作品タイトル不明
421回目 頭を悩ませる国々
テルゲン王国の戴冠式が終わり、レクター=カラーズカが新王となった事で、ついにティアナの『フレンドクエスト』が終了した。
これでティアナも『トゥルー・フレンド』となり、一部とは言え俺のスキルが使える仲間が四人となった。『トゥルー・フレンド』だけが装備できる☆4『絆の証』も身に付けさせたので、やれる事も増えた。『トゥルー・フレンド』間の移動とかな。いざと言う時の緊急避難として使えるのが大きいのだ。コチラから飛ぶのは、一日に一回しか使えないけど。
「戴冠式の為に来てくれた人達は国に帰るんですよね? 何なら俺が送って行きましょうか?」
今回、レクターの戴冠式に合わせてやって来たお偉いさん達が国に帰ると言う話を聞いて、俺がレクターの所を訪ねてそう提案すると、レクターは首を横に振った。
「やめておけ。基本的に貴族や王族ってのは、格下の人間が自分の為に何かをするのは当然だと捉えている。一度でも甘い顔を見せると付け上がるのが貴族や王族だ。そんな奴等に便利使いされたくは無いだろう? だがジョルダン王国だけは頼みたい。あそこからは対価も貰っているのだろう?」
「はい。じゃあそうします」
しかし、歩いて雪山を越えるとなると、かなり大変だろうな。この世界の人間は魔法が使えるので、身体能力を強化して移動するのだろうけど。
今回の戴冠式にわざわざ足を運んだ各国からの使者は、戴冠式を祝う裏側で、この国の情勢を調べていた。
雪の中で戴冠式へとやって来れたのも、各国がテルゲン王国での内乱を知った辺りから、準備していた事も大きい。
周辺国の情報を怠けずに集めていた国々は、テルゲン王国での内乱が起こるとなった時点で、既にヌヌメルメ王家の滅亡を予測していた。各国から見てもヌヌメルメ王家と言うのは、それほど迄に酷かったのである。
だがこの準備は、一国の王が変わる事態だから準備されていた事であり、まだまだ名前も知れ渡ってはいない俺については各国諸共に慎重な姿勢を見せている。
ちなみに今回来た貴族の中には、飛空艇どころか『レナスティア』に乗りたいと打診してきた者も何人かいた。当然断ったけど。
「今頃、奴等は大変だろう。雪山の移動もそうだが、国にガモンの事を報告しなければならないからな。むしろ雪山で足が遅くなる事を喜んでいるやも知れんぞ?」
「そんなまさか。雪山で足を止めたりしたら死んじゃうでしょ? 流石にそれは無いですよ」
「…………まぁとにかく、ジョルダン王国のジョゼルフ王達を送ってやってくれ。頼んだぞ、 義子(むすこ) よ」
「はい。お義父さん」
そう言ってレクターの所を後にして、俺はジョゼルフ王をジョルダン王国に送りに向かった。
◇
テルゲン王国から北に向かう雪山では、比較的雪の少ない場所で陣を築いている一団がいた。
彼らはテルゲン王国の北側に位置する火山の国『バゴス王国』の者達である。
年中灼熱と言えるバゴス王国の民にとって、雪などは山を白く染める物、程度の認識であり、今回テルゲン王国に同行した兵士の中には、生まれて初めて雪に触れた者も数人いた。
バゴスの民にとってはこの寒さも厳しいものだが、暑さ故に常に薄着、へたすれば街中だろうとパンイチで練り歩くバゴスの民は、何かがあれば身体を鍛える事を是とする。服の代わりに筋肉を着込んでいる様な者達なのだ。
なのでこの雪山でも、一般的兵士の暖の取り方と言えば筋トレで、何人かのグループに別れてスクワットをしている異様な光景が眼についた。
ちなみに指揮官クラスとなればそんな事はせず、天幕の中で魔道具を使って暖を取っていた。まあ彼らの場合は筋トレをするほど時間の余裕が無い、というのが筋トレをしていない理由ではあるのだが。
ただこの天幕の中は、端から見れば少し異様な光景だった。
天幕の中にいるのは三人、今回のテルゲン王国へ招かれた王族の代行である外務次官と、行軍の指揮官である将軍、そしてその将軍の部下であるであろう兵士の三人だ。
そしてこの中で一人だけ椅子に座り、立ったままの二人が臣下の礼を取っているのは、一番下に見える兵士の男だった。
実はこの兵士の正体は、バゴス王国の第三王子コウハキン=ケイ=バゴスである。コウハキン王子は、今回、父であるバゴス王にすら何も言わずに、この使者の部隊に紛れ込んでいたのである。
目的は、現在のテルゲン王国の現状視察だ。
年中灼熱のバゴス王国としては、テルゲン王国は欲しい。だが、間に雪山もある事からテルゲン王国を攻め取るのは難しい。そこで、例えばテルゲン王国が他国からの危機に晒されているならばそれを助け、恩を売るつもりだったのである。恩を売っておけば、食料の買取金額も抑えられる可能性が高いからだ。
だが、新生テルゲン王国には我聞がいた。あの飛空艇や空飛ぶ大陸を見て、事を構えようと言う愚か者は流石にいないだろう。王女との婚姻を結ばせようにも、すでにテルゲン王国の姫との婚約が内定している今では、話を持っていくだけで不機嫌になるのは明白だ。
「…………まぁ無理だな。あれと戦える訳がないし、他国とてそれが解らない訳じゃないだろう。」
「それでは我が国としての行動は…………?」
「友好関係を結ぶしかないだろうな。今頃は他の国も、こうして雪山で会議を開いているだろう。その内容は、どこもきっと同じだろうさ。幸いなのは、あの勇者殿がテルゲン王国の臣下では無いと言う一点のみだな。レクター王もやってくれる。まさか勇者を婿にするのではなく一人娘を嫁がせるとはな」
コウハキンの言葉は的を射ており、テルゲン王国の様子を見るために戴冠式に出席した者たちは、皆一様に、雪山で一晩過ごしながら同じような結論に達していたのだった。