軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

082 星喰蝕命

――アレンから放たれる尋常ではない圧に、リオンは思わず目を見開いた。

純白の長い髪が風に揺れる中、彼女は自分の感覚を疑った。

この一か月間、師として剣を教えてきた彼からは、一度としてこのような威圧を感じたことがなかったからだ。

「ふぅ」

だが、それもほんの一瞬のこと。

百戦錬磨の戦士らしく意識を切り替えたリオンは、すぐさま戦闘に集中する。

「――シッ!」

これ以上言葉を交わす必要はないと言わんばかりに、一気に間合いを詰める。

瞬きほどの時間でリオンの姿が消え、鋭い踏み込みと共に繰り出される白光の如き一閃。

その速度と軌道は完璧だった。

これまでのアレンであれば、間違いなく回避も防御も叶わなかっただろう。

しかし——

「————はあッ!」

ガキンッ!

目にも留まらぬ速さで漆黒の剣が宙を舞い、リオンの刃を真正面から受け止めた。

二つの剣が交わる衝撃が、森全体に響き渡る。

(……ほう)

わずかに眉を上げながらも、リオンは冷静さを崩さなかった。

この程度の抵抗は想定内。

先ほどのジュリアンとの戦闘を眺めていた際にも、普段のアレンからは考えられない身体能力を目の当たりにしていたからだ。

恐らくはグレイかユイナによる強化魔法の恩恵でも受けていたのだろう。

それに加え、ジュリアンを討伐したことによって幾つかレベルが上がっているとすれば、この程度の動きが可能になるのも説明がつく。

(だが——所詮はその程度だ)

アレンが想定以上の実力を見せたとしても、それはリオンを超えるほどのものではない。

両者の間に、絶対的な実力差があることに変わりはないのだ。

敵の正しい実力を把握した彼女は、制限を解除し、少しずつ剣速を上げていく。

まもなく決着がつくだろう

そんな思考の中、剣戟を振るうこと約20秒――リオンは決して無視できない違和感を抱いていた。

(なぜだ? なぜ、これだけやってもまだ、私の刃が彼に届かない……?)

戦闘開始時の予測では、既に決着がついているはずだった。

剣技においてこちらがアレンを上回ることは言うまでもなく、ステータスの差も歴然としていたからだ。

にもかかわらず現状はと言うと、決着はおろか、一振りすら命中させられずにいる始末。

まるで一合一合、アレンが強くなっていくような錯覚が襲い掛かってくるのだ。

「—――—ッ!」

その時、ズキンと左腕に鈍い痛みが走った。

まるで忘れてしまった記憶を強烈に思い起こさせようとするかのように、肩から先が疼く。

(いや、気のせいだ。それよりも今は、目の前の戦いだけに集中しろ!)

リオンは歯を食いしばり、精神を統一する。

今、得体の知れない感覚に頭を悩ませる余裕はない。

それよりも先に、アレンがこれほどの実力を発揮できる理由を見抜き、局面を打開する必要がある。

違和感は他にもあった。

ここまで凌げているとはいえ、アレンが防戦一方であることには変わりない。にもかかわらず彼は頑なに剣だけで戦い、魔法を使おうとしないのだ。

それが慢心によるものか、あるいは何か理由があってのことなのかは判断できない。

だがいずれにせよ、その隙を逃す彼女ではなかった。

(——仕方あるまい)

本来なら簡単に片が付くと考え温存していたが、これ以上時間をかけるのは避けたい。

リオンはここで、切り札を出すことを決断した。

「——ハァッ!」

踏み込みながら思い切り剣を振るう。

「くっ」

防がれることを前提とした一撃だが、その分だけ力を込めた甲斐があってか、圧倒的な腕力によってアレンの体が剣ごと宙に舞い、数メートル後方へと吹き飛んだ。

かろうじて着地に成功するも、もう遅い。

リオンは素早く間合いを取り、落ち着いた様子で告げた。

「お前に——いや、この場所でこれを見せるのは初めてだな」

その言葉が森に響き渡ったとき、リオンの空いた右手に眩い雷光が宿っていた。

青白い光が彼女の手のひらで踊り、まるで生き物のように脈動する。

「——————ッ!」

それを見たアレンが目を見開いた。

当然の反応だ。これまでのアカデミーでの務めの中で、リオンは剣士としての一面しか見せてこなかった。

剣の修練場で教鞭を取り、剣の道を極めたかのように振る舞っていたのだから。

しかし実際は違う。

リオンの本来のジョブは【 雷霆騎士(らいていきし) 】——【魔法剣士】の上位職であり、剣術と雷魔法の扱いに長けた存在だった。

彼女の手に宿る雷は、その証なのだ。

尤も、彼女がより得意とするのは剣であり、普段から魔法の使用を必要としていたわけではなかった。

だがこの状況においては例外としなければならない。

今のアレンは不可解かつ異質な存在と化している。これ以上真正面からやり合うのは危険だと、歴戦の戦士であるリオンの本能が警告を発していた。

正直に言えば、剣を教えた師として剣だけで圧倒したかった気持ちはある。

教え子が手にした力を誇りに思いつつも、それでも師の域を超えさせない——そんな矜持も確かにあった。

——だが、この 契約(やくそく) の前にそんな誇りなど無価値。

雷霆が右手に集束し、理性を失ったかのように暴れる。

それを完璧に制御しながら、リオンは詠唱した。

「——【 雷華閃(サンダースパーク) 】」

「――――ッ!」

リオンの手から解き放たれた雷は、アレンめがけて一直線に飛んでいった。

閃光と共に轟音が響き渡り、雷は正確に彼の胸元に命中。

火花を散らしながら爆発した。

衝撃波が森全体を揺るがし、辺り一面に砂煙が立ち込める。

リオンは命中を確信し、肩の力を緩めた。

雷華閃(サンダースパーク) は雷属性の上級魔法であり、対象者に大ダメージを与えるだけでなく気絶効果をもたらす。

その成功率は与えたダメージ量に比例するが、彼とのステータス差を考えれば、まず気絶は避けられないだろう。

砂煙の向こうを見据えながら、リオンは静かに告げた。

「全てが終わるまで、お前はそこで眠っていろ」

色々と訊き出すのはその後だと考え、彼女は視線を遠く——リリアナたちのいる方角へと向ける。

彼女たちはまだ疲労から十分に回復していないはず。

今向かえば、すぐに片を付けられるはず――

「――どこを見ている?」

そう思っていたからこそ、次の瞬間、リオンは驚愕に目を見開くこととなった。

冷徹な声が静寂を破り、リオンの精神を揺さぶる。

「——なっ!」

思わず声が漏れる中、砂煙から浮かび上がる人影。

間違いなく気絶したとリオンが確信していたはずのアレン・クロードが、肉薄しながら剣を振りかぶっていた。

(なぜ動ける!? ……いや、考えるのは後だ!)

状況を整理できないまま、リオンは慌てて剣を翳す。

ここに来て遠慮などできるはずもなく、全身全霊の力を込めて押し返そうとした。

だが——

「甘い」

アレンの口から紡がれた言葉は、まるで敵の弱点を突き刺すかのように鋭かった。

「な——」

これまでよりさらに力を増した漆黒の一撃が、リオンの剣を押し切る。

そして彼女の体ごと、まるで人形のように後方へと吹き飛ばした。

着地こそ成功したものの、一連の攻防は彼女の精神に大きな衝撃を与えていた。

(いったい、何が起きている⁉︎)

意味が、意味が分からない。

かつて経験したことのない状況に、リオンは必死に思考を回転させた。

(やはり錯覚ではなく、奴は現在進行形で力を増している。それも、凄まじい速度で……!)

これまでの戦闘で感じていた違和感は間違いではなかった。

アレンは本当に強くなっていたのだ。それも常識外れの速度で。

(いや、待て。そもそもどうして今の 雷華閃(サンダースパーク) を受けて動ける? ディスペルを使ったのか……? いや、麻痺状態ならともかく気絶状態ではスキルの発動は不可能。だとするならいったい……っ)

そこで、リオンはもう一つの異常さに気付いた。

アレンの肌には魔法によるダメージの痕さえ存在していないのだ。

気絶だけなら極小の確率で回避できることもあるかもしれないが、魔法のダメージすら受けていないのは理解を超えていた。

なにせ今放った魔法は、仮にリオン自身が喰らったとしても重傷は免れないほどの威力なのだから。

「ありえない……こんなことが、起こりうるはずが……」

混乱と困惑の中、ふとリオンの視線がアレンの持つ漆黒の剣に止まった。

欠けたような刀身が特徴的な、どこか歪に見える剣。

「――――ッッッ!」

その姿を見た瞬間、リオンの左腕に刻まれた呪印が激しく疼き始める。

そして、ズキンという痛みの波動の中——

( そ(・) う(・) か(・) 、 そ(・) う(・) い(・) う(・) こ(・) と(・) だ(・) っ(・) た(・) の(・) か(・) ……!)

リオンの頭の中で、全ての謎が一気に解け始めた。

一合ごとに彼の力が増す理由。これほどの強力な魔法を浴びても無傷である理由。頑なにスキルを使用しない理由――否、

『できればスキルも用いない、基礎的な剣術を学びたいんですが』

一か月前に彼がリオンに告げた、歪な動機。

そこから全てが始まっていた。

それを含めた全ての答えは、アレンの握るあの剣にあったのだ。

リオン自身がその剣に見覚えがなくとも、彼女の左腕に呪印を刻みつけた存在——ジオラスターの記憶が呼び覚まされ、そして告げる。

あの忌まわしい剣の脅威と、それによって彼が消えぬ傷を負った過去を。

自身の命を 蝕(むしば) むことになろうと、顧みることなく最期の瞬間まで戦い続けた四大賢者、最後の一人——無欲のシックザールの姿と、目の前のアレンの姿が重なる。

そしてアレンが持つその剣こそ、かつてシックザールが使用した、多くの代償と引き換えにして対象者に限界を超えた力を与える 自蝕(じしょく) の 剣(つるぎ) ――――

「――——なぜ、その剣をお前が持っている、アレン・クロード!」

ジオラスターの記憶に揺さぶられるように感情を露わにしたリオンの叫びに、アレンは何も答えなかった。

代わりに彼は漆黒の剣をゆっくりと構え、静かな決意を込めた声で告げる。

「いくぞ、エクリプス——――俺に力を寄越せ」

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【冥星剣エクリプス】

攻撃力:+250(対象者のレベル・ステータスによって変動)

保有能力:【 星喰蝕命(せいしょくしょくめい) 】

・発動後、1秒ごとにHP・MPを除いた全パラメータが1%上昇し、代償としてHPが1%減少する。

能力の発動中、他者の魔力による干渉を一切受け付けなくなる他、スキルの使用不可、および武具を除いたアイテムの使用不可・効果無効となる。

発動後、任意のタイミングで 星喰蝕命(せいしょくしょくめい) を解除することはできない。最大HPの10%を切ると強制的に解除され、その後100秒間はいかなる手段を用いてもHPを回復させることができない。

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