軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22.初めての任務

初心者講習を終えて数日、ヴァイオレットは旅の用意をしていた。

今回の目的は「血戦の誓約者」たちと初めての討伐任務に挑むこと。

購入したばかりの杖を握りしめる。

【創造】およびそこから派生した魔法創造があるため、杖などなくても魔法は使えるのだが、「らしく」見せないと舐められる。

張りぼての装備ではあるが、杖を持っていると落ち着く気もしていた。

「お、準備は万端みたいだな」

声をかけてきたのは、リーダーのヘンリーだ。

甘いマスクに笑みを浮かべ、片手に愛用の剣を携えている。

彼の隣には仲間のチャールズが立っており、こちらも剣士として堂々とした佇まいを見せている。

「杖か。初心者講習で覚えた魔法を試すにはいいかもな。魔法使いらしい雰囲気も出てるじゃないか」

ヘンリーの言葉に、ヴァイオレットは少し照れくさそうに微笑んだ。

後ろから、盾役のダレンがぼそぼそと言葉を添えた。

「俺たちを頼れ……新人を守るのが先輩の役目だ」

最後に弓を携えたテレンスが、弦の張り具合を確かめながら口を開いた。

「まぁ、気張りすぎることもないよ。今回はヴィーがポーター兼魔法使いとしてどれだけやれるかを見るつもりでいる。のんびり行こう」

頼もしい言葉に胸を張る一方で、ヴァイオレットはまだ少し緊張していた。

だが、杖を握る手に力を込めると、初心者講習で習った魔法の基礎を思い出す。

あまり強力な魔法を使って警戒されたくないし、基本に忠実にいこうと決めていた。

エルムストンを出発して間もなく、広大な平原が視界に広がった。

遠くには、かつてゴブリンが巣食っていた洞窟が見える。

ここでの大規模討伐が成功したことで平原の安全が一時的に保たれたが、今度は別の魔物が現れたという。

「ゴブリンがいなくなったら、他の魔物がのさばる。皮肉なもんだよな」

チャールズがぼやくように言った。

「そのせいで村が困っているんですよね?」

ヴァイオレットが尋ねると、ヘンリーが頷いた。

「ああ。村の物資が足りなくなってるらしい。ゴブリンの被害で何人か怪我人も出て、治療のための薬が必要なんだとか」

「道が断たれてるとはいえ、そもそもこの辺の村は自給自足が基本だろ?」

チャールズが口を挟む。

「普段じゃ困るのは食材を運んでもらってる都市の方だが……ゴブリンの件で余計に疲弊してるってことだな」

テレンスが遠くを見つめながら言った。

「この辺りをうろつく魔物を退治すれば、交易路も復活するし、村の生活も落ち着くだろう。ギルドの依頼もその一環だよ」

ヴァイオレットは出発前、以前助けた商人を訪ね、商人ギルドの決まりごとを確認していた。

冒険者ギルドと同様、商人ギルドは各地の都市にあるが、影響を及ぼす範囲はその都市のみ。

エルムストンの商人ギルドはエルムストン都市部の商売にしか口を出さないため、城壁の外の村は管轄外だそうだ。

つまり、ヴァイオレットが村人相手に商人の真似事をしてもお咎めなし。

せっかく手に入れたスキルで好き勝手するのは好きなので、人助けがてら物資を売ろうともくろんでいた。

一日歩けば村に着いた。

村の手前には簡易的なバリケードが設置されており、木材を組み合わせた粗末な作りではあったが、村人たちが必死で守ろうとしていることが伺える。

「……冒険者ギルドから派遣された者だ。屋内でなくてもいい、一晩休ませてほしい。」

ヘンリーが落ち着いた声で村人たちに呼びかけると、バリケードの向こう側に数人の村人が姿を現した。

彼らは険しい表情でこちらを見つめている。

「本当にギルドからの派遣か?」

先頭に立つ年配の男性が疑わしげに尋ねた。

「これがギルドの書簡だ。」

ヘンリーは懐からギルドの証明書を取り出して見せる。

男性はしばらくじっとそれを見つめていたが、やがて静かに頷いた。

「わかった……だが、家の中には入れられん。焚火で野営するなら好きにしろ」

そう言うと、男性は他の村人たちに合図を送り、彼らは再びバリケードの陰に下がっていった。

ヴァイオレットが炊事の準備を整え、簡単なスープと塩パンを(こっそり【創造】を使って)仲間たちに配っている間、村人たちは依然として警戒心を隠さない。

遠巻きに見つめる彼らの目は、不安と興味が交じり合った複雑な色をしていた。

「ま、こんなもんだろ。知らない連中が剣やら弓やら持って押しかけてきたら、誰だって警戒するさ」

チャールズがスープを啜りながら呟く。いつもの軽口も少し控えめだ。

「その割には、ヴィーの手際には感心してるんじゃねぇか?」

テレンスが小さく笑う。

彼の視線の先、村人たちの中の年配の女性が、遠巻きに炊事の様子を眺めているのが見えた。

「……料理で人の心を和らげられるなら、楽なもんだがな。」

ダレンがぼそりと呟きながら、器用にジャガイモの芽を取って渡す。

ダレンはヴァイオレットが来てからというもの手伝いを率先してこなし、野菜を切るのはお手の物になっていた。

その手付きからは、冒険者という荒事に向き合う者には不似合いな優しさがにじみ出ている。

「気にすんな。最初から歓迎されるなんて思っちゃいないし、少しずつでいいさ」

ヘンリーが穏やかに笑いながらスープを飲み干し、再び剣の柄を確認する。

リーダーとしての余裕ある態度が、少しずつ仲間たちの空気を和らげていく。

道中でテレンスが鳥の魔物を射抜いていた。

ローストチキンにするつもりで、臓物は抜いてにんにく、ローズマリー、玉ねぎを詰めてある。

ヴァイオレットは鍋に鳥を入れ、ニンジンやジャガイモを周りに並べ、蓋をした。焚火に立てたトライポッド(三脚)に鍋を吊るす。

焚火の上でじわじわと温められる鍋の中から、ローズマリーとにんにくの香りがほのかに立ちのぼる。

それは警戒心を解かないままの村人たちの嗅覚を刺激するには十分だった。

「なあヴィー、あの鳥、味は大丈夫なんだよな?」

チャールズが鼻をひくつかせながら尋ねる。

「今まで野営で何を食べてたの…?テレンスが言うには、癖がなくて鶏肉と変わらないらしいから、きっとおいしいよ」

ヴァイオレットは落ち着いた声で答えながら、鍋の蓋の上に炭を置いて熱を均等に通す準備を整える。

「ふふっ、信用してくれてありがと。僕は故郷に住んでいた頃からこうやって暮らしていたからね。ほら、いい仕事しただろ?」

テレンスが肩をすくめて笑う。その軽やかな仕草は中性的な声色と相まって妙に魅力的だが、ヴァイオレットには相手をからかうニュアンスも含まれているのがもうわかるようになってきていた。

「まあ、香りだけで腹が鳴りそうだ。早く出来ねぇかな。」

チャールズがじれったそうに鍋を覗き込む。

「おい、落ち着け。蓋を開けたら熱が逃げる。」

ダレンが控えめに注意する。

ヴァイオレットは、焚火の隅に置いていた焼きリンゴを取り出すと、そろそろかなと思い、まず仲間たちに一つずつ渡した。

くり抜いた芯の部分にシナモン・蜂蜜・バターを詰めておいたのでおいしいはずだ。

「お、デザートか!さすがに気が利くなぁ!」

チャールズが手を叩きながら喜ぶ。

「へえ、焼きリンゴなんて、ずいぶん洒落てるね。」

テレンスがアルミホイルを剥がし、湯気の立ち上るリンゴを見つめる。

「……甘い匂いだ。」

ダレンが一口かじると、わずかに目を細めた。

その反応だけで、彼が気に入ったことを察する。

ふと気が付くと、再び近寄ってきた村人たちが、遠慮がちに焼きリンゴを眺めているのが見えた。

「多めに作っておいて正解だったわね。」

ヴァイオレットは村人たちに視線を向け、柔らかな声で呼びかけた。

「たくさんはありませんけど、お腹が空いているなら、どうぞ。」

焼きリンゴを手渡された村人たちが恐る恐る口に運び、その甘さに思わず目を輝かせた様子を見て、ヴァイオレットは胸を撫で下ろす。

鍋料理が仕上がり、ローストされた鳥肉が切り分けられる頃には、村人たちは少しずつ「血戦の誓約者」の周りに集まってきていた。

彼らの警戒心は薄れ、料理の香りと温かさに引き寄せられたようだった。

「結局、ヴァイオレットが全部持ってるな。オフの日だっつーのに、こんなもん買い込んでよ。」

チャールズが笑いながら言うと、ヘンリーが軽く肩をすくめた。

「こいつがいるから俺たちが助かってるんだろうが。黙って食え。」

テレンスは焼きリンゴを追加で焚火の隅に仕込むと、「ったく、優秀な新人だねぇ」と笑いながら手を動かしている。

ヴァイオレットは和らいでいく村人たちの表情を眺め、ござの上に服や薬草、調味料といった商品を並べた。

自分たちの立ち振る舞いや手の届く範囲の行動が、人の心に何かをもたらしているのだと実感していた。