軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20.裏切りの谷底へ

メールを終えたらそろそろ『転変』の制限時間。

ぽいんとイエネコ転変が解除されたのは裏道。積み上げられた木箱の上でお昼寝してたキジトラの野良猫ちゃんが片目を開けてこちらを見る。

お騒がせしてごめんよ。

「変な猫だと思ったら、お仲間か」

「にゃん!?」

しゃ、喋ったァ!?

「イエネコごっこはもういいのか?」

「にゃん…」

「それとも、何処かから逃げてきたのか?」

「にゃあ、逃げてくる人は多いにゃん?」

「そりゃあ、この島だからな」

…いや、まあ強制労働とかある島だし、リゾート地みたいな外観の割にブラックな島なんだろうとは思ってたけども。

ところでこのキジトラさんは何者だろうか。お仲間ってことは、たぶん化けてるってことなんだよね?

逃げた方がいいのか、それとも話をしてみるべきか。

……せっかくお猫さまと話せる機会を逃すなんてそんなもったいないこと出来るはずないんだけども! お話一択である。

「なんで追いかけられちゃうにゃん?」

「なんでって、理由はいろいろあるが、だいたいはこの島の利権に関わることだろうな」

「いろいろあるにゃんね」

「さっきは『ダイヤモンド』を持って逃げたやつがいるって騒いでた」

「にゃん?」

んん? 猫は『ダイヤモンド』とられちゃった方だから、猫のことじゃないよね?

「クハハ、そういうことにして、ダイヤモンドの採掘を囚人にやらせるのさ。刑期で縛って安心、全部吐き出さなきゃ救出してもらえないとなれば大抵のやつは従順になる。たまに弾けたのが出てくるけどな」

「にゃあ…」

なるほど、そういうルートでダイヤモンドのあるところへ連れていかれるわけか。

しかしそれを教えてくれるこのキジトラさんの謎が深まる。追手から逃げ延びられる街シナリオがあるんだろうか? それならそっちも気になります。

「猫、人のいないところへ行きたいにゃん。静かなところってわかるにゃん?」

「もちろんわかるぜ。化けてついてきな」

「ありがとうにゃん~!」

キジトラさんったら頼もしい。どこまでもついていくぜ。

……と思ってたのにな~~!

キジトラさんは、イエネコではなく、猫と同じくイエネコに化けた風猫族だった。同胞!

しかし猫を追いかけてた側のひとだった…。

「逃げてた猫1匹捕獲した」

「マティさん! ありがとうございます!」

猫は首根っこ捕まれて追手に差し出されてしまったのだった。にゃん~! お猫さまと風猫族にはいい猫しかいないって信じてたのに!

「にゃあ~!(嘘つきー!)」

「ボスの部屋は猫のたまり場だ。嘘はひとつもついてないさ。俺は正直者だからな」

「にゃん~!(にゃん~!)」

イエネコ状態だと喋れないのか。キジトラさんは喋っていたのに、猫ったら修行が足りないのかもしれない。

「猫になれるかと思えば、まだ赤ん坊だとはな。もう少し、賢くならんと生きていけねえよ」

「にゃあ…(にゃあ…)」

「餞別だ。生きて戻れたら里のフェネリを訪ねてみるといい」

「にゃん?(にゃん?)」

誰??

追手の手に渡された猫の腕に、キジトラさんがリボンのようなものを巻く。なんぞ?

「ま、生きて帰れる日がくるといいな」

ぽふぽふ、とピンクの肉球で撫でられると売られたのを許してしまいそうな気になるけどやはり許してはいけない気もする。……許さんぞ!

にゃんにゃん暴れてみたけど結局脱走はかなわず、猫は檻に入れられてしまったのだった。ちゃんと風猫族サイズの檻だった。大きくなってガシャーンバリーンというお約束は封じられていた。残念。まあ痛そうだからいいけどね!

その後、猫は檻ごと船に乗せられて、何処かの島へ連れていかれることになった。

「猫、どこに連れてかれるにゃ?」

「ダイヤモンドの採掘だよ。採って逃げようなんて考えねえこった」

檻の見張りをしていたおじさんが言う。

囚人がダイヤモンドの採掘を、てやつだな。このシナリオ、 猫はそこから脱走したと勘違いされているのだろうか。それとも持ち込んだことそのものが隠れ島ではアウトだったのかね。

船の中には檻がたくさんあって、中にはいろいろな人がいる。めちゃくちゃくつろいでる人がいて驚いたのだが、プレイヤーだった。本島からは出たから、ソロ限定は解除されているらしい。

そういえば弓使いに人気の狩場でmobが争奪戦て言ってたもんね。この檻の中の大半はプレイヤーと思うとなかなか心強い。にゃふん、猫を守ってくれ。

ちなみにキジトラさんが結んでくれたリボンは消えてしまった。アイテムじゃなくて印みたいなものだったらしい。

『妖精族の証』というのがステータスに増えている。猫はたしかに妖精族だけども、そういう意味ではなさそうな?

キジトラさんの言ってた里のフェネリって誰なんだろ。里とかいうからには種族クエストかもしれない。しかし風猫族は放浪の一族、里などないのだ。どこの里なんです?? そこからして不明よ。

うーむ、やることは増えたけど今出来ることがない。檻の中には何もない……おや? この天井のところ、何か書いてあるな。

『赤い光は堂々巡り。希望の色は青い。肉を食む鳥はもっと自由かもしれない』

暗号か何かか?

檻の中の希望ってことは、脱出の鍵は青ってことかね。鳥の方は謎だが『もっと自由』てことはそっちのがいいってことなんかな?

船はそうかからず新しい島へ到着したようで、檻ごと猫たちは外へ運ばれていく。ちらっと見えたけど、高いふたつの山を中心に広がる島だ。

山の麓には天然の 転移施設(ポータルポート) があり、これで谷底へ運ばれるらしい。天然のポートがあるってことはつまり、山そのものがダンジョンってことだ。

檻から出されて、ポイポイとみんな転移させられていく。猫もポイと放り込まれて谷底へ到着。

ここで『ダイヤモンド』を採掘した後、何処かにあるポートを見つければ山の麓へ帰れるらしい。そこで再び捕まるわけですね、わかります。

しかし猫はマレビト、いざというときは『リターン』するだけなので気楽だ。もちろん、何かしら損失を補填出来るものを入手してから、とは思っている。

谷底は意外と広く、そして岩がゴロゴロと転がっている。川でもあるかと思いきや、乾いていて水気はない。

南北に延びる道、東西は切り立った崖。どこまで登っても続きそうな岩壁が続いている。登って脱出はまったく現実的ではないね。

マイルームへは入れないダンジョン区画、ということで一度しまわれてしまったルイたち従魔も、直接召喚できない。召喚獣のレトは召喚し直せるけど、ここがどういう場所かわかるまではやめておく。無駄に死なせたくないしね。

MPコスト的に岩妖精のレキは召喚しっぱなしになっているようだが、どこにいるかわからないしなあ。

とりあえず周辺をしばし観察していたが、動くものはなさそうなのでおそるおそる歩き出す。何か出てきたらすぐ死にそうよ。

岩壁にはときどき洞窟のような空洞がある。落石避難所なのか、それともそういうところでダイヤモンドが掘れるということなのか。

そういえば採掘道具とか渡されてないんだけど、どういうことなの。素手? 素手なの?

あの空洞がセーフティーエリアになっている可能性もあるし、試しにひとつ、入ってみるか。

と、近づいてみたらでかい蛇が寝てたのであきらめる。ポユズさんのいってた洞窟はこの空洞のことらしい。蛇を倒さない限り、中には入れなさそうだ。

あと鳥のmobがいるっていうけど、まだ見かけない。もうちょっと進まないと出てこないのかも。

とりあえず『ダイヤモンド』が拾えるという川を目指してみよう。水音を探せば辿り着けるはず。

しばし歩いていくと、細い川の流れにたどり着いた。川といっても深さは足首ほどの水深しかなくて、流れもちょろちょろ。地面から染み出るような流れだが、水はやたらとキラキラしている。何が光ってるのか覗いてみると、川底が採取ポイントになっている。

「んにゃ!?」

おお、最初から『ダイヤモンド』だ!?

品質は低品質で小粒だが、たしかな輝き。

ほくほくと採取して、また見つからないかと川の採取ポイントを探しつつ辿っていく。

今度は水場を発見。

水場には洞窟とは別の種類の蛇と、羊のmobがいた。メエメエさまほどではないけど、あの羊もでっかいな。そして角もでっかくて強そうだ。水場にも採取ポイントはあるけど、近づけそうにない。

水場はあきらめるか、と道を引き返そうとすると、突然、真っ暗になった。

「ギエエエエ―――!!」

そして上空から奇声。伏せつつ上を見上げると、なんとまあ、太陽を隠すほど巨大な鳥が降ってくる。そして羊を鉤爪で捕らえて、また飛び立っていく。

わあ…。

これは時間で鳥が降ってくるやつ?そばに羊や蛇がいないと猫が狙われたりする??

周辺にプレイヤーの姿はない。ここにいるより、プレイヤーの多そうなところに合流したほうが安全なはず。進んだ方がよさそうだ。空を警戒しつつ川沿いを北へ進んでいく。

『マジックセンス』も駆使してみたが、『ダイヤモンド』が拾えるのは川沿いだけみたいだ。南は水場が多く、北は上流で流れが太くなる。

それにしても、ルイがいない移動、めっちゃ大変。やはり召喚獣で予備の騎獣を用意しておく方がいいかもしれない。ファントム系騎獣の捕獲方法、調べておかねば。たしか購入も出来たはず。うううう、お金が、お金がぁ!

川を遡っていくと、洞窟からはみ出ている大きな蛇の死体を見つけた。ドロップアイテムを採らないと一定時間、mobの死体は消えない。誰かが通った後なのかな?

しばらく待ってみたけど誰も来ない。ドロップ剥いじゃおうかな?と思わなくもなかったのだが、これほど大きい獲物のものを勝手に剥ぐのは気が引ける。

ハイエナはあきらめたが、もしかして洞窟に誰かいるかも?ということでちょっとお邪魔。

空洞の中はかなり狭くて、洞窟と言えるほど広くない。すぐ行き止まり。セーフティーエリアではなく、マイルームには帰れない。そして誰もいなかった。

代わりに奥の壁に魔法陣のようなものがあり、手を触れるとポワンと赤く光る。

『転移しますか?』

いいえ。

ふむ、これかな「赤い光は堂々巡り」は。たぶんこれで転移すると山の麓へ戻っちゃうんだろう。青い光の転移ポータルを探すのが正規クリアルートっぽい?

問題は猫に蛇が倒せそうにないことだな。

「鳥はもっと自由」てことは鳥を使って島を出るルートがあるのかもしれない。

『ダイヤモンド』を探しつつ、さらに上流へ進む。

すると、なぜか肉塊が落ちていた。

うん、なにこれとっても生肉…。ピンクで赤くて塊のステーキ肉みたいな、いかにもな肉である。

なぜ突然こんなところに生肉が……ああ!?

七つの海って、「シンドバッドの冒険」か!