作品タイトル不明
16.鑑定
目覚めたヴァイオレットは、自分の体に微かな違和感を覚えた。
いつもより魔力が体内を循環している感覚が強い。それは暖かな川が流れているような心地よさを伴い、新たな可能性を感じる。
「【創造】スキルがさらに成長したのかも?」
ベッドの上に腰をかけながら、自分の手を見つめる。これまでもさまざまなものを【創造】してきたが、どうやらそれだけではなさそうだ。
ステータス画面を開き、【創造】の文字を指でなぞると、【魔法創造】という文字列が派生した。
「試しに……何か新しいものを」
ヴァイオレットは目を閉じ、頭に浮かんだのは「鑑定」だった。
冒険者として活動する中で、未知の素材やアイテムの正体を見抜ける能力がどれほど役立つかを考えれば、これ以上に必要なスキルはないだろう。
「【鑑定】!」
強く念じると、視界が一瞬揺らぐような感覚に襲われた。
すると周囲のものが次々と見慣れない情報と共に浮かび上がる。
「うわっ……なんだこれ……」
目の前の木製の椅子には、「木材:オーク材 耐久値:43/100」という文字が浮かび、窓の外を飛ぶ鳥にまで「スカイフィンチ(メス)飛行速度:18km/h」といった詳細なデータが表示される。
頭がクラクラするほどの情報量に圧倒され、思わず目を閉じた。
「こんなのずっと見てたら気が狂っちゃう……!」
彼女はなんとか能力をコントロールしようと、対象を狭めるように意識を集中した。
試行錯誤の末、目の前にあって自分が念じた特定の物体だけを【鑑定】することが可能になり、ようやくほっと息をついた。
「これなら使えるかも……でも、便利すぎて逆に怖いな」
自分の新たな力に半ば驚きながら、ヴァイオレットはさっそくこのスキルを試す機会を求めてギルドへと向かうことにした。
ギルドに到着すると、早朝にも関わらず既に多くの冒険者たちが集まっていた。
ヴァイオレットはクエストボードに向かい、目当ての薬草採取依頼を探した。
「よし、これならいけそう」
手頃な複数の薬草採取クエストを選び、カウンターの受付嬢に依頼内容の確認をお願いする。
「これらの薬草、見本がありますか?」
受付嬢は快く裏から見本を持ってきてくれた。
小さな木箱の中には、乾燥させた薬草が丁寧に仕分けされている。
ヴァイオレットはその見本を一つずつ【鑑定】で確認した。
「フロスハーブ:消炎作用あり。茎を割くとデンタルフロスに使える。都市部周辺にもまばらに自生するがアルトロス湿原に多く自生」
「バンベル草:鎮痛作用あり、根の部分に高い薬効」
……情報が脳内に流れ込むたびに、これまで以上に薬草の知識が深まっていく。
「これなら……百発百中で採取できそう!」
ヴァイオレットは自信に満ちた笑みを浮かべた。
クエストをこなすために向かったのは、城壁からそれほど遠くないエリアだ。
見本を【鑑定】で記憶しているほか、薬草を見つけるたびに【鑑定】することもできるので、確信を持って採取することができた。
「これがフロスハーブ……間違いないね」
柔らかい手つきで根から抜き取り、丁寧に袋に詰める。
次々と見つかる薬草を採取していくうちに、時間が経つのも忘れてしまうほど集中していた。
ギルドでクエスト報酬を受け取ったヴァイオレットは、宿に戻ると一息ついた。
だが、報酬を確認して彼女は少し悩んだ。
「薬草採取だけじゃ……少しお金が足りないんだよね」
彼女はポーチを開け、中にある銀貨や銅貨を数えた。
この街での生活にはプライバシーの確保が欠かせない。
だが、それを維持するにはそれ相応の資金が必要だ。
部屋の鏡に映る自分を見ながら、彼女は少し恥ずかしくなって肩をすぼめた。
ヴァイオレットになってからしばらく経つとはいえ、まじまじと身体を見るのはなんだか照れる。
「これ、見られたらさすがに困るよね」
ヴァイオレットの装着している下着、つまりブラジャーは、異世界では存在しないデザインだ。
胸をしっかり支えるその構造も、生地の柔らかさも、この世界の下着とは大きく異なっている。
日本で使っていたブラジャーを【創造】で再現した結果なのだが、もしこれを誰かに見られたらと思うと、言い訳に困る。
「この世界の人たちって、どうしてるんだろう?」
手元にある下着を持ち上げながら、ヴァイオレットは疑問を口にする。
現地の女性がどうやって胸元を整えているのか分からないが、少なくとも自分にはこれが必要不可欠だった。
さらに、生理中に欠かせない衛生用品も、同様に【創造】で生み出している。
そのほか、歯ブラシやハンドクリーム、化粧水など身の回りの細々した物もそうだ。
異世界の生活は慣れてきたとはいえ、こうした事情が彼女の自由な生活を縛っていた。