軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

084 リオン・コルニクス

「か、はっ……」

アレンの斬撃をその身に受け、リオンの体がその場に倒れていく。

(私、は――――)

まるで世界の時間がゆっくりになったかのような感覚の中。

リオンが思い出したのは、これまでの辛く険しい日々の記憶だった。

◇◆◇

――――泥水をすするような生涯を送ってきた。

リオンが生まれたのは王都にある小さな館を構える男爵家。

貴族であっても非常に貧しい家庭で、平民の大商人などには大きく劣る生活を送っている程。

そのため当主夫妻はどうにかして、この状況を変えることができないか常に頭を悩ませていた。

そんな彼らが期待したのは二人の娘――リオンと、5歳年下の妹シルクだった。

男まさりな性格で凛々しさが目立つリオンと、引っ込み思案な性格で可愛らしさが目立つシルクだが、二人は非常に仲のいい姉妹だった。

そして今から12年前。

リオンは12歳という若さでジョブ【魔法剣士】に目覚めた。

ジョブ発現の平均が14歳という中でこれは非常に早く、さらにその中でも才能のある者にしか与えられないとされる【魔法剣士】。

ステラアカデミー入学も間違いないとされ、当然、両親からの期待の中で生活することになった。

とはいえ、それ自体はリオンにとって大した重みではなかった。

早くに【魔法剣士】を獲得できたことは嬉しいし、アカデミー自体にも興味があったからだ。

昔から姉を慕っていたシルクも、そんなリオンに純粋な憧れと称賛の言葉を送ってくれた。

――しかし、そんな時間が長く続くことはなかった。

リオンがジョブに発現して間もなく、シルクに【魔喰い】が発症したからだ。

魔喰いとは周囲から強制的、かつ自動的に魔力を奪い、自分のものにするという特異体質のことを指し、病気として分類されることもある。

一見すると便利な力のように思えるが、実際のところ魔食いは、周囲にとっても自身にとっても害をなすもの。

人は生きるのに魔力が必要であり、奪われ過ぎれば命にも繋がるため、魔喰いを周囲に置きたがる者はまずいない。

さらに魔力は吸収しすぎれば毒となり、幼く魔法をまともに使えない彼女には発散する方法もなく、やがて膨れ上がった魔力にその身を滅ぼすこととなるからだ。

一応、自動的に魔力を発散してくれるマジックアイテムもあるが非常に高価で、貧しい男爵家の資金ではとても買えなかった。

そのため、いずれ死ぬ迷惑な存在など不要だと、当主夫妻はシルクを離れに移し、放置して自然と死ぬのを待つことに。

その判断に対して、頑なに反対したのがリオン。

両親からの理解を得られなかった彼女は、そんなシルクを連れて実家から逃げ、二人で生きていくことを決意した。

ただ、ジョブに目覚めたばかりで、仮にも貴族としてこれまで生活してきた少女が、 幼い少女(足手まとい) を連れて平民の中で満足に生きていけるはずがない。

食料調達はゴミ捨て場から漁るか盗むのが基本。

それにも限界を感じてからは、年齢を偽って冒険者ギルドに登録し、自身の手で魔物を倒して稼ぐことに決めた。

その時、正体がバレないよう家名だけは変更することに。

ゴミ捨て場で時折見かけた、食料を漁る黒色の鳥。

まるで自分のようだと思ったリオンは、その鳥が遠い国でコルニクスと呼ばれていると知り、自分にピッタリだと思い名乗るようになった。

冒険者になって以降は、普段シルクの周囲にいる時に魔力が奪われて不足しがちなため、【魔法剣士】であるにもかかわらず剣一本で戦うことに。

それでも不幸中の幸いか剣の才能はあったようで、見る見るうちに成長を遂げ、何とか食料と高価なマジックアイテムを買えるようになった。

「……ごめんね、お姉ちゃん」

「謝るな。私がしたくてしていることだ」

そんな会話を幾度となく繰り返す。

貧しく、厳しいながらも穏やかな日々――だが、そんな時間が永遠に続くことはなかった。

時間が経つことに【魔喰い】の症状は悪化。

もはやアイテムでの処置ではどうしようもなくなり、2年が経つ頃には、もうシルクは限界を迎えていた。

そして、何か一つでも解決する手段がないか探すべく、シルクを背負いながら、優秀な闇医者がいるという路地裏を徘徊していた時のこと――

「ほう、これは驚いた。魔喰いの治療法を探す者がいるという噂を聞いてきたものの……まさか本当にこれほどの逸材が 二(・) つ(・) も(・) 転がっているとは」

「――――ッ」

彼女たちの前に、長い黒髪と、覇気のない見た目が特徴的な男が現れた。

一目見ただけでも異様な雰囲気を纏っており、決して近付いてはならない相手だとリオンの直感が告げる。

しかし、逃げるよりも早く彼は――のちに禁忌の大魔術師ジオラスターと判明する男は言った。

「その少女が魔喰いだな? 症状は進行し、命尽きるまで幾ばくもない……だが、私ならば救ってやることができるだろう」

「本当か!?」

「ああ、 既(・) に(・) 準(・) 備(・) は(・) 整(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) 。一人分を増やす程度なら問題はなかろう」

「……?」

言葉の真意は分からなかったが、どうやら嘘ではないらしい。

続けて男は、代わりにリオンが自分の配下として働くことが条件だと言った。

「――――!」

それが何を意味しているのか、リオンは本能的に理解する。

この選択が自身の将来を大きく左右することになることも。

「お姉ちゃん……」

「大丈夫だ、シルク」

不安げなシルクの言葉を遮り、リオンはその場に跪く。

どれほどの苦境が待ち受けていようと、妹を救うためならば迷う余地はない。

「その条件で構いません。どうか……妹をお救いください」

「よかろう。 奴(・) のせいで幾百の年月が経とうと満足に動けぬ中、手足は一つでも多い方が良い」

その後、リオンたちはジオラスターに連れられて町の片隅にある小さな工房に移動する。

シルクには応急処置用のアイテムが渡され、本当に回復した彼女が眠るのを見届けた後、別室でジオラスターとリオンは契約を結ぶことになった。

そこで初めてジオラスターの素性が明かされるも、そもそも彼は大賢者としても裏切者としても歴史から抹消されているため、リオンは存在を知らなかった。

ただ、絶対的に人として道を踏み外すことになるのだと理解し、それでも契約に応じることにした。

その結果、リオンの左腕に刻まれた呪印には複数の誓約があった。

まず、ジオラスターの命令には絶対服従であり、逆らうことはできない。

ジオラスターの任意のタイミングで、 対象(リオン) を殺害することも可能。

さらに、リオンの命はジオラスターの命と同期され、彼が死ぬと彼女も同時に命尽きることになる。

逆はなく、いわば一方的な命の共有だ。

シルクが責任を感じないよう、この契約のことは彼女に伝えないことにした。

「正確にはもう一つあるが……そちらは今はよかろう。いずれにせよ器が成熟していない現状は無意味だ」

そんな小さな呟きが、やけに耳に残ったのを覚えている。

いずれにせよ、こんな風にして――リオンとジオラスターは契約を結んだ。

その姿を一目見た瞬間から、ジオラスターが正義の類ではないと分かっている。

それでも妹を守るためなら悪魔にでも魂を売る覚悟があり、自分さえ犠牲になれば妹を救うことができると――

幼い彼女は、そう信じていた。

――それから約3年、ジオラスターの指令に応える日々が続いた。

あまり思い出したくない日々だ。

「元気にしているか、シルク」

「うん! ありがと、お姉ちゃん」

度重なる過酷な任務の合間に挟まる、シルクとの僅かな会話。

それだけが全てで、それだけがあればよかった。

だけど、そんな日々を重ねていたある日のこと。

一つの長期任務を告げられていたより遥かに短い期間で終えて工房に帰還した時、彼女は違和感を覚えた。

「……なんだ?」

見慣れぬ隠し扉の存在に気付き、恐る恐る下に降りる。

地階にあったのは地上より遥かに広く、様々なアイテムが置かれた実験室のような部屋。

そして――――

「ッ、シルク!?」

「…………お姉、ちゃん」

そこにはなんと、複数の筒状の機器に繋がれたまま、痛みに悶え苦しむシルクの姿があった。

以前にシルクの姿を見たのは約3か月前。

その時とは比べ物にならないほどに衰弱した姿だ。

間違っても治療を受けている姿ではない。

リオンは急いでシルクの体から機器を外し救出する。

すると、シルクはリオンに見つかったことに気まずさを覚えているような表情で、ゆっくりと口を開いた。

「あはは……ごめんね、お姉ちゃん。わたし、失敗しちゃった」

「失敗? 何の話だ? お前はただ治療を受けているだけではなかったのか!? いったい、ここで何が――」

「ほう。随分と早い帰還だな」

「――!」

振り返ると、そこにいたのはジオラスターだった。

この状況に戸惑うことなく、彼はただリオンたちに冷酷な目を向ける。

そんなジオラスターを見て、リオンの中の何かが切れた。

「――――シルクに何をした、ジオラスター!」

「案ずるな。今、説明してやろう」

そんな前置きの後、ジオラスターはゆっくりと語り始めた。

ジオラスターが行っていたのは決してシルクの治療などではなく、彼女を【依代】と呼ばれる存在に作り替えるための実験だった。

魔喰いはその性質上、強力な魔の存在を宿すことができる、依代としての適性が非常に高い。

実験が成功した暁にはリオンと同様、シルクを手足として使うつもりだった。

当然、その実験過程では強烈な苦痛が伴うが……シルクはリオンだけにはバレないよう、気丈に振舞っていたとのこと。

リオンがシルクを思って契約のことを黙っていたように、シルクもリオンのことを思って口を閉ざしていた。

そのため、気付くのがここまで遅くなってしまったのだと言う。

「なんだ、それは……」

まさかそのような裏があったとはと、リオンの顔色が青くなる。

しかしここで、一つ違和感を覚えた。

「だが……だが! いくら表情を取り繕おうと、これだけシルクが衰弱して、私が気付けないはずがない! 私がいなかったこの期間に何かしたのではないのか!?」

「察しがいいな、その通りだ。理由の一つは他の実験体が関わってくるが、一つは単純……実験を加速させるだけの条件が揃っただけの話だ」

「条件、だと?」

「依代化を進めるには本人にもある程度の魔力操作技術があった方がいい。そしてそれに適した都合のいい概念は其方も知っているであろう?」

少し考えた末、リオンはハッと思い浮かんだ答えを告げる。

「まさか……ジョブか!?」

「ああ。つい先日、 そ(・) れ(・) は期待通り【魔法使い】を発現した」

逃亡生活で2年、ジオラスターのもとに来てから3年で、今のシルクは12歳。

周囲よりは早いが、リオンと同様にジョブが発現してもなんらおかしくない。

「実験本番を行う途中で邪魔が入っても面倒だったため、其方には長期任務を出したのだが……まさかこれだけ早く帰還するとは思っていなかった。私の想像を超える成長速度で何よりだ」

「っ……! この期に及んで、貴様は……」

血が滲みほど手を握り締めながら、リオンは努めて冷静さを保つ。

それよりも遥かに優先すべきことがあったからだ。

「依代化と言ったか? それが成功すれば、シルクは助かるのか……?」

「期待しているところ悪いが、依代は他者に自身の全てを明け渡す儀式のため意識は残らぬし、そもそも既に失敗した後だ。やはり、 拾(・) い(・) 物(・) で(・) は(・) 限度があったということだろう。間もなくそれは死ぬはずだ」

「……ぁ、なっ……」

瞬間、頭が真っ白になる。

これまでに積み上げてきた大切な何かが土台から崩れ落ちるような感覚。

それはまさに、彼女にとって世界そのものが崩壊する程の衝撃と絶望だった。

「シル、ク……」

震える声で、シルクを向く。

すると彼女は諦観と申し訳なさが混じった表情を浮かべる。

「大丈夫、わたしは知ってたから。それよりも……巻き込んで、ごめんなさい」

「……巻き、込んで? どういう意味だ?」

「わたしが死んで実験ができなくなったら、お姉ちゃんも一緒に処分するって、ずっと言われてたから……」

「――――ッ」

シルクが実験を拒絶しないよう、そう言って脅していたのだろう。

リオンはキッとジオラスターを睨むも、彼は事も無げに告げる。

「ああ、それはただの方便だ。使えると分かっている相手を処分するなどという無駄なことをするつもりは初めからない」

「き、さま……!」

シルクの覚悟を一蹴するような物言いに、怒りが頂点へ達する。

その手が自然と腰の剣に伸びかけたその時、

「……よかった」

そんな声が、その場に響いた。

リオンとジオラスターの視線が、声を発したシルクに向けられる。

「お姉ちゃんが巻き込まれなくて、よかった。死ぬのがわたしだけなら……怖いけど、受け入れられる。だから……だから」

徐々に声が小さくなっていく。

そんな中でもシルクの目が柔らかく細められ、リオンを見つめた。

「お願い……どうか、お姉ちゃんだけでも、生きて……わたしと、最後のやくそ、く……」

バタリ、と。

最後まで言い切ったシルクの体から力が抜ける。

「シルク……シルク?」

リオンの呼びかけに、しかしシルクは応じない。

代わりに魔喰い特有の現象なのか、その身から漏れた彼女の魔力がリオンの体に吸収されていった。

ああ、いくら否定しようとしても間違いない。

今、リオンの腕の中でシルクは力尽きた。

「安堵と同時に力尽きるか。皮肉にも其方の無事が保障されたことが、それの死ぬ最後のきっかけとなったようだな」

淡々と状況を呟くジオラスター。

それを聞き、リオンはゆっくりと口を開く。

「……ふざけるな」

もう、我慢できなかった。

「ふざけるなぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」

剣を抜き、真正面からジオラスターを見据える。

怒りのまま、リオンは彼に向かって駆け出した。

「愚かな。私を殺せば其方も死ぬというのに、失う必要のない命を無下に散らすつもりか? 止めておけ。そも、絶対服従の刻印がある以上、歯向かうことは不可能だが――」

「黙れ!」

諭されようと、リオンは迷うことなく挑む。

もはや死など怖くなかった。

シルクだけがリオンにとって全てだった。たとえ死のうとも、リオンにはシルクの仇を討つ意思しかない。

「ッッッ!」

瞬間、左腕に施された刻印が反応し体中に激痛が走る。

このままだと数秒と経たず、自分は死を迎えるだろう。

それでも――

「ぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」

それ以上の強い意志を以て、前に一歩踏み出した。

そんなリオンの姿に、ジオラスターは珍しく目を見開く。

「っ! 誓約の拒絶だと!?」

リオンの行動はジオラスターにとっても信じられないことだというのが分かった。

(この隙に――!)

リオン自身、状況を正しく把握できていないが絶好の機会には違いない。

両手で柄を握りしめ全力で攻撃を浴びせようとした、その直後――

『お願い……どうか、お姉ちゃんだけでも、生きて……わたしと、最後のやくそ、く……』

脳裏にシルクの最期がフラッシュバックし、リオンはピタリと動きを止めた。

否、正確には意志に反するように全く動かなくなった。

「なん、だ……?」

「……ほう」

戸惑うリオンの前では、この現象に心当たりがなかったのかジオラスターも訝しむように目を細めている。

その間も、リオンの頭にはシルクが残した『生きて』という言葉が反芻し続けていた。

すると、ジオラスターの手がリオンの左腕に刻まれた呪印に伸び、魔力を注いで何かを調べ始める。

「ふむ、私が施した絶対服従の誓約自体は解除されていない。代償を覚悟した一時的な無効化か? そのようなことができるとは想定していなかったが、あり得ない話ではない。だが、そうだとすればなぜ途中で不自然な静止が起こ――」

途中で、ジオラスターは言葉を止める。

その代わり、

「ははっ、ははははは!」

堪え切れないといった様子で笑い声をあげた。

それと同時に、リオンはようやく体の制御を取り戻す。

とはいえジオラスターに斬りかかれないのは変わらず、歯を食いしばりながらも、地面を蹴り一旦距離を取った。

「何がおかしい!」

「これが笑わずにいられるか? どうやら其方の動きを止めたのは他でもない妹のようだぞ」

「なんだと……?」

困惑するリオンに対し、ジオラスターは続ける。

最期の瞬間、シルクはリオンに『生きて』と言い残し、その意思が籠った魔力がリオンに吸収された。

その結果、リオンとジオラスターが交わした契約に、新たに『生きろ』という命令が追加されたのだと言う。

あのままジオラスターに斬りかかっていれば誓約の拒絶による代償か、命の共有効果によってリオンも死ぬこととなった。

そのため、無意識に動きを止めてしまったのだ。

「そん、な……」

それを聞き、リオンは言葉を失うことしかできなかった。

「このような例など過去に一度としてない。魔喰い特有の現象か、また別の要因があるのか……いずれにせよ興味深い事象だ、実験対象が既に朽ちてしまったことが残念で他ならないがな」

そこまで言い切った後、ジオラスターは冷酷な目でリオンを見つめる。

「それでどうする? 私を殺めることは、貴様自身を殺すことと同義だが」

「…………」

「ふむ、やはりもう動けぬか……なに、案ずることはない。其方の妹が残した遺言を守れるように私も協力してやろう」

それは主人に殺意を向けた犬を、ここで処分するつもりはないということ。

リオンにとっては屈辱以外の何物でもなく、今すぐに死を選びたいのが本音。

なのにシルクの言葉が、絶対に自死を許してはくれなかった。

だって、そうだ。

ジオラスターからの命令は逆らえたとしても――

妹が残した最後の 契約(やくそく) を破ることなど、リオンにできるはずがないのだから。

「私、は――――」

死を覚悟した最後の決意すらも、この手からあっさりと零れ落ちていき。

こうして、シルクとの約束を守るために生きるだけの――抜け殻となったリオン・コルニクスの日々が続くこととなった。

結局、それからも何も変わることはなかった。

シルクを失ってからも、変わらずこの手を汚し続けてきた。

立ち止まりたいと思った回数など、枚挙にいとまがない。

それでも前に突き進むのは、あの子と交わしたたった一つの 契約(やくそく) のためだ。

そんな中、ジオラスターに受けた任務の一つが講師としてステラアカデミーに潜入することだった。

潜入任務であったのは確かだが……多くの可能性がある者たちを見届ける日々の中、彼女の胸に様々な思いが去来する。

それを決して自覚しないよう、学生とは一定の距離を空け、粛々とジオラスターに指令に応えるつもりだった。

――――そう。 彼(・) 、 ア(・) レ(・) ン(・) ・ ク(・) ロ(・) ー(・) ド(・) が(・) 現(・) れ(・) る(・) ま(・) で(・) は(・) 。

◇◆◇

(そうか……私は、負けたのか)

そして、現在。

その場に崩れ落ちて仰向けになったリオンは、体から大量に流れる血を見て自身の敗北を悟った。

ほんの前日までは、自分に手も足も出なかったはずの愛弟子。

にもかかわらず、【冥星剣エクリプス】と【リジェネ・ヴェール】という驚異の力を手にした彼は、こうして師に土をつけるに至った。

悔しさと誇らしさが胸中に同居する。

このまま死を迎えられるのなら、許されない生涯を送って来た自分にとってどれほどの救いとなるだろうか。

――――だけど、

たった一つの 契約(やくそく) が、そんな些細な願いすら許さない。

左腕に刻まれた呪印。

そこに込められた最後の力を思い出す。

――魔族化。

自身の肉体に『暗黒の加護』を受け取る最後の力。

その末路がどれほど険しくなろうとも、今、『生きる』ために選択しないなどリオンにはできない。

ゆえに――

「……すまない」

それが誰に向けて残した言葉なのか、もはやリオンにも分からないけれど。

―――――― 今(・) 、 白(・) き(・) 鴉(・) は(・) 黒(・) に(・) 染(・) ま(・) る(・) 。