軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55.魔物よりうるさいのは

そう思ったときだった。通路の奥から、不規則な振動音が地面を伝ってきた。

ヴァイオレットが魔素探知を展開すると、三体の大型魔物が一直線にこちらへ向かっているのが分かった。

「敵、三体。突撃型、魔石反応あり。来るよ」

ザンザスが鼻で笑った。

「ハッ、上等だ。邪魔な小虫は俺様がまとめて蹴散らしてやる」

「行動パターンは直線的だ。挟撃される前に正面を叩くべきだな」

ヴィリオは魔術式を構築しているようだった。

「任せとけ、オレが先にぶつかる!アルバスは氷の盾を頼む!」

「……了解」

アルバスは短く頷いた。

だがそのとき――

「っ……あ……うう……」

ラベンダーが、通路の中央で動けなくなっていた。

両手を胸の前に握り、顔をこわばらせている。

声は出さないが、明らかに硬直していた。

ヴァイオレットは眉をひそめた。

(なぜ真ん中で立ち止まってるの……)

「ラベンダー、無理しないで。僕たちがいるから」

ヴィリオの声は穏やかだった。

「心配いらねえ。ラベンダーは守られる側だろ」

ザンザスが軽く笑いながら言う。

「オレが絶対守るって言ったろ?心配すんな!」

ルーファスは前方の魔物をにらみながら剣を構える。

「……指一本触れさせない」

アルバスが動き、ラベンダーを守るようにバリアを構築する。

(……足を引っ張ってるって自覚はないのね)

そんな中、魔物が突撃してきた。

【連鎖電撃】

先ほどと同じように詠唱すると、魔物に伸びた電撃の矢が分岐し、近くの2頭も焦がす。

「ラベンダー、怖かったら目を閉じていて」

ヴィリオが優しく声をかけ、詠唱を続ける。

「……っ、ありがとう……」

か細い声が返る。

ルーファスが一体を相手取る。

ヴィリオの援護魔法で速度を落とされた敵に、ザンザスが残りの魔物に力任せの斬撃を浴びせて倒す。

【レーザートラップ】

ヴァイオレットの詠唱で残りのすべての魔物がサイコロステーキと化した。

彼女が魔力を収束させると、ルーファスが駆け寄ってラベンダーに声をかける。

「ラベンダー、大丈夫か?怖かったろ!」

「ううん……ありがとう、みんながいてくれたから……」

(ダンジョンでやることじゃないでしょ……)

ヴァイオレットはそのやり取りを見つめながら、心の底で深いため息をついた。

ローワンが後方から静かに歩いてきた。

その視線には、明らかに呆れの色がにじんでいた。

「騒がしかったな」

その言葉に、ヴァイオレットは小さく肩をすくめる。

「魔物よりうるさい連中がいたからね」

ローワンは珍しく、小さく苦笑した。

「……あれで特別枠ってのは、ちょっとした皮肉だな」

「ほんとにね。はあ、疲れた」

「……お前の魔法、精度が上がってたな」

その瞬間、ヴァイオレットは肩をすくめ、少しだけ目を細めて言った。

「前から気になってたんだけど、私には『ヴァイオレット」って名前があるの。『お前』って呼ぶの、やめてくれない?」

ローワンは一瞬、明らかに固まった。

「……えっ、あ、いや……」

いつも冷静で静かな彼が、めずらしく視線を宙に泳がせている。

「……ヴァ……」

そこで詰まり、言葉が途切れた。

普段なら澄ました顔で論理的に返してくる男が、今は明らかに挙動不審だった。

眉間に力が入り、目はあちこちを泳ぎ、口元は引きつっている。

「……えっと……その……ヴァ……ヴァ……」

顔が、見る間に赤くなっていく。

耳まで真っ赤に染まっていき、ヴァイオレットの胸の中に、くすぐったいような高揚感が広がっていく。

彼女は待った。

何も言わず、まっすぐ見つめて。

ローワンが、ついに覚悟を決めるまで。

そしてようやく――

「……ヴァイオレット」

ひときわ小さな声で、それでも確かに、彼女の名前を呼んだ。

その瞬間、ヴァイオレットの口角がゆるむ。

「よろしい。合格」

そのやりとりを、少し離れた位置から見ていたラベンダーが、表情を曇らせていた。

男たちの会話にも入らず、ただ目を細め、口元をきゅっと引き結ぶ。

ヴァイオレットだけは、その視線の温度に気づいていた。