軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19.ダイアモンド騒動

にゃあん…。

街全体が白い壁で同じような建物ってほんと迷路。持っててよかった『地図作成』。それにしてもわかりづらいな!

ときどき赤でバツ印が書いてある家があるのが救いだ。それを目印に出来る。しかし看板とかもないし、何の目印なんだろう。区画整理で建て直しとかだろうか?

大通りと違って、裏道は静かでちょっと怖い。ときどきワアッと大声が聞こえてバタバタ音がするんだけど、すぐ静かになる。

隠れ島全体がダンジョン区画扱いなのも相まって、突然敵が出てきたりしないかドキドキしちゃう。出てきたら猫は即死である。ポーツ直送。さすがに街中でそんなことはないと思うけど。

さっきから看板を見つけては読みつつ進んでいるんだけど、意外と薬屋と武器屋が多い。お金があったらちょっと覗いていくけど、今は金欠病だ。ついでに借金まである。悲しい…!

早く『ダイアモンド』を売らねば。

ええと次の看板は……

「『ダイアモンド換金所』?」

……『ダイアモンド換金所』!?

そんなそのままな店ある???

看板を見上げたままちょっと呆けてしまったが、たしかに『ダイアモンド換金所』と書いてある。

ええ…。間違いなくここだと思うけど、思うけどそれにしたってなんかこう……あるじゃん!

文句をつけても何も始まらないので、店内へ……そもそも店なのかこれ? わからんけど、入ってみることに。

「いらっしゃいませぇ」

店の中はごく普通の、雑貨屋のような佇まい。天窓の日除けなのか天井から布が張られていて、刺繍の模様の影が出来ている。蜘蛛の巣のような、レースのような。

カウンターはなく、テーブルには瓶が並んでいる。まるで薬屋みたいだけど、中身は透明で不揃いなごつごつした石や、赤っぽい石。たぶんダイアモンドなんだろうなあ。赤いのはガーネットかね。

「にゃあ…、ここで『ダイアモンド』を買い取ってくれるにゃん?」

「まあ、『ダイアモンド』を持ってきてくださったの? 歓迎いたしますわぁ」

店主なのか、店員なのか、ちょっと独特なアクセントのあるお姉さんが対応してくれる。民族衣装なのか、頭から布を被っていてちょっとアラビアン。

ポーツもそうだけど、隠れ島も文化が入り交じっているな。港町ならなんでもありだ。

「ではこちらへ『ダイアモンド』を置いてくださる? 鑑定いたしますわぁ」

「にゃ、鑑定にゃん??」

このゲームには『未鑑定アイテム』というものは一応存在する。いわゆるアーティファクト――ドロップもしくは宝箱などからのみ入手できる生産不可のアイテムは、未鑑定品として出土するからだ。

鑑定するまで装備や使用することが出来ないのが特徴で、『真贋』を鍛えると派生する『鑑定』スキルを使うか、NPCの鑑定師に頼むと鑑定できる。ちなみに『鑑定』スキルは不人気スキルだ。というのも鑑定師はどの街にもいるし、スキルがなくてもアイテムの鑑定はある程度出来るからである。

そもそも未鑑定品そのものがレアであんまりでないってのもあるけど、ドロップにしても宝箱にしても、出てくるアイテムって限られてるからね。

プラスして未鑑定のままNPC売却が出来てしまうので、査定価格でだいたい判別がついちゃうのである。これはバグではないかと言われているが直らないので仕様らしい。

そんなわけで、NPCが売却にたいして「鑑定を」なんていってくることはまずないのだが。

うーん、怪しい……。

でも猫、宝石の売買は初めてなんだよなあ。宝石店もいったことがないし、演出としてこういうのがあるのかも?

それにここ以外で『ダイアモンド』売れるところがあるかわからない。

ちょっと気になるところはあったが、『ダイアモンド』を指定された台の上に置く。

すると台がぴかりと赤色に光った。

「まああ! 大変ですわあ~!」

「にゃん?」

お姉さんが大袈裟な身振りで驚きを口にした。うん、身振りは大袈裟だが驚き方がなんというか、大根? 明らかな演技だ。

ど、どういう演出なんだこれ??

「神聖なる我が島に、偽物の『ダイアモンド』が持ち込まれるなんて、不届きにもほどがありますわ~!」

「にゃん???」

どゆこと???

「まだ見つからないのか?」

「あんな目立つ容姿をしているのに…」

「シーッ、マティに目をつけられるぞ」

「おっと」

「…! そこに誰かいるのか!?」

「にゃ~ん」

にゃんにゃん。私は猫。ただの猫。

「なんだ猫か……シッシッ」

猫ですよ~。

『転変の面』により猫に『転変』した猫だけど。

尻尾をつんと上げてしゃなりしゃなりと裏道を行く。

いやいや、突然なんで猫なのよっていうね。

猫もいきなり追われる身になるとはびっくりしたわ。

あの「偽物ですわ~!」された後、ドヤドヤと入り口から人が押し寄せて、あれよあれよという間に猫は捕まってしまったのだ。

ルイたちと分断しそうになったのでその時点で帰還させて、猫は隙を見て『転変』して逃亡。だって牢獄脱出シナリオとか猫には荷が重すぎる。さっさと逃げてしまうが吉、と思ったのだ。

こういうイベントって店を出たら無効になるパターンもあるっていうから、それを期待して。

残念、無効になりませんでしたね!

『ダイアモンド』の偽物を売ろうとした猫として、すっかり追われる立場になってしまったのである。なんてこったい。

イエネコ転変で誤魔化されてくれるのはありがたいんだけど、でも効果時間は15分だし、気をつけねば。

隠れつつ追手の話を聞いてみたところ、やはり捕まったら牢に入れられるみたい。そして強制労働が待っているとか。ええー…。

強制労働は嫌だけど、店に奪いとられてしまった『ダイアモンド』は取り戻したい。だってあれは今の猫の全財産みたいなもんなのだ。無一文になっちゃうぅ!

というわけで必死に逃げつつ、情報を集めているところだ。

どうも島にはダイアモンドが取れる場所?があるらしい。そしてそこで採れる以外のダイアモンドが島へ持ち込まれると困る、みたいだ。ダイアモンドの採掘契約がどうのこうの…。うーん、隠れながらでは話がよくわからない。こんなことなら金欠を恐れずいろいろな店に入って情報収集しておけばよかった。

そもそもこのクエストのゴールってどこなんだろ。逃げ切ったらオッケーなのか、いや逃げ切るって何処へ? クエストの順路はどこなの?て話でもあり、猫もネコしながら考えている。うにゃうにゃ。逃げたのは失敗だったのかなあ。でも強制労働…。ぐぬぬ。

一番困るのは捕まって強制労働、これが何らかの魔物と戦うもので、やられてポーツ送還コース。ただ取られただけで終わっちゃう。

次に困るのは『ダイアモンド』を奪い返すシナリオが始まるパターン。これもたぶん戦闘系が含まれるだろうから無理。

くぅ、ゆるゆる観光で済ませたかったんだけどな~! 猫ったら持ってる。はい、アイテム持ちすぎ疑惑…。『ダイアモンド』は箪笥にしまっておけばよかったね。

物陰に隠れて箱座りしつつ、少しでも情報がないかと掲示板を調べる。ええと、隠れ島………、おや、制限スレだ。ニンジャスレの方は読めるけど、魔弓士スレは読めない。

ニンジャスレは……、ニンジャの師匠がいるのか。それはちょっと楽しみ、だけどこの状況の打破には向かない情報。

魔弓士スレの方は、狩場情報か、あるいは弓や矢を作る職人でもいるのかな? 覗けないスレは無駄に気になってしまう。

更に調べていくと、青月夜スレにちょっと隠れ島の話題があったっぽい。しかしスレの勢いがすごくて、いろいろなところの青月夜の話が流れてくるから全然だめだ。ざっくりみたところ、青月夜に船で辿り着いたところまでの話しかないっぽいし、駄目か。

うう~~ん、八方塞がり。

『【悲報】猫、追われる身となる』

『なにやらかしたの猫ちゃん?』

秒で返信がくる大商人に木箱から身を隠しつつ追手のスクショを撮って送ったところ、すぐ返信があった。

『何もやってないにゃんよ~!』

『何もやってないがいちばん怪しいにゃん~』

『にゃん~『ダイアモンド』を売ろうとしただけにゃん』

『ダイアモンド……、なんか聞いたことあるような』

『もしなにか知ってたら教えてほしいにゃん~、捕まったら強制労働らしいにゃん』

『あ。そうだ、猫ちゃんや、それ『七つの海』クエストだわ』

『七つの海にゃん??』

フーテンさんによると、これは七つの 海(というかダンジョン) を冒険するクエストのはじめの一歩らしい。

『最初に行く、強制労働で連れてかれる島は弓使いに人気って話だったはず』

『そういえば魔弓士スレが引っ掛かってたにゃんね。制限付きで読めなかったにゃん』

『魔弓士ならポユズが読めるかな~、まあたぶん狩場情報だと思うよ。猫ちゃんの適正LVではないだろうから『リターン』しちゃった方がもしかしたらいいかもしれんね』

『にゃああ~~、『ダイアモンド』とられちゃったにゃん…』

『ああ~…、なんか入場料的にとられるらしいねえ』

もしかして、だから低品質『ダイアモンド』がやたらと高かったのか。消耗品だったのね。

うう、納得はしたけどそれなら『ダイアモンド』は返ってこないってことだ。悲しい。せっかくの通常品質『ダイアモンド』だったのに!

『大損にゃん…』

『にゃん~…』

落ち込んでいるとポユズさんからメールが来た。

『ラン、『七つの海』踏んじゃったんだって? 最初の島は弓使いが大量にいるから、mobの取り合いになってるって話が掲示板に出てたよ。逆に安全かもしれない』

『にゃん!?』

『鳥と蛇のmobがいるようだけど、鳥は特に争奪戦みたいだよ。蛇の方は洞窟にしか出ないらしい。川があって、そこで『ダイアモンド』が拾えるんだって』

『にゃにゃん!?』

『死に戻るかもしれないから安易には勧められないけど、一度行ってみてから決めてもいいんじゃないかと思って。あちらの島へ行っても、『リターン』は出来るそうだよ』

『ありがとうにゃん~! 一回行ってみるにゃん!』

大損が少しでも取り返せるなら、行く価値は十分ある。せっかく開いたクエストだ、楽しまなきゃ損だもんね!

『希望が出てきたにゃん~! ありがとうにゃん!』

『よかったにゃん~、気をつけてねえ!』