軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第135話

「なぜ隠している?」

テンジが慌てて教室の外に連れ出して早々、飛鳥が不思議そうに尋ねてきた。

その表情は相も変わらずムスッとしており、感情が読み取りづらい。

それでもテンジは臆することなく飛鳥の両肩に手をバシッと置き、有無を言わせない空気を作った。

「僕はここでは《剣士》なんだ。これだけは何が何でも守ってほしい」

「わかった」

「……わかったの?」

「ここではテンジは《剣士》だ。そう振舞えばいいんだろ?」

「……うん、理解が早すぎてちょっと怖いよ」

「よく言われる」

飛鳥がすんなりと受け入れてくれたことに、テンジは思わず動揺していた。

チェウォンやパインのように普通は「なぜ」という疑問が浮かんでくるものだ。しかし飛鳥は一度も理由を聞かずに、割り切ってくれたのだ。

テンジはなんとなく、飛鳥という人間の性格が分かった気がした。

「それだけか?」

「う、うん……それだけ」

「約束は必ず守る、それが俺の流儀だ」

飛鳥はそれだけ言うと、髪を引くこともなく慣れた足取りで教室内へと戻っていった。

少し変な人だくらいの認識だった飛鳥が、テンジの中ではさらに不思議な存在へと昇華させていた。

それでもあの瞳は嘘を言っている目ではないとなんとなくわかった。飛鳥は必ず約束を守る人なんだと。

「まぁ、大丈夫か」

飛鳥の堂々とした態度を見て、テンジは苦笑いを浮かべながら教室内へと戻っていく。

自分はマジョルカに来た時あんなにも堂々としていただろうか。興味が先行して周りをキョロキョロと見渡して、見慣れない外国人の生徒たちにびくびくとしてたと思う。そんな昔の思い出がフラッシュバックしてくる。

(蛇門飛鳥くん……か。一体、どんな経緯でここに来たのかはわからないけど、一つだけはっきりしている。彼は間違いなく、千郷ちゃんにも劣らない探索師になるってことだ)

これを言ったのは、確か九条団長だったか。

彼女は飛鳥を「千郷にも劣らない才能」だと評価して見せた。彼女の選択眼は世界でも有数だと知られており、新興ギルドなのにも関わらずチャリオットが日本のトップ10ギルドに仲間入りしたのは、彼女のスカウトあってのおかげだと言われているくらいだ。

そんな彼女の目から見た評価というのは、馬鹿にできない。

同じ日本人が同級生になった心強さと同時に、これからどう接していこうか頭を悩ませるテンジであった。

それからテンジがマジョルカでの生活や今まで学んできた教科書の範囲を、無言で頷きメモを取る飛鳥に教えていると、ジョージとデミリアが二人の教師を連れて教室へと帰ってきた。

今回ジョージが呼んできたのは、三日に一日は必ず保健室に在中している治癒系プロ探索師のブラスター先生とマジョルカの生態に詳しい攻撃役プロ探索師のシュルツ先生であった。

「おい、飛鳥。連れてきたぞ」

「……助かる」

「演習場に行くぞ。ついてこい」

「わかった」

ジョージはそれだけ言うと、すぐに踵を返し教室の外で待っていた先生たちに何やら説明し始めていた。おそらく飛鳥の事情を説明しているのだろう。

そこで飛鳥が徐にテンジへと視線を向け、何かを求めるような瞳をしていた。

「何?」

「いや、気にするな」

それだけ言うと飛鳥は立ち上がり、てくてくとジョージの後を追うように教室を出ていくのであった。

飛鳥とジョージたちがいなくなった教室内は、ざわざわと煩くなり始める。

「見に行く?」

「うーん、ちょっと見てみたいかも」

「でも、またさ……日本は無能を送ってきたかもだぜ」

「それはないって。とりあえず野次馬しに行こうぜ」

みんな転入生がどれくらい出来る奴なのか知りたかったようだ。

かくいうテンジも、飛鳥という天才の戦いをその目で見ておきたかったので、野次馬の波に乗っかりクラスメイト達と一緒に演習場へと向かうのであった。

† † †

マジョルカエスクエーラの演習場は本当に小さい。

それこそ普通の高校の体育館の半分程度の大きさもなく、剣道の稽古場ほどの大きさしかない。そもそもの敷地面積が大きくないので、この演習場も大きくないのだ。

生徒たちもここに来ることはほとんどなく、大体ダンジョンや家の庭先で訓練することが多いので、悪く言うと誰も使わない見捨てられた演習場なのだ。

そんな小さな演習場の壁際には、噂を聞きつけてきたのか他のクラスや学年の生徒たちの姿も散見され、野次馬の視線の先には準備運動を行う三者の姿が映っていた。

そうして準備を終え、ジョージが徐に口を開く。

「飛鳥、もう十分だろ?」

「構わない」

「シュルツ先生、審判をお願いします」

ジョージの言葉に、シュルツ先生は両者の間に入るように前に歩み出た。そのまま飛鳥とジョージの瞳を覗くように鋭い視線を送り、両者の決意を確認する。

「俺の指示には必ず従うように。場合によっては力づくでねじ伏せるからな」

「「はい」」

「生徒同士の対人訓練は許可されているが、無茶だけはしないように。ルールは天職、スキル、身体の恩恵、全てを許可することでいいんだよな?」

「はい」

「構わない」

「一対一でいいか?」

「俺はそれで……」

「二人で来い」

飛鳥の平坦な声が、演習場内に響き渡った。