作品タイトル不明
130回目 飯を食う幽霊
『ホゥ、ホウホウホウ、ホホーーゥ!』
「……………………」
『おおぉ、なるほど! これが勇者の言っておった物の実物じゃな! ホゥホホーーゥ!!』
取り敢えず、幽霊を招いてみた。『◇キャンピングカー』の中に入った途端、フクロウの様に鳴き声をあげながらキョロキョロと落ち着きなく空中をさ迷っている。
そのあまりの光景にその場にいる全員が引いているが、…………アレ『大魔導師』の二つ名を持つ英雄なんだぜ? 信じられないだろ。
「…………あの方が、大魔導師ドゥルク=マインド様ですか。…………ガモン様、大魔導師様はだいぶ興奮なさってますが、どうしますか?」
「…………いいよ放置で。取り敢えず飯にしようぜ。シチュー冷めちゃうし」
あの幽霊、近代的な設備が珍しいのか、ずっと『◇キャンピングカー』の中を飛んでるしな。何より、せっかく作ったシチューが冷めたら勿体ないのだ。
…………が、そのシチューですら興味の対象だったらしく、俺達の会話を聞きつけたドゥルク=マインドの幽霊は物凄い勢いで食い付いて来た。
『シチュー!? いまシチューと言ったのかな!?』
「…………え、えぇ。そうですが…………?」
『シチューとは勇者が言っておった異世界の食べ物じゃな? もしや本物があるのか?』
「本物? いや、本物が何かは知りませんけど、俺が作ったシチューならありますけど…………」
『儂にも食わせてくれんか?』
「食えるの!?」
『ウム!!』
なんとこの幽霊、幽霊なのに飯を食うとか言い出した。
なんでもドゥルク=マインドは、生前はけっこうな健啖家で知られていたらしく、食べる事に重きをおいていたのだと言う。
なので肉体が滅び幽霊となった後も、何とか食事をしようと試行錯誤を繰り返し、ついには食物を魔力に変える秘術を編みだし、幽霊でありながら食事を取れるまでに至ったのだそうだ。…………どんな執念だ。
まあ、食いたいと言うなら食わせてやろう。俺はドゥルク老師の分もシチューを用意した。
「じゃあ、まず食おうか。いただきます」
「「……………………うまい!」」
『ウム! 美味い! なるほど、これが勇者が再現を試みておった物か! 勇者本人も言っておったが、確かにアレでは何か足りなかったのだな。ウム、これは良いぞ。勇者風に言うならば『チョベリグ』じゃな!!』
「おっふ!?」
うぉっと!? 大魔導師の幽霊からスゲェ死語が出て来たぞ? え、それ勇者が広めたの? なにしてくれてんの? ソイツ。
『それにしても、マトモな食事は久々じゃ。儂の墓には時おり果物なんかは供えられておったし食ってもいたが、やはり温かい料理は良いな。…………すまんが、ついでに肉でも焼いてくれんか? しばらく肉を食っとらんから肉の味が恋しくてのぅ。勇者風に言えば、たんぱく質が足りとらんのじゃ』
「幽霊に必要か? たんぱく質。…………ちょっと待っててくれ、確かステーキ用の肉が幾つかあった筈だ」
まさか幽霊から『たんぱく質が足りない』なんて言われるとは思わなかった。幽霊から一番聞く事のない単語だと思う、たんぱく質。
だが、ドゥルク=マインドのクエストのおかげでノーバスナイトとサリアナイトを助け出せているからな。肉くらい、焼いてやるさ。
俺はスキルの倉庫の中からサーロインステーキの肉を取り出して焼き始めた。霜降りA5ランクの名のある牛である。絶対うまい。
サーロインステーキにはちょっとうるさいよ、俺。余分な水分を取って筋切りを忘れない位にはうるさいのだ。
だって自分へのご褒美として、いい肉を買ってきて焼いたりしてたからね。専門店に行った事もあるけど、家で一人気楽に食うのが好きだったのだ。いい肉は家で焼いても美味いからな。
俺はスライスしたニンニクを軽く炒めて、そこにサーロインステーキを投入して焼き始めた。
肉から溶け出す脂の焼ける音と匂いが食欲を刺激する。うーわ、俺がデパ地下とかで買ってたよりも、いい肉なんじゃないかコレ? …………俺の分も焼いちゃおうかな。
などと思っていると、いつの間にかノーバスナイトとサリアナイトの七人に囲まれていた。トルテなどちょっと涎が垂れかけている。
「な、なぁガモン。俺達にも焼いてくれないか、その肉…………」
「…………全員分は流石に無いから、小分けでいいなら後で焼いてやるよ」
「やった!!」
まあ俺も食いたいし、確かまだ三枚か四枚あった筈だ。一人分に切り分ければ少ないが、我慢しよう。
『おおおおおっ!! うまい! これはうまいぞ!! 勇者が『俺の国では食う為に最高の状態で家畜を育ててる』と言っておったが、なるほどこういう事か!! チョベリグじゃ! グッジョブじゃ!』
「だからどの時代の人なんだよ、その勇者」
死語を連発しながら肉を頬張る幽霊に溜め息をついて、俺は残りの肉を焼いて全員分に切り分けた。
量は少なかったが、メチャクチャ柔らかくて美味かったので俺は満足だ。トルテ達も一口食べて固まる程には、肉の美味さに感動していたな。