作品タイトル不明
12.初めてのクエスト⭐︎
ヴァイオレットは、かすかに聞こえる街の喧騒と鳥のさえずりに目を覚ました。
エルムストンで迎える初めての朝だ。
まだ日は完全に昇り切っておらず、窓の外は薄い朝焼けに包まれている。
「よく寝た…」
硬めのベッドだったが、旅路の疲労が勝り、ぐっすり眠れたようだ。
昨晩の出来事を思い返しながら、軽く伸びをしてベッドから起き上がる。
小さなテーブルに腰掛け、【創造】で出したパンと水で簡単な朝食を取った。
シンプルな食事だったが、この地に自分で稼いだお金で泊まった宿での朝は、格別に感じられる。
「今日は、街を見て回らないと。」
まだこの街のことを何も知らない。
冒険者ギルドでの登録は済んだが、どこで装備や道具を整えられるのか、さらには安全な冒険エリアや狩場についても把握しておきたい。
食事を終えたヴァイオレットは、簡単に身支度を整え、宿を出た。
朝の街並みは活気にあふれ、露店や商人たちが忙しなく準備を進めている。
屋台からはパンや焼き菓子の香ばしい匂いが漂い、朝を楽しむ住民たちの笑い声が聞こえてきた。
「思ったより賑やかなんだな…」
ヴァイオレットは人の波に飲まれないよう、少し離れた道を選びながら街の中心部を目指す。
冒険者ギルドがあるため、この街は冒険者も多い。
通りでは剣士や魔法使いらしき人々が荷物を整えたり、仲間と合流したりしている姿が目に入った。
昨日「血戦の誓約者」のチャールズが、ギルドの近くに武具屋があると教えてくれていた。
初心者でも安心して買える品揃えと価格設定が特徴だと聞いており、いずれ必要になる装備を整えておこうと考えていた。
店の外観は年季の入った木造の建物で、大きな剣や盾の看板が掲げられている。
「ここか…」
ヴァイオレットは意を決して店の扉を押した。
中は広く、壁一面に剣や弓、鎧が並んでいる。
革製品や金属の輝きが目を引き、少し圧倒される。
店主は中年の男性で、鍛えられた腕が物語る通り、自身もかつて冒険者だったのだろう。
店主はヴァイオレットの姿を一瞥すると、フードで顔を隠している点には触れず、優しく声をかけてきた。
「いらっしゃい。冒険者か?」
「はい、昨日登録したばかりで…装備を見てみようと思って。」
ヴァイオレットがそう答えると、男性は笑みを浮かべて頷いた。
「初めてか。じゃあ、手頃で使いやすいものを見繕ってやるよ。」
ヴァイオレットは彼の案内で、革製の胸当てと簡易的なナイフを手に取った。
胸当ては軽くて動きやすそうで、ナイフは刃こぼれが少なく、頑丈そうだ。
「これにします。おいくらですか?」
「銀貨6枚だな。」
銀貨6枚――ヴァイオレットの財布の中身は昨日のゴブリン討伐で得た金貨1枚と銀貨3枚だけだ。
今日の宿泊費銀貨4枚のことを考えると、少々心許ない。
「しっかり手入れすれば、しばらくはこれで十分だろう。油と布も付けておくから、忘れずに手入れするんだぞ。」
礼を言い、短剣を鞘に納めて腰に装着する。
店を出たヴァイオレットは、財布の軽さに少し焦りを覚えながらも、装備が揃ったことに安堵した。
宿泊費を除くと残る手持ちは銀貨3枚。これでは明日の宿泊費にもならない。
慌てたヴァイオレットは、すぐさまギルドに戻り、クエスト掲示板に目を走らせた。
掲示板には、大小さまざまな依頼が貼り出されている。
その中でも、「薬草採取」のクエストが目に留まった。
報酬は銀貨3枚とささやかだが、初心者には最適とされる内容だ。
「薬草って、どんなものを探せばいいんだろう?」
ヴァイオレットはカウンターの受付に行き、クエスト内容について尋ねた。
応対してくれた女性スタッフは、初心者と聞くやいなや、乾燥した薬草の見本を見せてくれる。
「これが見本よ。森の中や川辺に生えていることが多いの。気をつけてね。」
手渡された薬草の見本をじっくり観察する。鮮やかな緑の葉は細長く、乾燥させると薄茶色に変わる特徴がある。
それを見ながらヴァイオレットはふと考えた。
(これくらいなら、【創造】で再現できそう……でも、これを使うのはやっぱり違う気がする。)
彼女は慎重に選択をし、実際に探しに行くことを決意した。受付スタッフに安全な採取場所を尋ねると、城壁からさほど離れていない範囲を勧められた。
クエストを受注したヴァイオレットは、すぐに採取道具を用意して、指定されたエリアへ向かった。
森の入口は人の気配もあり、安全そうに見える。
薬草を探しながら、地面を注意深く観察した。
しばらく歩いていると、見本と似た形状の草を発見する。
しかし、それが薬草であるかどうか確信が持てない。見本を確認しながら慎重に採取を進めた。
(本当にこれで合っているのかな?鑑定が使えればいいんだけど……)
手にした薬草をひとつひとつ丁寧に確認しながら、採取を続ける。
すると、日が少し傾きかけた頃には、採取した薬草がカゴをほぼ満たしていた。
ギルドに戻り、採取した薬草をカウンターに持って行くと、受付スタッフは感心した表情を見せた。
「これだけ採れるなんて、初めてにしては上出来よ。報酬はこちら、銀貨3枚ね。」
報酬を受け取り、財布の中身が少しだけ増えたことで、ヴァイオレットは胸を撫で下ろした。
武器を手に入れ、初めてクエストを達成した達成感が、心に小さな光を灯した。
(これなら、この街でなんとかやっていけそう。)
クエストを無事に終え、報酬を手にしたヴァイオレットは、ギルドを後にして宿へと向かっていた。
夜の帳が降り始め、街にはランタンの暖かな光がともり始めている。
道を歩きながら、彼女は今日の出来事を反芻していた。
(初めてのクエストで少しは役立てたかな。けど、もっと早く薬草を見つけられるようになりたいし、戦闘の訓練も必要だよね。)
ふと考え事をしていると、前方で見覚えのある4人組の姿が目に入った。
「……あれ?」
「やあ、ヴィーじゃないか!」
声をかけてきたのはヘンリーだ。
「血戦の誓約者」のメンバーである彼らと、偶然にも宿の近くで鉢合わせしたのだ。
「クエストを終えて帰るところか? 頑張ったみたいだな。」
ヘンリーの軽快な声に、ヴァイオレットは少し照れながら頷く。
「ええ、なんとか終わらせました。薬草採取のクエストだったんですけど、意外と大変で……。」
「まあ、最初はみんなそんなもんさ。」
チャールズが快活に笑いながら答える。
「俺たちだって初めてのころは、ゴブリン1匹相手に大騒ぎしてたくらいだからな!」
「今日は遅いし、訓練には付き合えないけど……。」
ヘンリーが思案顔で言葉を切ると、隣にいたテレンスが続ける。
「明日なら時間がある。良かったら手合わせでもしてみる?」
「手合わせ……ですか?」
「そう。俺たちも鍛錬の一環で戦闘訓練をしてるんだけど、君のスキルも活かせる形で訓練をしてみたらどうかと思ってさ。」
テレンスが穏やかな口調で説明すると、背後に立っていたダレンものっそりと頷いた。
ヴァイオレットは迷いながらも了承する。
「お願いします。戦闘経験が少なくて……教えてもらえるならすごく助かります。」
「よし、決まりだな! 明日の午前、ギルドの裏手にある訓練場に来いよ。みっちり鍛えてやるからな!」
チャールズの力強い言葉に、ヴァイオレットは改めて頭を下げた。