作品タイトル不明
34.空虚な家
ヘンリー、チャールズ、テレンス、ダレンの四人は、ヴァイオレットの後を追って飛び出した。
しかし、彼女の姿は、どこにもなかった。
「……くそっ、どこ行きやがった」
チャールズが苛立たしげに舌打ちする。
ダレンは荒い息を吐きながら、あたりを見渡した。
通りには誰もいない。
石畳の道が月光に照らされているだけだった。
ヴァイオレットの走る足音は、もうとうに聞こえなくなっていた。
「テレンス、痕は?」
ヘンリーが振り返る。
テレンスは地面を見ながら数歩進み、そっと指先で石畳を撫でた。
しかしすぐに首を振る。
「ないね、全部消してる。魔力の痕跡もきれいさっぱり」
「そんなことできんのかよ」
チャールズが顔をしかめた。
「うん、できるみたいだね」
テレンスは肩をすくめた。
「気配も足跡も、魔法の痕跡すらも……まるで最初から存在してなかったみたいだ」
「……俺たちのこと、そんなに嫌になったってことか」
ダレンが拳を握る。
「違うだろ」
テレンスが溜息混じりに言う。
「ここにいちゃ、彼女が壊れちゃうから逃げたんだ」
誰も何も言えなかった。
ヘンリーは、暗い通りをぼんやりと見つめていた。
「戻るか」
彼がそう言うと、誰も反論しなかった。
家の中は、ヴァイオレットがいなくなったからか、妙に広い。
四人は食堂のテーブルに腰を下ろしたが、誰も言葉を発さない。
チャールズは腕を組み、テレンスは指を組みながら考え込んでいる。
ダレンは沈黙し、ヘンリーだけがぼんやりと椅子に寄りかかっていた。
沈黙が続いた後、チャールズがゆっくりと口を開いた。
「おい、ヘンリー。お前、わかってんのか?」
ヘンリーは気だるそうに視線を移す。
「何が」
「ヴィーがなんで出て行ったかって話だよ」
「そりゃ、ドロシーと合わなかったとか、噂のこと気にしすぎたとか……」
「はぁ~~~……」
チャールズが盛大に溜息をついた。
「お前、本気で言ってんのか?」
「いや、違うのか?」
「違えよ!」
チャールズがテーブルを拳で叩いた。
「お前が何もしなかったから、ヴィーはここにいられなくなったんだよ!」
「何もしなかったって……俺は良かれと思ってドロシーを受け入れたんだぞ」
「それがダメだったんだよ」
テレンスが静かに言った。
「僕ら、何も考えずに受け入れて、ヴィーに負担を押し付けたんだ」
「……でも、ドロシーも行くとこなかったし」
「だからってヴィーが我慢するのが当たり前だと思ってたのか?」
「我慢?ヴィーは何も言ってなかっただろ?言ってくれれば、考えたかもしれないのに」
「言わなかったんじゃない、言えなかったんだろ。とっくにパーティーの一員だと思ってたっつーのに……変な所で遠慮するから……」
チャールズは苛立たしげに椅子から立ち上がった。
「ッチ、お前のそういうとこが駄目なんだよ。気にしてないふりして、全部流して……自分が悪いって気づきもしねぇ」
ダレンが、硬い声で呟く。
「俺は……ヴィーを守りたかった。でも、何もできなかった。いや、俺も傷つけてたんだろうな」
「……俺たち三人も、もっとヴィーの話を聞いてやればよかったよ」
テレンスが溜息混じりに言う。
「俺ら、最低だな」
チャールズがぼそっと呟く。
チャールズが背嚢を手に取った。
「……俺は今のお前とは組めねえよ」
「俺もだ」
ダレンが続いた。
「僕も、無理だね」
テレンスもためらいなく言った。
ヘンリーは、ぽかんと彼らを見た。
「……お前ら、本気で言ってるのか?」
「マジマジ、大マジだよ」
「俺らのパーティーはもう終わりだ」
三人は武具を手に取ると、迷いなく扉へ向かった。
「じゃあな、ヘンリー」
チャールズが短く言い、扉を開けた。
冷たい夜風が吹き込む。
そして、三人の姿は朝焼けの中へ消えていった。
扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
ヘンリーは、一人ぼっちになった食堂で、椅子に座ったままぼんやりと天井を見上げる。
「……なんで、こうなったんだ?」
彼には、まだよくわからなかった。
だが、かつての仲間はもう、誰もいない。