軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:225 爆雷鳥

アントニオは魔狼砲の射撃訓練を繰り返していた。その日も飼育場近くの海岸へ行き、海に向かって何度か発射する。

「ねえ、兄さん。僕にも撃たせてよ」

一緒に付いて来たセルジュが、アントニオに頼んだ。

「ダメに決まっているだろ。これは 玩具(おもちゃ) じゃないんだからな」

そう言ってから、アントニオは魔狼砲を海へ向けた。海に突き出ている岩に向かって引き金を引く。シュコーという空気を吸い込む音がしてから、海に向かって咆哮が放たれた。

魔狼砲から渦を巻いた衝撃波が放たれ、海面から海水を巻き上げながら直進し岩に当たった。衝撃波は岩の表面に多数のヒビを入れ剥がれた岩の欠片が海に落ちる。

大きな岩にかなり深いヒビが入っていた。魔狼砲の威力が相当だということが分かる。

「ねえねえ、その魔狼砲は強い魔獣でも倒せるの?」

「伝説の魔獣天黒狼の一部を材料にして、作られた武器だからな。巨頭竜なら倒せるかもしれないぞ」

「凄い、リカルド兄さんが、僕にも作ってくれないかな」

それを聞いたアントニオが笑った。

「お前には早すぎる。それに魔成ロッドを作ってもらったじゃないか」

「妖樹タミエルの枝を使って作った三級魔成ロッドだよ」

セルジュはちょっと不満そうに言った。

「セルジュは、中級上位の魔術までしか習得していないんだろ。十分じゃないか」

「でも、リカルド兄さんは、特級魔成ロッドを使っているんだ」

「リカルドは、国を代表するような魔術士だぞ。それと比べてどうする」

「僕だって、バイゼル学院初等科の生徒だよ。狩りにも行ったんだ」

アントニオが笑った。

「それで、何を倒したんだ?」

「ホーン狼だよ」

「ホーン狼なら、三級魔成ロッドで十分だろ。リカルドなら、魔成ロッドに魔力を流し込んで、魔獣に叩き付けるだけで倒すぞ」

「そうだろうけど、危険なんだよ。初等科の先生は、そんなの魔術士の戦い方じゃないって言ってるよ」

「そうかもな。リカルドは触媒の節約になると考えて、そんな戦い方をしていたみたいだからな」

アントニオはリカルドと一緒に【倍速思考】を使って、訓練したのを思い出した。アントニオは今でも【倍速思考】を使った訓練を続けているが、リカルドはやめたらしい。

当然だろう。リカルドが戦う魔獣は、【倍速思考】で鍛えたくらいではとても敵わないくらいの強敵なのだから。

「ねえ、兄さん。僕もリカルド兄さんみたいな魔術士になれると思う?」

それを聞いたアントニオが顔をしかめた。そして、言っておかねばならないと思った。

「セルジュ、リカルドは特別だぞ。あいつは天才なんだ。誰でも天才になれるものじゃない」

「分かっているけど、このまま魔術士になったら、絶対リカルド兄さんと比べられる」

「魔術士になるのをやめたいのか。それなら、司政官の仕事を手伝うか?」

「そうじゃないんだ。魔術士にはなりたいんだけど、リカルド兄さんと比べられると……」

「魔術士にも、様々なタイプの魔術士がいるんだろ。リカルドを目指すんじゃなくて、セルジュなりの魔術士になればいい。確か、ナサエル副局長だったかな。リカルドが話していたけど、ああいうのも面白いと思う」

セルジュもナサエル副局長の話は聞いていた。特にパトリックから聞いた話は面白かったけど、ナサエル副局長みたいな魔術士になるのは嫌だった。

「魔成ロッドで魔獣をぶちのめして倒す、討伐局の副局長さんでしょ。それもどうかと思うんだ。パトリックさんも苦労したって言っていたじゃないか」

「でも、リカルドは面白いと言っていたぞ」

アントニオは弟の顔を覗き込んだ。

「どんな魔術士になるか決めるのは、まだ早いと思うぞ。そうだ……今度、俺と一緒に訓練しよう」

「えっ、兄さんと……」

「ああ、昔、リカルドと一緒に訓練したやり方があるんだ。狩りに行くのなら役に立つと思うぞ」

「うん。お願いします」

「さあ、もう帰ろうか」

アントニオは魔狼砲を収納紫晶に仕舞って、飼育場の方へ歩き出した。セルジュも一緒に戻り始めた。

飼育場に戻ったアントニオは、魔狼砲を取り出して中に装填されている六個の魔力蓄積結晶を取り出した。魔狼砲は一発撃つ度に一個の魔力蓄積結晶の魔力を消費する。

そのために六個の魔力蓄積結晶が装填されており、六回続けて撃てるようになっている。

魔力充填済みの魔力蓄積結晶を装填する。

「セルジュは、空になった魔力蓄積結晶の魔力充填をやったことがあるか?」

「リカルド兄さんに言われて、やったことがあるよ」

「だったら、この魔力蓄積結晶に魔力を充填してくれ」

リカルドにやってもらうと、瞬く間に充填するのだが、セルジュだとどれくらい時間がかかるのか興味を持ったのだ。

「いいけど、リカルド兄さんみたいに、早くはできないよ」

「そんなことは分かってるさ」

セルジュが魔力蓄積結晶に魔力を流し込み始めた。

「アントニオさん、居ますか?」

外から声が聞こえた。訪ねてきたのは、飼育場の現場責任者となっているダリオである。この飼育場はオーナーがリカルドで、経営責任者がアントニオ、現場責任者がダリオとなっている。

リカルドは飼育場の経営から手を引いているので、実際に経営しているのはアントニオである。ただアントニオには副都街の司政官としての仕事もあるので、実際の仕事はダリオに任せている。

アントニオがドアを開けて外に出た。

「どうしたんだ?」

「フィリッポさんの飼育場から、妖樹トリルが逃げたそうです」

「おいおい、あそこの連中は、何をしていたんだ?」

「新人が、ドジを踏んだらしいです」

新人がちょっと目を離した隙に、妖樹トリルが一体減っていたらしい。飼育場は高い塀で囲まれているので、外に出た可能性は低いのだが、見つかるまでは安心できない。

「仕方ない。人を集めて探すぞ」

セルジュは、アントニオが慌てて出かけようとしているのに気づいた。

「兄さん、どこに行くの?」

「フィリッポさんの飼育場へ行くから、ここで待っていてくれ」

「分かった」

アントニオが出掛けた後、セルジュは部屋に魔狼砲を置き忘れているのに気づいた。届けようと一瞬思ったが、相手が妖樹トリルなら必要ないかと思い直した。

魔力蓄積結晶の魔力充填を最後まで終わらせると、魔力が尽きかけているのを感じた。

「リカルド兄さんは、ほとんど一瞬で終わらせるもんな。敵わないや」

その時、外で何かが騒いでいる気配がした。セルジュは外に出て確かめる。騒いでいたのは、メルとモンタだった。

「あっ、セルジュがいた」

「モンタ、どうしたんだい?」

「リカに王家から連絡があったんだ。魔境から大きな鳥が飛んできたから、家の中に入ってなさいだって」

モンタが『リカ』と呼んでいるのは、リカルドのことだ。セルジュはメルとモンタと一緒に部屋に入った。

「鳥の魔獣か、それを知らせに来たんだね。お母さんとパメラは?」

「王都のユニウス料理館に行ってる」

「大丈夫かな?」

モンタがピョコッと首を傾げた。

「分かんない」

そう言われると不安になる。段々心配になってきた。セルジュは王都のユニウス料理館に行こうと決意した。

「僕、パメラのところへ行く」

「だったら、モンタも行く。メルに運んでもらえれば、すぐだもん」

セルジュはモンタが羨ましくなったが、そんなことを考えている場合じゃない。ただ自分が行っても何ができるのかと考えた。

リカルドが家の中に隠れているように指示したのだから、中級魔術くらいでは倒せない相手なんだろう。

魔狼砲がセルジュの目に入る。

「そうだ、これを持っていけば」

セルジュは魔狼砲をリカルドからもらった収納紫晶に入れると外に出た。

「モンタは、先に行ってパメラを助けるね」

メルがクイッと首を動かして、セルジュに目を向ける。

「メルも、パメラ助ける」

「メルもモンタも、お願いね」

セルジュがそう言うと、モンタが乗ったカゴを掴んだメルが空に飛び上がった。

それを見送ったセルジュは、地下通路へ向かった。空から襲ってくる鳥の魔獣が相手なら、地下通路が安全だと思ったのだ。

地下通路の階段を下りて、王都へ向かう。

「パメラたち、大丈夫かな」

地下通路を移動する人々が多いのに気づいた。他の人々も魔獣から逃れるために地下通路を利用しているようだ。王都のユニウス料理館まで一時間と少しかかった。

階段を登って外に出ようとする前に、空を見上げて魔獣が居ないのを確かめた。この出口からユニウス料理館までは、すぐである。セルジュは走り出した。

ユニウス料理館へ行く途中に広場があった。その広場を通り過ぎようとした時、広場から悲鳴が聞こえる。セルジュは広場の門に隠れて中を覗き込んだ。

広場には観光客を相手にお土産物を売っている小さな店がある。その店の屋根に巨大な鳥の魔獣が止まっていた。セルジュは学院の図書室にあった魔獣図鑑で見たことがある魔獣と似ていると思った。

「あれって、爆雷鳥だよね」

とても危険だということが分かる。爆雷鳥は魔法が使えるのだ。名前の通り『爆雷』と呼ばれる魔法で、それが命中すると爆発し何もかもを消し飛ばしてしまう危険な魔法だった。

「どうしよう。店の中に人がいるみたいだけど、下手に攻撃すると、爆雷鳥が魔法を使うかもしれないし……」

セルジュは迷った。

「坊主、そこでジッとしていろ」

セルジュの背後から声がした。

振り返ったセルジュは、王家の兵士らしい五人の男たちを確認した。その五人の中で二人が魔砲杖を持っている。

「兵隊さん、その魔砲杖で爆雷鳥を攻撃するつもりなの?」

その小部隊の隊長らしい男が頷いた。

「俺はポッツィだ。安心しろ、俺たちが倒してやる」

「待って、あの爆雷鳥は魔法が使えるんだ。気をつけた方がいい」

「魔法だって、どんな魔法だ?」

セルジュは本で読んだ内容を兵士たちに伝えた。

「益々危険だな。一刻も早く退治しないと」

兵士たちは魔獣の背後に回り込もうというのか、広場の周囲を時計回りに移動を始めた。

「兵隊さんたち、大丈夫だろうか? 爆雷鳥は双角鎧熊よりは少し落ちるけど、かなり頑丈な魔獣のはずなんだけど」

通常の魔砲杖は、脅威度3の魔獣までしか倒せないと、リカルドから聞いたことがある。爆雷鳥は脅威度5だったはずだ。本当にポッツィ隊長たちに任せていいのだろうか?

セルジュは収納紫晶から魔狼砲を取り出した。

広場の反対側に行ったポッツィ隊長たちが、屋根の上の爆雷鳥を魔砲杖で狙っているのが見えた。二丁の魔砲杖から、渦を巻く鋼の粒が現れ火花を散らすと爆雷鳥に向けて飛び出した。

【雷渦鋼弾】の魔術を真似て作られた雷鋼魔砲杖だったらしい。魔術は爆雷鳥に命中した。最初に電気が流れ込み、次に鋼の粒が爆雷鳥の身体に穴を開ける。

血を流した爆雷鳥が空に飛び立った。さすがに脅威度5の魔獣が相手だと、雷鋼魔砲杖では仕留められなかったようだ。

「まずい、まずいよ」

爆雷鳥はポッツィ隊長たちの上空を旋回している。そして、急降下を始めた。魔法を使う気なのだ。

セルジュは隠れていたところから飛び出して叫んだ。

「逃げて!」

魔狼砲を爆雷鳥に向けて引き金を引く。シュコーという空気を吸い込む音がした直後に、魔狼砲から衝撃波が飛び出した。

爆雷鳥が爆雷を投下した瞬間、衝撃波が爆雷と爆雷鳥に命中し切り刻みながら上空へと突き上げる。爆雷は上空で爆散し、爆雷鳥は 錐揉(きりも) み状態で落ちてきて地面に激突した。

ポッツィ隊長たちが目を丸くして、セルジュを見ていた。

「き、君があいつを仕留めたのか?」

「そうです。アントニオ兄さんの魔狼砲を持っていたんで、倒せたんです」

「魔狼砲? それは誰が作ったものなのだ?」

「リカルド兄さんです。魔術士協会のリカルド・ユニウスです」

「あ、ああ。君はリカルド様の弟さんなのか。そうすると、アントニオ兄さんというのは、副都街の司政官様か」

その頃になって、店から人が出てきた。

「魔獣が倒れている」「良かった、助かった」

セルジュは兵士たちと一緒に、街の住民も助けたことになるようだ。