作品タイトル不明
scene:233 ティターノフロッグの執念
リカルドたちは、ティターノフロッグが穴から出てくるのを待つことにした。ジッと待っていると、王家の兵士たちが現れ、状況を確認した。
「なるほど、代表理事殿と魔術士数人が、ティターノフロッグに倒され、リカルド殿が特級魔術を命中させると、地面に潜ってしまったということですな」
「そうだがね。済まんが、魔術士たちの遺体を持ち帰ってくれないきゃ。一刻でも早く、家族の元に返してやりたいんだがね」
兵士たちが頷いた。
「分かりました」
兵士たちは遺体を集めて、軍用車に載せると戻って行った。ただ数人の兵士たちが、この場に残りティターノフロッグを監視する役目を交代してくれることになった。
リカルドはコンテナハウスを出して、少し休むことにした。
「魔力を回復したいから、少し休憩しよう」
「そうだな。紅茶でも淹れるがね」
パトリックが紅茶を入れ、二人は椅子に座って紅茶を飲み始める。
「リカルド、あの化け物を倒せそうきゃ?」
「そうだな。【白星焔弾】を連続で二発叩き込めば、倒せそうだ」
「触媒はあるのきゃ?」
「まだ三回分の触媒がある」
【白星焔弾】の触媒は希少な素材を使っているので、用意できる数が制限されているのだ。
「ぎりぎりだがね。それで仕留められるといいんやが」
「どうせ、ガードロッドは二本しかないんだ。連続では二回しか撃てない」
「ああ、そっちの問題もあったがね」
それから半日ほど静かだった。リカルドとパトリックは交代で眠り、英気を養う。そして、ようやくティターノフロッグが動き出した。
「リカルド殿、ティターノフロッグです」
兵士の一人が声を上げた。
リカルドは、コンテナハウスを出るとティターノフロッグの穴へ目を向けた。穴から顔だけ出した化け物がギョロリとした目で周囲を見回している。
コンテナハウスは森の中にあるので、見付からないだろう。リカルドたちも気配を消して、木陰からティターノフロッグを見ていた。
穴からティターノフロッグが出てきた。やはり傷は塞がっていた。期待していたわけではないが、リカルドは少し落胆する。
リカルドの横で、パトリックが黒震魔砲杖を取り出した。
「ここから狙えるきゃ?」
「もちろんだ。我々が攻撃を始めたら、兵士の方たちは急いで逃げてくれ」
兵士たちは顔を見合わせて頷いた。
「分かりました」
リカルドは触媒を取り出し、意識を源泉門へ進ませる。二歩の距離まで近付いたリカルドは、膨大な力を取り込み魔力へと変える。
その魔力をガードロッドへ流し込み触媒を振り撒く、ティターノフロッグが膨大な魔力に気付いた。こちらにギョロリと目線を向けて、頬を膨らませる。
リカルドは炎のブレスより一瞬早く白星焔弾を撃ち出した。急速に温度を上げながら拡大する白星焔弾は、ティターノフロッグに命中する寸前に、巨大な口から吐き出されたブレスで迎撃された。
巨大な火柱が白星焔弾とぶつかり少し軌道が外れる。リカルドはティターノフロッグの中心を狙ったのだが、肩の辺りに命中して貫通した。
チャンスだと思ったパトリックが、黒震魔砲杖のセレクターを【空震雷砲】に合わせて引き金を引いた。黒震魔砲杖から三本の黒い槍が伸びて、それぞれが干渉して放電現象を起こす。
その三本の黒槍が螺旋を描き回転しながら撃ち出された。
三本の渦が合わさり一つの大きな黒い渦となった。それに気付いたティターノフロッグが、大ジャンプする。その巨体でどうして跳び上がれるのか不思議なほどの高さまで跳んだ。
だが、黒槍の渦はティターノフロッグの足を掠めていた。その足が抉られ体液を流す。
ティターノフロッグが無様に着地したが、素早く立ち直り頬を膨らませた。
「まずい、パトリック、こっちへ!」
リカルドは【炎風陣】の魔術を発動する。リカルドとパトリックの周りにオレンジ色に輝く風が吹き防壁の壁となる。
その防壁に強烈な炎が吹き付けられた。
パトリックは自分たちの周りが炎に包まれたのを見て不安な顔をする。
「リカルド……」
声をかけようとしてやめた。リカルドの厳しいと思えるほど真剣な顔が、その集中力を乱してはいけないと思わせたのだ。
リカルドは意識を源泉門から二歩の距離にまで近付け力を引き出していたが、それでは間に合わないほどの勢いで魔力が消費されているのを感じていた。
このままでは【炎風陣】の防壁を持ちこたえられないと感じたリカルドは、意識をもう一歩だけ進めた。そのためには意志力の全てを使う必要があった。
源泉門から突き刺すような圧力を感じて戻りそうになったが、リカルドは堪えて一歩の距離で膨大な力を吸収し魔力に変換する。その魔力は、この惑星に住む人間が放出した最大のものだった。
パトリックは、その莫大な魔力を感じて息を呑んだ。【白星焔弾】を放つ時も、膨大な魔力を放出しているのを感じていたのだが、今はそれ以上だった。
「おいおい、冗談じゃないがね。どうなっとるがや」
やっと炎のブレスが終わった。リカルドたちが健在なのを見て、ティターノフロッグが前足で踏み潰そうと進み出てきた。接近戦ができるような相手ではない。
「近付かれたら、まずい」
リカルドたちは逃げ出した。パトリックは後ろを振り返り触媒を取り出すと、【九爪竜撃】を発動した。九つの竜爪はティターノフロッグに食い込んだが、体表を傷つけた程度だった。だが、そのおかげで前進が止まった。
リカルドたちは距離を取るために走った。
ティターノフロッグが追ってきたが、その歩みは遅かった。元々足が遅い上に、パトリックが撃った【空震雷砲】の傷が影響しているのだ。
リカルドは【九爪竜撃】を発動して、ティターノフロッグの目を狙った。一発目から四発目までをデカイ顔を目掛けて飛翔させる。
竜爪が化け物の顔に突き刺さる。【九爪竜撃】は上級魔術である。その威力は半端なものではなかった。だが、伝説の魔獣には大きなダメージを与えられなかった。
ティターノフロッグが頑丈すぎたのだ。
残りの竜爪で目を狙う。一発の竜爪がデカイ右目に命中し、ティターノフロッグをひるませる。やはり眼は弱点だったようで、苦痛で大暴れを始めた。
転げ回るようにして暴れるティターノフロッグには、魔術の照準を合わせ難い。
「止まった瞬間、魔術で攻撃する」
リカルドがパトリックに告げた。
「よし、ワイも黒震魔砲杖で攻撃するがね」
二人は魔術と黒震魔砲杖の準備をした。
ティターノフロッグが転げ回るのをやめたのは、周りの木々が薙ぎ倒された後のことだった。リカルドたちは、その力に改めて脅威を覚える。
リカルドは【白星焔弾】を放った。大きなエネルギーを秘めた白星焔弾が、ティターノフロッグに向かって飛び、化け物の下腹を貫いた。
ティターノフロッグはよろめき弱々しく頭を振る。
「パトリック!」
「任しとけ」
パトリックがトドメとなる【空震雷砲】の引き金を引いた。
禍々しいほどの力を秘めた黒い渦がティターノフロッグに向かって飛翔する。それに気付いた巨大カエルは、地面を転がって避けた。伝説の魔獣とは思えないほど必死だ。
「くそっ、外れたがや」
次の瞬間、ティターノフロッグが前足を近くの木に叩き付ける。その木が折れ、リカルドたちに向かって飛んできた。
「うわっ」
二人はバラバラに逃げ出した。だが、その枝がパトリックに当たり打ち倒す。
「パトリック!」
リカルドは駆け寄ろうとしたが、ティターノフロッグが邪魔をした。リカルドに向かって迫ってきたのだ。リカルドはパトリックが居る方向とは逆へと走り始めた。
背後で木が薙ぎ倒される音が聞こえる。
一分ほど走った時、背後の音が消えた。振り返ると、ティターノフロッグが地面に倒れて動かなくなっている。
「死んだのか?」
リカルドは注意深く観察した。胸が少し動いている。死んだわけではないようだ。
「トドメを刺さなきゃ」
放っておけば回復するかもしれない。
リカルドは【空震雷砲】用の触媒を取り出す。そして、ティターノフロッグに視線を戻した時、その頬が膨らんでいる事に気付いた。
「こいつ、まだブレスを吐く力が残っていたのか」
リカルドは慌てて【炎風陣】の魔術を準備して発動した。
リカルドの周りをオレンジ色の風が取り巻いた瞬間、起き上がったティターノフロッグが炎のブレスを吐き出した。
激しい炎はリカルドの防壁に当たって弾き返された。だが、ティターノフロッグは諦める気がないようだ。構わず炎を吐き出し続ける。
リカルドは意識を源泉門から一歩の距離まで進めて、力を取り込み魔力へと変換していた。そのまま我慢していれば、チャンスが訪れると思っている。
ティターノフロッグは傷付き、弱っていたからだ。
ところが、この化け物は炎の勢いを強めた。その圧力で【炎風陣】の防壁が崩れそうになる。源泉門から一歩の距離で取り込む力を魔力に変換しても、【炎風陣】に注ぎ込む魔力が足りなくなった。
リカルドは一瞬でも注ぎ込む魔力が弱まれば防壁が崩壊し焼け死ぬだろうと悟った。こうなれば、もう一歩進めて、源泉門の中に入るしかない。
源泉門から吹き付ける圧力に抗して、意識を前に押し出す。苦しい。頭が焼け付くように痛む。
リカルドは歯を食いしばって、意識を進ませ源泉門に足を踏み入れた。