軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十六話 デコボコパーティー

「〈曲芸連撃〉!」

ルーチェが回転しながらナイフの連撃を放つ。

「グゲェッ!」

マミーラーナはひっくり返って床の上にだらりと倒れ、そのまま動かなくなった。

捲れた包帯の奥から、干乾びた身体が覗く。

【経験値を639取得しました。】

ついに四体のマミーラーナの内の一体を倒した。

これで頭数の差は埋まった。

他の三体もHPは削れてきている。

ここから一気に畳み掛けられるはずだ。

「チッ……スキルで仕留めきって持ってかれたか。ここで三体はやりたかったんだが」

ケルトがぼそりと零す。

やはりトドメの経験値とドロップアイテムを狙っていたらしい。

ケルトは弓を構えながら大きく前に出る。

敵が減ったので、この数相手の警戒ならばもう少し距離を詰めても大丈夫なはずだ、という判断だろう。

ルーチェに一体目を狩られた後れを意地でも取り戻したいらしい。

だが、さすがに前に出過ぎていた。

とても遠距離クラスの間合いではない。

ケルトが矢を放ったと同時に、目標とは別のマミーラーナが紫の水をピュッと吐き出した。

スキルの〈毒液鉄砲〉である。

「しまっ……!」

ケルトが身体を反らす。

だが、紫の直線が彼の肩へ被弾した。

衣服を貫き、肉を抉る。

マミーラーナの〈毒液鉄砲〉は魔法系のスキルと違って予備動作が少ない。

おまけにマミーラーナは包帯で目や口許がほとんど隠れているので、目線や口の動きからスキルの発動を察知するのが難しく、初動が見切りにくいという強みもある。

威力も低くない上に、毒状態の異常付与まで有する。

かなり厄介なスキルであった。

たかがレベル下の遠距離スキル一発とはいえ、狩人のクラスはHPが少ない。

〈毒液鉄砲〉の毒状態の異常付与も、狩人クラスにはなかなか厳しいものがある。

毒はHPの持続消耗が最大の強みなのだが、加えて素早さの減少までついている。

狩人の強みである素早さが潰される形になった。

ケルトが先程までのように前のめりで戦うのはかなり厳しくなった。

「クソガエルめ! ポーションは回復に時間が掛かり過ぎる! おい、魔法で治癒しろ! 〈ポイゾヒール〉を持ってるだろ!」

ケルトがメアベルへと命じる。

「そ、それはちょっと……できないんよ」

メアベルが困ったように返す。

「なんだと?」

「〈ポイゾヒール〉の発動に時間が掛かってる間にHPの少ない道化師のルーチェちゃんが立て続けにダメージを負うようなことがあったら、カバーが間に合わずに前衛が崩れかねないんよ」

「この程度のレベルの魔物相手に、一瞬でそう簡単に崩れる前衛じゃねえよ! 仮定の上の仮定で話すな!」

「それに毒攻撃持ち相手に、そう簡単に〈ポイゾヒール〉の連打はできないんよ。戦闘が終わる前にまた受けたら、MPをまた消耗することになる。もう一つ言うと、後衛より、前衛の方が毒の被害は大きい。ウチとしては、この状況だと後衛の受けた毒状態は後で治癒した方が効率が……」

ケルトは殺気立った目でメアベルを睨んでいたが、ふっと表情を和らげた。

「わかった、わかった、僧侶の嬢ちゃんよ。……回復役は、取り分少なくて困ってんだろ? 後で貢献分はいいようにしてやる。な? 何も贔屓しろってわけじゃない。センパイの言葉をしっかり聞いてくれる柔軟な冒険者との方がやりやすいって話だ」

俺はマミーラーナと戦いながら、二人の様子を尻目に確認していた。

ケルトのやり口は巧妙だ。

最初は怒鳴って、効果がなければすぐに懐柔へと移行した。

やはりあの男、相当手慣れている。

人間心理として、恐れていた相手から優しくされれば、そのときの緊張感の解れから必要以上に相手を信頼してしまう傾向にある。

戦闘中にこんな足の引っ張り合いをされていては、いずれ大事故に繋がりかねない。

ケルトを野放しにしておくのは危険かもしれない。

「ケルトさん、ウチ、さすがにそれはできないんよ。確かにケルトさんは〈 夢の穴(ダンジョン) 〉探索に慣れているとは思うけど、回復役としての判断にはウチだって誇りと責任を持ってる。非効率だと笑われても、少しでも仲間の安全を優先する。それがウチの矜持なんよ」

メアベルがばっさりとそう返した。

ケルトは苦々しげに口許を歪め、舌を鳴らした。

ただの逞しい腹黒ヒーラーだと思っていたが、俺はメアベルのことを少し誤解していたかもしれない。

その後の戦闘中、ちらりとメアベルの方を確認したとき、彼女は冷たい笑みを浮かべながらケルトの背を見ていた。

俺はメアベルの、〈 夢の穴(ダンジョン) 〉突入前の言葉を思い返していた。

『ああいう人は、ポーズだけ頭下げて、理由付けて回復を後回しにし続けといたら、段々大人しくなるんよ』

……今のがメアベルの本性なのかと錯覚しそうになったが、正に今、あのときの言葉を実行しているだけなのではなかろうか。

状況に応じた最適解の評価は、クラスの専門家でもないと判断がつかない。

「メアベルさん、ちょっと怖い人なのかなと思ってましたけど、優しくて熱い人なんですね……!」

ルーチェが彼女の言葉に感銘を受けていた。

俺は何も答えなかった。

……ケルトより、メアベルの方が一枚上手で厄介かもしれない。