軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

52.オレンジのクマ

「え? いや、あれはインプだよ」

違った!

いや、え、あれ?

「インプって、スプーキー・インプの??」

「うん。今でこそただの盗っ人で厄介者扱いされてるけど、昔はインプって言ったら、善き隣人って言って歓迎されてたって聞くね。その頃は、布を被った姿じゃなかったらしいよ」

「布を被ってなかったってことは、中身が見えてたにゃ?」

「そうそう、中身は小人だったんだって。ほら、小人商店街って言うだろう? 看板にはその姿を書いて、名前をつけるくらい親しい存在だったんだってさ」

へええ、変わった絵だなとは思ってたけど、あれがスプーキー・インプの中身なわけか。

このゲームでは小人も妖精の内だが、もちろん魔物としても登場する。インプはどっちなんだろ?

「スプーキー・インプはどこから来てるにゃ?」

「さあねえ、森の遺跡の方から来るって聞いたことがあるけど」

「こっちも遺跡にゃ?」

「遺跡というか、異界の扉だね。知ってるかい、遺跡からは地下遺跡へ吸い込まれることがあるって。あれは、落とし穴みたいに異界の扉が開いてるからって話だよ」

んん、ループした?

でもこっちは攻略サイトの地下遺跡について出たから、メエメエ様の異界の扉とはまた別??

ちょっとこんがらがってきたな。

雑談している内にも染色は進んでいく。

藍染と思われる鍋から何度か引き上げたり浸けられたりと繰り返して、緑から鮮やかな青へと変色を繰り返した猫のチュニックは、最終的に 山鳥(ヤマドリ) 色と呼ぶようなきれいな青緑に染まった。

洗って絞られてパンっと広げるとさっと乾く。この辺はさすがゲームというべきか。

「そら出来た、いい色になったよ!」

「ありがとうにゃん!」

『ドルイド・チュニック』は『ヤドリギのローブ』と名前が変わった。元々の刺繍は同系色に染まり、染料で変質したのか布の質感も少し硬くなったので、見た目はかなり変化している。

更に数値としては、魔力性能がぐんと上がった。魔法師装備に使えそうな性能。

こういう風に強化するパターンもあるのか。染色って、おしゃれに使うだけじゃないんだな。

強化だけあってお値段はそれなりにかかってしまったが、それはそれ。大半は情報料のようなものだ、後悔はない。きれいだしね!

「反物を手に入れたいんだけど、どこにいったら買えるにゃん?」

「うーん、マレビトが布を入手するのは難しいって聞いたことがあるよ。布の卸しで問題があるとかで」

「そういえば猫も聞いたことあったにゃん…」

うっかり忘れてた。

裁縫師が手に入れられないのに素人が簡単に手に入るわけないな。

「メエメエ様に納めるのは何も布だけじゃないそうだよ。綺麗に鞣した獣の毛皮でもいいそうだ。マレビトなら、そちらの方が入手しやすいんじゃないかい?」

「なるほど、考えてみるにゃん~!」

毛皮かあ。そういえば森のなかには熊も出てたっけ。

……。

う、うーん。猫にはそれも入手が難しい気がするぞ。ペチカちゃんに相談しよ。いざというときは札束アタックかもしれない。

ところで『トミコのハンカチ』、ナザールさんに見せた後インベントリにしまっておいたのだけど、『ハンカチの残骸』になってしまった。これは耐久0で破壊されたアイテム。

メタな話をすると回数限定好感度上昇アイテムか、アイテムを購入した工房限定の割符みたいなものだったのだろう。何もなければ、工房なんて直接訪れても一見さんお断りだろうしね。

おトミちゃんには感謝である。今度何かお礼の品でも持っていこう。

エドさんからメールの返信が来た。

『素材クエストをやった記憶がない。木材は伐採で手に入ったし、革もその辺の獣を倒せば手に入ったはずだ。たぶん素材クエストは『裁縫』限定だと思う』

ワイルドスローライフだった。

そうか、言われてみればたしかに、木材と革は現地調達が可能か。

『手が貸せるならそっちへ行こうかという話も出たが、メインが『裁縫』では俺たちは全然力になれそうにない』

『エドから連絡いってると思うけど、俺らじゃ何もわからんクエストだわ~~。良ければそっちにいる知り合いの裁縫クラフターに声かけてみるけど、どうする?』

エドさんからの追記に続き、フーテンさんからも来た。

裁縫師の紹介は嬉しいけど、互助会関連の返信が来てからのがいいかな?

『ありがとうにゃん~! 猫の知り合いに今声をかけてるところにゃ。お返事待ちにゃん~。もしこっちのご縁がなかったらお願いするにゃん!』

返信、そーい!

更にオードリーさんからも、2回目の返信が来ていた。裁縫師互助会から返答があったらしい。

内容としては、やはり従来のクエストに似ているが微妙に異なっており、ペチカちゃんの『布を探して』クエストは初見だそうだ。

『特に『遺跡に布を納める』というクエストは誰も受けたことがないそうで、詳細を知りたいとのことだ。もし互助会と連携をとってもいいようであれば、記載の工房へ『遺跡の件で』と告げてほしいと伝言を受けた。もし見知らぬ人と連絡は取りたくないというのであれば、このまま無視してもらってもかまわないよ』

メールにはGPSの添付があった。

工房持ち、ということは、クランハウスを物件で持ってるということだ。すごいな、結構規模の大きいクランなんじゃない?

いや、規模が大きくないと初心者の純生産支援なんて出来ないか。

ついでにもし手が必要なら、オードリーさんも用事が終り次第アルテザへ来てくれるそうだ。

裁縫師互助会は生産ではお役に立てるが、遺跡探索などには致命的に向いてないので、とのこと。うん、そこは純生産支援クランだもんね。

早速ペチカちゃんに、生産、遺跡探索ともに助力が得られそうな旨、にゃんにゃん連絡しておく。

『わあ、よかったです~! こちらも『布を見つけて』、ちょっと解決しそうです。全然思ってた内容じゃなくて、でもどうしてスプーキー・インプとあんなに会いやすいのかはわかりました。私のせいじゃなかった!』

おお、ペチカちゃんが晴れやかだ。

クエスト進行中で「落ち着いたらまた連絡します!」とのことだったので、猫はその間、裁縫師互助会の工房へいくことに。

えーと、工房はハサミ通りにあるのか。てことは、露店通りを突っ切る方が早い。しかし財布が心許ないので今回は周辺観光も兼ねて、遠回りするとしよう。

「みつけ、たァ!」

露店通りを曲がり、ハサミ通りへと繋がる小道へ入ろうとすると、突然前に立ち塞がられた。

「にゃん?」

「置いてっちゃうなんてひどいですよう!」

見知らぬどでかい着ぐるみである。

2m近くある、オレンジの4頭身クマちゃん。猫から見ると大迫力。

姿形も声もまったく、本当に見知らぬのだが、ピンとくるものはある。

「……ペンギンさんにゃ?」

「イグザクトリィ! よくわかりましたね!?」

現段階ではアルテザに顔見知りがいないもの。

熊の着ぐるみのサイズがこれだけ大きく、さらに裁縫師ってことは、たぶん中身は人族男性かな? 身長が高い種族は、他は総じて生産には向かない。

それにしても、着ぐるみのわりに機敏な動きだ。

「ちゃんと猫はもう行くにゃって挨拶したにゃんよ~」

「ウップス! これはもしかしてぼくの過失…? それは失敬! そんなことより実は手伝ってほしいことがあるのですよ」

「にゃあ、星魔法を掛けてほしいにゃん? 報酬によっては考えてもいいにゃん」

「金の亡者助かるぅ~! とりま1回10万でいかがでしょう!?」

破格!

いや、でも魔法を使うのはルビーだからな。

「ハッピー豆がほしいにゃん」

「あ~…、よし、ハッピー豆代として、1万上乗せします!」

「金払いのいいクライアントは最高にゃん~!」

そういうことじゃなかったけど、くれるというならもらっちゃうにゃん~!

一応魔法をかけるのはルビーなので、ルビーの機嫌次第では対応できないことも話したが、ペンギン氏の返事は「ノープロブレム!」だった。

「あのドゥドゥーちゃん……ルビーちゃんは、空を飛ぶ夢を見た同志…。ぼくはあのとき、魂で共鳴しました。必ずやあの子は協力してくれるはずです!」

「にゃん…」

ルビーが落下して機嫌が悪いんじゃないといいんだが。

ペンギン改めクマ氏に案内されたのは、猫の目的地でもある『ハサミ通り』だった。クマさんもここに工房兼店舗があるらしい。さてはお金持ち…いや、そうか、大商人だったな。

「店から入ると恥ずかしいんで裏から入りまぁす」

そう言いつつ、細い通りへ入り、民家っぽいドアをくぐる。

中は作業場といった雰囲気で、ボアやファー、こちらの世界なら普通に毛皮かな? 毛足の長い生地がところ狭しと積まれている。

「毛皮を扱ってるにゃん?」

「ぼく、革工の裁縫師なんですよ。鎧とか縫うのが本職なんですけど、そればっかりだとつまんないんで。最近はぬいぐるみと絨毯がマイブームです」

クマがその場でくるりとターンすると、まるで出来映えを誇るかのようにキラキラとエフェクトが出る。これはダンスアクションのラストターンってやつだな。

プレイヤーがメインストーリーで踊ることになるダンスは、ダンスアクションを組み合わせてちょうどいいタイミングで押すミニゲームだったらしい。そのラストにターンを決めてキメポーズするアクション。これだけやたらと汎用性が高いという噂。

それはそうと、せっかくぬいぐるみの話題が出たのだ、聞くだけ聞いてみるか。

「ぬいぐるみって、おいくらくらいで作ってもらえるもんにゃ?」

「お。ぬいぐるみに興味がおありですか!? 着ぐるみですか、家具ですか、それとも身代わり店主?」

「身代わり店主も気になるけど、今回はたぶん、クエスト納品に使うにゃん」

「おや? アルテザのクエストです??」

クマ氏は話しながらも作業場の奥へ向かい、猫にも手招きをするのでお邪魔する。

中には大きな 織機(おりばた) があり、隣の作業台には3枚の絨毯が積み上げられていた。

えっ、あれからもう織ったの!? プレイヤーの生産作業速度ってどうなってるんだ。

「そうにゃん、たぶんクエスト関連だと思うにゃん」

「依頼、お受けするので差し支えなければ詳細聞かせてもらっても?」

「構わないにゃんよ~!」

やったぜ、棚からぼたもち。なんでも言ってみるもんだな。