軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9.惑わしの森のお見合い会場

「まあ~~っ、なんて白いの! それに美人だわぁ」

「綺麗な緑のお 髪(ぐし) ねぇ、素敵だわ」

「うちのキャロルちゃんとどうかしら」

「うちにはカンラちゃんがいるのよ」

「あらあら、照れてるわ」

「いや~~ッ、なんてかわいいの!」

黄色い悲鳴。

モッテモテだ。

もちろん猫じゃない。うちの白ラコラである。

開店した途端、目をつけられたのは『白ラコラの種』。

白ラコラを育てているのかと聞かれ、そうと了承したら、こう。

「うちの子とお見合いしてくれないかしら!」

猫は宇宙を見た。

お見合い……? ラコラの…?

駆け落ちじゃなくて……???

アルラウネにとっては植物は自分の子どものようなもの。大切に育てて根を繋ぎ、 下僕(しもべ) として扱う。アルラウネのツタで出来たような服には、そうした下僕の植物も含まれているんだって。

そんな下僕の植物として白ラコラは大人気。更に大切に育ててマンドラコラになれば、とっても可愛いし、とっても賢くて嬉しい! というわけらしい。

「この森にもマンドラコラは住んでいるんだけど、とっても気難しいの」

「それに、彼らはトレントと仲が良いから、わたしたちとは仲良くしてくれないのよね」

「トレントより大切にしてあげられると思うのに」

「ねー」とアルラウネたちが首を傾げてささやきあう。

ちなみにアルラウネは見た目は全部女性だ。本によると性別はない。たぶん無性花なんだろう。雄花雌花はないのだ。

子どもを持つという概念や親子という概念も特にないらしい。種から自発的に育って大きくなって、なんとなく周囲のアルラウネたちと集落を作ったりするのが常。つまり集落のアルラウネは同じ花から生まれた姉妹花の可能性が高いのだとか。

顔がそっくりで見分けが全然つかないのはそのせいもあるんだろな。

白ラコラたちをマイルームから連れ出すのには先日使えるようになった『散歩』が役に立った。一度指定するとぞろぞろ全てがついてくるので、これ本当にお散歩用なんだね。

アルラウネたちに褒められて大根がうねうねしているのはなかなか不思議な光景。 撮影(スクショ) しておいた。アルミハクさんに送っておこう。

「猫のうちのは白ラコラで、マンドラコラではないにゃんよ?」

「わかってるわ、異界育ちなんでしょう?」

「マレビトの異界には夜がないと聞くわ」

「夜しかないとも聞くわ」

マイルームの『青空の壁紙』のことかな? たしかにベランダにしても庭にしても昼しかないし、夜専門の『月夜の壁紙』もあるときく。

「マンドラコラに必要なのは昼と夜」

「それから、精霊もいなくちゃいけないわ」

「そして月夜には結婚式をするの」

「月夜の種だけがマンドラコラになるのよ」

「にゃあ」

そういう仕組みなのか…!

猫がマイルームでいくら育てても、マンドラコラになることはなかったということだ。畑で育ててたら生まれる可能性があったのかな?

あ、もしかして白ラコラたちがロニに集っていたのは精霊だから!?

ということはアルミハクさんは畑で精霊を散歩させるといいのかも? いや、精霊って気に入った住処があると外では出てこないから、ロニみたいに精霊 傀儡(くぐつ) にしないといけない?

「でもこの子たち、とってもいいわ」

「きっと月夜にはマンドラコラの種がなるでしょう」

「次は赤月夜だもの。精霊が祝福して素敵な子が生まれるわ」

「種が出来たら、あなたも持って帰ってあげてね」

「楽しみにゃんね~!」

白ラコラがマンドラコラになることはめでたい。めでたいが、マンドラコラには昼夜が必要ってことは、畑で育てないといけないんだよね……?

ちょ、ちょっと荷が重い気がしてきたぞ。新しい畑なんてそうそう買えないしなあ!

猫が内心迷っている間にラコラたちのお見合いはトントン拍子にまとまった。なにせあっちは植物を山ほど持っており、ラコラは引っ張りだこなのである。

白ラコラと組み合わせられなかった植物を持つアルラウネが大変悔しそうだったので、つい言ってしまった。

「白以外にも、青と緑、純白と紫もあるにゃん」

キャーッと明るい悲鳴が上がり、アルラウネたちは大盛り上がり。

「緑ならきっとバードマンドラコラになるわね!」

「青ならホースマンドラコラ」

「紫ならポイズンマンドラコラ」

「純白ならシュガーマンドラコラ!」

「すごいわ、選び放題ね!」

いろいろなマンドラコラがいるな…。新しい種が増えるのは嬉しいけど、畑がマンドラコラに支配されると思うとちょっと考えてしまう…。

でも猫、気づいてしまった。

もしかしてアルラウネ、『農業』のプロなのでは?

新しい情報源として頼ってもいいのでは。

「他にもいろいろな種があるけど、見てみるにゃん?」

「まあ、気になるわ! 見せてちょうだい!」

というわけで見てもらえることになった。

まずは『竜果の種』。

「あら、残念だけど、これはここでは育たないわ」

「火山の口で育つのよ。それか、もっともっと南にいくの」

「あるいは竜に抱かせて育てるのよ。とってもとっても熱がいるの」

「炎に浸けて育てたって伝説があったわね」

「火口に咲く花と一緒に育てるといいわ」

ほうほう。

これも猫のマイルームでは、これ以上は大きくならないやつだ。うーん、火につけて育てる……燃やせばいいのか?

次に『バロメッツの種』。

「まあまあ、悪魔の羊じゃないの!」

「珍しいものを持っているのね。もうずいぶん見かけていないわ」

「これは気温や地形にはこだわりないのだけども、食事にはとってもこだわるのよ」

「ええ、草や木を食べて育つの。だから森に植えてはいけないわ。周辺一帯を枯らしてしまうから」

「オイタするから、わたしたちは嫌い」

「にゃあ」

悪魔の羊、そういう意味だったのか。

これは植木鉢から出すことはなさそうだ。

次に『魔力の木の実』。

「これはよく見るわね」

「ええ、森にもよく生えているのを見るわ」

「木の実を滅多につけないだけで、珍しい木ではないものね」

「根気よく育てるといいわ。このくらいの木だったら、30年もたてば、木の実をつけてくれるでしょう」

「にゃん…」

30年か~。『タイムパス』を毎日かけ続けていたら、いつかは収穫出来るかもしれないね?

年単位でかかりそうだけど、気ままに魔法をかけるだけでいずれ木の実が手に入るならそう悪くない、かも?

それからまだ植えてない『金炎の種』。

「あら、これよ、火口に咲く花」

「竜の吹く火から生まれた花ね」

「決して水を与えてはいけないわ」

「水の代わりに火を与えるの。そうしたら、ずっと土を熱く保てるのよ」

「『竜果』も育つようになるわね」

「なるほどにゃん~!」

コンパニオンプランツだったか!

火で育てるということは、他とは隔離して育てた方がよさそうだ。

白ラコラがこのお見合いで一掃されてしまうので――いざ消えるとなるとそこはかとなく寂しさも感じなくはないのだが――、マイルームの庭が空く。

ベランダで『竜果』と『金炎の種』を育てて、庭では野菜やハーブ農園して、『バロメッツ』は植木鉢のまま倉庫部屋にでも移動して、観葉植物として生きてもらおうかな。草さえ食べられれば外じゃなくても育っちゃうみたいなので。

あれこれ話を聞いてもらって、白ラコラたちを送り出した。名目上は「家畜の繁殖用出荷」となり、なんだかちょっと心が痛い。いやこれまでもお野菜として出荷してたけども!

でも植物に詳しいアルラウネに任せるなら安心だし、なによりマンドラコラへ進化するというのならさせてあげたいのが親(?)心である。

月夜はもうちょっと先なので、赤月夜になったらまた来ると約束して村のGPSをもらった。

地図によると、迷いの森の一部から行けるようになっている。攻略サイトの情報にはなかったから、またアプデで増えたのかな?

何にしても、また崖崩れで落ちる必要がないのはありがたい。

そういえば、山羊を追い払ってたり、猫を助けてくれたのはトレントで合ってたんだろうか。

「……マウンテントレント、かしら?」

「フォレストトレントより厄介よね?」

「この森にはいなかったはずなんだけども、どこから来たのかしら?」

「かれらは枯れ山から生まれるの。フォレストではきっと相手にならなかったわね」

「困ったわ、あいつらは乱暴者だし、縄張り意識が強いから。村まで降りてきたらどうしましょう」

「フォレストトレントも心配ね」

どうやらトレントが2種類いるらしい。

山羊を追い払ってた赤茶けた枯れ木の方がたぶんマウンテントレントで、猫を助けてくれたのは苔むした緑の方がフォレストトレントと思われるそうだ。

後者は確実だけど、前者はちょっと謎。

「雨が多いとトレントが増えちゃうにゃん?」

「雨が多くても、木の種類が突然増えたりはしないものよ。誰かが持ち込んだのかも」

「マウンテントレントは、本当はもっともっと北に生えてるはずよ」

「にゃん~…」

猫知ってる。

魔物は基本的に、北にいくほど強いのだ。なにせ学園都市が北にあるからね!

南にも新mobは配置されているし、上級者向けのマップはあるけど、それはダンジョンや、初心者には到達が難しいフィールドがほとんどだ。

ましてトレント。

サイズの大きな敵は、猫とは相性がとことん悪い。

う~~ん、ちょっと知恵を借りるか。

『マウンテントレントってどこに出る敵にゃん?』

『にゃん? マウンテンならビオパールの近くにある山のどれかに出たはずだけど、素材が御入り用?』

『にゃん~、ドゥーアからの迷いの森にいるんだけど、マウンテントレントに侵略されてるらしいにゃん~、猫でも勝てるにゃ?』

『猫ちゃんLV30だっけ。……小さいやつなら遠くから火攻めすればなんとか……?』

『めちゃくちゃでかかったにゃんね~』

『それは手を出さない方がいいにゃんね~~』

『にゃん~~!』

やっぱり強いやつだった。

ビオパールはたしか適正LV50あたりだったはず。前にティアラさんが湖畔の街ビオパールで月夜を迎えたと聞いたから、調べたことがあるのだ。

うーむむ。別に依頼という形にはなってないけど(たぶん猫が適正LVに達してないからだろう)、ちょっと気になってしまうぞ。

『猫ちゃんや~、迷いの森にマウンテントレントがいる情報どこから?』

『アルラウネの村からにゃん~』

『また変なとこに行ってるにゃん~!』

『崖崩れで落ちた先にあったにゃんよ~!』

『崖崩れを修復した話とスマッシュゴートに襲われる話は見たけども!』

『スマッシュゴートに勝てなかったにゃん~!』

『敗北判定分岐…!?』

あ。

なるほど、スマッシュゴートにぶつかられた時点で猫のHPが砕け散って敗北判定だったのか…!?

『初心者専用ルートかな~』

『……猫、初心者は卒業したものとばっかり……』

『落ち込まないで! 風猫族の装甲が薄いのは種族特性だし! 俺もスマッシュゴートにぶつかられたら無理かもだし!』

『そこは耐えろにゃ』

『にゃん~~!』

さて、どうしたものか。

初心者にもどうにかなるルートがあるのか、それとも仲間を呼ぶ前提のルートか。これがMMOである以上、後者の可能性が高いが、前者がある可能性も捨てきれない。

『もし手が必要なら言ってね~~』

『にゃあ~、もうちょっと探してみて無理そうならお願いするにゃん~!』

フーテンさんたちに頼ってもいいんだけど、このクエスト、これといって彼らのメリットになることがなさそうなのだ。マンドラコラは別に興味ないだろうしな。

何もないとちょっと気が引けてしまう。

新しい発見があったらなあ。