軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者108 見ている人が居るから

俺と望都は相対し、双方の距離は五歩と短い。

得物は揃ってナイフ。向き合って見た望都の瞳には静かな炎が灯り、やる気に満ち溢れているのは明らかだ。

榊原が無意識に数歩距離を取る。

俺もまた、彼の現在に口角が上がっていくのが止められない。

あのパーティーは珍しく全員が技能持ちの人間だ。多少の強弱はあっても、その全てが他所でも必要とされるものになっている。

しかし、俺が思うに本当に欲しい人材は望都だ。彼だけは、他とは毛色が違う。

希少な属性を持ち、パーティーの中で一番頭が回っている。暗殺者の職を取得した人間が裏稼業に行きやすいのに対し、ずっと普通の冒険者をやっていたのも珍しい。

故に彼には強くなってほしいと思う。これは純粋な願いであり、同時に打算も混じっている。

彼を含めたこのパーティーが活躍すれば、更にギルドに人が集まってくる。スターとして憧憬を集め、目標の人物として挙げられてくれれば彼等の地位は中々崩れないだろう。

「――始めてください」

「ッ!」

「……っシ!!」

沈黙の中、榊原の合図と同時に垂れ下がっていた俺と望都の腕が動いた。

ナイフが激突し、火花を散らして鍔迫り合いが始まる。

しかし次の瞬間、相手は次元歩法を用いて刃と俺をすり抜けた。肉体は接触せず、丁度通り過ぎた刹那に技能を解除して俺の背中を狙う。

直撃すれば内臓にまで刃は入り込み、激痛で息をするのも難しくなる。

本人に寸止めの技術があれば限界ギリギリで止まってくれるかもしれないが、今の彼は真剣だ。

真剣に己の技能を攻勢に使おうとしていて、そんな人間が手加減まで考えているとも思えない。何よりも、俺は彼を含めた全員を一度軽く潰してしまっている。

そんな相手に手加減をしようだなんて頭は最初から入ってはいないだろう。

であれば、背中に刃が刺さる直前に腕を回して俺のナイフを間に入れる。

再度の衝突で弾かれたのは望都の方。まさか身体を回すんじゃなくて腕の筋肉だけで背面の攻撃を弾かれるとは思っていなかっただろう。追撃を仕掛けないのがその証拠だ。

「レベル差を考慮してください」

「……、解りました!」

極端に広いレベル差というものは、今の世の中では中々体験出来ない。

如何に離れていると言っても精々が一桁台であり、二桁も離れている存在は基本的に隊長クラスの筈だ。

隊を率いる存在は、何よりも部隊の中で重要視される。メインの戦力にもなりやすく、必然的に経験値を一番多くもらいやすい。

それ故に能力の成長も早く、迂闊にレベルが下の存在と模擬戦をすることも出来ない。

うっかり使った能力が変な進化を遂げて模擬戦相手を殺してしまう例も今後生まれるかもしれないのだ。その最初の事例には誰だってなりたくないだろう。

であれば、望都を含めた冒険者達の基準が同レベル帯になりやすいのも当然の話。

消音、気配遮断、二連突き。

暗殺者らしく己の気配を薄くさせ、死角を狙って攻撃を放つ。その行動は手慣れていて、今までであればそれで解決した場面が多いのだろう。

だが、彼から発される薄い殺気。暗殺者であるならば隠さねばならないものを俺は読み、彼の刃が命中する前にその手首を掴んだ。

相手は驚き、次の動作を思考する。

処理が終わるまで一秒も掛からないだろうが、空白で肉体の動きが止まる瞬間は完全な無防備だ。

手首を引いてこちら側に持っていき、最速で膝を彼の腹に当てる。

身体には何も防御を施していないようで、そのまま俺の攻撃がクリーンヒットしてしまった。

強制的に腹の中に入っていたものを吐き出させ、吹き飛んでしまわないように手首は掴んだまま。

今一度引っ張り込み、今度は嘔吐と涙に濡れた顔面に掴んでいる腕とは反対の手に掴んでいるナイフを差し込まんと近付ける。

命中すれば即死の攻撃。

一切緩めずにナイフは彼の額に突き刺さろうとして、技能によってすり抜けてしまった。

掴んでいた手首も同時に解放され、彼は距離を取ってそのまま出現。服の袖で口元を拭いつつ、俺に向かって怒りの眼を向けていた。

「どうしましたか? ……まだまだ、俺は掠り傷一つも負っていませんが」

「このッ、!」

煽れば即座に彼は飛び込んでくる。

ナイフを必要以上に握り締め、愚直な突進は暗殺者として三流も三流。

武器の振るい方も大振りになり、その軌道は素人でも解るくらいには直線的だ。

どう見ても当たる訳がない。なら、真正面で受けるのは得策ではないな。

俺も彼に接近し、間近で横にステップを踏んで横薙ぎに脇腹に切り付ける。刃とは反対の向きなので実際に切られる訳ではないが、あそこを抉られる感覚は耐え難い。

が、やはりというべきか攻撃はすり抜けた。次元歩法の予兆は目視では解らず、当たった瞬間にしかそれをしているかどうかを知る術はない。

或いは同じ空間の属性を有する人間には解るのだろうか。そんなことを思いつつ、すり抜ける途中で向けてきた刃に意識を向ける。

次元歩法の応用として、時間差で物の出現を狙うことが出来る。

石に刃を通したまま解除すれば刃物はそのまま石の中に現れ、動物の体内に手を入れたまま解除すれば労せずに内部に触れることも可能だ。

次元と次元が違うからこそ起きる現象だが、これは即ち如何なる物であろうとも殺傷武器になる。

彼の前では練習道具は凶器と化し、あらゆる物質が武器となって彼を助けるのだ。

正に暗殺者向きの技能。もしも最初の案が失敗してもその場その場でやりくり出来る技能は、正直に言って羨ましい。

この刃をどうするかも彼は決めることが出来る。このまま通り抜けることも、通り抜ける途中で解除することも自由だ。

しかし俺達は殺し合いをしているのではない。

必然的に刃は俺の顔を通り抜け――――望都の反対の腕に投げ渡される。

そのまま腕を捻って反対からの攻撃。今度は実体の攻撃だと判断して掴みに動くが、握ろうと触れた刹那に何の感触もないことに気付いた。

「これもか!?」

「――どれが実体だと思いますか!」

言いながら蹴りが飛んでくる。

咄嗟に腕でガードしたものの、それは俺の頭部まで貫通した。

それが抜けるのを視界の端で見て、顔面に刃を打ち込む。それも通り抜けたが、今回はそれで良い。

二連撃目、三連撃目も横と縦に切る。次元が違う所為で致命打にはならないものの、相手はこれで視界がまったく使えなくなっている。

後は限界時間まで粘れば嫌でも距離を取らなければならなくなる。その瞬間こそが狙い目であり、勿論そうしようとしているのも望都は理解している筈。

だから限界を迎える前に俺の腕が頭部を通り過ぎたと同時に技能を解除。

そのままこちらのジャケットの襟と腰ポケット部分を掴み、力任せに投げる。

勢いはない。純粋なステータスで俺を飛ばそうとしたのだろうが、そんな咄嗟の脱出方法を使わせる気などさらさらない。

飛ばされる前に今度はこちらの能力を発動。

付与師として全ステータスを向上させ、身体が中空に飛ばされるタイミングで相手の片腕を両手で掴んで逆に回し投げた。

形としては歪な大車輪に近いかもしれない。縦に盛大に叩きつけられた望都は悲鳴を上げる暇も無く意識を喪失し、そのまま無防備に倒れたままになった。

「そこまで。……良い模擬戦になりましたね」

「ええ、十分過ぎるくらいには」

目を回している彼の姿に苦笑しつつ、ジャケットの襟を戻した。

今の模擬戦。命の取り合いになれば望都の方がチャンスが多かった。心臓に刃を通した状態で解除すれば即死を狙えた瞬間は確かに存在し、これで勝ったとしても何も誇れるものはない。

ただ、想像よりも望都の成長は早くなる気がした。やはり初恋の人が見ている環境が効いたのではないだろうか。

兎にも角にも、これで一先ず技能の説明は終わったと言える。

彼等は明確に自身の力の使い方を知り、これから幾日も苦悩することになるだろう。

俺もまた、自分の技能の使い方を知っていかねばならない。それをこの日々の中で掴もうと、胸の内で目標として設定した。