作品タイトル不明
420回目 戴冠式の裏側
戴冠式の後、各国の重鎮達がテルゲン王国主催のパーティーに出席し、親睦を温めていた頃。
テルゲン王国の新たなる王となったレクター=カラーズカは、『聖エタルシス教会』からやって来た二人、ドートニーとマッカシーと言う二人の枢機卿と、傍聴魔法が掛けられた一室で会談をしていた。
二人の内、前に出てレクターと交渉をしているのはマッカシー枢機卿の方であり、個人的にもレクターと交流を持っているドートニーは一歩下がって二人の会話を聞いていた。
「…………では、教会の数は増やして貰えるんですな?」
「ああ、許可する。ただし、ある程度の大きさがある辺境の村にも教会の人間を派遣して貰うぞ? 性格の良い者をな。それに街の方では病院と孤児院も増やす予定だから、そちらとも上手くやるように」
「…………病院と孤児院ですか。それは二つとも、教会の領分ではありませんか」
「今まではそうだ。だが事実として不足している。先王の政策の結果でもあるが、俺が知る教会の人間はあまりにも不正に関わり過ぎている。そんな奴らは俺の国には要らない。即刻持ち帰って貰おうか」
「…………綺麗ごとだけで治世が務まりますかな?」
「程度によるだろう? それに、そんな黒い部分をガモンに見られる方が問題だ。我が娘婿殿には嫌われたくないのでな」
「……………………ずいぶんと『勇者』に気を使ってらっしゃる。此度の戴冠式に出向いた者達が、首を傾げているのはご存知か?」
「そうなのか?」
知っていて惚けてみせるレクターに、マッカシー枢機卿は鋭く眼を細めた。
「いま各国には、貴方のお嬢さんと勇者殿による『婚約式』への出席を促す特使が遣わされていますね。テルゲン王国の新王たる貴方の戴冠式ではなく、勇者とは言え貴族でも無い者の『婚約式』が、さほど重要ですか? 今回の戴冠式の為に来られた方々の中には、危険極まる冬の山を越えて来た方までおるのですよ? 『 飛空艇(あのような物) 』が使えるのであれば、戴冠式に来られる方々の送迎こそ、勇者殿にやらせるべきだったのではありませんか?」
「口を慎め。ガモンは俺の部下ではないし、娘が嫁ぐ相手だぞ」
「…………私は聞きたいのです。飛空艇の特使は、各国に勇者殿のスキルから出て来た物を贈り物とまでしていると聞きました。貴方の『戴冠式』よりも、勇者殿の『婚約式』を重要視しているのは何故なのかを!」
「それは単純な話だ。そちらの方が重要だからだ」
「なっ!? 一国の王の戴冠式よりも、平民の婚約式が上と言われるか!?」
「我が娘に対して不敬…………と言いたい所だが、娘もその平民に嫁ぐ身だ、不敬とは言わないでおこう。だがマッカシー枢機卿。貴殿はずいぶんとガモンに偏見があるようだな?」
「…………くっ!」
「いいか? 俺の戴冠式は、あくまでもこのテルゲン王国の内部の問題だ。周辺諸国の事を考えるならば、本来は『恥』であり『弱味』だ。事実、我が国を取るなら今かと探りに来ている者も多いだろう?」
レクターが言っている事は確かであり、レクターはガモンを通して、『キャンパー』がドローンを使って集めた密偵の情報を握っている。
そして情報を探っている者の存在はマッカシー枢機卿も承知している。…………と言うよりも、『聖エタルシス教会』が放った密偵もその中には含まれていた。
「だがガモンはこの世界を救う者だ。貴殿とてガモンのガチャアイテムを使って『方舟』を見た事がある筈だ。あれほどのモノを相手にするのだぞ? ガモンには国の垣根を越えて協力体制を築かねばならん」
「むぅぅ…………」
「俺が戴冠式を急いだのには、我が国に攻める隙など無いと言う証明と、後は戴冠式と婚約式の日取りをずらす事が必要だったからだ。特に我が国との交流が限定的なものになっている国には、ガモンと縁を結ぶ重要性を説く手紙もしたためた」
「何故そこまで…………」
「何故だと? それが『勇者』を召喚する術を持つ教会の言う事か? …………どうやら教会の総本山では、もう『勇者』を召喚できないと言う噂は本当だったようだな。規定が緩くなって召喚の儀式を売っているのではなく、教会が強く関わっていない場所でしか呼べなくなったのか」
「……………………貴方様は、あの『方舟』を見て、あれを『試練』だと思ったのですか?」
「どういう意味だ」
「『神』は、時に人に『試練』を与えます。一歩間違えれば人類が滅びるような『試練』も、それを乗り越えた時に人類が成長した姿を見るための『神の愛』なのです。…………『魔王』は、『試練』です。確かに最初こそ『勇者』の力を必要としましたが、今では国単位で対処ができる。そして我々が対処できると見た『神』は『勇者』をこの世界に送らなくなったのです」
「…………『方舟』は違うと?」
「『幻獣』と勇者殿の戦いを私も見ました。あの姿、そしてあの大量の『瘴気』。…………あれは『滅び』そのものです。そして『方舟』には、さらに『幻獣』が乗っているのも見ております。ならば、これは『試練』ではない。『神』が望んでおられるのは、我々の『滅び』です」
「…………まさか貴殿は…………!?」
「我らの崇める『神』がそうと決めたのならば、我々はそれを受け入れて滅びるべきなのです」
真っ直ぐにレクターの眼を見つめて言い放つマッカシー枢機卿に、レクターは絶句した。