軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第134話

「この後、対人訓練をやりたい」

椅子に座って教室の外をぼーっと見つめていた生徒たちに、飛鳥が言った。

その声を聞き、全員が同じように飛鳥へと視線を変えた。

それでも中々手は挙がらない。

生徒たちにとってわざわざ危険な訓練をする必要もなかったのだ。技術力も高くて、自分よりも強い講師を相手に訓練をする方が効率が良いのだから。

それに目の前の日本人の実力もまるでわからなく、天職がどんなものかさえここにいる誰もが分かっていない。下手打って怪我でもしてしまったら、それこそ貴重なここでの学生生活を無駄にしてしまう。

そんな空気を悟ってか、少しばかり飛鳥の顔に影が落ちた。

――その時であった。

「じゃあ俺らが相手をしてやるよ。なぁ、ジョージ」

「おう、構わないぞ」

この空気を斬り裂くように手を挙げたのは、前回のテストで一位を獲得したデミリアであった。彼は自信満々な表情でそう答えると、ついでと言わんばかりにジョージも誘った。

それでもクラスメイトは誰も驚いていなかった。

彼らがよく生徒同士の対人訓練をしていることは、このクラスの誰もが知っていたのだ。そして、自分の強さに対しての自信が人一倍強いことも理解していた。

「他は?」

飛鳥のおかわりには残念ながら、誰も反応しなかった。

それを少し残念に思う飛鳥であったが、初日から二人も釣れたことに喜びに似た感情を抱いていた。

そんな飛鳥は用事が済むとすたすたとテンジの横の席へと移動し、静かに着席した。そのまま左隣にいるテンジへと顔を向ける。どことなくマイペースな雰囲気を感じたテンジであった。

「よろしく」

「う、うん! よろしくね!」

突然話しかけられたことにテンジは体をびくりと反応させる。

「また会ったな。千郷は?」

「ち、千郷ちゃん? たぶん今は家で寝てると思うよ」

「あとで訓練を申し込みたい」

「あぁ、それは……」

テンジはなんと答えようかと考える。

しかし、救いの手は思わぬ方向からやってくる。

「千郷はちっと難しいな」

デミリアだった。

彼はゆっくりと席を立ち上がると、優雅な足取りで飛鳥の元へと近寄り、何事も無いように飛鳥の机の上にお尻を乗せていた。そうして見下すような視線で、話し始める。

まるで自分の方が上だと言いたげな表情だ。少し天狗気味になっているのかもしれない。

「もう一度言う……千郷は無理だぞ。学年一位の俺でさえ、碌に稽古もつけてもらえない」

「なんで?」

飛鳥は鋭い蛇瞳で睨み返す。

殺気とも捉えられる鋭い視線に、デミリアは思わず驚くが、すぐに冷静さを取り戻し再びを口を開いた。

「今じゃあ、この学校で1、2を争う人気講師だからな。それにいつもイエロー剣士が独占してるから碌に訓練もできないんだ」

「…………イエロー剣士? 誰だ?」

「そいつのことだよ。アマシロテンジ、ジャパンの落ちこぼれ剣士だ」

「……テンジ」

「なんだ知り合いなのか?」

「少し……ただテンジが剣士のはずがない」

「は?」

飛鳥のその言葉を聞いて、テンジは慌てて立ち上がっていた。

そのまま飛鳥の腕を握ると同時に、こっちに来るようにと冷たい笑顔でにっこりと笑う。

「ちょっとこっち来て」

「なんだ」

「話があるの」

「わかった」

クラスメイト達は少し驚いていた。

いつもは大人しく授業を受けるだけのテンジが、まるで別人のように、そして何かに焦ったように転入生を教室の外へと連れ出したのだから。

そんな日本人二人組がいなくなった教室で、ジョージが面白くないような表情を浮かべながら小さく舌打ちをした。

そのまま視線をデミリアの方へと向ける。

「おい、デミリア。講師を探しに行くぞ。どうせ自由時間なら今のうちにどっちが上か教えてやろう」

「お、おう?」

あからさまに機嫌を悪くし、舌打ちまでしたジョージを全員が不思議に思う。

その空気の変化を察したジョージはこの場から逃げるように席を立ち上がり、デミリアを連れて対人訓練を行うための講師を探しにいくのであった。

教室の外にはテンジと話す飛鳥の姿があり、ジョージは視界の端で捉えた。しかしすぐに興味が失せたように、その場を離れていく。

日本から来たという彼も、テンジと同じ化け物なのか。

それが気になって仕方なかったのだ。