軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20.ギルドへの疑問

ヴァイオレットは柔らかな布団の中で目を覚ました。昨夜は【創造】で作ったベッドのおかげで、久々にぐっすりと眠れた。

体の疲れはすっかり取れ、魔力も完全に回復しているのを感じる。

「やっぱり寝具って大事だなぁ」と独りごち、伸びをしてベッドを降りる。

朝食を軽く済ませたヴァイオレットは、昨日思いついた【アイテムボックス】の実験をすることにした。

革製の背嚢を前に「アイテムボックス」と念じると、バッグの中に虚空のような空間が広がる感覚がした。

試しにブランケットを突っ込み、さらに掛け布団を入れる。

結果、バッグの容量を明らかに超える物が収まった。入れた分だけの重さはしっかり感じる。スキルが進化したら重さも感じなくなるのかもしれない。

「これ、本当に便利だなぁ。でも、入れたものを覚えておかないと取り出せないのが難点かも」

「ブランケット」と念じながら手を入れるとブランケットが取り出せたが、何も念じないと手が虚空をかき混ぜるだけになってしまった。

入れたものを忘れてしまうと困りそうだ。

「入ってるもの全部出ろ」と念じてみた、すると、ブランケットと掛け布団両方吐き出された。

どうしても忘れたらこの手が使えそうだ。

この異世界で冒険者としてやっていくなら心強い機能に違いない。

朝の家事と実験を終えた後、ヴァイオレットはギルドに足を向けた。

クエストボードには相変わらず多種多様な依頼が貼り出されている。

「掃除、草刈り、荷物運び……これ、シルバー人材センターの掲示板と変わらないよね」

自分の思い付きに思わずクスリと笑ってしまう。

代筆や縫い物などの依頼もあり、それらを見てヴァイオレットは考え込んだ。

「こういう仕事って専門職がいるはずだよね。それを冒険者に頼んだら商売敵として睨まれない?

それとも、目こぼしされるくらいに報酬が低かったり、緊急性が低いってことなのかな」

ふと、美咲としての記憶から冒険者ギルドの設定を振り返ってみるが、よく考えるとその仕組みには多くの矛盾がありそうだ。

考えてみれば、ヴァイオレットがずっと受けていた薬草の採取だって、冒険者以外でもできないことはない。

農民や商売人にその暇がなく、何でも屋の冒険者に頼んでいるのかもしれないが。

「冒険者ギルドが商人ギルドと対立してるっていう設定も、わかる気がするなぁ。薬草でも魔物の素材でも、商人ギルドから見れば冒険者ギルドは中抜きの存在だもんね……

あとは、護衛みたいなリスクが高い依頼だと、どうして冒険者を無条件で信用できるのか不思議かも」

よく、冒険者が商人の護衛をするという描写を見掛けたが、あれも不自然だ。

規模の大きな商会なら専属の護衛がいるはずだ。どうして冒険者を無条件で信用できよう。

素性の知れない冒険者などを雇って、大切な積み荷を盗まれたらたまったものではない。

あり得るとしたら、護衛が出払っているなどで足りない時に、実績があり信頼できる冒険者に依頼する場合くらいだろうか。

先日、「血戦の誓約者」たちは護衛の仕事に出ていたらしいが、それも彼らが「実績があり信頼できる冒険者」だからに違いない。

美咲が見聞きしたゲームや小説では、Aランクの冒険者はどの冒険者ギルドの支部でもAランクとして歓迎されることが多かった。

だが、普通に考えて余所者のことを、諸手を挙げて歓迎するだろうか。

例えば今いるリンドウィッチ公爵領エルムストンの冒険者ギルドでAランクと認められても、グレンダリング公爵領ではAランクと認められるかは不明だ。

少なくとも実力テストはするだろう。

確認が取れても、グレンダリング公爵領で長年やってきたAランクと同じ扱いをすぐには受けられるはずがない。

考えれば考えるほど疑問が湧いてくる。

冒険者ギルドの身分証には高い信頼性があって、街どころか国を移動しても有効とされる場合もあるが、実際にはこれも信じがたい。

各地にギルドが存在していたとしても、横の繋がりが強い組織とは考えにくい。

現実的に考えれば、地域の有力者との関係で成り立つ、土着的な集団だろう。

エルムストンの冒険者ギルド長も昔は名の通った冒険者だったという。荒くれ者たちを抑えるにはそれくらいの人物でないとままならないのかもしれない。

また、冒険者ギルドがいろいろな土地に存在するのは想像できるが、横串の通った組織とは考えにくい。

それぞれその地の有力者とズブズブなのではないか。

何せ、情報連携だってままならないのである。

ギルドも土着ゆえ、無職で腕っぷし以外に誇れるもののないごろつきが集まって「何でも屋」をしているようなものに変容していった結果があのような統一性のない依頼なのかもしれない。

「実績が信頼に繋がる……それって結局、地元の評判次第ってことだよね」

ヴァイオレットは、信頼してもらえるように頑張ろうと決心した。

ギルドを後にしたヴァイオレットは、市場へと足を向けた。

今日は自由な時間があるので、異世界のオシャレ事情を知るために服屋を探してみることにしたのだ。

しかし、しばらく歩き回ってもそれらしき店が見つからない。

「服屋がないって、どういうこと?」

市場には野菜や果物、日用品を売る店が並んでいるが、服を扱っている店は見当たらない。

歩き回りながら、ヴァイオレットはようやく気づいた。

「そうか……この時代って大量生産ができないんだ。魔石のウォーターサーバーやコンロみたいなものがあるしもしかしてと思ったけど……仕立て屋は私にはまだまだハードル高いもんなあ」

その現実に、少しがっかりするヴァイオレット。

しかし、道行く人々の服装を観察するうちに、興味が湧いてきた。

男性たちは膝くらいの丈のトップスにズボンを合わせている。

ズボンの下になにか履いているが、長い靴下なのかタイツなのか判別が付かない。

足首まで届く長いワンピースのような服を着た人もいるが、やはり下にはズボンを履いているらしい。邪魔そうである。防寒のためにマントを纏った人も目立つ。

女性は粗いラシャのワンピースを着こなし、その上から短めだったりのワンピースや、エプロンのような袖なしのワンピースを重ねるなどしている。

編み上げのベストに前掛けをしている人も多い。ウエスト部分は紐締めされているようだ。

頭には布のかぶりものをしている人が多い。三つ編み姿も見かけるので、髪を結いあげてもいいかもしれない。

冒険者の女性たちは少数派だが、動きやすさを重視してか、男性と同じように長めのトップスとズボンを身に着けている。かぶりものもなく、機能性重視の服装が目立つ。

「冒険者がいるおかげで、私の知っている史実よりも服装のバリエーションが多いのかも。厳しい目で見られてるわけでもないし、よかった!」

異世界のオシャレは楽しめなかったが、違和感なく溶け込めそうなことにひとまず安堵した。