軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17.マイホームへの憧れ⭐︎

ヴァイオレットは、次の朝も早々に起き出し、ギルドでまた薬草採取のクエストを受注した。

ただ、前日の成果は彼女に喜びを与えると同時に現実的な問題も意識させた。

薬草採取だけでは貯金が増えない。

頭金をためて一軒家を手に入れるには、より高収益の活動を模索しなければならなかった。

「かと言って、人目につくのは嫌だし……」

【創造】スキルで生み出した日本のアイテムによって、自分が異世界人の知識を持っていることがバレたら、どんな問題を引き起こすか分からない。

しかも、ヴァイオレットはもともとお尋ね者の身分だ。

ひとまず今日のところは薬草採取を継続することにした。

寒さが厳しくなるにつれ、冒険者たちの活動も限られてくる。

討伐クエストは依然として掲示板に多く張り出されていたものの、彼女のような薬草採取を主な生計手段にしている者にとって、選べる仕事は限られていた。

薬草は寒さに弱いものも多く、この季節になると採取可能な種がぐっと減る。

ヴァイオレットは、掲示板にかろうじて残っていた薬草採取の依頼に目を留めた。

「一応、これも受けてみようかな……」

受付の女性に依頼書を見せると、ヴァイオレットがまだ初心者の域を出ないからか、「これからの時期は大変ですよ」と心配そうに声をかけられた。

薬草採取のポイントは雪に覆われていることも多く、わずかに生き残っている草を探すには熟練の技が必要だと言う。

ヴァイオレットには【鑑定】があるので普通の冒険者より負担は軽減されるだろうが、内心では冷たい空気の中を長時間歩き回る覚悟を固めていた。

ヴァイオレットは城壁外の野原へ向かい、周囲の景色に目を走らせながらスキルを活用して薬草を探す。

昨夜は寒かったのか、街道沿いの草花も霜だらけになっていた。

【鑑定】は的確に薬草の位置や状態を教えてくれるので、採取作業はさらに効率的になった。

初めて使ったときのような不快感はもうなかった。

「あった、これがブルートセージね」

手に取った草は、見本で確認したものと寸分違わない。

ヴァイオレットは慎重にそれを小さな布袋に収め、次の草を探し始めた。

周囲には、同じように薬草採取をしている冒険者の姿もちらほら見える。

だが、彼らは明らかに探すのに苦労している様子だった。

「こんなところで見つかるかよ……」

「もっと奥に行かないとダメかもな」

そんな声が聞こえる中、ヴァイオレットは次々と薬草を見つけ出していく。

草むらの中に埋もれているものもあれば、茂みの奥に隠れるように生えているものもあった。

それらを迷わず見つけ出せるのは、まさに【鑑定】のおかげだった。

「本当に便利ね、これ」

根の張り具合や葉の色合いなど、【鑑定】は詳細な情報を表示するため、彼女は迷うことなく次々と採取を進めることができた。

だが、ふと立ち止まり、別の問題に気付く。

「これ……便利すぎて、他の冒険者から目立つんじゃない?」

ヴァイオレットが採取している様子を見ていた他の冒険者が、少し離れたところで囁き合っているのが目に入った。

「あの子、一発で薬草を見分けてるみたいですごいな」

「どうやってるんだろうな? 何か特殊なスキルか?」

好意的な様子ではあったが、小声で交わされる会話を耳にしたヴァイオレットは、内心で冷や汗をかいた。

「……あんまり目立たないようにしなきゃ」

彼女は袋をしっかり抱え、足早に採取ポイントを後にした。

ギルドに戻り、採取した薬草を確認してもらったヴァイオレットは、無事に報酬を受け取ることができた。

しかし、その金額を確認すると、やはり思わずため息が漏れてしまう。

「これじゃあ生活費分がやっとだなぁ……」

ポーチに収めた銀貨を確認しつつ、彼女はギルドを後にした。

宿に戻ったヴァイオレットは、机に突っ伏して深く考え込む。

薬草採取は確実にこなせる仕事だが、それだけでは理想の生活には程遠い。

「これじゃ一軒家どころか、宿の生活を続けるのも厳しいなあ。病気でもしたらおしまいだよ……」

テーブルに置いた鏡に映る自分を眺めながら、ため息をつく。

「それにしても、宿のトイレも不便よね」

この世界のトイレは基本的に汲み取り式。しかも外にある。

建物の壁にひっつくような形で簡素な板で覆ってあり、穴の空いた腰掛けの下に桶を設置しただけのものだ。

魔石式のウォーターサーバーはあるものの、下水道は整備されていないようだった。

ところかまわず汚物をぶちまけるスタイルでなかったのは不幸中の幸いだが、美咲の記憶が臭いを忌避する。

最低限の衛生環境は保たれているとはいえ、日本のような快適さとは程遠い。

彼女は部屋の隅に置かれた簡易トイレを見やった。汲み取り式よりはマシとはいえ、やはり満足のいくものではない。

災害用トイレを【創造】して使うことは、証拠隠滅も簡単なために助かってはいたが、それでも限界があった。

ヴァイオレットは椅子に腰掛け、一昨日の「血戦の誓約者」とのやり取りを思い出していた。

彼らに料理を振る舞ったことで、彼女の中にかすかな変化が生まれていた。

「料理を作るのも、案外悪くないかも」

これまでは自分だけのために自炊するのは面倒だし、そもそも宿の部屋にキッチンは備え付けられていないため、シリアルなど簡単なもので済ませていたが、彼らの喜ぶ姿を見て、自炊の魅力に気付き始めていた。

「やっぱり、自分の理想の家が欲しい!」

お風呂もトイレも、自炊のためのキッチンもある快適な家。

それは彼女が異世界で追い求める究極の目標の一つだった。だが、現実は甘くない。

「やっぱり、まずはお金を貯めることね」

ヴァイオレットはテーブルに拳を軽く叩きつけ、決意を新たにした。