軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

53.おとぎ話の乗り物

かくかくしかじかにゃん~~と流れを説明すると、裁縫師互助会からきた返事と同じように、『遺跡へ布を届けるクエスト』は初見だそうだ。

「真面目な冒険者、て言われたんですよね? ぼくハリボテついてるんで、そのせいで依頼されなかったのかもしれないですね!」

あー、『ハリボテ冒険者』か。

言われてみれば「真面目な冒険者」という表現は、『ハリボテ冒険者』を弾くための文言と思えなくもない。

裁縫師互助会も純生産支援クランというのだから、『ハリボテ冒険者』がきっと多いだろう。PTに入ってると依頼が受けられないとかだと、見つけにくくなってた可能性が高いか。

「もちろん第三からの新規、あるいは精霊解放からの新規クエとも取れます。なにしろ明日は噂の 赤月夜(あかづきよ) ! ううん、腕が鳴りますなあ!」

精霊解放、というのは件の2件の情報解禁(マレビトダンジョンと 鏡月夜(かがみづきよ) )のことを指すらしい。そこからの新規クエストなんてのもあるのか。

だとしたら、情報がまったくないのもうなずける。

「どんなぬいぐるみを作ったらいいか、まだわからないにゃんよ~。フレがレシピを手に入れたらしいけど、それがクエ限定レシピなのかどうかも今はわからないにゃん」

ペチカちゃんはイベントが更に進んで、専用フィールドにでも入ったようで、名前の先頭にバツ印がついている。これはログアウトはしてないが連絡は取れない、というマークだ。

PT解約されないのは良心的だが、一段落するまで連絡取れないのはちょっと不便。

「じゃあぬいぐるみのご依頼についてはフレさんが戻ってきてからにして、まず絨毯をお願いしてもよろしいでしょうかッ!?」

「了解にゃん~!」

作業台をお借りしてその上にルビーを呼び出すと、ポテンと現れる。

猫を見た後にクマ氏を見つけて飛び上がり、カーッと口を開けて威嚇したかと思うと地団駄を踏み始めた。あっ。いや、でもこれスキルじゃないやつか。

「わあ、めっちゃ不機嫌!」

「もっと絨毯に乗ってたかったのか、落ちたのが腹立たしいのか、ずっと怒ってるにゃんよ~」

「オーケイ! その不機嫌、このぼくが癒してみせましょう!」

クマ氏はそういうと、作業台の上の絨毯をファサアッと広げてルビーに見せた。

ルビーの嘴とよく似た赤色に、額縁のように金色のラインが入った、シンプルな絨毯だ。

ルビーがピタリと動きを止める。代わりにレトが肩から降りたがってる。もうちょっと待ってておくれ、ここひとんちなので。

早速ルビーは昨日のように絨毯の回りを跳ね回って点検を始め、レトはソワソワソワソワ。

「うちのマルモも絨毯、気になるみたいにゃ。見せてもらってもいいにゃん?」

「天才の所業が気になるのは当然のこと! 構いませんよ…」

フッ、と存在しない前髪を払う仕草をするのはなんなの、それはアクション? それとも自分でやってるのどっちなの?

…ログ見たらアクションだった。『カッコつけアクション』らしい。なんでもあるなアクション…。

許可をもらったのでレトを離し、移動は作業台の上まで、絨毯は触ってもよし、と許可する。

レトはてててっとルビーのそばにいくと、ルビーに先んじて絨毯に触った。あ。

案の定、ルビーに怒られる。これはルビー的に安全確認してたのに無視したから怒ってるっぽいな。うむ、レトが悪い。

怒られるレトをいったん『アポート』で回収し、点検を続けてもらう。

……。

再びの長い点検を終えて、ようやくルビーが満足げにムフーっと羽を膨らませる。レトを離すと、今度はルビーを差し置いて触ったりせず、ちゃんと待っている。偉いぞ。

「ではルビー先生、お願いします!」

ツピー!と高く鳴いたルビーが片手を上げると、絨毯はふわりと浮かび上がる。うん、ここまでは同じだな。

ルビーはふんすと気合いをいれるように息を吐き、ぴょんとジャンプして絨毯に飛び乗った。ああああ、レトは届かない。どんくささがここにきて…!

スーッと、絨毯が空中を滑るように飛ぶ。と思ったら止まった。

おや?

ルビーも首を傾げている。それからぴょんぴょんと絨毯の上を飛び回り、位置を調整する。

「ルビーちゃん、もしかして絨毯に乗っただけで操縦出来ることに気づいてます? 天才なのでは??」

「操縦できるにゃん!?」

「すごく単純な動きだけは出来るようにしてみました。いまルビーちゃんがしてるように、立ち位置を変えれば、足の向いている方向へ滑るようにしてあります」

言葉通り、作業台の上から飛び出していた絨毯は、ルビーがくるりと背後へ方向転換して、それまでの後ろを前にふみふみと足踏みすると、その方向へ進み始める。つまり作業台へ絨毯が戻ってくる。

レトを回収…! 偉いぞ、やさしいぞルビー!

ツピツピチッチとルビーが鳴き、レトがふんふんとうなずいている。

……え、そこ会話できるの!? なにそれうらやましいんだが???

2匹を乗せた絨毯がルビーの操縦でスイーッと滑っている。あまりスピードは出ないらしく、人族の歩行速度くらいだろうか。

このくらいの速度であれば転がり落ちることもないようだ。

「いい感じにゃんね」

「はい! ちゃんと空飛ぶ絨毯してます! うっ、よかったねルビーちゃん…」

元(?)ペンギン氏は飛べないルビーに思うところがあったんだろうか。いや、ありがたいけども。

「この絨毯って、買い取ることは出来るにゃん?」

「出来ますよ! むしろルビーちゃん用に作ったので買ってもらえると作り手冥利につきますね!」

「……おいくらにゃん?」

「効果を見るための試作品で、すぐ作りたかったので模様はかなり簡略化しちゃいましたし、魔法をかけてるのはルビーちゃんですし。…そうですね、材料費トントン、情報料、検証にお付き合いいただいた分、魔法代を差し引いて4万でどうでしょう?」

「安くなりすぎにゃん!?」

「魔法代11万ですからね!」

「そうだったにゃ! でもこれを猫たちが買うならおかしい気もするにゃ」

「正直者の猫さんには、ぼくも正直にお話ししましょう…」

クマ氏は両手を胸に当てて目を閉じた。この着ぐるみ、表情も動くからすごいな。

「実はいろいろ試算してみたところ、実用的な空飛ぶ絨毯はこのサイズが限界とわかりました」

「にゃん」

ルビーとレトが遊びまわっている絨毯のサイズは、ペンギン氏が売っていた絨毯より更に小さい。40cm四方のミニミニ絨毯だ。

「つまり人間の乗るいわゆるアラビアンナイトな空飛ぶ絨毯は、現状まだ見果てぬ夢なのです。このサイズで、しかもこの速度、ついでに魔法は自分でかける必要がある、となると需要はまったく見込めません…」

「にゃん~?」

そうだろうか??

星魔法の入手にもよるけど、スケボーのように乗る需要、ありそうな気もするんだが。

そう聞いてみると、クマ氏は首を振る。

「速度が一定ですし、ここまでしか出ないんですよー」

「にゃあ、でも人族の専業魔法師はこういうの助かると思うにゃんよ?」

「専業魔法師…? なんかありましたっけ?」

「なんかスキル?の組み合わせでスタミナがド底辺らしいにゃん? 街歩きがしんどいから街で乗れる騎獣を欲しがってたけど、人族は乗れないことに気づいて悲しんでたにゃん」

そう、街中騎乗が許されてるのって移動に制限がある小型種族だけなんだよね。

フーテンさんに「街移動にオススメの従魔とか召喚獣とかなーい?」て聞かれて「人族は街中では乗れないにゃ?」て返したら「……そうだった……」と絶望してたのは記憶に新しい。

「専業魔法師のスタミナ……ああ!!『 純魔の系譜(マギカ・ブラッド) 』! 」

「なんかそんな感じのやつにゃん。ガラスの靴だって聞いたにゃん」

「そう純魔はみんなシンデレラ、そうでしたね…、あまりにも縁遠い存在ですっかり忘れていました。その方面の需要ならなんとかなりそう、です? この速度なら街移動許可も取れそうですし、純魔なら星魔法も自力でなんとかするか…」

ルビーを見てると、魔法をかけ直してる様子がない。『フライ』は移動しなければ持続時間が長い魔法なのか、それとも絨毯の力なのか?

「この絨毯、一回魔法かけたらずっと浮いてるにゃ?」

「『付与持続』をパーマしてるんで、付与時間が3倍ほどに伸びてる計算です。それにしても長い気もするんで、元々が長めなんですかね?」

「物に使ったのは初めてだからわからないにゃん~。絨毯の効果は滑るのと『付与持続』にゃんね」

より細かくいうと、スマッシュゴートの毛を織り込むと出現するのは『軸転換』というスキルで、これは縦の移動を横に変換する…というようなスキルらしい。

つまりスマッシュゴートは落下による移動を横移動にも転換できるのでめっちゃ早い弾道を描けるし、横移動を転換できるので崖登りも速いのではないかと思われるそうな。

スマッシュゴートはおそらく星属性魔物だろうとクマ氏は憶測している。

『滑る絨毯』が滑るのは、自身の重量という重力を横方向へ転換しているからで、だからこそ滑り続けてしまう、らしい。

なる、ほど? 物理法則ほんとにそれであってる??

『フライ』が本来移動すると解けてしまう魔法なのに、この絨毯でだけは解けないのも星属性×星属性で複合魔法化しているか、計算上は縦移動と認識されていて解除されないかのどちらか。

たぶん前者?と思われる。

「うーーんしかし純魔の需要ですか…。実用として絨毯織れるのは嬉しいような、悲しいような。趣味の絨毯屋が廃業してしまう……」

「星魔法持ってる人だけの限定販売にしておけば、そんな急に需要拡大しないと思うにゃん」

「そう、ですね。実際15属性気づいている人も掲示板からするとまだ全然っぽいですし、その上の属性となると更に少なそうですね。純魔は魔法属性を絞ると聞きますし、更に少ないと見ていいでしょう」

うんうん、と納得したようにクマ氏はうなずく。

「そうと決まれば、ぼくも星魔法取得の旅に出なければなりませんね。チラッ」

「猫、お土産にもう1枚滑る絨毯が欲しいにゃん」

「強欲! あまりにも強欲!!」

チラッで察して情報を出すほど安い猫だと思われては困りますなあ!

…いや、猫だってさすがに 無料(タダ) で絨毯をふんだくろうとしてるわけではないのよ。

「ちゃんとお金払うにゃんよ~! お高くなる前に買うのが商人の鉄則にゃん? コネ入手にゃん」

クマ氏が絨毯そのものに『フライ』を付与できるようになったら絨毯のお値段が天井知らずになってしまう。

「なるほど賢い!同じ仕様でよろしければぐぐっと勉強させていただきましょう!」

「模様はちゃんとしたやつがいいにゃん~、大商人に売りつける用だから、お値段はそんなに気にしなくていいにゃ。色は落ち着いた緑がいいにゃん」

これは純魔の大商人フーテンさんへのお土産用だ。土産なのに金は取るけど。いや、さすがに高額だと土産としては受け取ってくれないだろうからこれであってるのだ!