軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

083 限定と継続

【冥星剣エクリプス】。

その能力はリオンも――正確にはジオラスターの記憶がよく知っていた。

他者からの魔法攻撃無効化と、持続的な身体能力強化。

代償として能力の発動中、一秒ごとにHPが減少し、スキルやアイテムを使えなくなるという諸刃の剣。

だが短期決戦の一対一においては、これ以上ない切り札となる。

アレンが一合ごとに強くなる理由や、スキルを使わない戦い方を求めた理由が今になって腑に落ちた。

(だが、これだけではないはずだ)

リオンは剣を手に駆け出しながら、目の前に立つアレンを見据える。

(戦闘開始から約40秒……元々のレベル差やジョブの補正を考慮すれば、4割程度の強化があったところで私に届くとは思えない。戦闘開始時点の動きを考えてもなおさらだ……やはり、能力発動前に強化魔法自体はかけられているのだろう)

エクリプスの能力発動前に施された強化は、今も持続しているはず。

その二つを掛け合わせた結果、アレンはリオンの想定を遥かに上回る実力を有していたのだ。

加え、リオンの 隠し玉(魔法) は無効化され、剣技のみで戦う必要が生まれた。

魔法と剣を扱う彼女にとっては、それは片翼をもがれたも同然。

「――――」

「――――」

そう考えながら剣を交わす間にも、アレンの剣の鋭さは増していく。

技量においては経験豊富なリオンが優るが、想定を上回る相手との戦いは実力以上に厄介だった。

これまで命中していたはずの攻撃は凌がれ、逆に防げていたはずの刃がこちらの守りを突破してくる。

それが一秒ごとに更新されていく状況となれば、なおさらである。

刃と刃がぶつかり合う轟音が森に響き渡る。

純白の髪が風に舞い、漆黒の剣が空に線を残す。

そして徐々に、徐々に、アレンの攻撃がリオンを押し込み始めていた。

(まずいな、このままだといずれ押し切られる――)

最大HP(100%)時に発動することで、10%を切るまでの最大90秒間、ステータスが上昇し続けて最大で190%にまで膨れ上がるエクリプスの能力。

均衡が崩れてからの対処は不可能であり、このまま時間を稼いでいても不利になるだけ。

敵のHPが10%を切る前に、自身の守りが突破され敗北する方が早いだろう。

仮に勝利できたとしても大ダメージは免れず、その状態からリリアナたちを倒すことは困難を極める。

ここまで派手にことを始めてしまった以上、二度目のチャンスなど訪れるはずはない。

(覚悟を決めるしかない)

賭けに出る時が来た。

そう判断したリオンは守りを捨て、攻撃に全振りする。

「ハアッ!」

「ッ」

アレンの攻撃が自身の右肩に届いたのも構わず、リオンは左手に持った剣を深く引き、全力で振り上げるようにして放つ。

アレンは咄嗟に剣を引き防ごうとするも、リオンの渾身の一撃を耐えきることはできず、その身ごと後方に弾き飛ばされることとなった。

「――――――」

リオンの捨て身紛いな攻撃を受けてなお、アレンの様子に戸惑いは見られない。

距離が空いたところで仕切り直せると考えているのだろう。

――だが、甘い。

「その油断が、命取りになるということを教えてやろう」

雷霆騎士のジョブスキルの一つ、【 迅雷活性(じんらいかっせい) 】。

雷属性の魔力を全身に巡らせることで、自身の筋力と速度を上昇させることが可能な 強化(バフ) 魔法である。

ただし【バッファー】が使用する通常の強化魔法とは効果も仕組みも大きく異なり、数秒間しか効果は持続せず、さらに発動後は反動として数十秒の弱体状態に陥るという欠点が存在する。

そんな大きな欠点を持つスキルだが、この状況においては最適な理由があった。

それは魔法であっても効果の対象が自身に限られており、直接アレンにダメージを与える類のものではないということ。

すなわち、

「お前に防げるのは魔法そのものだけで、全ての影響を無効化できるわけではないのだろう?」

そして こ(・) れ(・) は、そんな迅雷活性に【解放のスキルオーブ】を使用することによって獲得したリオンだけの固有スキル。

新たに効果が加わった訳ではないが、その出力は進化前の迅雷活性とは比べ物にならない。

使い所を選ぶべき切り札だが、それを使うべき時が今だと判断した。

「――――【 雷鳴閃駆(らいめいせんく) 】」

詠唱と同時に、リオンの体に青白い雷が走る。

その姿は一瞬、自然現象そのものとなったかのようだった。

「いくぞ」

音を置き去りにするかのごとき神速の足捌きと一振りを以て、リオンの攻撃がアレンに迫った。

雷光を迸らせながら駆けるリオンの刃が彼の体に届きかけたその時、驚くべき反応速度でアレンがエクリプスを翳す。

だが、それすらも遅いと言わんばかりにリオンの刃が二振り、鉄壁の守りを潜り抜けてアレンの胴を切り裂いた。

さらに、

「まだだ」

「ッ!?」

急所を守ろうとするアレンを嘲笑うように、三振り目からリオンは足元に狙いを変え――連撃を浴びせながら、彼の横を駆け抜けた。

木々の葉が風に揺れ、リオンの純白の髪が流れるように翻る。

「――――くぅッ!」

痛みに悶え苦しむ声を上げながら、アレンはその場に片膝をつく。

振り返ったリオンはそんな彼の姿を視界に収めつつ、自身もまた【雷鳴閃駆】の反動によって身体能力が低下するのを感じていた。

(与えられたダメージはこちらの想定を下回ったが……これで構わない)

そう考えるリオンの視線は、アレンの足――正確には、より深い傷を受けた左足に向けられていた。

今の一撃でHPを10%以下まで追い込めなくても、彼を動けなくした時点で目的は達した。

エクリプスの発動中、アレンはその傷を癒すことはできず……それはすなわち、戦う手段を失ったのも同義。

そしてこれまでに与えたダメージとHP減少効果によってエクリプスの効果が切れさえすれば、彼は自分の敵ではなくなるからだ。

「ん?」

しかしその時、ふとリオンはある違和感に気付く。

アレンの足に負わせたはずの傷に、淡い光が灯り始めたのだ。

「――……なに?」

リオンの漆黒の双眸が、困惑に満ちて見開かれた。

◇◆◇

全身と足に負った傷を見下ろしながら、俺――アレン・クロードは思考する。

【雷鳴閃駆】――それをリオンが有していることは分かっていた。

にもかかわらず完全に防ぎ切ることはできなかった。それだけの能力を誇るスキルだからだ。

今ので負ったダメージは全HPの3割程度。

エクリプスを装備している今、【 星喰蝕命(せいしょくしょくめい) 】の発動に必要なHPを削られるのはなんとしても避けなければならない事態だが、それ以上に厄介なのが足に受けた深い傷だった。

【星喰蝕命】はHPを回復させることができず、それはすなわち傷を癒すこともできないということ。

一度身動きを取れなくなってしまえば、そのままゲームオーバーになるも同然。

―― だ(・) け(・) ど(・) 。

次の瞬間、俺の体に負った傷が淡い光を灯し始める。

切り裂かれた皮膚が緩やかに引き寄せられ、白く輝きながら癒えていく様は神秘的ですらあった。

「――……なに?」

ふと、リオンの抜けた声が聞こえる。

その漆黒の瞳は大きく見開き、現在進行形で癒され出す傷跡に向けられていた。

表情には今まで見たことのない動揺が浮かんでいる。

「なぜ、傷が治って……何をした、アレン・クロード!?」

震える声で問いかけるリオン。

その表情には理解できない事態に対する困惑と、何か恐ろしいものを見つけたかのような警戒が混じっていた。

「回復魔法に決まってるだろ?」

「ありえん! その剣の使用中は、スキルを使うことなどできないはずだ!」

「それは発動中の話――その前に発動した継続効果を持つスキルの場合は例外だ」

影骸の守護者(シャドウセンチネル) 戦を思い出しながら答える。

奇しくもあの時、奴が放ってきた【 虚無(きょむ) の 宣告(せんこく) 】と同じ仕組みであり――いや、あのギミック自体が冥星剣エクリプスの能力を参考に生み出されたものなのだから当然と言うべきだろう。

しかし、そんな答えに納得できないとばかりにリオンは首を左右に振る。

「だとしてもだ! 継続効果を持つ回復魔法など、この世に存在するはず、が……」

徐々に語気が弱くなっている。

彼女の言う通り、この世界には継続効果を持つ回復魔法は存在しない。

それは【ヒーラー】の持つスキルであろうと同様だ。

だが―― こ(・) こ(・) に(・) た(・) っ(・) た(・) 一(・) つ(・) 、 例(・) 外(・) が(・) 存(・) 在(・) す(・) る(・) 。

世界で唯一【雷鳴閃駆】を持つ彼女は、その理由も察することができたのだろう。

リオンの顔に理解の色が浮かび始めているのが見て取れた。

「お察しの通りだ」

俺はステータス画面を表示する要領で、そのスキルウィンドウをリオンにも見える用に表示する。

そこにはこう刻まれていた。

――――――――――――――――――――

【リジェネヴェール】LV1

属性:聖

分類:アレン・クロードの固有スキル(限定と継続)

効果:発動後、1秒ごとに10MPが消費され、自身のHPが2%回復する。この効果はMPが0になると自動的に解除される他、任意のタイミングで解除可能。ただし、このスキルは自分自身にしか発動できない。

――――――――――――――――――――

【リジェネヴェール】。

それは『ダンアカ』において、俺――アレン・クロードだけに許された、【限定と継続】を選択することによって獲得できるたった一つの継続回復魔法。

一度発動すれば1秒ごとに2%が回復するという魔法だが(スキルレベルが上がれば倍率は上がるが、それでも数%)、時間効率もMP効率も低く、とてもじゃないが実際の戦闘時に役立つようなスキルではない。

ゲームでもその認識は同じであり、さらには発動対象が自分自身に限定されるという特徴から、【解放のスキルオーブ】を消費する意味がないと捨て置かれるような外れ固有スキル。

実際、このスキルを使うプレイヤーもほとんどいなかった。

だが――冥星剣エクリプスを獲得した今、その全ての前提は覆る。

ゲームではメインキャラクター以外が装備できなかったエクリプスと組み合わさった時、その可能性は無限大に膨れ上がる。

現在、俺の最大MPは1526に及び、これをHP回復に使い果たしたのち、HPが10%を切れる瞬間まで星喰蝕命によるステータス上昇効果は持続する。

その最大倍率は、現時点においてさえ実に+240%へと到達する。

そしてこれこそが、ゲームから現実と化したこの世界で、俺――アレン・クロードが最強に至るための最後のピース。

(このスキルを持つ俺が――俺だけが、限界を超えた無限の強化を実現できる)

それはリオンも理解できたのだろう。

彼女はしばらく強張った表情でスキル説明を眺めた後、俺を睨みつけてくる。

「そうか。お前がその剣の能力を発動する前に使用していたのは強化魔法ではなく回復効果だったというわけか……」

リオンの声には理解の色が滲む。

しかし直後、彼女は再び疑問を投げかけてきた。

「だが、それだけでは説明がつかない! 強化魔法を使用することなく、どのようにして戦闘開始時から私と渡り合ったと言うのだ!?」

「……簡単な話だ」

俺は傷が癒え終えようとしている足の調子を確かめながら立ち上がる。

皮膚が再生し、筋肉が繋がり、血流が整う感覚。

リジェネヴェールの効果を実感するアレンの前では、雷鳴閃駆による弱体効果の解除を待たずして、リオンが剣を構え直していた。

「俺が【星喰蝕命】を発動させたのは戦いが始まる前――その時点でもう、既に60秒は経過していた」

「――――なっ!」

そして今、リオンとの戦闘が始まってから約90秒が経過。

俺の 身体能力(ステータス) は通常時の250%となり、それは今もなお上昇し続けている。

「くっ!」

今の説明で、リオンもそれに気づいたのだろう。

弱体状態の解除を待たず再び攻めてこようとするも――既に手遅れだった。

一瞬で間合いを詰め、リオンが剣を振り下ろす軌道より先に、俺の漆黒の刃が彼女の胴体に迫る。

凄まじい速度で繰り出された一撃。

刃は空に黒の剣閃を描き、そのままリオンの体を深く切り裂いた。