軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:232 犠牲者

「まだだ、もう一度上級魔術を放つのだ」

ヴィットリオが叫んだ。宮廷魔術士たちは急いで魔術の準備を始める。そして、もう少しで準備が終わろうとした時、ティターノフロッグが頬を膨らませてから大口を開け炎のブレスを吐き出した。

宮廷魔術士たちを薙ぎ払うかのように吐き出された炎は、辺り一面を焼け野原にする。

その炎のブレスが終わった時、生き残った宮廷魔術士は少なかった。辛うじて生き残ったサルヴァートは父親であるヴィットリオを探す。

そして、倒れているヴィットリオを発見した。

「父上」

駆け寄って生死を確かめる。ヴィットリオは死んでいた。

サルヴァートは遺骸を担ぎ、その場を逃げ始める。ティターノフロッグは宮廷魔術士の生き残りには目もくれず、魔獣の死体を食べ始めている。

ティターノフロッグから逃げた宮廷魔術士たちは、王都から来た兵士たちと合流し、その助けを借りてリカルドたちのところまで撤退したのだ。

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

サルヴァートの話を聞いたリカルドたちは、上級魔術が全く効かなかったということに衝撃を受けた。宮廷魔術士たちが使う上級魔術は、魔術士協会の魔術士たちが使うものと本質的には変わりがない。

個人個人の熟練度により多少の威力は変わるが、聞いた限りでは上級魔術でティターノフロッグを倒せないということのようだ。

同じように、生き残った宮廷魔術士の話を聞いた代表理事のジェズアルドは、厳しい顔をしていた。

「まずいな。上級魔術が通用しないのなら、我らにも打つ手がない。どれほどの化け物か確かめる必要があるな」

ジェズアルドはリカルドとパトリックを呼んだ。

「お呼びですか?」

「ああ、ティターノフロッグをこの目で見たい。同行してくれるか?」

リカルドも見ておきたいと思っていたので同行することに同意した。パトリックも同意する。

「残りの者たちは、ここで待機していてくれ」

長老派のジャンピエロ局長が、同行を申し出た。

「いや、この二人がいれば十分だ」

ジャンピエロ局長は不満そうな顔をする。

リカルドたち三人は、ティターノフロッグが居ると思われる場所へリカルドのミニバンで向かった。

しばらく進んで、森から煙が上がっているのが目に入った。

リカルドたちはミニバンから降りて、歩いて進むことにする。

「君たちは、相当慣れているようだね?」

ジェズアルドがリカルドとパトリックに声を掛けた。その顔を見ると緊張しているようだ。

「ええ、強力な魔獣を退治したことは何度もありますから」

リカルドが言うと、少しホッとしたような顔になる。

「聞いているよ。巨蟻ムロフカを倒したそうだね。特級魔術で倒したと聞いたが、本当なのか?」

「正式に特級魔術というものがあるわけではないのですが、上級魔術より威力が上だと思っています」

「素晴らしい。その特級魔術でティターノフロッグも倒してもらえると嬉しいのだが」

「魔術と魔獣には相性がありますから、特級魔術がティターノフロッグに効果的かどうかは、試してみないと分かりません」

「なるほど、ティターノフロッグが、どういう魔獣かが鍵になるのだな。しかし、カエルの化け物が火を吐くというのが信じられん」

パトリックが頷いた。

「ワイも心配しとるんだがね。特級魔術の【白星焔弾】も【火】の魔術だがや。もし、ティターノフロッグが火に強い魔獣だったら、どうする?」

「ある程度の、火に対する耐久性を持っているとしても、【白星焔弾】の高熱は生半可なものじゃない。仕留められなくともダメージを与えられると思っている」

「そうだったがや。【白星焔弾】は山を吹き飛ばすほどの威力を持っているんだったがね」

ジェズアルドが少し笑った。大袈裟に言っていると思ったようだ。

話しながら進むうちに煙が上がっている地点に近付いた。森の中の獣道のようなところを歩き、もう少しで森が途切れるという場所で、ティターノフロッグを発見した。

「ここまで大きいとは思わなかった」

リカルドが声を押し殺して言う。リカルドの前に山のような魔獣が居る。あの双角鎧熊を口の中に放り込んで咀嚼し始めたのだ。

「宮廷魔術士が敗れたのも頷ける化け物だ」

ジェズアルドが唸るような声で言う。

「ティターノフロッグは、いつまで食べるつもりだがね?」

「食べ尽くすまでじゃないか」

リカルドたちは少しの間、ティターノフロッグを観察していた。その時、パトリックが人影を発見した。

「誰か来るがや」

リカルドとジェズアルドが視線を向ける。そして、ジェズアルドが舌打ちした。

「馬鹿な、待機していろ、と指示したのに」

リカルドたちの後ろから来たのは、長老派と王権派の魔術士たちだった。よく見ると、ジャンピエロ局長の姿もある。

「何をしようというのだろう?」

リカルドが疑問を口にする。ジェズアルドが顔を青褪めさせる。

「まさか、ティターノフロッグを攻撃しようというのではないだろうな」

「あの化け物を見て、それでも攻撃しようと考えるのは、アホだがね」

ジェズアルドがリカルドたちに顔を向け、

「ここで待っていてくれ。儂が話を聞いてくる」

ジェズアルドがジャンピエロ局長のところへ行った。それを見送ったリカルドとパトリックは、ティターノフロッグの観察に戻った。

「あの化け物の弱点になる部位なんて、あると思うきゃ?」

パトリックの質問にリカルドは難しい顔をする。

「敢えて言うなら、あのデカイ目だと思う」

「目か……だけど、あの目を狙い撃ちするのは難しいがね」

【九爪竜撃】を使って、宙を舞う竜爪を誘導することはできるだろうが、遠くからだと誘導が難しいので近付く必要があるかもしれない。そうなると危険だ。

「魔術士全員が、命懸けで戦いを挑まなければ、勝つことができないかも」

パトリックが青い顔をして頷いた。

その時、ジェズアルドとジャンピエロ局長が激しく言い争っている声が聞こえてきた。

「目の前に化け物がいるというのに、何をやっとるがね」

興奮した魔術士たちは、無意識に魔力を放った。それは魔術士でも気付かないほどの微量な魔力だったが、魔獣であるティターノフロッグは魔力を感知した。

ティターノフロッグが食事をやめ、後ろを振り返る。リカルドたちはすぐに気づいて身を潜めたが、ジェズアルドたちは争っていたので気づくのが遅れた。

ジェズアルドたちが気づいた時、ティターノフロッグがジェズアルドたちを発見し見下ろしていた。

ジャンピエロ局長が慌ててロッドを構え、上級魔術を放とうとする。

敵が攻撃しようとしているのに気づいたティターノフロッグが、頬を膨らませた。リカルドは黒震魔砲杖を取り出し、ティターノフロッグに向けて引き金を引いた。

黒震魔砲杖のセレクターを【空震槍破】に合わせてあり、その銃身から空間を黒く変色させた空震槍が撃ち出された。

空震槍はティターノフロッグに向かって飛翔し、その腹に命中。吐き出そうとした炎のブレスが角度を変えて地面を焼く。

「逃げろ!」

ジェズアルドの命令の声が聞こえた。まだ戦う準備ができていない。リカルドたちは逃げ出した。

リカルドたちは西に逃げ、ジェズアルドたちは東に逃げたようだ。そして、ティターノフロッグは腹から血を流しながらジェズアルドたちを追った。

逃げ切ったと分かったところで、リカルドたちは立ち止まる。

「【空震槍破】でも、仕留められなかったな」

「でも、黒震魔砲杖の【空震槍破】は魔術のものより、威力が落ちると言っていたがね」

「そうなんだけど……」

東の方で大きな火柱が見えた。ジェズアルドたちが逃げた方角だ。

「ジェズアルド代表理事たちが、無事だといいが……」

リカルドの表情は暗い。どう考えても無事だとは思えなかったからだ。

リカルドとパトリックは話し合い、ジェズアルドたちの安否を確かめるために引き返すことにした。リカルドは黒震魔砲杖を触媒カートリッジと一緒にパトリックに渡した。

「それを使ってくれ。但し、連続では使えないことには気をつけて」

黒震魔砲杖のクールタイムは三分である。一度使うと三分は使えないので、それを考慮するように注意する。

「分かったがね」

パトリックが受け取って、自分の収納紫晶に仕舞う。

二人は急いで引き返しジェズアルドたちを探す。そして、地面が焼けただれている場所で、焼死体を発見した。

「代表理事だ」

「こっちは、ジャンピエロ局長だがね」

ティターノフロッグの前では、魔術士というものは落ち葉のように軽い存在らしい。焼かれて燃え上がり灰となる。仲が良かったとは言えないが、同じ職場で働いていた者たちだ。彼らをこんな姿にした化け物に怒りを覚えた。

パトリックがキョロキョロと探す。

「ティターノフロッグはどこに行ったがや?」

リカルドは王都の方へ進んでいるティターノフロッグを発見して慌てた。

「冗談じゃない。あいつを王都へ行かせたら、大勢の人が死ぬ」

走り出したリカルドを、パトリックも追いかける。

「どうするんや?」

「あいつの背中に、【白星焔弾】を撃ち込む」

ティターノフロッグの歩みが遅いので、二人は追い付いた。カエルならぴょんぴょん跳んで移動しそうなものなのだが、巨大になりすぎたティターノフロッグは、一度跳躍すると休憩が必要らしい。

リカルドは立ち止まって、精神を集中させる。

源泉門から溢れ出す力を魔力に変換し、ガードロッドへ押し出す。膨大な魔力は渦を巻き圧倒的な力をパトリックに感じさせた。

リカルドは専用の触媒を撒き、【白星焔弾】の呪文を唱え始めた。

「 ファナ(火よ) ・ ジェネサシャレス(白き星のように) ・ ヴァシャロセ(熱く燃え上がり) ・ スペロゴーマ(弾け飛べ) 」

ガード型黒魔術盾の魔力障壁が発生した。膨大な魔力は、空中で圧縮され球形となり、膨大な熱を放出し始める。少し離れた位置で見守っていたパトリックは、強烈な熱を感じて、木の陰に隠れる。

白星焔弾が飛翔を始め、内包する魔力を消費して急速に温度を上げながら拡大する。

拡大した白星焔弾は、ティターノフロッグの背中に命中しめり込む。今までの魔獣なら簡単に貫通したのに、ティターノフロッグの肉体は抵抗した。

だが、ティターノフロッグでも白星焔弾の超高熱には耐えきれずに体細胞が炭化する。一気に燃え上がり、白星焔弾が貫通し森の中に落下して爆発した。

爆風がリカルドとパトリックのところまで押し寄せ、二人の身体を吹き飛ばそうとする。

その爆風に耐えた二人は、ティターノフロッグを仕留められたか確認しようとした。ティターノフロッグは地面に這いつくばっていたが、死んではいなかった。

白星焔弾が貫通したティターノフロッグの背中と腹から大量に体液が零れ出している。ティターノフロッグが奇妙な声で鳴き始めた。

それが段々と甲高いものに変わり、耳が痛くなり始める。リカルドとパトリックは逃げ出した。巨蟻ムロフカの『魔の滅死響』を思い出したのだ。

二人は耳を押さえて走り続け、聞こえなくなったところで足を止める。

「何だったんだ?」

「ワイにも分からんがね。でも、ティターノフロッグにもう一発命中させれば、仕留められるんじゃないきゃ?」

「そうだな。戻ってトドメを刺そう」

二人は逃げてきた道を戻り始めた。

「はあっ、何か疲れた」

リカルドが弱音を吐くと、パトリックが心配そうな顔をする。

「頼りにしているのは、リカルドだけなんやから、気合い入れて行くがね」

戻った二人が目にしたのは、巨大な穴だった。ティターノフロッグは地面に穴を掘り、中に入ってしまったようだ。

「まずい。これじゃあ、トドメをさせんがや」

「この穴に入るのは無謀すぎるだろうな」

地上から白星焔弾を撃ち込めないか見てみたが、穴がカーブしている。これはダメだろう。