軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十五話 〈嘆きの墓所〉

【〈嘆きの墓所〉:《推奨Lv:70》】

中へ入った途端、頭にメッセージが響く。

陰鬱な石造りの通路に、天使や骸骨を模したような彫像や、十字架が並んでいる。

ただ神の悪夢によって造られた場所だとわかってはいるが、不気味で仕方がない。

ゲーム時代には飽きる程見た覚えがあるが、やはり実際にあるのでは存在感が全く違う。

ルーチェもそれは同感らしく、俺の背後にぴったりとくっ付くように歩いている。

「こ、こんなところで、不審なものを探せって言われても困りますよぉ……。怪しいっていいますか、石碑一つとっても意味深ですし……」

普通の冒険者は〈 夢の穴(ダンジョン) 〉に対しても、冒険者として必要な分の知識や認識しか持っていないはずだ。

各〈 夢の穴(ダンジョン) 〉についての情報共有もゲーム時代ほど詳細には行われていない。

何か不審なところを、なんて漠然といわれても難しいだろう。

ただ、この〈 夢の穴(ダンジョン) 〉でゲーム時代にはなかった何かが起きているのならば、俺であればその差異に気が付けるかもしれない。

「ウチらは冒険者であって、学者さんじゃないんだし。一番の目的は魔物の間引きと〈 夢の穴(ダンジョン) 〉の処理だから、あんまりそこは考え過ぎても仕方ないんよ。ギルドから期待されてるのも、言われたことやって、見たことちゃんと伝える程度のことだと思うんね」

メアベルの言う通り、実際にギルドが期待しているのはその程度のことだろう。

「おい重騎士、もっと先頭を歩け。不意打ちで回復役が真っ先に攻撃されたらどうするつもりだ? はぁ……自分の役割くらい、熟してもらわないとな。あまり俺の足を引っ張るんじゃねえぞ?」

ケルトが俺の行動に揚げ足を取ってきた。

……足の遅い重騎士が前に出過ぎてどうするというんだ。

何かあったときに囲まれるリスクや、逃げ遅れるリスクも高い。

走って他の三人と合流するのも時間が掛かるのでパーティーの強みを活かせなくなる可能性も高い。

第一、ケルトが不意打ちから守って欲しいのは回復役のメアベルではなく、防御力の低い遠距離役の狩人の自分だろう。

ただ、ケルトの言葉は粗があるとはいえ、方針や優先順位の違いで済む範囲なので反論するのも難しい。

身勝手で視野が狭いだけならやりようがあるが、彼の場合意図的にやっているのがいやらしい。

強弁で少しずつ自分に都合のいい状況へと持っていきつつ、他者に命令できる空気を作っていく。

と……そのとき、ひたひた、ひたひたと、前方から無数の足音が聞こえてきた。

「魔物だ!」

俺は声を上げつつ、前へと出た。

各々が武器を構える。

ルーチェが俺の横に並んだ。

「ゲェ……ゲェ……」

「ゲェ……」

全長一メートル程度の、包帯の塊のような魔物が四体現れた。

包帯の合間からは、腐った汁のようなものが溢れている。

四足歩行で、ふらり、ふらりと移動している。

「なんだ、ラーナですね」

ルーチェがほっとしたようにそう零す。

〈マジックワールド〉でお馴染みのマスコットモンスター、化けガエルことラーナのアンデッド版である。

「……ラーナを見ると安堵する気持ちもわかるが、奴らのステータスはそう可愛くないぞ」

ラーナは〈マジックワールド〉においてもっとも有名な雑魚モンスターである。

成金ラーナを筆頭に、ボーナス系やネタ枠系などの派生した種族が複数存在する。

しかし、弱い魔物ばかりかといえば、そんなことは全くない。

――――――――――――――――――――

魔物:マミーラーナ

Lv :55

HP :147/147

MP :99/99

――――――――――――――――――――

マミーラーナはHPが高いので倒すのには少し苦労させられる。

素早さもアンデッドの中ではかなり高めの設定になっている。

長期戦で体力を消耗させられる上に、集中力が切れた頃に遠距離攻撃を挟んでくる。

おまけに痛覚が鈍くダメージを受けてもほぼ仰け反らないため、少し攻撃方法を誤ると反撃を叩き込まれる。

ただその分、攻撃力自体は低く、攻撃方法自体もトリッキーなものではない。

とにかく丁寧に戦って被ダメージを抑えるしかない。

「〈影踏み〉!」

後衛の二人に意識を向けていたマミーラーナの影を踏み、動きを止めて強制的にターゲットを自分に向ける。

「〈シールドバッシュ〉!」

続けて別のマミーラーナを後方へ弾き飛ばす。

これで同時に相手取るマミーラーナの数を減らせる。

〈影踏み〉のせいで動きにくいため、背中を取られたくない。

「ルーチェ!」

「わかってますよぉ!」

ルーチェは道化師の素早さを活かし、俺の背後を取ろうとしていたマミーラーナを先回りして牽制する。

「ほお、あのガキ、俺に楯突いただけあって、最低限の役割は熟せるようだな」

ケルトが満足げに漏らす。

「このレベルの四体相手は前衛が苦しいんよ。ウチも魔法攻撃で加勢して、数を減らした方が……」

「必要ねぇ、MPの無駄だ。白魔法に徹しろ」

ケルトはそう口にすると、一歩前に出た。

「あんまり前に出ない方がいいんよ。その距離は、狩人の間合いじゃ……」

「誰に指図してやがる。前衛がこれだけ機能してるなら問題ない。距離を詰めて、弓の回転率と精度を上げた方がいい」

ケルトの放った矢が、一体のマミーラーナの額を綺麗に捉える。

だが、急所攻撃への効果が薄いのもアンデッドの特徴の一つである。

マミーラーナはお構いなしでケルトへ突撃していく。

「おい、その距離は俺達もカバーしきれないぞケルト!」

俺は声を荒らげて叫んだ。

ケルトは素早く片手でナイフを抜くと、マミーラーナの腹部に突き刺し、そのまま柄に蹴りを入れて深く押し込むと共に距離を取った。

間合いが開いたところで、間髪入れずに相手の胸部へと次の矢を射る。

「グゲッ!」

さすがのマミーラーナも、この攻撃には悲鳴を漏らす。

「ぼさっとしてねぇで、早くカバーしろ道化師」

メアベルに白魔法を使わせなかったのも、距離を詰めて矢の回転率を上げに来たのも、パーティーのためではなく自分がダメージを稼いでアイテムドロップと経験値を稼ぐためだろう。

ただ、この世界でB級冒険者になっただけはある。

傲慢で狡猾な男だが、確かに実力は高い。