軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:227 ナサエル副局長の進化

サムエレ将軍が巨蟻ムロフカを追うように命じた瞬間、巨蟻ムロフカが壊した防壁の部分から複数の魔獣が這い出してきた。

しかも、出てきたのは、炎滅タートル二匹と巨頭竜一匹だ。

「炎滅タートルだと……まずい、バリルの町へ向かっておる」

「将軍、炎滅タートルを倒してから、ムロフカを追いましょう」

リカルドの提案に、一瞬迷った将軍だったが、賛成した。将軍は門衛たちに命令した。

「お前たちは、巨頭竜を倒せ。絶対に人里に近付けさせるなよ」

「分かりました」

リカルドと将軍は、炎滅タートルを追った。炎滅タートルは体長七メートルの巨大亀である。オレンジ色の甲羅をしており、口から炎のブレスを吐き出す化け物だ。

「亀のくせに足が速い」

将軍が愚痴るように言った。

「将軍、町の前に回り込んでください」

「どうしてだ?」

「こちらからだと、炎滅タートルの背後に町が広がっています。魔術が町に被害を与えるかも」

「分かった。運転手、聞こえたな」

軍用車を運転している兵士が『承知しました』と返事をした。

運転手はアクセルを踏み込み速度を上げると、炎滅タートルを追い抜いてバリルの町へ急いだ。町の前で軍用車が止まり、将軍とリカルドが降りる。

リカルドが周りを見回すと、町長らしい男と魔術士だと思われる数人の男が、駆け寄ってきた。

「あれは何だ? 魔境を抜け出して来たのか?」

「炎滅タートルだ。我々が仕留めるから心配するな」

「本当に大丈夫なのか?」

町長は、サムエレ将軍が何者か分からずに話しているようだ。

「サムエレ将軍、黒震魔砲杖を預かって来ましたか?」

「いや、今回はリカルド殿がいるので、独角ライフルを持って来た」

黒震魔砲杖は、別の強い魔獣が現れた時に備えて、王太子が持っているらしい。そうなると、炎滅タートルを仕留める手段があるのは、リカルドだけということになる。

「将軍は、炎滅タートルの足止めをお願いします」

「分かった」

将軍は独角ライフルを取り出して、炎滅タートルに狙いを付けた。リカルドは触媒とダークロッドを取り出してから、ダークロッドに魔力を流し込む。

将軍が独角ライフルの引き金を引いた。魔力圧縮玉が飛び出し、炎滅タートルに命中。甲羅に命中した魔力圧縮玉が爆発した。炎滅タートルの巨体が浮き上がり、驚いた巨獣は足と頭を甲羅の中に引っ込めた。

リカルドは触媒を撒き散らしてから、呪文を唱える。

「 ヴァゼフィシュ(空理よ) ・ セリヴァトール(真律を震わせ) ・ モヒャデルテ(飛槍となり) ・ デジャス(貫き爆ぜよ) 」

【空震槍破】が発動した。ロッドの先に存在する空間がぐにゃりと曲がり、景色が歪む。触媒により変色した黒い魔力は、空間を黒く染め歪める。歪んだ空間に流れ込んだ空気の一部がプラズマ化し周囲に火花を散らした。

黒く歪んだ空間が槍となって飛翔し、前方にいる炎滅タートルを目指して飛んだ。歪んだ空間である空震槍は、炎滅タートルの甲羅に命中し貫通した。地面に突き刺さった空震槍は爆散し、凶悪な力を解き放つ。炎滅タートルは一撃で息の根が止まった。

将軍の独角ライフルにより足を止めていた炎滅タートルも爆風を受けてズズーッと地面に痕を付けながら移動する。

「さすがだ」

将軍が声を上げた。町長と魔術士は、威力の凄さに驚き大口を開けたまま地面に伏して動かなくなった炎滅タートルを見ている。

リカルドは触媒を取り出した。生き残っている炎滅タートルは、足と頭を出して仲間が死んだことを確認すると、猛然と町に突撃を開始する。仲間の敵討ちのつもりだろうか?

「将軍、足止めを!」

「分かった」

サムエレ将軍は独角ライフルを構え、炎滅タートルに向かって発射した。魔力圧縮玉が巨大な足の付根に命中し爆発、炎滅タートルが怪我を負い血が流れ出た。

ダメージを受けた炎滅タートルは足を止めたが、甲羅の中に頭を引っ込めることはしなかった。それを危険だと感じたのかもしれない。

「ほう、上級魔術でも傷を負わせることが難しい、と言われた炎滅タートルに傷を負わせたか。素晴らしい性能だが、仕留めるには威力が足りぬ」

炎滅タートルの血を見た魔術士たちが、自分たちも攻撃しようと思ったようだ。優秀な魔術士だったようで、上級魔術の【竜爪斬】と【火焔剛槍】を放った。

炎滅タートルに命中したが、頑強な巨獣に傷一つ負わせることはできなかった。将軍は改めて炎滅タートルのタフさを思い知った。

リカルドは魔力を放出し、触媒を撒いた。【空震槍破】は中級魔術にしては大きな魔力を必要とするのだが、源泉門から力を引き出しているリカルドにとって、些細な問題だ。

魔力がリカルドの身体から漏れ出た。それを感じた炎滅タートルは、回れ右して逃げ出す。

だが、見逃すことはできない。リカルドは呪文を唱え【空震槍破】を発動した。

空震槍が炎滅タートルの甲羅に命中し、甲羅の上部三割を削り取った。命中した箇所が上にズレたようだ。甲羅に大きな傷跡を付けた炎滅タートルは死んではいなかった。

よろよろとしながら必死で逃げようとする巨獣を見て、リカルドはもう【空震槍破】が必要ないと判断した。ダークロッドを仕舞い、トゥイストホーンを取り出す。

「将軍、魔力圧縮玉で仕留めましょう」

「あの傷跡を狙うんだな」

将軍は独角ライフルで炎滅タートルの傷跡を狙う。リカルドもトゥイストホーンを突き出して魔力を込め始めた。リカルドが魔力圧縮玉を放った。だが、甲羅に当たって爆発。

サムエレ将軍が魔力圧縮玉を放った。じっくり狙ったせいか炎滅タートルの傷跡に飛び込み、その体内で爆発した。

ガクッと膝を折った炎滅タートルは、力尽きて息絶える。

「町長、バイゼル城に使いを出して、炎滅タートルの件を報告してくれ。炎滅タートルは町で保管しておいて、王家から使いが来たら渡すのだ」

将軍は町長に命じた後、リカルドたちのところに戻ってきた。

「我らは巨蟻ムロフカを追うぞ」

リカルドは気になったことを確認した。

「サムエレ将軍、巨頭竜は放っておくのですか?」

「巨頭竜くらいは、門衛が倒せなくとも、宮廷魔術士や魔術士協会の者に倒してもらおう。我らは巨蟻ムロフカだ」

「分かりました」

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

リカルドたちが巨蟻ムロフカを追い駆けている頃、巨頭竜は東へと向かっていた。門衛たちが追い駆けたのだが、途中で見失う。次に発見されたのはベルーカ山脈を越えて、クレム川の上流にある小さな村だった。

その報せが王太子のところに届いた。王太子は門衛たちの不甲斐なさに怒りを覚えたが、第九魔境門の門衛は新人が多かったことを思い出した。

「アプラ侯爵め、後々にまで祟りおって」

第九魔境門の門衛に新人が多いのも、王家に逆らい非業の死を遂げたアプラ侯爵のせいだった。

王太子は王都に残っている宮廷魔術士に巨頭竜の討伐を命じた。そして、魔術士協会にも巨頭竜の討伐を依頼する。

その依頼を引き受けたのは、ナサエル副局長だった。そして、副局長のお気に入りとなったパトリックも一緒である。

「なんでや、納得できんがね」

パトリックはぶつぶつと文句を言いながら、副局長と一緒にクレム川の上流に向かった。

途中で宮廷魔術士たちと合流した。派遣された宮廷魔術士は、ヴィットリオ宮廷魔術士長と二人の宮廷魔術士だ。

「ん、ヴィットリオ殿が来られたのか。珍しいな」

ヴィットリオが嫌な顔をする。

ヴィットリオには、魔術士はこうあるべきだという理想像があり、それから大きく外れているのがナサエル副局長だったからだ。

「魔術士協会も人手不足だな。巨頭竜を相手にするというのに、貴様と若造の二人だけを派遣するとは」

「二人だけで十分だと言うことだ」

ナサエル副局長とヴィットリオが競い合うように、進み始めた。

「ダメだ。最悪だ」

パトリックは嘆き、追い駆け始める。

クレム川の上流へと歩くパトリックは、魔力察知で魔獣の魔力を探しながら進んでいた。そして、日が傾き始めた頃、巨大な魔獣の魔力を感じる。

「副局長!」

ナサエル副局長が止まって、振り返った。

「どうした?」

「巨頭竜らしき魔力を感じたんだがね」

「何だと、どっちの方向だ?」

「北東、向こうの方だがや」

パトリックが指差す。その方向には小さな集落があるはずだった。ナサエル副局長は厳しい顔付きになって、急ぐように指示した。

パトリックたちが小さな集落に到着した時、巨頭竜の後ろ姿が目に入った。パトリックが目を凝らすと何かを咀嚼している様子だ。まさか、と思いながら巨頭竜の足元を注視する。

集落で飼われていたらしい羊の死体が転がっていた。パトリックがホッとした瞬間、巨頭竜の左前方に住民らしい男の死体が横たわっているのに気付いた。

「……殺してやる」

パトリックはトゥイストホーンと触媒を取り出した。同時にナサエル副局長も黒震鎚をベルトに差し、魔成ロッドと触媒を取り出す。

それを見たヴィットリオが、嫌な笑いを浮かべて言った。

「やっと、魔獣は魔術で倒すものだということが分かったか」

「何を言っている。今までだって魔術と筋肉を使って魔獣を倒してきた。これからも変わらん」

今までナサエル副局長が使ってきた魔術というのは、【筋肉増強】という【命】の魔術である。なので、ほぼ魔獣を撲殺してきたというのが正解である。

「ならば、なぜ魔成ロッドを構えておる?」

「これが新しい戦い方だからだ」

ヴィットリオが付き合いきれないというような顔をする。

「こいつは無視するぞ。まずは巨頭竜を倒す」

宮廷魔術士たちが、上級魔術の詠唱を始めた。【火焔剛槍】【九天裂風】【岩槍散弾】という三種の上級魔術である。

【九天裂風】は巨頭竜にダメージを与えられなかった。そして、【火焔剛槍】と【岩槍散弾】は巨頭竜にダメージを与えたが、致命傷には程遠いものだった。

「パトリック、今度は我々の番だが、儂に任せてくれ」

「はい」

ナサエル副局長は左手に魔成ロッドを持ち魔力を放出し触媒を撒くと、呪文を唱えた。

「 シェナ(風よ) ・ ヴェゼラシル(大気を固め) ・ オボス(九本の) キュセ(竜爪となり) ・ ジュセム(合図を待ち) ロベス(切り裂け) 」

ナサエル副局長の周りに九本の竜爪が形成され宙に浮かぶ。その状態でベルトに差した黒震鎚を引き抜いて突撃を開始した。

「やっぱり、突撃するのかよ」

ヴィットリオが呟いた。

合図が響き竜爪が飛翔し次々に巨頭竜を襲う。六本の竜爪が巨頭竜の後ろ足に突き刺さり引き裂いた。そのダメージにより、二本の足で立っていた巨頭竜が膝を折って、四足になる。

ナサエル副局長が至近距離まで迫っており、残り三本の竜爪と一緒に跳躍した。早口で残り三つ合図を叫び。振り上げた黒震鎚の引き金を引きながら振り下ろす。

三本の竜爪が巨頭竜の首に突き刺さり、黒震鎚から伸びた空震刃が巨頭竜の頭にガツンと突き刺さった。巨頭竜は空震刃の一撃が致命傷となり死んだ。

「お見事」

パトリックはナサエル副局長が【九爪竜撃】をどう使ったのか気付いて称賛の声を上げた。ナサエル副局長は巨頭竜の頭を下げさせるために、竜爪を使ったのだ。

ヴィットリオが悔しそうに顔を歪めている。

「パトリック、巨頭竜の肉を持って帰るぞ」

ナサエル副局長は上機嫌でパトリックに指示した。