作品タイトル不明
14.掃除⭐︎
「お邪魔しま~す……」
ヴァイオレットは「血戦の誓約者」の貸し家に足を踏み入れると、まず鼻をつく刺激的な臭いに顔をしかめた。
内には散らかったゴミやほこりが山積し、異臭が漂っている。
床には泥や靴跡がつき、壁のあちこちには手垢や黒ずみが目立つ。
チャールズが「すごいだろ?ここでもまだマシな方なんだぜ」と苦笑いを浮かべた。
「すごい……ですね」
ヴァイオレットは遠回しにしか感想を言えなかった。
「キッチンはそこだよ。俺たちは2階で邪魔しないようにしてるから、好きにやってくれ」
ヘンリーが指差す。
「了解です。気が散るので、皆さんもそちらでおくつろぎください!」
ヴァイオレットは強めに言うと、彼らを2階へと促した。
キッチンの入り口に立った瞬間、ヴァイオレットは絶句した。
テーブルには皿や鍋が山のように積まれ、そのほとんどが油汚れや焦げで真っ黒になっている。
周囲には食べかけのパンやカビの生えた果物が散乱し、テーブルには乾燥したスープのしずくがこびりついている。
さらに悪いことに、生ゴミの山がバスケットから溢れ出し、その上をハエが飛び交っていた。
強烈な臭いが漂い、彼女は思わず鼻をつまんだ。
「これ……本当に人が暮らしてる場所なの?」
思わずつぶやくと、ヴァイオレットは深呼吸して気を取り直した。
「さぁ、やるわよ!」
彼女は手を前に差し出し、【創造】スキルを発動した。
手元に現れたのはゴム手袋。
パチンと装着し、作業に取り掛かる。
最初に取り掛かったのは、生ゴミの山だった。
腐敗した食材を触るのは気が引けたが、ゴム手袋のおかげで直接触れる必要はない。
ゴミをひとつずつ慎重に拾い上げ、【創造】した大きなゴミ袋に詰めていく。
特にひどかったのは、袋の底にたまっていた茶色い液体だ。
腐敗した野菜や果物が溶けたもので、悪臭の原因になっていた。
ヴァイオレットは袋ごとスキルで消去した。
「これでひとまず臭いはなんとかなるわね」
次に、シンクの掃除に取り掛かった蛇口には魔石がはまり、水がめにつながっているのが見える。
さらに驚いたのは、水がめ自体にも魔石が埋め込まれている点だ。
ヴァイオレットは目を細めた。
「グレンダリング公爵領の水がめはこうじゃなかったけど……もしかして、あそこはケチだったのかな?」
蛇口をひねると、水がめの中から新鮮な水が流れ出した。
どうやら使えるようだとわかり、少し安心する。
積み重なった皿や鍋を一つ一つ取り出し、スポンジとクレンザーを【創造】して磨き始める。
油汚れでギトギトの鍋には、熱湯をかけて油を溶かし、柄のついたブラシでこすった。
不便なことにシンクがない(パンでぬぐった後は外の水桶で洗うのかも?)ので、汚なくなったお湯は外に撒いた。
焦げ付いた底は、専用の硬いスポンジで根気よく磨き、徐々に金属の輝きを取り戻していく。
「これ、いつ最後に洗ったのかな……」
鍋の状態から、少なくとも数週間は放置されていたことがわかる。
一息つく間もなく、次はテーブルと床に取り掛かる。
テーブルの上に散乱していた食器や食べかけのパンを片付け、サーフェースクリーナーを【創造】して拭く。
こびりついた汚れにはスプレーを吹きかけて数分置き、乾燥して硬くなった部分をゴシゴシとこすり落とした。
床は土間だが、油や血がこびりついていたので、水と洗剤をバケツに入れて床全体に撒いた。
その後、モップを使って汚れを落とし、隅々まで磨き上げた。
特に角の部分はほうきでは届かないため、【創造】したスクレーパーやブラシを使い、丁寧に汚れを落とした。
最後に、キャビネットに散乱していた塩やハーブの瓶を一つ一つ取り出し、キャニスターに移し替える。ひと目で中身がわかるようにラベルも貼り付けた。
「ふぅ……これで一段落」
キッチンは見違えるほどきれいになった。
ヴァイオレットはゴム手袋を外し、額の汗を拭った。
掃除用具をスキルで証拠隠滅したら完了だ。
階段を上がり、2階にいる「血戦の誓約者」たちに声をかける。
「ひとまずキッチンだけ掃除してみたんですけど、どうでしょうか?」
彼らが恐る恐る1階に降りてきて、ピカピカに輝くキッチンを目の当たりにした瞬間、全員が目を丸くした。
「な、なんだこれ……!?」
「すげぇ、まるで別の家だ!」
ヘンリーはシンクを指差し、「これ……元からこんな色だったのか?」と驚きの声を上げる。
チャールズは感極まった様子でテーブルをなで回し、テレンスはキラキラした目でヴァイオレットを見つめた。
「ヴィー、君ってすごいね!掃除の達人じゃないか!」
「いえいえ、普通にやっただけですよ」
ヴァイオレットは照れくさそうに笑いながら答えた。
ダレンがテーブルに手を置きながら、ぼそりと呟く。
「正直、ここまできれいになるとは思わなかった……本当に助かる」
チャールズが笑いながら言った。
「なあ、これに懲りずにまた頼むよ! 実はこの家、ひどい有様でさ……なんせ誰も家のことができなくてな」
その言葉にヴァイオレットは微笑み、腕まくりをしてみせた。
「いいですよ。次はどこを掃除します?」
「マジで!? なら……お願いしちゃおうかな!
「追加料金取りますからね」
彼らの狂喜乱舞ぶりに、ヴァイオレットも思わず笑みを漏らした。
キッチンだけでこの調子なら、今後の掃除もやりがいがありそうだ。