軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者106 魚よ、効率厨になれ

技能の効果が溜めの省略にあると片梨は理解したが、短縮のシステムにまで理解が及んでいない。

魔法に使われる魔力量は他の魔法使い達と変わらず、なのに結果だけ見れば発動までの時間をほぼ零にまで短くすることが出来る。

魔法の発動時間。所謂詠唱時間を短くするのは簡単ではない。

元からシステムによって時間が定められているのもあるが、一番は効果が高い魔法程消費される魔力が極度に多くなるからだ。

元々の俺達の人体には魔法を使う生体部品が無い。あくまで人間が人間として活動する上で必要な物のみを搭載し、オカルトめいた機能は全て省かれてしまっていた。

そんな状態で冒険者になり、魔力を獲得して大量に使えばどうなるか。DNAレベルで慣れが必要な中で魔力を大量に抜かれれば、即ち体調を崩すことになる。

冒険者になった直後は、人体はまだ新しく増えた機能に順応しようとしている。

魔力の消費と生成を人体の基本的機能の枠内に落とし込もうと奮闘し、レベルが上がる度に変化はゆっくりと進んでいく。

大体は二十近くになれば完全に順応したと言えるが、慣れ切る前に魔力切れを起こせば最悪一ヶ月は肉体は不調を起こして寝込む。

軽度でも熱を引き起こして数日は布団が友達になり、勿論日常生活を送る時間なんて一切無い。

そして、慣れたとしても魔力切れは様々な肉体の変調を齎すことになる。特に一瞬で大量に魔力を抜かれれば、肉体は無理に生成しようと身体にある栄養を根こそぎ搾り取ってしまう。

元々の魔力量が多い人間であれば水分や血液すらも燃料に変えてしまい、限界を超えて魔力に変換されてしまうと栄養失調や血液不足で死にかねない。

故に詠唱時間がある。長い時間を掛けて抜く量と生み出す量のバランスを取り、人体に何の問題もないようにしてくれているのだ。

効率はこのバランスを崩さず、その上で魔法使いにとって有利に働くように調整する力がある。

つまり長い時間を掛けて合わせるものを一瞬で全て整えて発動までをスキップさせてくれるのだ。

そしてこれはなにも、魔法だけに限る話ではない。戦士の大技、弓使いにあるような矢のリロード、果ては鍛冶師の武器製作時間や道具の調合までも効率は短縮してくれる。

いや、これは最早省略だ。始めと終わりの形を己の内で設定すれば、後は効率が勝手に全てを行う。

魔法の詠唱時間の短縮なんてまだ浅い話だ。この技能の凄いところは、急ぎたい時に急いだ上で品質を完璧に保証してくれることである。

「やろうとすれば食事の時間も省略することが出来ますよ。 ただし、お腹だけ膨れて味を楽しむことは出来ませんが」

「⋯⋯思ったよりも凄い技能っすね、これは」

思わず口調が乱れるくらい、片梨は驚いていた。

無理もない。これまで魔法の発動までのラグの解消にしか使っていなかった力が、実際はかなり多岐に渡るものだと解ったのだ。

魔法使いの職業を取得しているのも悪くない。炎であれ水であれ、形をある程度変化させることが可能な物体を攻撃手段にしていれば効率によって更に手札の幅は広がるだろう。

これらを踏まえ、俺と片梨による模擬戦を開始。

知ったばかりなので流石にいきなり手札の種類が増えることはないものの、水の球を大量に用意するよりも様々な形状に変化させることで攻撃を読ませない動きをするようになった。

水の魔法の場合、基本的には他と同様に名称通りの魔法が発動する。

水の球の魔法であれば水球が出て、水の剣の魔法であれば水を剣のように使うことが出来る。

だが、効率が間に挟まることでバグが起きて形状の変化を起こせてしまう。その範囲は既に出した水の総量によって変わるが、自身が球を釘に変えようと思えば勝手に水球が鋭く尖りだす。

球がより危険な凶器に変わり、殺傷性能も格段に向上した。更にこれまで使ってこなかった水の鞭が地面を叩き、弾けて分離した僅かな水が散弾となって俺の服に突き刺さる。

レベル差によって肌を食い破られることはなかったが、肌を叩く痛みは無視するのには多過ぎた。

「っは、やり辛いですね!」

「どの口が! まともに血も出していないクセに!!」

勇気のような感情による発動条件が絡まない以上、途中で切れることはない。

だが逆に選択肢が広がり、思考する時間が増える。今はまだ自身で開発をしている真っ最中で、だから口調も素のものが出ている。

未だ低いレベルなので広範囲を水で一気に侵食するような真似は出来ていないが、それでも水を撒けば撒く程に範囲攻撃になるのは厄介だ。

救いは命中しても打撲になるくらいか。もっとデカい物でぶつけられでもしない限り、俺自身の命を脅かす程ではない。

片梨は距離を保つ為に常時魔法を使っている。彼の魔力によって作られた水は発動から時間経過で消失し、接近を防ぐ為には常に一つの魔法を使っていた。

これは模擬戦だから良いが、こんなに使っては魔力切れは簡単に訪れる。

ただ警戒させるだけで勝てると相手に思わせてしまっては詰みになるし、飛び道具を持っていれば結局は打ち合いをするだけだ。

弾切れになるか魔力切れになるか。そんな賭けは出来れば片梨もしたくないだろう。

前衛の人間と一対一で魔法使いが戦う時、必要なのは何か。それを教える為にも俺は突撃を行う。

直後、無数の水球が棘の形となって襲来。

地面を蹴り、着弾箇所からルートを推測。更に棘のスピードをほぼ適当に予測して――――水を蹴って真っ直ぐに相手に接近した。

「なっ! そんなのアリか!?」

「出来たんですからアリですよ」

殺傷を目的とした水は、それ自体が役目を果たす為に凝縮される。

明確に棘として出力した以上、片梨がしたいのは刺すことだ。それを実行するには、液体のままではいられない。

必然的に固体に近い硬さを持ち、俺自身の足場を提供することになった。

無数の棘は怖いが、目的がはっきりとしていれば回避は難しくない。彼がすべきなのは、こうなった場合を見越して罠を別にセットしておくことだ。

ナイフの切っ先を片梨の首元近くに向ける。後半歩前に出れば刺せてしまう距離に居ので、この模擬戦の勝敗も俺で決定された。

そこまで、と榊原が声を発する。

ナイフを仕舞い、片梨は息を少し荒くしながら首を手で擦っていた。

「技能の効果は如何でしたか?」

静かに榊原が微笑を携え、彼に尋ねる。

言われた張本人は首に手を当てつつ、虚空へと視線を向けた。

黒いジャケットに黒いズボン。サイドに入った一本の青いメッシュに金の髪と合わさり、その姿は様になっているように見えた。

よくよく見てみると解るが、望都を除いた面々はルックスも優れている。

宗像は言わずもがなであり、片梨はロックバンドのボーカルをしているような風貌だ。田代は体育会系の暑苦しいマッチョイケメンで、髪に特に拘っている印象もないので本当に鍛えることだけ続けてきたのだろう。

「幾つか思い浮かぶものはありましたが、やってみないことにはボヤけたままですね。 ですが、これはかなり使えると思いましたね」

考える量が減ったことで、片梨の口調も元に戻った。それどころか先程よりも自然に丁寧語を口にしていて、内心少しおやっと首を傾げる。

何か思うところがあったのだろうか。良いものを教えてくれたから、それくらいはしなきゃ流石に失礼ぐらいには考えていたのかもしれない。

兎にも角にも、彼はこれで道が開けた気がしただろう。後は開発と実験を繰り返せば、自然と未来の姿に近付いてくる筈だ。

「これで二人目ですね。 では次は⋯⋯」

「俺でお願いします」

三人目。その名前を言う前に、当人が我慢出来ずに声を発した。

筋肉質な顔を真剣一色に染めた彼は、迷いのない足取りで榊原の前に立つ。

榊原も彼を見て一つ頷いた。自身の力を知ろうと率先して動くのは、彼女にとっては好印象なのかもしれない。

「では田代さん、次は貴方です。 貴方の技能は――――」

『倍加』になります。