軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21.いざ冒険!

七つの海に大きな鳥とダイアモンドの谷といえば、もっと早くに思いつくべきだった。

シンドバッドの航海は諸説あり読む本によって航海の内容が違ったりするけど、いちばん有名なのはルフ(ロック鳥)とダイアモンドの谷のお話だろう。

いろいろあってダイアモンドの谷へ落ちたシンドバッドが、落ちていた生肉にしがみついて巨大な鳥に谷底の外へ運んでもらう、というエピソードがある。

つまりこれは原作通りの展開だけど、実際に生肉が落ちてるのってめちゃくちゃシュール!!

一応近寄って誰かがアイテムを捨てていったのだろうか、とか、罠の一種だろうかと調べてみたけど、どうやらオブジェクト採取らしい。

採取してインベントリに入れると肉塊は消えた。

取得した『生肉の塊』はかなりの重量級アイテムだった。そしてなんと装備できる。まさかのバックパック的に肉を背負う装備だ。特殊効果などない。鳥に狙われやすくなるだけのクエストアイテムですな。ずっしり重いので、足が遅くなるオプションつき。

となれば、生肉を装備して鳥を待てばよいのでは?

ドキドキしつつ、生肉を背負ってみる。ネッチョリ…と思ったがそんなことはなく、ちょっと冷たいスライムのような触感だった。

しばらく待つと奇声が聞こえて、突風が吹き、ガシッと生肉が捕まれてちょっと浮いた――! と思ったら落ちた。

『キエエエエ――……』

あっ、死んだ。鳥さん死んだ!?

あわてて起き上がると、こっちへ向かってきていたプレイヤー弓使いが舌打ちと共に立ち去っていった。

もしかしなくても鳥を倒した人か!

このゲーム、ドロップの取得優先順位というものがある。最優先取得権は初撃でも与えたダメージ量でもなく、そのとき攻撃のターゲットにされていたものが得る。つまりこの場合は鳥に捕まれてた猫。せっかく倒したのにドロップ優先権がなくて、弓使い氏は立ち去ったわけだ。

猫はせっかく脱出できるとこだったかもしれないのに邪魔されて複雑なのだが、弓使い氏が舌打ちしたのもわかるのでなんだか気まずい…。また襲われると二の舞になりそうなので、生肉は脱ぐ。

この鳥に関しては猫に優先権があるので、ありがたく鳥のドロップは剥いだ。さっきの蛇もそういうお互い相手を知らんまま攻撃しちゃった的なやつで取ってなかったのかもしれない。弓使い同士だとたまにあるよね。

まじまじと鳥を観察してみるが、かなり大きい。翼が猫3人分(縦並び)くらいある。名前は『アイランドバード』。冒険者ギルドの討伐依頼で見たやつだ。オレンジの翼でなかなかカッコいい。

ちなみに鳥のドロップはほとんど羽根だった。噂に違わぬ羽根の量。『秘島鳥の羽根』だって。これ、セルバンテスさんから受け取ったことがあるな。たしか秘島鵬と秘島鳥の2種類があって、鵬の方が24時間のロマン羽根、鳥の方は8時間だったかな。にゃふん、それなりに高く売れそう!

しばらく岩壁に寄って隅っこで観察していたのだが、復活した生肉へ向けて鳥が降りてくるようだ。そこで潜伏していた弓使いたちにズバズバ倒される。こんなにプレイヤーいたのかと驚くほどいた。

潜伏場所は主に岩壁の空洞で、ときどき岩影だったり、何もないところから出てくる。ニンジャ…!

これだけプレイヤーがいたら、生肉脱出を試みるのは邪魔になってしまうだろう。

となると猫は人の少ない下流へ生肉を持っていって、鳥を待った方がよさそうだ。こちらより下流の方が心なしか鳥が小さかった気がするし、きっとそちらが初心者向けだろう。

よし、来た道を引き返すぞ。

マップを確認……おや? 誰かフレンドが近くにいるな。もしかしてポユズさんが来てくれたんだろうか? いや、でもそれなら「来たよ!」て声をかけてくれそうな気がする。

とりあえず近くへ行ってみる。あちらのアイコンもこっちへ向かってきているみたいだし。

「おや」

「にゃあ」

あれ意外、でもないか。

やってきたフレンドアイコンの主は、執事ことセルバンテスさんだった。まさかの戦闘装備も執事ルックだ。

「こんなところでお会いするとは奇遇ですな。まさか自ら材料調達に?」

「にゃん~、青月夜の幽霊船で来たらここに放り込まれちゃったにゃんよ~」

「おやおや。さすが持ってらっしゃる」

セルバンテスさん曰く、ここは鳥追い人にとっては夢の狩場であるらしい。

「人呼んでシンドバッ 島(とう) 」

「大冒険にゃんね」

「捕まればイチコロでダウンにございます」

クリア方法は猫の考えていた通り、青いポータルを探して転移で合っているそうだ。

「毎回場所が変わる上、誰かが使うと消える厄介な仕様ですが」

「当たるまで探すのは大変そうにゃんね~」

猫では探り当てる前に蛇に食われること間違いなしだ。

「まあ、現代のシンドバッドは『リターン』で帰還するものでございます」

「情緒がないにゃん」

わかるけどね!

ちなみに青いポータルで帰還した場合は海に出て、今度は海のダンジョンへ挑むことになるんだって。七つの海の大冒険、まさにシンドバッドですな。

「にゃあ、古典的シンドバッド脱出だとどうなるにゃ?」

「古典的、といいますと生肉下敷き脱出法ですかな?」

「そうにゃん~」

「現状、この谷底は弓使いが跋扈しておりますから、その脱出法は困難を極めますな」

「味方が敵にゃん…!」

「誠に残念ながら同士がご迷惑をお掛けしております」

う~ん、残念。

ちなみに魔弓士でもあるセルバンテスさんによると、生肉脱出についての言及はだいぶ前にあり、どこかの島へ上陸するらしい。しかしその後の情報が特にないので、そのまま『リターン』で帰還したのではないかとのこと。

「にゃん~、せっかくだから生肉脱出してみたかったにゃん」

「ふむ…、では提案なのですが、ランさん」

「にゃん?」

「ここで羽根の取引といたしませんか?」

「羽根にゃ??」

「はい。私は荷物がいっぱいになったら帰還する予定なのですが、もしランさんの荷物に余裕があるのであれば、ここでいつもの条件で羽根を持っていっていただければ、と」

セルバンテスさんは矢師なので、木の枝さえ拾えれば半永久的にここで狩りが出来るらしい。しかし最近は羽根も重要なので捨て置けず、アイテムがいっぱいになるのが早くなってしまった。そこで猫に羽根を預けることで荷物を軽くし、狩猟時間を長引かせたい。代わりに、猫が鳥に拐われることの出来る場所へ案内してくれるという。

「にゃあ、そんなところがあるにゃん?」

「北へ行くほど鳥が大きくなるように見せかけて、実はいちばん巨大な鳥は南に出る仕様なのですよ。その名もアイランド・ルフ」

「でっかそう」

「でっかいですぞ。こいつはバードと違ってなかなか倒せません」

「他の人に撃たれちゃうにゃん?」

「南側アイランド・ルフ狙いは北側より人数が少ないのですよ。それに逃げては戻ってきてを繰り返して倒す鳥ですので、なかなか倒せません」

時間効率が悪い上にレア率も低い(鳥は全般そう)なのであまり人気のないmobだが、ついで狩りとしてちょうどいいらしい。それにルフの方がバードより一回り大きく、ロマン羽根に使えると。秘島鵬がアイランド・ルフなわけね。

そういうことなら、猫も利用させてもらっても構わないだろう。

早速、セルバンテスさんから羽根類を預かる。猫はルイといるときはほとんどの荷物をルイに預けている。今回ももらったばかりだったアイテム以外は整理してルイへ預けていたので、羽根をもらっても猫のインベントリにはかなり余裕がある。

アイランド・ルフが出るのはもっと南とのことなので、道中移動しつつセルバンテスさんが襲ってくる鳥を狩ってくれることになった。護衛にもなるし預ける羽根も増えて一石二鳥、とのこと。ありがたや~。

猫のてけてけ遅い足に付き合ってくれているので、歩みはゆっくり。ギエエーとかアンギャーとかキエエーとか断末魔と奇襲の声がすごい。南の方がたしかに鳥は小さいけど、襲ってくる頻度が半端ない。猫、先にこっちへ来てたら即死だったな。危なかった。

そのうち猫は鳥がきても立ち止まらず先へ進み、セルバンテスさんが鳥を倒してドロップを剥いで追いつく、という形で落ち着いた。その速度でも追いつかれる猫の足って…! まあ身長低いからね。仕方ないね。

「そろそろアイランド・ルフがきますぞ」

「お肉背負っておくにゃん」

この生肉、『探検家のリュック』の上から被せるように背負えるのでよかった。リュック下ろしたらインベントリ激減しちゃうもんね。

猫が捕まれたのがアイランド・バードなら倒して、アイランド・ルフならお見送りだ。

「キケエエエ―――!」

奇声と共にまた暗くなる。思わず振りあおいだが、何も見えん。え、でかすぎてこの距離じゃ全貌がわからないってこと!?

猫はあわててさっと伏せた。わたしはお肉、美味しい生肉。

ガッと引っ張られるような衝撃があり、体がふわりと浮き上がる。目を開けるとサムズアップしたセルバンテスさんの姿があった。と思ったら横合いから矢が飛んできてびっくりした。

他の弓士も潜伏してた! ビュンビュン矢は飛んでくるが猫に当たることはなく、またアイランド・ルフには当たっても弾かれてしまっている。羽毛が厚い!

「ケエエエエエ―――!」

ルフがひと鳴きすると、周囲を風が渦巻く。『ウィンドカーテン』かな、と思ったらググンと前方へ体が引っ張られる。うわわ、加速だ!

あっという間に驚くほど上空へ飛び上がったアイランド・ルフには、さすがに矢はもう届かない。

谷底どころか島の全貌が見えるまさしく鳥瞰図を見下ろす。

脱出大成功!

……はいいけど、これから鳥さんはどこへ行くんだろうな?