作品タイトル不明
18.料理ふたたび
朝の光が差し込む中、ヴァイオレットは冷たくなった湯たんぽを抱き込んで布団の中で寝返りを打ちながら、時間を確認してハッと目を覚ました。
「え、もう昼前?」
あわてて支度を始めるも、昨日悩みすぎて疲れ果てていたせいか、身体がだるい。
しかも今日は少し寒い。ふと、昨日肩をすくめて寒さを堪えた記憶が蘇る。
「こんなときにあったかい服があると助かるんだよね…」
ヴァイオレットは【創造】を使い、ウールの肌着を作り出した。
まだきちんと市井の人々の服装を観察していないので今日は着ないで置いておくが、ニットのワンピースも出してみた。
こげ茶にしたので色で浮く心配はないだろう。
素材はカシミヤ。柔らかく滑らかな肌触りに心が和らぐ。
日本では高価で買う前にちょっと躊躇していた贅沢品に思わずホクホクしてしまう。
そのままギルドに向かうが、時間が遅かったせいでクエストボードはほとんど空っぽだ。
「はぁ、もっと早く来ればよかった…」
肩を落としていたそのとき、背後から活気ある声が響いた。
「お、ヴィーじゃねえか!」
振り返ると、そこには冒険者パーティ「血戦の誓約者」の面々がいた。
ヘンリー、チャールズ、ダレン、テレンス、彼ら全員が揃ってこちらを見ている。
「お前、こんな時間にクエスト探してたのか?」
チャールズが少し呆れたように笑いかけてきた。
「昨日の夜考え事したせいか、寝坊しちゃって……」
するとヘンリーが一歩近づいてきて、真剣な目で言った。
「ヴィー、お願いだ。俺たち、君の料理が恋しくてたまらないんだ。何か作ってくれないか?」
彼の言葉に続くように、他の三人も次々と口を開く。
「どんな飯もお前の料理には敵わねえ!」
「ほんと、外で食べるのも保存食も飽きた。頼むよ!」
「ずっとカスレの味が忘れられない…」
彼らの切実な表情に、ヴァイオレットは思わず笑ってしまう。
「わかった。でも条件があるよ。もう遅いからギルドに依頼として出さなくてもいいけど、材料費とお礼、それに私も一緒に食べさせてもらうから」
「もちろんだ!」チャールズが即答し、他の三人も満面の笑みで頷いた。
こうして彼らの貸し家での料理が決まった。
肉屋で牛肉とソーセージを買い、パン屋ではバゲットを購入。
その道中、屋台でポロねぎ、セロリ、タイムの枝を調達する。
もちろん、荷物は全て彼らが持つことに。
貸し家に着くと、ヴァイオレットは早速腕まくりをしてキッチンに立つ。
まずはポトフの準備だ。
「懐かしいなあ、日本では炊飯器でよく作ったっけ…」
ポロねぎの緑の部分、セロリの葉、タイム、ローリエをまとめてタコ糸で縛り、ブーケガルニを作る。
もちろん美咲だった時はここまで本格的に作っていなかったが、手軽に買えるお値段で売っていたので使ってみようと思えた。
フランスに旅行に行ったときにたくさん見たポロねぎ(太くて短いねぎ。ねぎっぽいにおいはあまりしない)があるので、ここは地球でいうフランスやベルギー、オランダあたりの気候・食文化に近いと見た。先日カスレを作ったのもそれが理由だ。
美咲はめっぽう酒に強く、しょっちゅう飲み歩いていたのでいろいろな国の料理を食べたことがある。
しかも、美味しかったものを自宅で再現して作るのが趣味だった。今はその経験に感謝だ。
鍋に水とともに放り込み、火にかけたら、その間にじゃがいも、にんじん、玉ねぎ、ポロねぎの白い部分を丁寧に切り分ける。
「ソーセージから味が出るからコンソメはいらないかな?」
鍋が煮立ってきたら、火加減を少し弱め、野菜やソーセージを順に加えていく。
「火加減が鎖で調整するリアル中世タイプじゃなくて良かった…魔石コンロに感謝ね」
ポトフが煮込まれる間、次はアッシ・パルマンティエに取り掛かる。
アッシ・パルマンティエは牛ひき肉をマッシュポテトで覆ったグラタンだ。
シェパーズ・パイとどう違うのかは知らない。
ひき肉を【創造】しながら、肉屋での心配ごとを思い出した。
お肉には家畜の大腸菌がついているが、それは表面のこと。
でも、ひき肉はミンチにする際に大腸菌が内部まで入り込んでしまう。
加熱するから大丈夫だとは思いつつ、なんとなく嫌な気持ちになってしまったのでひき肉は【創造】することにした。
ナツメグと胡椒をひき肉に混ぜ、ポトフに多めに入れていた玉ねぎとポロねぎを取り出して細かくほぐす。胡椒は高かったので【創造】した。
誰かの飲みかけの赤ワインも入れてしまう。
それをグラタン皿に敷き詰め、さらに潰したじゃがいも――手間だったのでマッシュポテトを【創造した】――を乗せる。
最後にパルミジャーノをふりかけ、魔石のオーブンで焼き上げる。
「完成っ!」
テーブルに並べられた料理を見た「血戦の誓約者」の面々は歓声を上げた。
「これだよ!この味だ!」
「もう最高!」
彼らが料理を口に運ぶたびに、笑顔が広がっていく。その様子にヴァイオレットも自然と笑みを浮かべる。
10分ほど経って落ち着いてきたころ、チャールズが尋ねる。
「そういえば、なんでクエストボードの前で突っ立ってたんだ?」
ヴァイオレットは少し困ったように言葉を紡いだ。
「ここ最近、クエストに悩んでいて……。薬草採取をしてるんですけど、宿代を除くと、あまり儲からなくて。それに、冬は自生している薬草も減ってしまうので。」
するとチャールズが急に立ち上がり、真剣な表情で提案した。
「だったら屋根裏に住めばいいじゃねえか!うちの家事も頼むってことで!」
「ばっ…何言ってるんです!」
テレンスが慌てて遮るが、男たちは口々に「それでいいじゃん」「賛成!」と盛り上がる。
その様子に、ヴァイオレットは思わず吹き出した。
この人たちはきっといい人たちだ。
「いいですよ。よろしくお願いします」
彼女の言葉に、一斉に歓声が上がった。