軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30.新たな住人⭐︎

生き残りの女冒険者はドロシーと名乗った。

野営地のある村へと戻る道中、ドロシーはほとんど口を開かなかった。

彼女の歩みは遅く、時折ふらつきそうになるのをヴァイオレットが支えた。

ドロシーの体力はまだ十分ではなく、何よりも彼女の心は深く沈んでいるのがわかった。

――身寄りはない。

それだけでなく、唯一の拠り所だった仲間たちも、もういない。

昨晩、ヴァイオレットは女性冒険者の立場について考えた。

生理的な問題だけでなく、周囲の目や偏見、そして守るべきものがないことの孤独。

それらと向き合いながら生きていかねばならない彼女らに、できるだけ親身に接すると決めたばかりだ。

ヴァイオレットは、ドロシーの肩をそっと抱き寄せた。

「まずは、温かいものを食べましょう」

ドロシーの唇がかすかに震え、彼女は小さく頷いた。

村に戻ると、ヴァイオレットはすぐに食事の準備に取り掛かった。

【創造】したサシェと交換に、村娘に絞めた鶏を譲ってもらった。

それに加え、こっそり【創造】したマッシュルームを使う。

今日のメニューはチキン・フリカッセだ。

ヴァイオレットは手際よく鍋に油をひき、タイムとにんにくを入れて香りを出す。

鍋の中でタイムがパチパチと弾けるのを、5人の冒険者たちがひしめき合って見つめていた。

次に、皮目を下にして鶏肉を鍋に並べた。ジュワッという音とともに、香ばしい匂いが立ち上る。

鶏の皮目がパリッと焼き上がったところで、薄切りにした玉ねぎとマッシュルームを加え、炒める。

水と調味料を入れ、ぐつぐつと煮込んでから水分を飛ばす。

最後に牛乳とバターを加え、焦げ付かせないように火加減を調整する。

やがて、とろりとしたクリームソースが鶏肉に絡まり、深みのある香りが漂った。

「さあ、できたよ」

湯気を立てるチキン・フリカッセがおのおのの木の器に盛り付けられた。

ドロシーはそっとスプーンを手に取り、ひと口食べる。

途端に、彼女の目が見開かれた。

「……おいひいよぉ……」

言葉と同時に、ぽろぽろと涙がこぼれる。

ヴァイオレットは驚きながらも、何も言わなかった。

ドロシーの肩が震え、小さな嗚咽が漏れる。

「こんな……こんなに、おいしいもの、久しぶりで……」

ヘンリーはその様子を見つめ、ぽつりと言った。

「なあ、この子うちで預かればいいじゃないか」

自分も食べようとしていたヴァイオレットはスプーンを握ったまま、手を止めた。

「……え?」

他のメンバーも、驚いたようにヘンリーを見た。

「部屋はどうするの?」

テレンスが尋ねると、ヘンリーはあっさりと答えた。

「屋根裏に二人寝れるだろ」

ヴァイオレットは愕然とした。

(屋根裏……? いや、確かにスペースはあるけれど……)

彼女が言葉を探している間に、ドロシーが目を輝かせた。

「いいんですか!?」

腰掛けていた丸太を蹴るようにして立ち上がり、ヘンリーに飛びつかんばかりの勢いだった。

「まあ、いいんじゃないか?」

チャールズが肩をすくめた。

「俺たちみたいな男所帯に女一人でいるより、二人の方が何かと分かり合えるだろ」

ダレンは「確かにそうかもしれない…」と考え込み、テレンスは溜息をつきつつも、「まあ、どうしてもってんなら」と反対はしなかった。

ヴァイオレットは小さく息を吐いた。

――仕方ない。

それに、ヴァイオレットとて血戦の誓約者たちの好意で屋根裏に住まわせてもらっている身だ。強くは言えない。

ドロシーは、まるで生まれ変わったように生き生きとしていた。

「ありがとうございます! あたし、精一杯働きます!」

ヴァイオレットは、嫌な予感がした。

(……パーティーメンバーとして受け入れたわけじゃないけど)

「あ、あの……あたし、ロクな育ちしてないんです」

ふとドロシーは腹を括ったような顔で語り出した。

「冒険者になる前……盗賊の一味だったの」

一瞬、場の空気が凍った。

「……盗賊?」

チャールズが眉をひそめた。

「そう。あたしの両親、ずっと前に殺されてさ。住むところもなかったし、食べるものもなかった。そしたら、ある盗賊団の連中が拾ってくれて……いや、拾われたって言っても、ただの使い捨ての駒だったけどね」

ドロシーは自嘲するように笑った。

「荷物を運ばされたり、盗みに入るときの囮にされたり。酷いときは、やられる前にやれって言われてナイフ持たされたこともある。でも、そんな中でも、身のこなしだけは鍛えられたの」

彼女は言葉を切り、テーブルの上で手を握りしめた。

「そんな生活、続けていられるわけないから、ある日、あたしは逃げ出した。そしてギルドに転がり込んで、冒険者になったんだ。盗賊生活のおかげ?で、身のこなしには自信があるんだよね。そういうわけだからさ――」

ドロシーはまっすぐヘンリーを見た。

「……あたしをパーティーに入れてほしい」

ヘンリーは少しの間、彼女を見つめた後、ふっと笑った。

「お前、思ったよりしぶとそうだな」

「しぶといよ。木の根でも食って生きてきたんだから!」

「でも、俺たちのパーティーに入れるかどうかはすぐには決められねぇな」

「えっ」

ドロシーが焦ったように顔を上げる。

「そんなに簡単に決めることじゃないしな」

ヘンリーが落ち着いた口調で言うと、チャールズが肩をすくめた。

「まあ、確かにいきなり決めるのは早いわな。でも、とりあえず家には置いてやるんだから、しばらく様子見ってことでいいんじゃね?」

「そうだな。戦い方も見てみねぇと、どれくらい役に立つかわからねぇし」

テレンスも同意する。

「えー!?」

ドロシーが頬を膨らませて抗議するが、ヘンリーは軽く笑いながら首を振った。

ドロシーは一瞬考え込んだ後、ぱっと笑顔になった。

「じゃあ、頑張る!ありがとう、ヘンリー!」

「お、おう」

勢いよくヘンリーの腕に飛びつきそうになり、彼は苦笑しながら身を引いた。

その様子を見て、ヴァイオレットは再び内心やきもきする。

(……まあ、いいけど)

彼女が小さく息を吐くと、テレンスとダレンがクスクスと笑い合った。

「ドロシーの方が年上なのにな」

「ヴィーの方が大人っぽいよな」

ヴァイオレットは半眼で彼らを睨んだ。

「……何か言った?」

「いや、別に?」

とぼける二人に、ヴァイオレットは小さくため息をつく。

(騒がしくなりそうね)