軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十七話 僧侶メアベルの手腕

その後、俺とルーチェが主軸となって残り三体のマミーラーナもすぐに片付けることができた。

毒状態で前に出られなくなったケルトが大人しく後衛に徹してくれていたため動きやすかった。

【経験値を651取得しました。】

地面に転がった四体目のマミーラーナの身体が溶け、気化するように消えていく。

結局四体共、全て俺とルーチェでトドメを刺すことができた。

メアベルは不服そうな様子のケルトの背後から、俺達へ向けて笑顔でひらひらと手を振っていた。

ケルトが振り返ると、メアベルは手の動きと表情をさっと変えた。

「お疲れさんなんよ。お二人さん、回復は大丈夫?」

「あ、ああ、そこまでダメージはないから、ポーションでどうにかなる」

基本的に〈マジックワールド〉の回復アイテムは効果が出るのに時間が掛かる。

自然回復の速度を上昇させる程度の効果しかないため、戦闘中ではほとんど気休めにしかならない。

〈 夢の穴(ダンジョン) 〉でも次の敵がいつ出てくるかはわからないため、なるべく魔法での回復が好まれる。

「エルマさん、魔石を回収しましょう! あっ、変なアイテムが落ちてますよ!」

俺はマミーラーナの亡骸を眺める。

四つの亡骸の内、三つから黒いキノコのアイテムがドロップしていた。

武器に比べてこの手のアイテムはドロップ率が高いのだが、それでも雑魚モンスターからこの確率のドロップは異常である。

「……さっきといい、なんだこのドロップ率? なんか憑いてるのか?」

ケルトが妬ましげにマミーラーナの亡骸を睨んでいた。

ドロップアイテムはトドメを刺した冒険者のものだが、魔石は後でパーティーごとにギルドで換金した総額をレベルに応じた比率で分けることになっている。

そういった意味でドロップアイテムの恩恵は通常の〈 夢の穴(ダンジョン) 〉探索より大きいといえる。

俺は魔石の回収と同時に、黒いキノコを手に取る。

傘の部分に顔のようなものがついていた。

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〈ゾンビ茸〉

【市場価値:四十万ゴルド】

香しいキノコ。見た目の通りの猛毒。

胞子を吸い込んだ人間はゾンビになるともいわれていたが、さすがにそこまで凶悪な毒性は持たない。

せいぜいゾンビになるのは虫や小動物程度である。

――――――――――――――――――――

俺は情報を確認してから、〈魔法袋〉へと放り投げた。

「……あのぅ、本当にこれ、回収して大丈夫なんですか?」

「問題ない。小動物だって、弱っている状態で相当近くで吸い込まなければ大丈夫だ」

「誰が買うんだろう……こんなもの」

「錬金術で何かと使い道があるらしい」

いわゆる素材アイテムという奴だ。

俺とルーチェがアイテムについて話していると、またケルトが諦め悪くメアベルへと近づいていた。

「もういいだろう、ポーズは。いや、二流僧侶だと侮っていた。俺の負けだ、折れることにしよう」

「……何の話なんよ、ケルトさん?」

「俺だって冒険者歴は長いんだ。大した演技だったが、理由でっち上げて後回しにしてやろうって魂胆はさすがにわかる。あっちの二人は身内だし、こんな調子で除け者にされてたんなら堪ったもんじゃない。矛を収めて、仲良くしようぜって話だ。お前だって、わざわざ顔の広い俺相手に喧嘩を売りたくはないだろうがよ?」

ケルトが自身の〈魔法袋〉へ手を触れる。

また買収しようとしているらしい。

「本当に怒るんよ、ケルトさん! ウチは、人の命預かってる立場なんよ! 今回の 大規模依頼(レイドクエスト) でも回復クラスは、ギルドから別に特別報酬ももらってる! ウチはそれで満足してるし、わざわざ他の人出し抜いてどうこうしようなんて考えてない! 命懸けでやってるんだから、人より少しでも得をしたいって気持ちはわかる! 別にケルトさんの方針は否定しない! でも、ウチを巻き込まないでほしいんよ!」

これまで大人しかったメアベルが怒声を上げた。

顔を怒りで赤らめ、息も荒くなっている。

目にはやや涙が滲んでいた。

ケルトは突然メアベルが大声を出すとは思っていなかったらしく、顔に動揺が出ていた。

取り繕おうとはしているが、気まずげな情けない表情を浮かべている。

「なっ、なんだよ、チッ。つまらないことで熱くなりやがって。物分かりの悪い奴だ、お互い損するだけだってのによ。よくそんな甘い考えのままC級までこれたもんだ」

ケルトは捨て台詞を吐き、逃げるようにメアベルから離れた。

「おい、回収は終わったんだろ! とっとと先行くぞ!」

ケルトは地図を取り出し、通路の分岐路まで進んで見比べている。

俺とルーチェの許へと笑顔のメアベルが歩み寄ってきた。

「確定させてしまったら、恨み買うリスクも、余計な噂流されるリスクも跳ね上がる。一回でも敵意を向けたら、どれだけ疑われても絶対腹の内見せないのがヒーラーの鉄則なんよ」

「な、なるほど……」

「ウチも余計なことしたくはないけど、先に仕掛けてきたケルトさんが悪いんよ。交渉次第の場面が多い回復役は、舐められたらババ引き続けることになる」

メアベルはケルトへ目をやってから、唇の先に人差し指を当て、「しーっ」と息を漏らした。

「も、勿論、余計なことは言わない」

メアベルは俺の言葉に満足げに笑みを浮かべる。

……絶対余計なことは口にすまい。

下手に彼女の恨みを買えば、どんな形で返って来るのかわかったものではない。

「あ、あのぅ、メアベルさん、アタシのドロップアイテム、いくつかお譲りしましょうか?」

「さっきも言ったけど、回復役は特別報酬をちゃんともらってるんよ。別に気遣ってもらわなくても、ウチは普通にできたらそれでいい。気持ちだけ受け取っておくんよ」

メアベルはルーチェへと笑みを向ける。

「そ、そうですかぁ、えへ、えへへへ……」

ルーチェも釣られてぎこちない笑みを返していた。

……メアベルはなかなか機転が利くとは思っていたが、想像以上に逞しい。

舐められないようにしつつ、かつ恨みを買うわけには行かない。

メアベルはこの板挟みの中で戦ってきたのだから、当然なのかもしれないが。