作品タイトル不明
13.手合わせ
陽の光が部屋の窓から差し込み、彼女の新しい冒険者タグが木製の机の上で光を反射していた。
目を覚まし、【創造】した水や歯ブラシ、鏡を使って身支度を整える。
冒険者タグを首から下げると重みが感じられ、初心者ながらも確実に前進している証のように思えて誇らしくなる。
今日は「血戦の誓約者」のメンバーに稽古をつけてもらう予定だ。
体術はからきしだが、ほかの冒険者と組むことがいずれあるかもしれない。
ヴァイオレットが足手まといにならないかどうかチェックすることもでき、よい機会だ。
ヴァイオレットはギルドの裏手にある練習場に立っていた。
広場は整備されており、土の地面には無数の足跡や傷跡が刻まれている。
周囲には武器の訓練用具や的が並び、冒険者たちがそれぞれの技を磨く声が響いていた。
「みなさん、今日はよろしくお願いします。」
「ああ、おはようヴィー。早速だけど、装備はどんなものを買ったんだ?」
「チャールズさんに教えていただいた店で、胸当てとナイフを買いました。肉弾戦には自信がなく、魔法を使って中距離から妨害するようなスタイルになりそうです。」
「そうか、魔法となると見てみないとわからないな。幸い、うちにはタフな盾役がいる。」
ヘンリーが言うと、いつの間にかヴァイオレットの目の前には、ダレンが無骨な盾を構えて立っていた。
彼の寡黙な姿勢が放つ重厚感に、彼女は緊張を隠せなかった。
「まずは俺が相手だ。」
ダレンが短く言い、無言で構えを取る。
「わかりました。よろしくお願いします!」
ヴァイオレットも革製の胸当てを整え、ナイフを軽く握りしめた。
手のひらに炎を生み出し、小さな火球を彼の足元に向かって放つ。
火球がダレンの盾に当たるが、彼は盾を傾けて難なく受け流した。
「いい魔法だ。ただし、威力を上げなければ盾役には通じない。」
短い言葉を投げると同時に、ダレンは力強く踏み込んできた。
ヴァイオレットは慌てて後退するが、彼の盾が視界を覆い、体当たりされる寸前でギリギリ横に跳ぶ。
「動きは悪くない。だが、それでは防ぎきれない。」
盾の一撃が地面に当たり、土埃が舞い上がった。
結局、ダレンの動きを崩すことはできず、ついにギブアップを宣言した。
「ありがとうございました。盾役って、こんなに隙がないんですね……」
「実戦ではもっと速い。だが、お前の魔法は攻撃範囲が広い。うまく使え。」
ダレンの無骨な言葉には、僅かながら称賛が混じっていた。
次に相手を務めたのは、リーダーのヘンリーだ。
彼は剣を軽く肩に乗せ、リラックスした様子で立っている。
「気張るなよ、ヴィー。俺はそこまで本気じゃないからさ。」
「気を抜かないようにします!」
ヘンリーが構えた次の瞬間、彼の剣が風を切って突き出される。
(速い!)
ヴィーは驚きながらも、土の壁を【創造】しようと距離を取った。
しかし、発動が間に合わず、彼の剣先が彼女の喉元にピタリと止まった。
「残念。剣士相手にはこういうこともある。」
ヘンリーがにっこり笑いながら剣を引く。
次に対戦したチャールズもまた剣士だ。
彼の動きはヘンリーよりも慎重だが、確実にヴィーを追い詰め、最終的には同じように刃を突きつけられた。
「剣士相手だと、私には分が悪いですね……。」
ヴァイオレット悔しさを隠せずに呟いた。
「剣士は距離を詰めるのが得意だからな。だが、遠距離から一発逆転の魔法もある。練習次第だ。」
ヘンリーが肩を叩き、励ました。
最後に相手を務めたのは、弓使いのテレンスだ。
彼は腰に下げた矢筒から一本の矢を取り出し、ゆっくりと弓に番えた。
「僕の矢を防げたら、大したものだと思うよ。」
テレンスが弓を引き絞り、矢を放つ。
その瞬間、ヴィーは小さな火球を素早く創造し、飛んでくる矢にぶつけた。
「おお……!」
火球と矢がぶつかり、弓矢が勢いを失って地面に落ちる。
「狙いが正確だね。よく矢を見て、適切なタイミングで魔法を放ってるよ。」
テレンスが感心したように頷く。
「ありがとうございます。でも、実戦では相手の気配が読めないかもしれません……」
ヴィーは謙遜しながらも、うれしくて緩む口許を隠せなかった。
手合わせを終えた彼らは、汗を拭いながら一息つく。
そこでヴァイオレットは持参していたランチボックスを広げた。
「よかったら皆さんもいかがですか?」
開かれたランチボックスの中には、香ばしく表面が焼き上げられたサンドイッチが並んでいた。
見た目も美しく整えられたその料理に、血戦の誓約者のメンバーは目を丸くする。
「こんなうまそうなの、食っちまうのがもったいないくらいだな。」
チャールズが冗談交じりに言いながら手を伸ばす。
ほかのメンバーも遠慮なく受け取って口にする。
「これは…本当においしいな。」
ヘンリーが目を細めて感心する。
惜しげもなく卵のフィリングやスモークサーモンなどを【創造】したので、当然といえば当然である。
「ヴィー、料理も得意なのか。」
鬼気迫る表情でダレンが迫る。
「得意…というほどではありませんが。」
ヴァイオレットが謙遜すると、チャールズが笑いながら言った。
「いやいや、これだけ作れるなら立派なもんだ。うちのシェアハウスなんてひどい有様なんだぞ。」
「ひどい有様?」
ヴァイオレットが首をかしげると、ヘンリーが肩をすくめた。
「なんせ、誰も家のことができないもんでね。掃除も洗濯も放置状態さ。」
話の流れで、ヴァイオレットはその掃除を引き受けることになった。
使用人をしていたことは出会った当初に伝えてある。
「ちゃんとギルドに依頼として出してくださいね!お金は取りますから」
「わかってるって。助かるよ、ヴィー。」
ヘンリーが礼を言うと、テレンスも穏やかな笑みで言葉を添えた。
「本当に助かる。僕たちだけじゃ、いつまでたっても片付かないから。」
ヴァイオレットは頷きながら、小さく笑みを浮かべた。
テレンスはなんとなく身綺麗そうなのに意外だ。
「では、後で伺いますね。」
帰る前、ヴァイオレットを呼び止めたダレンに「俺たちの分までありがとう」と感謝された。
明らかに一人分ではなかったサンドイッチの量を見てのことだろう。
ダレンは無口な割に目端が利くのかもしれない。
自分の行動を見てくれている人がいたことがとても嬉しかった。