軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者101 日ノ本

『疑問に思ったことはあるかい。 どうして全部の力が能力に分類されないのかを』

「⋯⋯確かに」

ナラの質問に、俺は口に手を当てて考え込む。

能力と技能はそれぞれ取得方法に違いがある。一般的には能力は職業の影響を受け、技能は個人の人生が理由になっていることが多い。

だが、職業に当て嵌めようとすれば出来ない訳でもない。

それこそ俺の自身の未来を見る力は預言者という職業に分類することが出来る筈だ。榊原の走者はスピードに関係する職業の中に入っても不思議ではない。

他にも幾つかの技能が脳裏を過るが、やろうと思えば解釈次第で職業の枠に入れ込むことは不可能ではないだろう。

つまりは、本来技能なんて概念は存在しなくても別に構わなかったのだ。

なのに、現在のシステムの中には能力と技能の二つがある。両者は別れ、それぞれ個別に取得者に力を与えている。

システムの構築にはマリーザが関与しているだろう。

この冒険者の仕組みそのものは異世界で生まれ、俺達に解り易い形で翻訳されている。

だが彼女が能力と技能を別ける真似が出来たとは思わない。それよりも、元々異世界でも区別されていたと考えるのが自然だ。

技能の原型は、神の権能そのもの。それがどんな形になるかは定かではなくとも、能力とは異なりより直接的に祝福を与えられている所為で強力になっているのではないだろうか。

「⋯⋯一先ず、技能が神の権能の一部なのは解った。 じゃあどうして、全部の技能の頭に神が付かないんだ?」

『そこは僕等の世界の認識が関わっているね。 まぁ、有り体に言えばランク付けさ』

「権能にも強弱があると?」

『それは勿論。 どんなものでも力である限りは差がある。 そこまで珍しくなかったり、あるいは力として決して上位に立てないようなものには大層な名前は付かないんだよ』

祝福にも格差がある。

そこはなんというか、神にしては贔屓差があり過ぎるということだろうか。

面白い奴、好みな奴には多めに力を与えて、ちょっと気になる程度の存在には少しだけ力を与えるような。

一気に人間臭く思えてしまう神だが、しかしその存在が居ると断定すればこの無数の技能の中でも超常的な力の理由に納得は出来る。

同時に、神と頭に付いた能力は異世界の人間であっても規格外の判定をしているのも解った。

俺が現在身に付けている神の眼は、即ち特別の中の特別。数ある権能で特段の性能を誇る、およそ反則も同然の範疇なのだろう。

「――そんな力を俺が取得出来るとは思えない。 これは元々、どっちかの力なんじゃないのか?」

『冴えてるね、その通りだよ。 これは元々僕に与えられた祝福だ。 君が未来を見れたのも僕の祝福の一部を使用していたから出来たことだね』

だからこれまで、神の眼の負担をナラが代わりにやっていた。

元々の俺にそんな大層な技能を搭載させる器は無く、彼女があれこれと制限して抱え込んだから日常生活に支障を覚えなかったのだ。

もしも彼女が最初から管理を放棄していたら、もっと幼い時分に俺は爆散していただろう。

如何に冒険者に覚醒していなかったとはいえ、力そのものは最初から入っていたのだ。その全部を抱え込むのは、彼女にとって決して簡単なことではない。

特に長期となれば、途中で爆発しても不思議ではなかった。そうはならなかったのは、恐らくはソアの存在があったからだろう。

今、俺の魂は二人の魂の片割れ同士が融合した形になっている。

技能が魂に定着しているのであれば、同一となった時にソアも権能の操作権は得ていたと見るべきだ。

抱え込んだのはナラだけじゃない。ソアも抱え込んで、俺は不自由を覚えずに暮らせていたのである。

「これまでの全部は、お前達のお陰ってことか」

『それはどうだろうね。 どう使うかは本人の自由さ。 君はあの未来を見て、ただ何も言わずに口を噤み続けることも出来た。 家族を逃がすだけ逃がして、多くの人間が死ぬことを仕方ないと諦めることも出来たんだ』

「実際、最初はそのつもりだった。 俺にとって大事なのは家族だけだったから、彼等が無事なら周りがどれだけ被害を齎しても無視しようとしていた」

『君の戦う理由の中心にあるのは家族だ。 家族が居るからこそ、君は戦うことが出来ている。 そしてそれは、僕自身の理由でもある』

「お前の場合は、ソアか」

『⋯⋯まぁ、ね』

どこか照れたような返しに苦笑する。

こいつもまた、大切な家族の為に戦う人間だった。

その相手が肉親ではなくて恋人ってのは少々胸の焼ける話だが、逆に彼等の存在があるからこそ俺も恋愛を経験出来たのかもしれない。

話が少しズレたものの、彼等の内面を知っていくと悪人とは思えなくなっていた。

その全部が嘘だとも考え辛く、仮に全てが演技であればもう誰も俺は信じられなくなる。

この信じるか否かを決めるのが俺には大変だった。なにせどこまで己の胸の内を曝け出して良いのか解らないからだ。

親しき友人にも話せない内容はある。それは家族であっても同じ。

裏切りが精神に多大なダメージを刻むと理解しているから、誰かを信じて任せる行為に抵抗感があった。

それは今でも変わらずあるし、今後は選別にもっと苦労していくだろう。

さて、神の眼の地位が最上位にあるのは解った。

有する力も間違いなく未来を見るだけではない。少なくとも俺は、その力を別の方法で利用していた。

あの理想の自分になる感覚。脳裏で描いた未来の己を形作り、現実に反映させる激痛はそう簡単に忘れ去ってくれるものではない。

病院の退院が早く進んだのもこれがあったからだ。付与の力は少しも使っておらず、全ては神の眼の能力によって解決した。

神の眼とはどれほどのことが出来るのだろうか。

未来が見れる。理想の自分を形に出来る。どちらも未来に関する力だが、眼とは一体どういう意味で名付けられているのだろう。

「お前はどれだけ神の眼を把握しているんだ?」

『自分が使える分は把握しているよ。 歴代の人の分までは流石に全部は解らないけど、かなり個人差になっているみたいだね』

そこから、ナラは知り得ている限りの歴代の人間の話を始めた。

経歴は省いているものの、神の眼はその人その人によって使い方が大きく変わっている。

例えば未来を見て預言する者。例えば姿形を変える者。例えば天変地異を止める者。例えば数多の世界を観測する者。

どれも人間が行うには度が過ぎているが、彼女が調べた限りではどれも実際に存在する人物であると判明している。

であれば、神の眼は解釈によって柔軟に形が変わる性質を有していると思うべきだ。実際に俺の技能も曖昧な箇所があった。

「滅茶苦茶だな。 眼って付いてるのに無関係な部分が多い」

『あはは、僕もそう思うよ。 ⋯⋯でもね、歴代の人達は時代や境遇は違っても同じ言葉を最後に残したんだ』

「言葉?」

それは一体何だろうか。

彼女は全員を調べきった訳ではないが、その調べた限りにおいて最後は同じ言葉を近くの誰かに話したらしい。

殆ど遺言も同然の台詞は、何故そんなことを言ったのかを尋ねる余裕を与えなかった。

言うべきを言った人間は皆揃って死ぬか姿を消し、以降の記録には何も残されない。

まるで最初からそんな人物は居なかったかのように時間は進み、同じことを繰り返される。

『僕はまだ、その台詞を言っていない。 あの場で確かに死んだのに、自分の最後の言葉は恨み言だった。 多分だけど、僕が別れるのはまだ先の話だったからじゃないかなって思ってる』

確かに彼女は別れではなく、俺と出会いを経験した。

如何に同一の魂であるとはいえ、俺とソアは認識の上ではまったくの他人だ。

彼女の未来がまだ出会いの余地を残していたから、その台詞が出ては来なかったのだろう。

俺は沈黙を貫いた。彼女もまた静かになり、その場には小さな緊張感が漂う。

――――明日は太陽にある。

そして、彼女は王族としての己を表に出しながら重々しく告げた。