軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11.冒険者登録

門が近づくにつれ、ヴァイオレットの心臓は鼓動を速めていた。

何も悪いことをしていないのに、兵士たちの視線が鋭く感じられる。

大きな木製の門には鉄製の補強が施され、その前に立つ二人の兵士が行き交う人々の通行を管理している。彼らの槍が陽の光を受けて鈍く輝いていた。

「通行料は銀貨1枚だ。」

前の旅人が兵士に声をかけられ、銀貨を手渡すのを見て、ヴァイオレットは少し安心する。

特別な検問はなさそうだ。

自分の番が回ってきたとき、喉が乾くのを感じた。

フードを目深に被り、顔を隠しつつ口布を整える。

「通行料をお願いします。」

淡々とした兵士の声に、用意していた銀貨を震える手で差し出す。

兵士は一瞥し、銀貨を確認すると頷いた。

「通行を許可する。道中、変な連中に絡まれないようにな。」

「あ、ありがとうございます。」

ヴァイオレットは早足で門をくぐる。

銀貨1枚で街に入れることを確認できてほっとした。 「これで全額消えたらどうしよう」と思っていたが、大丈夫だった。

門をくぐりながら、ヴァイオレットはふと考えた。

貨幣を【創造】することは可能だろうか? 試してはいないが、おそらく可能だ。

しかし、美咲の知識が「やりすぎるとインフレを起こす」と言っている。

それに、やり始めるとバランス感覚を欠いて堕落しない自信もない。

(必要に駆られたらやるかもしれないけど……今はやめておこう。)

ヴァイオレットとして自分の手で得たお金の重みを忘れないためにも、そう決めた。

街に足を踏み入れると、ヴァイオレットは目を見張った。

石畳の広がる通りには活気が溢れ、人々の笑い声や屋台の呼び声が賑やかに響く。

街の中心には時計塔がそびえ立ち、時刻を告げる鐘がゆっくりと鳴り響く。

「……素敵な街!」

ヴァイオレットはその穏やかな雰囲気にすぐに魅了された。

門に入る前、流れる川のきらめきが目に入った。

魚も手に入りやすいのだろう。

屋台では焼き魚やパン、果物を売る声が飛び交い、どれも美味しそうだ。

「じゃあ、ここで別れるとするか。」

一緒に街に入った商人がそう言うと、ヴァイオレットに軽く頭を下げた。

「君には本当に助けられたよ。お礼を言っても足りないくらいだ。」

「いえ、そんな……お気をつけて。」

商人は会釈し、商会の倉庫へ向かって去っていった。

「さて、ヴィー、ギルドに行くぞ。」

ヘンリーが手招きする。

ギルドは門からそれほど遠くない位置にあり、木造の大きな建物がすぐに目に入った。

看板には剣と盾の意匠が施されている。

外の水桶で顔と手足を清めてから中に入った。

彼が扉を開けると酒の匂いが漂ってきた。

1階には長いカウンターと掲示板があり、中央には冒険者たちが飲み物を片手に談笑している姿が見える。

カウンターの横には2階へ続く階段がある。ギルドの事務所になっているのだろう。

想像した通りの「冒険者ギルド」を見て胸の内に湧き上がる感動を抑えながら、ヴァイオレットはその場に立ち尽くした。

「おっと、登録するんだろ? ついてきな。」

チャールズに促され、カウンターへ向かう。

「冒険者登録をご希望ですか?」

やり取りを見ていたのか、カウンターの女性が微笑みかける。

幅広の鼻がコアラを連想させる優しげな顔立ちだが、眼差しにはどこか抜け目のなさが宿っている。

「はい、お願いします。」

ヴァイオレットが緊張した声で答えると、女性は説明を始めた。

「登録料は銀貨3枚です。登録後、冒険者ランクが記されたタグをお渡しします。」

ヴァイオレットは銀貨3枚を手渡した。

お金を手にしていて本当に良かったと思いながら、カウンターの上で自分の手が震えているのを意識する。

「ここに名前を書いてください。難しければ自分のものとわかる印でもいいですよ。」

「あ……」

ヴァイオレットは文字を書いたことがなかったことを思い出した。

羽ペンなので非常に書きにくそうだ。

(名前を書くのも練習が必要かも……)

そう思いつつ、用意された用紙に慎重にサインを入れた。

書き終え、ほっと胸を撫でおろす。

「スキルについて教えてください。」

「戦闘に役立つ魔法を少し……」

女性はわずかに目を細めてヴァイオレットの青紫の瞳を見つめた。

金髪の髪がフードの隙間から覗いているのを確認すると、何かを察したようだが、それ以上は追及しなかった。

「では、こちらがタグです。」

銀色の金属でできた小さなプレートが差し出される。プレートには 「冒険者ヴィー ランクF」 と彫られていた。

「首にかけてお使いください。ランクが上がると自動で書き換わりますので、失くさないようにしてください。」

ランクはA、B、C、D、E、Fの6段階らしい。

タグを首にかけると、その冷たさで気が引き締まった。

ギルドでは初心者向け講習があるが、直近で二週間ほど後だという。

Fランクのうちは簡単な依頼しか受けられないが、初心者講習前となると、城壁近くの採取のクエストくらいしか紹介できないらしい。

思いのほかきちんとしていた。受講の意思があることを伝え、登録を終える。

登録が無事終わり、「血戦の誓約者」の4人に感謝を伝える。

「本当にありがとうございました。皆さんのおかげです。」

「気にするな。これからはお前も立派な冒険者だ。困ったらいつでも呼べよ。」

ヘンリーが頼もしく笑う。

「さて、俺たちは換金と素材の納品に行くけど、ヴィー、お前もついてくるか?」

「はい、お願いします。」

ヴァイオレットは「血戦の誓約者」とともに、冒険者ギルドを出て別棟に向かった。

買い取りカウンターは冒険者ギルド本館から少し離れた場所にあるという。

建物の外観は控えめで、木造の簡素な造りだったが、近づくにつれ独特の臭いが鼻をついた。

「ここか…わざわざ別棟にしてるのも納得だわ。」

ヴァイオレットは鼻をつまむのを堪えながら、ダレンに続いて中に入った。

買い取り所の内部は木製のカウンターといくつかの長椅子がある質素な空間だった。

数人の冒険者らしき人物が自分たちの素材を持ち込んでおり、順番待ちの列ができている。

カウンターの奥には、手慣れた様子で素材を査定している職員たちの姿が見えた。

「耳と魔石を2つずつ、だな。」

ヘンリーが確認してから、ヴァイオレットに換金の順番を譲った。

カウンターに進み出ると、中年の男性職員がヴァイオレットをちらりと見てから、慣れた調子で話しかけてきた。

「素材を出して。どれどれ…」

ヴァイオレットは「血戦の誓約者」に手伝ってもらいながら、ゴブリンの耳と魔石を並べる。耳はまだ新鮮だ。

「耳2つと魔石2つで、銀貨1枚ね。」

職員がそう告げると、カウンター越しに小さな銀貨を手渡してくれた。

ヴァイオレットはその銀貨を受け取ると、感慨深い気持ちになった。

これが、自分の力で稼いだお金…。

「初めて稼いだお金だと、嬉しいんじゃない?」

テレンスが微笑みかけてきた。ヴァイオレットは小さく頷き、そっと銀貨をポーチにしまい込んだ。

「宿も紹介したし、これでひとまず安心だな。何かあったら声かけろよ。」

ヘンリーがリーダーらしい気遣いを見せてくれる。

「ありがとうございます。本当に助かりました。」

ヴァイオレットは深く頭を下げた。

「血戦の誓約者」の面々は軽く手を振って別れを告げ、裏通りの方へ去っていった。

宿暮らしではなく、年単位で貸し家を借りているらしい。

ヴァイオレットは教えてもらった宿へと向かう。

街の中心から少し離れた静かな通りに位置するその宿は「月夜の羽」亭というらしい。

こぢんまりとしていたが、造りはしっかりしていて安心感があった。

宿の主人は穏やかそうな初老の男性だった。

鍵付き個室をお願いすると、素泊まりで銀貨4枚だと言われた。

部屋は狭いながらも清潔で、ベッドと小さな机、椅子が置かれていた。

ヴァイオレットは荷物を置き、鍵をかけると、大きく息をついた。

「ふぅ…これでようやくひと心地ついた気がする。」

冒険者ギルドでの登録、買い取り所での換金、新しい街での宿探し。

緊張続きの一日だったが、ここにきてようやく安全な空間を手に入れたという実感が湧いた。

食欲はあまりなかったが、何か口に入れておこうと思い、【創造】でシリアルを出した。

日本にいた頃、朝の時間がない時によく食べた記憶が蘇る。

もそもそと口に運びながら、その手軽さと味にほっとした。

「これだけだと栄養偏りそうだけど…まあ、今日はいいか。」

シリアルを食べ終えると、ボウルに水を【創造】し、隠していた歯ブラシを取り出して歯を磨いた。

日本では当たり前にしていた習慣だが、この世界に来てからは特別なことのように感じられる。

鏡はないが、歯を磨きながら顔を洗うと少しだけすっきりした。

「お風呂入りたいな…」

ヴァイオレットはそう呟きながら、ベッドに横たわった。

旅の疲れが体にじわじわと広がる。少し硬いが清潔なベッドで安心感に包まれた。

自立への第一歩を踏み出した達成感と、これからの日々への不安が混ざり合った気持ちを抱えながら、ヴァイオレットは静かに目を閉じた。

「明日はもう少し落ち着いて、街を見て回れるといいな…」

そう考えた矢先、疲れが一気に押し寄せ、彼女の意識は深い眠りへと引き込まれていった。