軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:226 爆雷鳥と巨蟻ムロフカ

セルジュが爆雷鳥と戦っている頃、パメラはユリウス料理館で母親に抱きついて震えていた。爆雷鳥が近所の屋根の上に止まって、外に出てきた人間を襲っていたのだ。

「パメラ、大丈夫よ。きっと、リカルドたちが助けに来るから」

「でも……」

外の路上には、血を流して倒れている人たちがいた。爆雷鳥に襲われて死んだ人々である。

店の内部には大勢の客がいたのだが、爆雷鳥が現れたのを目にした人たちは外に出て逃げようとした。だが、外に出た人たちの多くは爆雷鳥の餌食となった。

「総店長、何とかならないんですか?」

従業員の一人が懇願するように声を上げた。

「そう言われても、私では魔獣を相手にはできないからね」

「息子さんから、魔術とか習っていないんですか?」

「無理言わないでよ」

その時、窓がコツコツと音を立てた。

「あっ、モンタちゃんとメルだ」

窓の外にモンタとメルがいるのを見つけたパメラが、窓に走り寄ろうとした。それをジュリアが止めて、自分が窓に近付き窓からモンタとメルを中に入れた。

「パメラ、大丈夫だった?」

モンタを見たパメラは少し安心したようだ。

「ん、大丈夫」

ジュリアがモンタに話しかけた。

「モンタは、リカルドのところにいたんじゃないの?」

「リカから、セルジュに伝言を頼まれたの」

リカルドがセルジュを心配していたのが分かり、少しホッとした。だが、セルジュのところへ行ったはずのモンタが、なぜここに来たのか気になる。

「モンタは、セルジュのところへ行ったんでしょ。どうしてここへ?」

「セルジュが、パメラを助けに行くって言うから、先にメルと来たの」

それを聞いたジュリアは、顔色を変えた。

「リカルドは何と言っていたの?」

「あのね。建物の中でジッとしていなさいって」

「だったら、セルジュを外に出したら、ダメじゃない」

モンタが今気づいたという顔をする。それを見たメルが、

「モンタ、ドジ」

「メルも一緒だったじゃないか」

「そうだった。メルもドジ」

ジュリアは何だか力が抜けた。そこにモンタが告げる。

「でも、セルジュは大丈夫。リカが作った魔狼砲、持ってたから」

ジュリアは複雑な表情を浮かべた。その武器なら魔獣を倒せると分かったが、何だか心配になったのだ。

「アントニオは、どこにいるの?」

「分かんない。セルジュ一人だった」

「リカルドは?」

「殿下に呼ばれた」

モンタが殿下というのは、王太子殿下のことだろう。リカルドもすぐには助けに来れないかもしれない。ジュリアは不安になった。

しばらく店の中でジッとしていると、男性客の一人が意を決して立ち上がり、外に出ようとする。

「待ってください。今、外に出たら危ないですよ」

ジュリアが止めた。

「しかし、家族が心配なのだ」

「あなたが外に出て、あの魔獣に殺されたら、今後誰が家族を守るんです。今は待ちましょう」

窓の傍で外を見張っていたメルが声を上げた。

「セルジュ、来た」

ジュリアとパメラが窓に近付き外を見た。

「セルジュ兄ちゃんだ」

外を見たモンタは、爆雷鳥がセルジュに視線を向けたのに気づいた。

「セルジュ、危ない。外に出る」

ジュリアはモンタがセルジュを助けようとしているんだと分かった。不安にはなったが、モンタはリカルドが魔術を長年教えている賢獣だ。それを信じてモンタを外に出した。

モンタはセルジュに向かって走り出した。

爆雷鳥は屋根から飛び上がり、セルジュに向かって滑空する。

モンタは魔成ロッドを取り出して、【風斬】の魔術を放った。触媒なしでモンタが使える魔術である。風の刃は爆雷鳥に命中したが、ほとんどダメージを与えられなかった。

だが、驚いた爆雷鳥は上昇する。

「モンタか、助かったよ。ありがとう」

「また来るよ」

モンタが触媒を取り出した。【九爪竜撃】の触媒である。大量の魔力を使う上級魔術だと、賢獣であるモンタも触媒が必要なのだ。

魔成ロッドに魔力を流し込み、触媒を撒き散らしたモンタは、呪文を唱える。

「 シェナ(風よ) ・ ヴェゼラシル(大気を固め) ・ オボス(九本の) キュセ(竜爪となり) ・ ジュセム(合図を待ち) ロベス(切り裂け) 」

モンタの周りに竜爪が生まれ、合図の言葉で次々に爆雷鳥へ飛翔する。その攻撃に気づいた爆雷鳥は竜爪を躱す。モンタは六本の竜爪を放ったところで合図を止めた。

すると、爆雷鳥が急降下を始め、爆雷の魔法を放つ。それを見たモンタは、爆雷に向かって残りの竜爪を飛翔させた。

竜爪が爆雷に命中し爆発。その爆風に巻き込まれた爆雷鳥が、回転しながら落ちてくる。

「僕が仕留める」

セルジュは魔狼砲を構えて、爆雷鳥へ向けた。そして、引き金を引く。魔狼砲から衝撃波が放たれる。その反動は少しだけあるが、大したことはなかった。

衝撃波が爆雷鳥に命中しズタズタに引き裂いた。血を噴き出した爆雷鳥は、道路に落下。その戦いを見ていたジュリアとパメラは、出入り口から飛び出してセルジュに抱きついた。

「心配をかけないで」

母親にそう言われたセルジュが、ちょっと不満そうな顔をしたが頷いた。

「モンタちゃん、凄かったよ」

パメラはモンタを抱き上げた

「そうだ、ティアは?」

モンタが尋ねた。モンタの妹分であるティアは、パメラと一緒にいたはずなのだ。

「ティアは、店で寝ているよ」

モンタはパメラの腕から抜け出し、店に入るとティアを探した。ティアは店の隅に置いてあるカゴの中ですやすやと寝ていた。

外の騒ぎに全く気づかなかったようだ。

「ティア、大物になるかも……」

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

セルジュたちが爆雷鳥と戦っている頃、リカルドはバイゼル城へ来ていた。

「王太子殿下、お呼びと伺い参上いたしました」

「リカルド、いよいよ巨蟻ムロフカが動き出した。魔境で巨大な蟻が移動しているのを目撃した者がいる」

唇を噛み締めたリカルドは、覚悟を決めた。

「それで、巨蟻ムロフカは、どの方角に向かっていたのでしょう?」

「第九魔境門より、少し北の方へ向かったようだ。あの巨体であれば、魔境との境に築いた防壁は無意味だろう」

目撃者の話によると、巨蟻ムロフカは全長十五メートルほどだった。防壁を簡単に乗り越えられる大きさである。そうなると、魔境に押し止めることは無理だろう。

巨蟻ムロフカが通過した通り道には、大量の魔獣が死んでいた場所があるという。もしかすると、巨蟻ムロフカが魔法を使った場所なのかもしれない。

巨蟻ムロフカには『魔の滅死響』という魔法がある。凶悪な魔法であり、一度発動されたら近くにいる者は全員が死ぬだろう。その威力は分からないが、魔獣が耐えられないような魔法なのだ。人間が耐えられるはずがなかった。

「リカルド、正直に答えてくれ。巨蟻ムロフカを倒せると思うか?」

王太子に質問されたリカルドは、慎重に考えた。巨蟻ムロフカを倒すには、【白星焔弾】を使うしかないだろう。だが、【白星焔弾】は膨大な魔力を使う魔術だ。

同時に防御用の魔術である【炎風陣】を使うのは難しい。

そうなると、安全な場所から狙い撃つということになる。安全な場所、魔獣から相当離れた場所から魔術を放つということだ。

「離れた場所から魔術を命中させられれば、巨蟻ムロフカであろうと倒せるでしょう。ただ魔術を放ってから、巨蟻ムロフカに命中するまでに時間がかかります。敵が激しく動くと命中しないという恐れが……」

「なるほど、巨蟻ムロフカがジッとしている時を狙って、魔術を放とうと言うのだな」

「はい、そうでございます」

ガイウス王太子が深刻な顔で考え始めた。

「一つだけ思い付いたものがある。巨蟻ムロフカは卵を生むために魔境の外へ出てくるのだと言う者がいる。それが真ならば、巨蟻ムロフカは産卵する時は、ジッとしているのではないか」

「産卵の時でございますか。確かに、その可能性が高いでしょう。ただ、どこで産卵するかが分かりません」

「巨蟻ムロフカの卵が発見された、シェネル湖に浮かぶトポシェ島で産卵するのではないか?」

「どうでしょう? 巨蟻ムロフカの生態は、謎に包まれておりますから」

王太子が頷いた。

「そうだな。だが、巨蟻ムロフカはシェネル湖の方角に向かっておる。可能性は高いのではないか?」

「そうでございますね。ですが、途中にある町や村はどういたしましょう?」

「それが問題だ。下手に巨蟻ムロフカを刺激すれば、暴れるかもしれん。被害には目をつぶって、進行経路にある町や村に避難命令を出そう。巨蟻ムロフカは確実に仕留めたいのだ」

王太子は王都に駐留している予備兵力の半分を、巨蟻ムロフカの進行経路に向かわせ、町や村の避難活動を手伝わせる命令を出した。

「リカルドは、巨蟻ムロフカが魔境から出てきたら、軍の車で追ってくれ。トポシェ島でなくとも、【白星焔弾】を放つ機会があれば、殺せ」

「承知いたしました」

リカルドは軍が出発するのを待った。そこにサムエレ将軍が現れる。

「サムエレ将軍も行かれるのですか?」

「ああ、私も行かねばならん。王太子殿下より、見届けてこい、と命じられた」

リカルドは納得して頷いた。将軍に案内されて、軍用車が置いてあるという場所まで行く。そこにあったのは、変な形のワンボックスカーだった。軍が色々改造したらしい。

リカルドと将軍が乗り込むと軍用車が出発。第九魔境門の近くにあるバリルの町に向かった。

「将軍、爆雷鳥は始末できたんですか?」

「王都に侵入した五羽は、始末できた。五羽のうちの二羽は、リカルド殿の弟セルジュ君が倒したそうだ」

「はいっ? どういうことです?」

将軍から詳しい話を聞いて、リカルドは渋い顔をした。

「そんな顔をするな。セルジュ君は母親と妹を助けようとして、精一杯のことをしたのだ」

「いえ、セルジュはアントニオ兄さんに相談すべきだったんです。てっきり兄とセルジュは一緒にいると思っていたのに」

「だが、セルジュ君のおかげで被害が少なくなったのは事実だ。兵士の何人かは命を救われたそうだ」

帰ったら、セルジュを叱ろうとリカルドは思った。だが、自分も同じだということに気づく。誰かを救おうとして、危険を冒しているのだ。

「巨蟻ムロフカを倒しに行こうとしている我々には、セルジュを叱る資格はないのか。危険なのは、どちらかと言えば、我々の方だからな」

リカルドと将軍は、巨蟻ムロフカについて話し始めた。

将軍の話では、セラート予言を調べているうちに、巨蟻ムロフカの行動でおかしな点を記述してある記録を発見したという。これを発見したのは、王太子が調査を命じた学者の一人だ。

巨蟻ムロフカが魔境から外に向かって移動している時は、犠牲者が少なかった。だが、外から魔境に戻ろうとした時に犠牲者が大勢出たらしい。

しかも、魔境に戻ってからも大暴れして、魔獣を魔境から外に追い出したようなのだ。つまり巨蟻ムロフカは、魔境に戻ろうとする前に、仕留めなければならないということである。

「リカルド殿は、巨蟻ムロフカの行動をどう思う?」

「目的が産卵なら、卵を生んだ後、腹が空いたのかもしれないですね」

それを聞いた将軍が顔をしかめた。

「犠牲者は、巨蟻ムロフカの餌になったというのか?」

「あくまでも可能性です」

そんな話をしている間に、魔境門が見えてきた。

「何か騒ぎが起きているな」

将軍が魔境門の辺りで騒いでいる兵士の一人を捕まえて質問した。

「巨蟻ムロフカです。防壁の一部を壊して、伝説の魔獣が外に出てきたのです」

「遅れたか。ムロフカはどっちに行った?」

「東の方へ移動したようです」

将軍は巨蟻ムロフカを追うように命じた。