軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28.救出の道中

ヴァイオレットと血戦の誓約者たちは、オークの巣の近くの村へ向かっていた。

陽射しは強いが、日本ほどの蒸し暑さはない。

空はどこまでも高く、澄み切っている。

旅路は静かだったが、彼らが森を抜け、視界の開けた道へと差し掛かったときだった。

「おい、財布を置いていきな」

野盗だった。見るからに貧相な身なりをしており、手にした剣は錆びついている。

男たちは五人ほどいて、いずれも痩せこけた体躯をしていた。

彼らの目は血走り、焦燥と飢えの色を滲ませている。

ヴァイオレットはわずかに肩をすくめた。

(……つまらない茶番ね)

相手が野盗程度なら、ヘンリーとチャールズの剣技をもってすれば、何の苦もないだろう。

案の定、ヘンリーとチャールズが前に出た瞬間、戦いはすぐに終わった。

ヘンリーの剣は一閃し、敵の喉元を裂いた。

チャールズの刃は迷いなく突き出され、野盗の胴を貫いた。

悲鳴が響く間もなく、全員が地に伏した。

「ふん、こんなもんか」

チャールズが剣を振り払いながら言う。

ヘンリーは、何も言わずに武器を収めた。

ラベンダーやマーガレットの花咲く休閑地に、倒れた死体が転がっている。

その光景に、ヴァイオレットは一瞬、美咲の記憶の中の違和感を覚えた。

(こんなにも美しい景色の中で、血が流れている……)

かつてならば、グロテスクな光景に背を向けていただろう。

しかし、今は何も感じない。

美咲はヴァイオレットになった。

目の前の現実を、ただ事実として受け止めるだけの存在へと変わった。

彼女は慣れた手つきで、倒れた男たちの衣服を剥ぎ取った。

「……相変わらず容赦ねえな」

チャールズが苦笑する。

「イチから創造するより、元となるものがあったほうが楽なの」

ヴァイオレットは清浄化と補修の魔法をかけながら答える。

元の持ち主がどうなろうと、衣類はただの物に過ぎない。

ホーズもギャンベゾンも、新品同様に生まれ変わった。

これらは村で売れば、小遣い稼ぎにもなるだろう。

「ところで、これから戦いに行くんだし、剣のエンチャントをするよ」

ヴァイオレットは剣についた血を消しながら言った。

手入れは地味だが、怠ると武器の寿命が縮む。

それに、オークとの戦いを前に、強化しておくに越したことはない。

「俺は毒が気に入ってる」ヘンリーが即答した。

「じゃあ俺もこの前みたく炎で」チャールズも迷いなく言った。

ヴァイオレットはそれぞれの武器に魔法を込める。

過剰な加工は手入れを難しくするため、効果は一週間に設定した。

「おお、すげえ!」

ヘンリーとチャールズは、大喜びで野盗の死体に試し斬りをする。

毒を付与された刃が傷口を緑に変色させ、炎の力を得た剣が焼き焦がした。

「せっかく血をきれいにしたのに……」

ヴァイオレットはため息をつくが、彼らの楽しそうな様子を見て、それ以上何も言わなかった。

村に着いたのは夕刻だった。

魔物の脅威があること自体は珍しくない。

しかし、一度冒険者が失敗したことで、村人たちの恐怖は増しているのか、女子供は家にこもり、戸を固く閉ざしている。

「俺たちはAランク昇格間近のBランクパーティーだ!」

ヘンリーは村人たちを安心させるように言って回った。

実際、血戦の誓約者が動けば、オークの巣程度ならば問題なく攻略できるはずだ。

「今日は野営しよう」

夜が近づきつつある。

明日の戦いに備え、しっかりと休息を取ることが重要だった。

ヴァイオレットは改造した「中がとっても広いテント」を広げる。

中の構造は通常のテントとは異なり、快適な寝具と最低限の調度品が揃っている。

村の男たちが遠巻きに見ているのを感じたが、何も言わず作業を続けた。

そのとき、親の言いつけを破って外に出ていたのだろうか、ひょっこりと子供が近づいてきた。

「お前、なんで女なのに冒険者してんの?」

ヴァイオレットは、少し考えた。

「冒険者の仕事って、剣で戦うだけじゃなくて、薬草集めや調合、魔物の素材集め、荷物運び、縫物とか、いろいろあるのよ。気分によって好きなことができて、冒険にも行ける。私は魔法が使えるから、引っ張りだこなの」

なるべく親切に答えたつもりだったが、ヴァイオレットの言っていることが理解できていないのか、子供はつまらなそうに言い放ってどこかに消えた。

「ふーん。冒険者の女なんて結婚できなくてカワイソー」

わずかな悪意を感じ、ヴァイオレットは言葉を失った。

田舎では、女が結婚して家に入り、家事と育児に専念するのが当然のこととされている。

男は外で働き、女は家庭を支える――それがすべてであり、それ以外の選択肢など最初からないのだ。

冒険者として生きることに憧れる少女がいても、きっと周囲の大人たちに「そんなのは夢物語だ」と言われるのだろう。

そして、そうして生きる女をどこか「異質」なものとして扱う。

(……私は、この道を選んだけれど)

女性で冒険者になること。

それは、フィジカルの弱さや生理現象の問題だけではない。

周囲の目、それを当然のように向けられる偏見、それに抗い続けること――それらが、ずっとついて回る。

実際、ヴァイオレットがギルドの初心者講習を受けたときも、「女性冒険者は決して多くない」と告げられた。

ましてや、前線に立つ戦士や剣士ともなればなおさらだ。

女性は後方支援や魔法職の方が向いているとされ、力を振るう者は少ない。

思えば、ギルドでも戦士系の女性冒険者は珍しかった。

戦える女性がいないわけではないが、続けていくにはそれなりの苦労があるのだろう。

(……私には、それがどれだけ厳しいものか、本当の意味では分かっていなかった)

仲間たちと一緒にいるとき、ヴァイオレットは「女性」として特別扱いされることはなかった。

血戦の誓約者の面々は、彼女を一人の冒険者として接してくれた。

だからこそ、彼女自身も「性別を理由にした区別」にはあまり意識を向けてこなかったのだ。

だが――それは、彼女がたまたまラッキーだったからだ。

もし、ヴァイオレットに【創造】のスキルがなかったら、周囲の見る目は、きっと違っただろう。

(もし、私がもっと弱かったら……)

そう思った瞬間、ヴァイオレットの中に、ひどく苦い感情が広がった。

今まで、女性の冒険者がどんな思いでこの道を歩いてきたか、あまり考えたことがなかった。

自分はたまたま強いスキルを持っていたから、この世界で生き延びることができた。

でも、そうではない女性冒険者たちは?

生き残っている女性冒険者たちは優秀なスキルを持っているのかもしれない。

それでも、彼女たちはどれほどの偏見と戦い、どれほどの屈辱を味わい、それでも前に進んできたのだろうか。

(……今度から、同じ仲間としてもっと優しく接しよう)

ヴァイオレットは、静かに心に決めた。