったのだ。

最初は咲の話題からだったのかもしれない。そこから興味を持ち、話をして一回目は興味を喪失した。

けれど更に咲は俺について話してしまい、再度火が点火。今度は話だけで終えず、冒険者らしく実力で測りにきた。

話をする気なんて一切無い。止めたければ自分の実力で止めてみろと態度で示している。

「……クソッ。 宗像さん!」

これは止められない。どちらかが倒れるまで戦いが継続される。

それならと俺は宗像達に向かって叫ぶ。四人は緊張した表情で俺に顔を向け、何事かを言おうとしていた。

だが、その言葉を聞く気はない。今はただ、ここを無事に軟着陸させることに全力を注がなければならない。

「榊原隊長を呼んでください! お願いします!!」

「っ、解りました! 直ぐに呼んできます!!」

四人で行かせる必要は無かったかもしれないが、余計な観客は欲しくない。

他人の目が眼前の相手だけになるのを待ち、その間に伸びる槍の一撃一撃を回避に徹する。

見るからに手加減してくれているお陰で避けることは難しくない。彼女も俺が周りに人が居てほしくないと察しているのか、四人全員が脱兎の如く消えていくのを緩い攻撃で待ち続けた。

そうして暫く。攻撃と回避に徹して動き、他に気配らしい気配が無くなったのを認識して槍をナイフで叩き返した。

後ろに引く氷室。その顔は驚きに染まり、この一瞬に何が起きたのかを理解しきれていなかった。

「舐めんな、塵女」