作品タイトル不明
冒険者109 会うべきではなかった時
ダンジョンで一日を過ごして報告書を作り、それを榊原に提出する。
今回は業務ではないので遊んでいないことを証明しなければならない。特にこの指導に預言者が関与していることを上は把握しており、メールの文章も一字一句間違うことなく提出する必要がある。
未来に関する情報を政府関係者達は常に欲しているようで、些細な情報一つでも交渉材料の一つになるらしい。
今回は四つの技能の情報についてなので交渉材料には使えるだろう。国家を揺るがす程の代物ではないのであまり良い条件を引き出すには至らないだろうが、まぁ悪用しない限りは好きにするといい。
「それでは失礼します」
「はい。 本日は本当にありがとうございました。 この後もよろしくお願いします」
「いえいえ、これも仕事ですから。 早くモノになってくれると良いですね」
「そうですね。 私もアメリカからダンジョンの攻略で呼ばれていまして……」
榊原はまだ何かすることがあるようで、俺の方が先に帰ることになった。
しかし、榊原が出した話題で足が止まる。アメリカのダンジョンの難易度は高いことで有名で、それ故に日本の冒険者を呼んでいるのだろう。
俺も軽くネットで調べた限りだが、攻略そのものはまだ終わっていない。
ボスが居る階まで辿り着いてはいるものの、そこまでで消耗がかなり激しくなってしまっている。補給を幾度も繰り返して攻略は進み、犠牲者を出しながらも取り敢えずの安定までがアメリカの実情だ。
「アメリカのダンジョンですか……」
呟き、記憶を思い返す。
アメリカにも未来の俺は居た。それ故に内部の情報についてはある程度把握している。
ただ、今の段階で少人数でのクリアを目指すのは無謀だ。あそこは本当に難度としては高く、道中に様々な罠も設置されている。
中でも厄介なのはモンスターハウスか。ダンジョンが異物を排除することを優先して大量のモンスターを生み出す行為だが、それが発生している間は別の階層にモンスターが一体も出なくなる。
これで敢えて複数のパーティーで散らばる形で入り、モンスターハウスを発生させて一番前を行くパーティーになるべくモンスターと戦わせないようにした。
余談だが、一部の変態はわざとモンスターハウスを発生させて大量の素材を入手していたりする。本当に強い人間にしか出来ない芸当なので、殆どの冒険者はしない行為だ。
「私に要請が来たのは二日程前です。 その時点で事前に向かうのは難しいとお答えしたのですが――」
「向こうは必死になっているんですね」
呆れ顔で頷く榊原を見て、アメリカの本音が垣間見えた。
日本もそうだが中国もダンジョンとしては安定している。暴れないように制御を徹底したお陰でダンジョン産の資源を優先的に使うことが出来て、それがアメリカとしては我慢出来ない。
そして物事の行く末を決めるのにあの国を無視することは不可能だ。もしも無視して進めようとしても向こうが絶対に武力を背景に介入してくる。
それに、大国故に有望な人間も多く出てくることで有名だ。
パワー系の人間が多かった印象だが、女性も男性も確固たる我を持っている場合が多い。
それ故に現場とぶつかることもある。そのバランスを取るのも冒険者の仕事だ。こればっかりは通常の仕事でも変わらない。
そんな冒険者が上に登りやすいのは、ひとえに実力を何より評価の頂点に置いているからだ。
強さが全てと言い切るつもりはないものの、アメリカの冒険者は実力を他より気にするところがある。
そして、そんな国だからこそ出来ないという事実を看過出来ない。ダンジョンがそこにあって、にも関わらずクリアが出来ていないのが悔しくて堪らないのだ。
だから何としてでもクリアしたくて、頼りたくなくとも日本の冒険者を頼った。
彼等からすればダンジョンクリアは現状の最優先対象で、冒険者はその為に存在すると信じてやまない。
断られるのは予定に無く、であればこそ榊原の断りには驚いた筈だ。それで別の人間を呼ぶのかと思いきや、彼等は二度目の要請を行っている。
それだけ彼女が有名で実力があると向こうも思っている訳だ。メディアへの人気取りを狙っての行動だろうし、政治家ってのは何時如何なる時でも俺達にとって邪魔になる。
「俺の情報をなるべく早めに纏めてお渡しします。 それで向こうで攻略が可能か議論させることは出来ますか?」
「どう、なんでしょうね? 向こうの状況は高次警視監からしか聞いておりませんので、その情報一つで彼等が要請を撤回するかは解りません」
「ならやるだけやってみましょう。 どうしても要請が継続されるようなら流石に上も口を挟むと思います。 向こうも国益よりは自身が大事でしょうから」
「……すみません、お手数をおかけします」
静かに頭を下げる榊原を慌てて止めて、それではと今度こそ別れる。
アメリカダンジョンの本格攻略ももう視野に入れなければならないか。俺も中に入れればもっと詳しく状況を調べられるのだが、老人が頷いてくれる確率は低い。
だとすれば、彼等からの情報を下地に未来知識で肉付けしていくしかないだろう。
手始めにダンジョンの攻略情報を纏めるところから進めていくか。パソコンでも買って資料も作っていくとしよう。
俺のやり方でうまく出来る自信が無いから父親にも助けてもらうとして、それをしながら四人組の実力もなるべく速く伸ばしていかねばならない。
一気に仕事が増えた気がするが、どうせ何時かはやらなければならないことだ。今更そこで嘆いたりはしない。
出入り口に近付くと、何やら人だかりがある。
あそこは人の出入りが多いから邪魔になるのだが、向こうはそんなことなどお構い無しだ。
一体誰が話題の中心になっているのか。向かいながら遠目に確認して――――心臓が少し五月蝿くなった。
二年で姿が少し変わったが、そこには美男美女のパーティーが居る。
ギルド仕様の黒ジャケットを羽織った咲と我妻が先頭で何か呼びかけているようで、その少し後方で二人の男女が困った表情で笑みを作っていた。
あそこのパーティーも二年の間に結成してから大分成果を出したらしい。
一番大きいのはダンジョンの沈静化か。他にも単独で日本ダンジョンや中国ダンジョンのボスを撃破したとか、数多くの未知の素材群を発見してもいる。
現在でも研究はされているようで、この部分は俺が教えなかったからだろう。いや、その方が自然なのだから話す必要はないのかもしれないが。
有名になった彼等は最近ではギルドの依頼でも引っ張りだこと携帯で調べてある。
本当は人だかりを相手になどしたくないのだろうが、こればっかりはもう致し方ない。有名人であるが故に芸能人めいた対応をせざるをえないのである。
なるべく関わらないようにしようと大回りに切り替えて足を動かす。
人だかりを利用して彼等の目に止まらないように早足で進み、外に出た。
あの場で声を掛けてはこないだろうが、彼女なら何かしかねない。有名人となった彼女は常に一挙一動が見られ、ミスの一発でも影響が周りに波及する。
今や彼女は若手の有望株の中でも筆頭だ。我妻も合わさり、さぞや素晴らしい憶測が冒険者達の間でも走っているのではないだろうか。
やはりルックス、金、実力を有する人間は強い。俺では絶対に出来ないムーブも今の彼女達なら出来るだろう。ある意味では羨ましい話である。
「――あの!」
そうしてにんまり顔で家を目指そうとした俺の背に、甲高い声が響いた。
この薄闇の時間に大きな声は目立つ。一体誰がと振り返って、こちらに身体を向けている咲と視線がぶつかった。