軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51.アルテザの昔話

「『プライドを捨てろ!』ですか…」

ペチカちゃんと総合施設前で合流、共に入手した情報について交換して話し合う。

ペンギン氏?

あのあとまたネズミの着ぐるみプレイヤーが来て回収していってくれた。なんでもペンギン氏、裁縫界隈ではそこそこ名の知れたプレイヤーらしく、表に出るのを好まない。しかし人と交流するのは好きなので、ときどきペンギン姿でうざ絡みして憂さ晴らしをしているらしい。

アルテザ拠点の人は大体絡まれたことがあるので絨毯屋やペンギンの前は素通りするのが普通なんだとか。そんなに絡んでるんかい。

めちゃくちゃに滑った絨毯もしっかり回収されたようでよかった。

問題はルビーがちょっと不機嫌なことだけだ。もっと絨毯に乗りたかったのか、それとも落ちたことが腹立たしいのか。まだまだルビーの機微はちょっとわからない。

ちなみにレトも不機嫌だ。レトは「絨毯乗りたかった!」という不機嫌なんだけどね。猫ではなく、ルビーに怒ってる。誘ってくれなかった!てな具合らしい。

ルイやレトの感情は、行動とか表情とかである程度察することが出来るし、たまに絵文字?のフキダシが出たりもする。これは『魔物の心』効果だね。レトは絨毯の絵がポワンて出たから察した。

でもルビーはまだ全然だ。フキダシも全然出ない。これが好感度の差なのかもしれん。

『魔物の心』があっても、機嫌が悪いことしかわからんもんなあ。

「うーん、私が見る限り、あのクエストってそういう話じゃないっぽいです。とても求婚用の布を用意してるようなジレジレもだもだ感はありませんでした。愛憎渦巻くって感じで」

「にゃん~、工房名も違うみたいにゃんねえ」

ペチカちゃんは工房名でミニクエストがないか探し、該当がなかったらしい。

猫が「プライドを捨てろ!」のクエストではないかと確認してもらうと、流れとしては似てなくはないが、同じと言われるとちょっと納得いかないという。

「むしろこのクエストを踏みたかったです私…!」

ペチカちゃんは愛の宅配便をしたかったようだ。残念だったね。

「でもあれが素材提供クエストってことならちょっと納得です。工房の中、すごく布がたくさんあって、買えないかな~て思ってたんで」

プレイヤーが布を扱うには、NPCから布を購入するか、『織布』スキルを取って布を織る必要がある。もちろん大多数のプレイヤーは布を買おうとするわけで、在庫は不足する。

それで低ランク帯では「そもそも買えない」という状態に設定されているそうだ。ランクを上げるまで布を買うことが出来ないので、布を使いたければ他の製作をしてランクを上げるか、『織布』スキルを取るかを迫られる。

マケボでも布類は、価値のわりにかなり高い商品なんだそうだ。

「とてもじゃないけど手に入るレシピじゃランク上がらないと思ってたんですけど、こういうクエストが隠れてたんですねえ」

「素材が手に入らないっていうのも困るものにゃんねえ」

ジョブもそれぞれ、いろいろ事情があるものだ。

錬金術は素材はともかくレシピが手に入らないけど、あれも何かクエストが隠れてたりする? 今度自由都市で探してみないとな。

錬金術といえば、初心者装備の『圧縮』ではハズレ枠と思ってた『木綿の布』も、『裁縫』にとってはもしかしたら当たりの部類だったのかもしれないな。

「それから裁縫の神のお告げですが、オススメは特にないみたいです」

「にゃあ、特殊パターンにゃんね」

「『紡績に励みなさい』とか『運針を精進なさい』とかスキルのオススメはしてくれるみたいなんですけど、レシピについてはオススメされた例は、確認できませんでした。スキル『ぬいぐるみ』なんて、さすがにありませんし…」

ぬいぐるみ作成スキル、たしかに攻略サイトにも載ってない。

うーん?

「特殊パターンってことは、クエスト的にぬいぐるみを作る必要があるのかもしれないにゃ。まずは『ぬいぐるみ』のレシピを探してみるのはどうにゃん?」

「あ、レシピは発見できたんです。問題は、私のスキルLVではおそらく歯が立たないことですね…!」

布もまだ扱ったことがないので、とペチカちゃんは肩を落とす。

これはもしかして、隠者の村みたいに多めに人を巻き込むべきクエストなんだろうか?

ぬいぐるみを作ってそうな人、で浮かぶのはさっきのペンギン氏だが、ほぼ初対面の猫たちの依頼なんて引き受けてくれるかどうか。

それ以外でアルテザにいる知り合いなんて……あ。

「にゃん~、ちょっと猫のフレに声をかけてみてもいいにゃ?」

「このままだと失敗確実な気がしますんで、むしろお願いします!」

ペチカちゃんに許可を取って、連絡するのはレッサーパンダ商人のオードリーさんだ。

元々「アルテザついたら連絡おくれ」って言われていたし、ちょうどよいだろう。本人はまだ学園都市にいるようだが、たしか裁縫の互助会クランに知り合いがいるって話を聞いた。

ペチカちゃんは裁縫初心者だし、話を聞いてくれるんじゃなかろうか。

そうと決まれば、かくかくしかじかにゃん~~と状況説明のメールをにゃんにゃん送る。

お返事はすぐ来て、件のクエストについて裁縫の互助会クラン(そのまま『裁縫師互助会』らしい)に問い合わせてくれるそうだ。

…やはり商人の基本はメール返信が秒じゃないとダメなんだろうか?

それから、裁縫だけじゃなくて木工や革工からもクエストがあったりするのかも?と気になるので、ついでにエドさんにもメールを送っておく。かくかくしかじかにゃんにゃんにゃん~~。

錬金術は廃都のクエストでは無力だろうしなあ………、いや、第三追加クエストならワンチャンあるんだろうか?

「うーん、『プライドを捨てろ!』を踏まえて、『布を見つけて』クエストをもう一度考えてみようと思います。お互いに相手を思っている可能性、という視点が私には欠如していました。くっ、憎しみは愛からしか生まれないというのに…!」

「頑張ってにゃん~」

ペチカちゃんは相変わらず猫にはわからない世界を見てるな…。

そんなわけで再び別行動だ。

オードリーさんから裁縫互助会の返信、それからエドさんの返信を待ちつつ、猫も情報収集。

まずは初志貫徹してナザールさんの染色工房へいってみよう。

ペチカちゃんの方の話がどう転がるにしろ、遺跡へ納めるという布は手に入ってた方がいいはずだ。

「遺跡へ納める布? それなら反物がいいって聞くよ」

お。

ナザールさんの工房について、『トミコのハンカチ』を見せて話をしたところ、そんな話題が出てきた。

ちなみに何の依頼もないのに工房を訪れるわけにはいかんだろうと、これまで着ていた『ドルイド・チュニック』を染色してもらえないか、という依頼を出してみた。これは生成色なので染色可能ではないかと思って。

結果、ヤドリギの布は緑寄りの青になるけどそれでよければ、と依頼は受けてもらえている。

そして染色作業を見せてもらいつつの雑談タイム。話してくれるのは店主のナザールさんじゃなくて、奥さんのザリさん。

「反物、てことはずいぶん大きいにゃんね?」

「うん、あれはメエメエ様に納める布だからね」

「メエメエ様にゃん?」

あ、そっちはやっぱりメエメエ様なの?

「おや、知らないかい、メエメエ様」

「通り雨のことをアルテザではそう言うって聞いたことがあるにゃん~」

とりあえずわかってることだけ言ってみる。

「そうそう、通り雨のこともいうんだけどね、昔話があるんだよ」

「昔話にゃん?」

ザリさんの話によると、アルテザは昔から裁縫の街だったわけではなかった。木工や革工の素材は豊富だったけど、糸になる素材はそれほど多くなかったらしい。畜産出来るほどに広い土地もない、小さな街だったそうな。

あるとき雨と共にメエメエ様という巨大な羊が群れを引き連れて現れたそうな。その先頭には獣面の半裸の男がおり、こう告げた。

『服をよこせ。よこしたら雨をやませてやろう』

そして群れの羊たちが、脱皮するようにスポポンと毛を脱いでいったそうな。

雨があまりに長く降り続くので、アルテザのものたちはその大量の羊毛を紡いで布を織ったり、服を作ったりして、男が現れた場所へ納めた。

すると雨は止み、元通りの晴れ間が広がったんだとさ。めでたしめでたし。

……メルヘンだなあ。

そしてこの昔話がアルテザの裁縫の始まり、と言い伝えられているのだそうだ。

「だからアルテザでは今でも、雨が降ると布を外へ干すんだよ。そうすると雨が早く止んで、通り雨で終わるのさ」

あの雨ゾーン?のときのやつは、洗濯物を取り込んでいたんじゃなくて、逆に雨が降ったから外に出してたってこと? それは不思議な習慣だな。

「布がよくなくなるって話もメエメエ様にゃ?」

「そうそう、メエメエ様が取っていくっていうねえ」

「にゃあ、スプーキー・インプが持っていくのかと思ってたにゃん」

「あはは、スプーキー・インプはいたずらものだからね! 雨に乗じて布を取っていくものもいるってきくねえ」

それはいるのか。

メエメエ様とスプーキー・インプは別物、で確定かな。

「どうして遺跡に布を納めるにゃん??」

「アルテザはこれからの時期、本当によく雨が降るようになるのさ。それが出来るだけ小規模に、大雨にならずに済みますように、ていうおまじないみたいなもんだね」

「へええ~~」

雨乞いならぬ 日和乞(ひよりご) いの一種かな?

獣面の男っていうのがちょっと『獣の神』ぽい気もするけど、『獣の神』とは言わないから違うのかね。うーん、兄弟神で『かくれんぼの神』みたいに片方いないとか?

いやいや、憶測にはまだまだ早すぎるぞ。でも似たような登場人物がいたらイコールで結びたくなるのは人の性であるからして。

「メエメエ様はその後どうなったにゃ?」

「山へ帰っていったそうだよ。今でも山奥にはごく稀に現れるそうで、出会ったものは大量の素材を手に入れることが出来るってさ」

ほ、ほう? それメエメエ様、倒されてない??

それともシークレットミニダンジョンかなにかが出るってことだろうか。

「そうそう、それも服にしてお返ししないと祟られるそうだよ」

「徹底してるにゃんね~。お返しする場所はその遺跡にゃん?」

「ああ、遺跡は異界の扉へ繋がっているそうで、供えるとスゥっと消えていってしまうんだよ」

そういえば地下遺跡ダンジョンの入り口が廃都近郊にはたくさんあるって、攻略サイトにも書いてあったっけ。あれも異界の扉がポコポコ開いてるってことになるのかね? 関係あるんだろうか。

それにしても獣面。

獣面、なんか引っ掛かるんだけど、なんだったっけ? 神殿の社殿でお面売ってたのも獣面だったけど、それじゃなくて……あ!

「お店の看板によく書いてある絵ってメエメエ様を模してるにゃん?」

そうそう、看板によく書いてある、顔が犬だったり馬だったり鳥だったりいろいろだけど二足歩行のあれ。あれは獣面の男、と言えなくもないのでは?