軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第200話

一本しか生えていなかった鬼の角が、二本へと変化する。

伊吹童子の角ではない。テンジに生えていた角が二本へと増えたのだ。

二本目の角が生えてくると同時に、テンジの全身を熱い業火が駆け巡った。

「熱く……ないんだね、これ」

少しばかり驚くようにテンジは自分自身の手のひらを見つめていた。

本来ならば苦しいほどの痛みを伴うはずの地獄の業火だが、テンジにとっては逆に力を与えてくれる存在へと変化していた。心臓の辺りから熱い炎が燃え続け、血液を通して全身へと駆け巡っていく高揚感がある。指先一つ一つにまで力が漲ってくる。

有無を言わせない万能感が、鳩尾の辺りから止め処なく溢れ出てくる。

しかし、伊吹童子はそれを否定した。

「今だけだ。俺が現世からいなくなれば、それはお前に牙を剥くぞ」

「そ、そうなんだ……」

現実を突きつけられたテンジは、自分よりも背の高い伊吹童子を見上げる。

そうして初めて気が付いた。テンジの角が二本になった影響なのか、伊吹童子の背中には二本目の大太刀が出現していたのだ。先ほどまで一本しかなかったのだから、角の本数が影響を与えているのかもしれないとテンジは思いつく。

角は、鬼にとっての力なのだろうか。

そこまでは分からないが、確実に角と鬼の力には相関性があるはずだ。

そう考えていたテンジに対し、伊吹童子は腕に着けていた円環上の数珠を投げつけた。

慌ててテンジは反応すると、それを難なくキャッチする。

「それを持っておけ。少しは楽になるはずだ」

「えっと……何これ?」

「地獄には知らない方がいいことも多い、気にするな」

「それズルくない?」

「知らん」

突き放すように伊吹童子はこの会話を終わらせた。

そして背中に携えていた二本の大太刀を洗練された動作で抜くと、片方の大太刀を地面へと軽く突き刺した。それが瞬く間に白い煙となって空気中へと掻き消えていくと、戦場の空気が重く変わった。

「来い、『大嶽丸』」

その声に反応して、一枚の観音開き扉が出現した。

真っ白なその扉の彫刻は、伊吹童子が現れたときの扉ととてもよく似ている。だがしかし、その狭間に揺れる油膜の色は青鬼種の特徴でもある『青』であった。雪鬼と同じ色をしていたのだ。

ひと際大きな体躯の鬼の影が、ゆらりと扉からやってきた。

「よぉ、大嶽丸」

「……酒吞童子か、オラを呼んだのは」

伊吹童子よりも二回りほど大きな体躯の大嶽丸には、腕が四本もあった。

そして何よりも体が大きかった。

「そいつが俺たちの王になるかもしれん小僧だ」

「 御前(おまん) か、新たな閻魔王は」

良いものでも見たように、大嶽丸は体を乗り出してテンジの顔を覗き込む。

あまりに距離感がおかしく、顔と顔の隙間はほんの数センチしかなかった。

「力を貸せってよ」

「要件は分かった。で、酒吞童子は何を喰ってここに来た」

くるりと、大嶽丸は伊吹童子へと視線を切り替える。

そんな大嶽丸に対し、さぞ面倒くさそうに答えた。

「いつものだ」

「あとで分けろ、半分だ」

「少しだけなら分けてやらんでもないぞ。半分はやらん」

「忘れもしない……三日前の酒代を建て替えたのはオラだ」

痛いところを突かれたのか、伊吹童子は眉を潜めた。

それと同時に、ここにいた全員に聞こえるほどの舌打ちをかます。

「……ちっ、わかったよ。地獄に帰ったら半々な」

「交渉成立だ」

その会話を最後に、二人の間で契約が成立したのだろうか。

二体の鬼が立ち並ぶように、モンスターのいる方向へと歩き始めた。

特級地獄獣――赤鬼種の『酒吞童子』と青鬼種の『大嶽丸』。

赤と青の鬼が、この現世に姿を現す。

二人は歩みながら戦闘態勢を整えると、今から宴でも始まるかのように腕をぐるぐると回して笑っていた。

「久しぶりだな、この高揚感。もう何千年が経った?」

「千からは数えるのをやめた」

その言葉を最後に、二人の表情が変わった。

「さて、俺たちが現世にいられる時間はもう一分もない。派手に華を咲かそうぜ、大嶽丸」

「いいな、それ。粉々にすり潰してやろうか」