作品タイトル不明
第136話
「二人で来い」
飛鳥が平坦な声で言った。
その自信に満ち溢れた言葉に、デミリアとジョージは目を点にしていた。
確かにここに入学できる時点で、飛鳥も相当な実力の持ち主か、才能の持ち主なのだろう。しかし、ここでの滞在時間がどれだけ貴重なものなのか彼もわかっているはずなのだ。
ここでの滞在時間が長ければ長いほど、天職に関する強さは比例して増していく。
だから、ずっとここにいる生徒と転入してきたばかりの生徒には割と戦力差があることが、ここでは常識だった。
「は? 本気で言ってんのか?」
「俺は二人同時でも構わないと言っている。二度も言わせるな」
飛鳥の自信過剰な発言にシュルツ先生も少し驚いた様子を見せていた。
そんな二人の間にカツカツと足音を鳴らしながら、デミリアが割って入っていく。
「随分と舐められてるじゃねぇか、ジョージ」
「邪魔だ、デミリア」
「いいじゃねぇか。ここは一発アメリカの本気ってのを見せてやろうぜ。アメリカで俺たちの連携がどれだけ恐れらているのか、これを機にここにいる奴らに教えてやろうぜ。それに……ここで過ごした時間ってのがどれだけ貴重で偉大なものなのか教えてやらないとな」
「黙れ、デミリア。俺は一人で十分だ」
「そう言って、試験で下手やった奴が何を言ってやがる。俺たちは二人で結果をださなきゃダメなんだよ。そのみみっちいプライドはさっさと捨てやがれ」
「……」
ぐうの音も出ない正論に、ジョージは思わず黙り込んでしまった。
そんな三者に問いかけるように、審判のシュルツ先生が話しかける。
「蛇門と言ったか……本当にいいんだな? 二人は一年生でも優秀だぞ。特にデミリアは前回のテストで一位の結果を出している。ジョージも四位の結果を残している」
「構わない。むしろちょうどいい」
「いい気概じゃねぇか、飛鳥。イエローと違って自身満々なのは嫌いじゃねぇぜ。まぁ、剣士じゃないことを祈るがな!」
デミリアは面白そうに笑みを浮かべると、ちらりと野次馬しにきていたテンジへと視線を送った。
その嫌みたっぷりな視線に、テンジの隣で一緒に野次馬していたパインはむすっと鼻息を鳴らす。そしてなぜか対面していた飛鳥までも、少しだけ苛立ったような視線をデミリアへと向けた。
「アメリカ人は口が回るな」
「あ?」
「同郷が貶められて良く思う奴がいると思うか?」
「…………」
「…………言ってくれるじゃねぇの、イエローが」
「突っ立ってないで掛かってこい」
飛鳥は今までにないくらい鋭い視線をデミリアへ送った後、すぐに審判であるシュルツ先生へと顔を向け、早く開始の合図を出すように促す。
少し空気の悪い演習場だったが、シュルツ先生は顔色一つ変えることなく片手を前に突き出した。
「三者、構えろ! 非道な行いだけは許容しない。場合によってはリィメイ学長まで話が通ると思え。いいな?」
「「「はい」」」
その一言で、この場が一瞬で引き締まった。
デミリアとジョージも本気で戦う姿勢に変え、飛鳥は半歩だけ片足を引いた。彼らの手にはそれぞれの武器が握られているのだが、飛鳥の手には何もなかった。
それでも準備は出来ていると言った飛鳥の言葉を信じ、シュルツ先生は大きく息を吸った。
「それでは――始めっ!」
シュルツ先生は声と同時に突き出していた片手を天井へと向け、大きく後方にバックステップを踏み、彼らの邪魔にならない場所まで遠ざかった。
それを視界の端で捉えたデミリアとジョージはほぼ同時に、武器を飛鳥へと向けた。
「ジョージ、行け」
「あぁ」
デミリアの言葉で、ジョージが勢いよく前に駆け出し飛鳥との距離を一気に詰めていく。
そんなジョージの脇や股下、顔のすぐ傍である死角をあえて通っていくように、デミリアの弓矢から放たれた緑色の魔弾が高速発射されていた。
超精密な弓術を隙間を縫って高速発射できるのが、デミリアの強みだ。それを存分に生かした攻撃が勢いよく飛鳥の体目掛けて迫っていく。
同時にジョージも迫っていた。
「傲慢だな、ジャパニーズは!」
勝ち誇ったようなデミリアの声が、演習場内に響き渡る。
それでも飛鳥はその場から一歩も動かずに、二人の一動作を丁寧に観察していた。
そして――。
「遅ぇぞ、『グリッド・クイックネス』ッ!」
飛鳥の目の前まで迫っていた魔弾とほぼ同着で、ジョージの超加速された飛び蹴りが繰り出された。
アメリカで鍛えられた二人の連携は、ここにいる誰もが思わず見惚れてしまうほどの完成度を秘めていた。
これは決まった、と。
「ここも……そうなのか」
誰もがそう思ったその時、そこにはすでに飛鳥の姿はなかった。
デミリアの超精度な魔弾は空を切り、ジョージの超加速飛び蹴りはブゥンと虚しい音を響かせていたのだ。
「なっ!?」
「は?」
そんな素っ頓狂な声を上げたデミリアの背後で影が揺らめいた。
「……『天白蛇』」
気が付けば、すぅっとデミリアの喉ぼとけに一本の純白な刀が添えられていた。
観念させるためなのか、ほんの僅かに刃を喉に食い込ませており、ツゥーと赤い血が刃先を伝っている。
デミリアの背後に、さも当然のように佇んでいたのは息一つ乱していない飛鳥の姿であった。
そんな飛鳥の長い黒髪がデミリアの視界の端に映り、そこでようやくデミリアは裏を取られたのだと気が付いた。
「い……いつの間に……」
デミリアの中では驚きを通り越して、飛鳥の蛇瞳には恐怖すら覚えていた。
一度も目を離したつもりはなかった。
飛鳥がこちらを観察しているように、背後で攻撃を仕掛けたデミリアがジョージの代わりに演習場全体を観察していたのだ。どこの攻撃からも対応できるように、飛鳥だけではなく演習場全体を――。
しかし気が付いた時には、自分の喉に剣が添えられていた。
「……何をした?」
「教える義理はない」
そこでようやくジョージが飛鳥の居場所に気が付いた。
慌てた様子で体の向きを変え、飛鳥へと最大の警戒態勢を取る。
「嘘だろ……一瞬で消えたぞ」
「ジョージだったか」
「あ?」
「注意不足だな」
飛鳥が嘲笑うようにジョージの足元に視線を向けた瞬間、床の一部が円状に光り輝くと無数の白い糸のような何かがジョージの体を絡めとるように巻き付いてきた。
ジョージも慌ててスキルで破壊しようと試みたが、ときすでに遅く全身を絡めとられた後だった。
そのまま足元も奪われ、全身を何かでぐるぐる巻きにされた状態で床に倒れたのであった。
「そこまで!」
シュルツ先生の終了合図が、演習上に響き渡った。