軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者104 獅子に必要なもの

用意された土地は、ダンジョンの奥深く。

榊原の話によれば現時点で冒険者以外の人間が入る行為を厳しく制限しており、どんな大企業であろうとも作業時間は準備と撤収込みで四時間と定められている。

そうなっている理由はやはり警戒範囲が広いこと。単体でカバーするには森や洞窟では限界があるようで、パーティー単位にまで増やしても抜け穴は非常に多い。

死者を出してはならない制約がある以上、安全に不安が残る環境で長居させたくないのがギルドの本音だ。

反面、企業側は犠牲者を出してでもダンジョン産の素材が欲しい。

特に五層は鉱物資源に恵まれている洞窟だ。何れ転落するとしても、数年間は日本の冒険者を支える大事な資源地。

此処を独占出来れば暫くは業績は安泰になるだろう。だからか、裏では老人を相手に熾烈な交渉合戦が繰り広げられているそうだ。

そんなことなど露知らず、四人は五層手前の四層の森の中で足を止めた。

周囲にはモンスターの気配が犇めき、木々ですらも俺達を殺す隙を伺っている。もしも安易に野営などすれば大量のモンスターの襲撃を受けるだろう。

だが、俺達の中にはそこまでの危機感は無かった。

やはりこの地がチュートリアルとしての側面を有している以上、敵の構成や戦術は解っている。

実戦を初めてするのであれば先ずは此処と決められていて、更には定期的に間引きも行われているので冒険者にとっては身近な場所だ。

安心して歩けるとまでは言えないまでも、油断したってそこまで怖くない。

故に、彼等四人が警戒するのは榊原だ。彼女の語る全てが、四人の今後の先行きを決定する。もっと言えば、預言者が彼等の道を決定するのだ。

「預言者様からは複数のメールを受け取っています。 一つ一つに貴方達の技能に関する情報が含まれ、発動やより効率的な運用法が記載されています」

「それは既に存じています。 早速始めてください」

榊原は静かに説明を始めるが、田代がそれを遮って急かし始める。

失礼な振る舞いはするべきではないのに、早速とばかりに自分の感情を優先した。こういった言動は不快感を与えやすいのだが、もう慣れたのか榊原は溜息を吐くに留める。

「⋯⋯では先ず、最初の一通目から教えましょう」

榊原が再度、携帯を取り出して開く。

ダンジョン内部で通信は出来ないが、それ以外の機能は使える。既に受信したメールを見るくらいは可能だ。

一通目の内容を榊原は語り出す。

出だしは彼等への叱責。お前達は未来でも自身を優先して、折角優良なモノを手にしていたのに自分から捨ててしまっていた。

四人の末路は全て悲惨だ。一人はダンジョンで仲間に見捨てられて死に、一人は詐欺に引っかかってあらゆる金と縁を失い、一人は犯罪行為を働いて一生を牢の中で過ごす。

最後の一人だけはダンジョンボスと相打ちとなって死に、お前達は冒険者の歴史の中で何の痕跡も残さずに消えていく。

淡々と語る榊原の言葉に、四人は青褪めていた。中でも気がそんなに強くないだろう望都は今にも泣いてしまいそうで、それでも俺は彼を慰めるような真似はしない。

書いたのは俺だ。榊原には事前に嘘であると伝えた上で、彼等を追い詰める予言を行った。

これを聞いて直ぐに真面目になるならそれで良し。簡単に改善は進んでいくだろう。しかし、これを素直に受け入れられないなら。

「――榊原隊長。 我々は己の技能を知る為に今日この場に居ます。 そのような妄言を聞く為に来た訳では⋯⋯」

「妄言?」

田代の意見に、刹那榊原は雰囲気を変えた。

発されることのない剣の気配。四人それぞれに鋭い刃のような気配が突きつけられ、田代は目を見開いて何も言えずに固まってしまう。

いや、固まっているのは他の三人も一緒だ。別に榊原は剣を抜いた訳でも、大声で注意をした訳でもない。

ただ戦闘時の気配を出しただけだ。それがあまりに唐突で、危険な色を持っていたから咀嚼するのに時間が掛かった。

けれど、その固まった瞬間に榊原は全員を殺せるだろう。彼等はそれだけの地雷を踏んでしまったのだ。

「我々が今こうして冒険者として安定して活動出来ているのは、事前にあの方がダンジョンを沈静化させたからです。 そうでなければ日本は滅茶苦茶にされ、まともに寝るのも難しかったのですよ」

「それはそうですが⋯⋯」

「今、貴方達は恵まれた位置に居るのです。 ある程度の事前知識が与えられ、強くなる補助を受けられ、特に強い不安を覚えずともレベルを重ねられる。 更に武器や防具、道具とてギルドから与えられているのですよ。 これも全て預言者様が動いた結果であり、本来であれば貴方達程度では会話一つまともにする許可は降りません」

田代の反論の一切を許さない榊原の言葉は、重さと怒りに満ちている。

榊原は一番最初の人間だ。自分の境遇と現在の冒険者達の境遇を重ね、如何に彼等に選択肢が用意されているかがよく解っている。

その選択肢の自由を与えたのかが誰なのかも、彼女は解っていた。

全ての話の根幹には預言者が居て、故に今日を無事に過ごせているのが奇跡的であると確信している。その根換が抜けては何も始まらず、間違いなく日本は崩壊への道を辿ることになるだろうと。

預言者に敬意を持て。彼の言葉の一つ一つを重く受け止めろ。妄言や嘘だと叫ぶ前に、そうならない道を模索することを第一としろ。

折角破滅を回避出来るのだ。修正箇所があるなら、それを自覚してさっさと直せ。出来ないようならそもそも冒険者をお辞めなさい。

「これからの話の全てを真剣に受け止めなさい。 そして、何を言われようとも従いなさい。 ――出来ない人間に価値などありません」

きっぱりとした物言いは榊原らしくない。

別に演技をしろと言ってはいないのだが、どうやら彼女の方が先にスイッチが入ってしまった。

この分では更に彼等を責めかねない。そうなる前に軌道修正をしなくては。

咳払いを一つ。わざとな雰囲気をなるべく抑え、如何にも自然なように追加で咳を三回は繰り返す。

終わった後に失礼しましたと口にして、目は彼女に言葉を送っていた。

――そろそろ始めましょう。

――解りました。 ⋯⋯すみません。

「さて、その上で二通目を今から伝えます。 ここからは具体的な問題点についてを教えていき、更に解決に通じる指導も行っていきます。 万が一にも二度目があれば、その時点でこの指導は中止とします。 以降に再開される可能性はほぼ無いでしょう」

「――失礼しました!」

榊原の最終通告に、田代が何かを言う前に宗像が返事をした。

次いで田代の頭を掴んで無理矢理に下げさせ、強引にでも話を進める道を選ぶ。少なくとも宗像はこのままではマズいと思ってくれたのだろう。理性が状況を正すべきだと叫び、行動に移してくれた。

やはり、宗像にはまだ可能性がある。望都も静かに頭を下げ、田代は暫く除けようとしたが上手くいかずに結局諦めた。

片梨も文句を言いたい側だったが、田代と同じ目に合いたくないのか自分から頭を下げる。

その様子に、榊原は己の剣呑な気配を鞘に収めた。

「宗像さんに感謝してください。 もしもまだあの方を中傷するつもりでしたら、手足の一本か二本は覚悟してもらうつもりでした。 ⋯⋯では、まずは直ぐに動いていただいた宗像さんの問題を教えましょう」

手足をたたっ斬る気なのか折る気だったのかは定かではないが、今の発言も十分に恐ろしい。

実際に出来てしまうからこそ、彼等も背筋を震わせた。

これ以上の無礼は本当に駄目だ。俺が粗相をしても爆発する可能性がある。こんなことで彼等の冒険者人生を終わらせる訳にはいかない。

こっちからも殺意を流して冷や汗の量を増やした。逆らう意思を奪い、榊原は早速宗像の問題を口にした。

「貴方の技能は実に高性能です。 魔力消費を殆どせずに長期戦闘を可能とし、時間経過で基礎能力の殆どが上昇していく。 この技能に必要なのは預言者様曰く、ただ一つ」

勇気を持て。